10日目~朝~
朝、目が覚めるとキッチンからワイワイと
楽しそうな2人の声が聞こえてくる。
昨日でかなり打ち解けたらしいな。
これから運命共同体だし、仲良くやって
いくのはいいことだよな。
「山上くん、おはよう!」
杉田がすっかり元気になっている。
「悠斗君、今日は麻美ちゃんの
お手製朝食と、お弁当よ!」
杉田の…どんな惨劇が…
「ん!?これ…杉田が!?」
綺麗に焼けた目玉焼きに
白いご飯に味噌汁見た目は美味しそうだ。
「ささ、みんなで食べよう!」
裕美さんに仕切られて3人でテーブルに着く。
「いただきます。」
意外な事にちゃんとご飯も炊けてるし、味噌汁も
ダシをしっかり取ってあり目玉焼きも半熟加減がいい。
「これ、本当に杉田が?」
「うん、美味しくないかな?」
「いや、美味いよ!」
「よかった~!」
そんなやりとりを裕美さんは微笑ましく見ている。
朝食も終わり、ベースキャンプを出る時に杉田が
紙袋を渡してくれる。
「これ、おにぎり…お昼に食べてね?」
何気ない優しさが嬉しいな。
「ありがとう、じゃあ行ってくるよ。」
「うん、気をつけてね?」
杉田は俺の姿が見えなくなる迄ずっと手を振っていた。
さて…
まずは大江に会いに行かないとアプリを開き、確認する。
よし、生存確認。後は油断しないように
スタンガンを片手にしっかり握り締める。
昼前には大江を閉じ込めたベースキャンプに辿り着く。
油断しないように、IDカードをセンサーに通す。
中の様子を見ると、大江がベッドに横たわって
こちらを見ている。
「み…水…」
足元にあった刀を外に持っていく。
これでいきなり襲われる心配はないだろう。
赤黒くなっているのは
歩美の血がこびり付いた跡だろう。
怒りが脳内を支配しそうになるが、理性で抑える。
「交換条件だ。依頼人、桜井歩美の父親の名前。
それを教えろ。そうすれば水と食料、ついでに
捕獲部隊の位置を教えてやる。」
大江は沈黙する。
裏の仕事では依頼人の名前を明かすのはタブーなんだろう。
「別に嫌なら、ここで餓死すればいい。
元々そのつもりだった訳だしな。」
大江は苦い顔をしながらも、
水の入った水筒を凝視している。
「わかった…先に水を…」
こういう交渉は先に渡すと誤魔化されるおそれがある。
「駄目だ。先にそっちからだ。」
「…小林信一郎。」
前の内閣総理大臣が確かそんな名前だった気が?
「嘘は言うなよ?」
俺は水筒の水を床にこぼす。
「ぐ…嘘じゃねえ。小林の旦那は俺の大事な
商売相手だ。ヤクザとも繋がりがある!
信じてくれよ!それ以上水を流さないでくれよ!」
この極限状態で嘘は言わないだろう。
「よし、水と食料だ。」
大江のベッドに水筒と干し肉、おにぎりを投げて渡す。
大江は水をぐびぐび飲み、一息ついたら食料を貪り食う。
落ち着くまで俺は入り口前で様子を見ていた。
「ふう…お前、学生にしておくの勿体ないな。
ついでに教えてやる。小林の旦那はこのゲームの
主催者の1人だぜ。」
な…。
いや、だからこそ歩美を
このゲームに参加させたのか…
もうこの男に用は無い。
「捕獲部隊はここから東に5km進んだところを
うろうろしてるぜ。じゃあな。もう会う事も
無いだろうな。」
俺が出ようとするとヨロヨロと大江も
外に出てくる。
「おいおい…今出られたら俺又閉じ込められるだろ?
勘弁してくれよ…。」
ああ、そうだった。
「刀はあっちに刺してあるぜ。本当は捨ててやろうと
思ったけど、武士の魂だとか言いそうだったから、
置いておいたぜ。じゃあな。」
もう、ここにいる理由もない俺は立ち去ろうとする。
「待ちな。最後に忠告だ。」
俺が振り向くと同時に刀が俺の首元に突きつけられる。
いつの間に…気配をまったく感じなかった!!!
