9日目~夜~女性陣の会話
本編の追加要素的なもので
合流した大人の女性裕美と高校生麻美の
2人の内緒話のパートです。(エロではないですが)
「…寝たみたいね。」
裕美はドアをそっと開け悠斗の様子を覗き見ていた。
「じゃあ私たちも…。」
麻美はベッドに向かおうとするが、裕美に手を掴まれ
テーブルの方へと引きずっていく。
「何いってるの?ここから本音トークでしょ!!
麻美ちゃん!悠斗君の事ここに来る前から
好きだったんでしょ!?話聞いてたら丸分かり!」
麻美は顔を真っ赤にして慌てていたが、
やがて観念したのか無言で頷く。
「なら、告白したら!?こんなチャンス
めったにないよ無人島で2人…あ、いや
私がいるか…でもチャンス!」
突然の提案に麻美は戸惑う。
「え…。でも、山上くんは死んだ彼女の事まだ…。」
「忘れさせるの。死んだ子は悠斗君を支えてあげれない。
でも、麻美ちゃんは傍で支えてあげれるんだよ?」
裕美は麻美の肩をガッチリ掴んで離さない。
その真剣なまなざしに麻美はうつむいてしゃべり始める。
「でも…私…怖いんです。男の人は…結局最後は
身体目当てじゃないですか!私は…義理の父に…
そういう事を沢山されて、母は女として私を憎んでいて
もう…嫌なんです。」
麻美はうつむいたまま、声を押し殺し泣いていた…。
「そっか…。男性恐怖症はこの島からって事ではない
ってことなんだ。じゃあ、何で悠斗君を好きになったの?」
裕美の質問に押し黙っていた麻美だが、
ポツリポツリと話し始める。
「去年の夏…私が義理の父に暴行を受けて、死んでしまおう
と思って学校の屋上に行ったんです。」
裕美は真剣な顔でうんうんと頷きながら聞いている。
「屋上のフェンスに手をかけた時、後ろから声を
掛けられたんです。
『よう、杉田だよな?お前もここの景色見に来たのか?』
って…。」
「なんとも間の抜けた…。」
「その時私が泣いてるのを見て山上くんが言ったんです
『嫌な事があるときはここで水平線の先を見れば悩み
なんかあっという間に消えちゃうぜ!』
はっきり言って無神経ですよねその時、私は
『人事だと思って簡単にいわないで!別にここに
景色を見に来たんじゃない!』
って言ったんです。」
「確かにそれは麻美ちゃんからしてみれば
怒りたくなっても仕方ないね…。」
裕美は麻美が話すタイミングに合わせるよう
静かに見守っていたが
麻美は一呼吸置いてまた話し始める。
「そしたらなんていったと思います?」
麻美の質問に裕美は首をかしげ考えている。
「う~ん…。『何でここに来たの?』とか?」
麻美は苦笑いして首を横に振る。
「山上くんは笑顔で
『人事だし。俺が杉田の事知ってるわけじゃない。だろ?』
って言ったんです。」
「あの…さ?それがどう麻美ちゃんが好きになる要素
があるのか私には理解できないんですけど…?」
「その後、
『杉田の苦しみは杉田しか分からない。でも、何か
あったのは分かる。無責任に同情するくらいなら
俺なりの苦しみの解き方を教えてやろうと思ったんだ。』
そういって私の頭をポンポンとなでてくれたんです。
その時の彼の笑顔は今でも忘れられません…。」
「ふうん…。」
「でも、その後も山上くんは最後まで屋上で
私とたわいのないおしゃべりをしてくれたんです。
そして、夕日が水平線に沈むのを2人で見て、私も、
気持ちが落ち着いたんです。」
「…青春だねえ。」
「夕日を見ていた時に、
『嫌な事がある。それは未来の良い事への試練。
それを受け流さなきゃ先に進んでいけない…だろ?』
と笑顔で言ってくれた言葉。
山上くんのこの言葉が無かったら、生きようと
思わなかった…。今回だって、嫌だったけど
この言葉を信じてたから我慢できたんです…。」
裕美は俯いて泣いている
麻美をそっと抱きしめる。
「そっか…。大変だったね。なら、2人は生き残って
幸せにならなきゃ駄目だよ。私は2人を応援する!!
だから3人で頑張ろう!」
「裕美さん…私…。」
「うんうん。今は泣いていいんだよ。
明日は笑顔で頑張って…ね?」
「はい…。」
こうして夜は過ぎていったのであった…。
悠斗はこのようなことを話していることも知らず
ゆっくりと寝ていたのであった。