「このゲームは殺れる時に殺っておきな…でないと、
こういう風に簡単に殺られるぜ…あまちゃん坊や。」
大江はそう言うと刀を杖に仕込みなおす。
「な…なんで斬らないんだ?」
正直斬られると思っていたのに意外にも
傷一つ付けず刀をしまったのに驚いた。
「ふん、お前は斬るには惜しい人物だ。それに、
こんななまくら刀で人なぞ斬る事は
俺のプライドが許さん。」
大江がニヤリと笑う。
「あまちゃん坊や、お前がもし生き残れたなら、
ここへ訪ねて来い。小林の旦那の事もっと
詳しく教えてやるぜ。」
名刺のようなものをこちらに投げつけ、
大江は東の方へ歩いていく。
「…殺人鬼に気に入られたくねえっつーの…。」
しかし、貴重な情報限ではあるのは間違いない。
大江が見えなくなった後、俺は自分の
ベースキャンプに戻り、持ってきておいた
タオルや何やらで床の汚れを掃除し始める…。
あの時の場面を思い出す。気付いてみれば
俺は涙をながしながら床を拭いていた。
歩美を守れなかった悔しさ、そしてあの
たった5日間しかなかった2人の時間…。
色々な事が思い出され、そして少しずつ
色あせて来ているのに無性に腹が立っていた。
「俺…初めて一目惚れしたそして守りたいと
思ったんだ。もう、守ってやれないけど…
歩美の無念は絶対お前の親父に叩き付けて
やるからな!その為には絶対ここを
出てやる!絶対に!!」
1時間ほどである程度片付けたので、
中央管理センターに向かう事にする。
ここに水が無いから今は洗い流す事も出来ない。
後で3人で洗う事にしよう。中央管理センターに
向かい買い物を済ませた俺は予定よりも早く2人の
待つベースキャンプに戻る事が出来たのであった…。
後もう少しでベースキャンプに到着という所で、
何気なく真実の書を開いてみる。
大江の名前が青くなっていた。
生存の所に捕縛となっている。
どうやら大江は捕獲部隊に自ら捕まりに行って
捕まったようだ。
そしてよく見ると今まで生存だった
プレイヤーの内2人が青色の文字に
なっている。
大谷秋男と山田弘蔵が捕縛となっている。
2人共3日間ベースキャンプに篭っていたが
強制解除され捕獲されたのだろう…。
今までこの2人はほとんど行動して
いなかったから。
山田の方は【通信販売】というツールが
あったから直接買い物に行かないでも
良かったのだろう。
大谷の方は先に買い溜めをしていたのだろうか?
これでこの島に残っているプレイヤーは
俺、山上 悠斗(17)
杉田 麻美(16)
野田 裕美(21)
水野 愛(26)
木下 こずえ(22)
西川 純(22)
佐藤 敏彦(27)
武田 勝也(12)
工藤 雅章(20)
20人中9人が生き残りだ。
10日で11人が死亡、もしくは
捕縛されたという訳だ…。
正直、【千里眼】が無かったら俺だって
捕まっていたかもしれない。
他のプレイヤーは夜に中央管理センターに
向かっているようだ。しかし、明日の朝には
他の6人はベースキャンプも安全地帯ではなくなる。
システム削除>再登録は同じIDでは
すぐには行えない3日経たないと再登録は
行えないシステムになっている
別なIDでも24時間が経たないと
新規登録は出来ない
どうやら特殊部隊がベースキャンプの
初期化をしているようだ。
つまり、最初の状態に戻しているという事か。
なら、さっきのベースはシステム削除
しておけば良かったんじゃないか…?
失敗したなあ…。
他のプレイヤーはおそらくこの削除>登録システムの
事は知らないようだつまり、明日からは
捕獲部隊の行動を開始する朝の6時から夜の9時までは
ベースキャンプにいても逃げられないという事になる。
水野さんは2枚のIDがある。
上手く活用すれば問題ないだろう。
捕まった2人は運が無かったのだろう。
2日以上経ったからすぐ解除に来るわけではない。
たまたま解除の相手がアラーム範囲内だったのだ。
運がよければ3日過ぎてもベースキャンプは使える。
まあ、アラームが反応したら逃げないと駄目だが…。
そういう意味では俺達は3箇所をグルグル回れば
いいのだから、21日までは安泰である。
21日目の増援部隊が夜間行動も行うというのが
問題だ。つまり、21日から24時間部隊が
行動している事になる。
それに何部隊来るかも不明だ。
ゲームの製作者もこのベースループを放っては置かない。
必ず何か対策してくるだろう。
そんな俺の予感は最悪の方向に
的中してしまうのであった。