7日目~夜~PART2
結局当初の予定を大幅に越えて、
自分のベースキャンプに辿り着いたのは
真夜中過ぎであった。
まあ、流石の俺でも限界だ…
ベースキャンプに入り、お風呂にお湯を張る。
「杉田、風呂入っていいぞ。
嫌な事は洗い流してしまえ!」
軽い冗談のつもりだったのに杉田は
ニコリともせず、風呂場に向かっていく。
「…さて。歩美の服は何処にしまったかな?」
あのままの格好でいられたら、絶対理性が保たない。
確か歩美に動きやすいからとジーンズと
Tシャツを買わせたはずだから…
あそこに閉まってあるはずだな。
服を見つけ、準備も出来たので杉田に声を掛ける。
「代わりの服ドアの前に用意したから、着ていいぞ。」
歩美より杉田の方が小さいからサイズは
とりあえず大丈夫だと思う。
「山上くん…ありがと。」
杉田がドア越しからお礼を言ってくる。
風呂に入り、服を着替えた事により、
安心したのかやっと顔に生気が戻ってくる。
いきなり杉田の辛い話を聞いたら
また彼女が塞ぎ込まれても困るし、
まずは俺の今までの話を杉田に話す事にした。
「…まあ、そう言う訳で。俺のパートナー
は殺された。そしてこのゲームは勝者は
いない事を前提になっているんだ。
捕獲部隊のテストと、情報処理情報操作が
今回のゲームの目的らしいぜ…最悪だよな。」
杉田は黙って聞いている。
あまりのスケールに面食らったのか?
「私達はどうすればいいの?」
杉田が不安そうな顔でつぶやいた。
「同じベースキャンプにとどまらなければ、
捕獲部隊に強行突入される心配はないから
使用できるベースキャンプを
色々歩いてさがさなきゃな…」
千里眼はあくまでもプレイヤーのIDデータを
受信しているだけだから、ベースキャンプの
正確な位置は判らないのだ。
「私…ここに来た時、パニック状態で
何も考えられなかった。」
杉田が自分の話を語り始める。
「何をどうしたらいいか分からない…そんな時、
中央管理センターでアイツ…佐藤敏彦に出会ったの…」
「中央管理センターで…」
「優しく色々教えてくれた。アイツの
ベースキャンプの方が中央管理センターに近かった
だから、私は信頼して彼の後をついていったの…
そして、ベースキャンプに入ったら…
アイツは豹変して…私を…ん…。」
まだ忘れられるわけないよな…
「それからは地獄だったわ。アイツのストレス、
欲望のはけ口に使われていたわ。」
そう言いながら、杉田は身体を手で隠すように
体をおさえている。
トラウマになるような事を沢山されたんだな…。
男性恐怖症に近い状態なんだろう…知り合いの俺に
対しても警戒しているし…。
「杉田がいいなら、IDを共有化した方が楽だけど、
今の状態ならやめた方がいいかもな…。」
「え…?」
「俺と同じベースキャンプで生活できないでしょ?」
「…ごめんなさい。山上くんがそんな人
じゃないのわかっているけど…私…」
「大丈夫、怒ってないよ。とりあえず、
今日はここに泊まりなよ。自分のベースキャンプには
明日の夕方に向かえばいいと思うよ?」
杉田の気持ちを考えると、やはり、
共同生活は無理があるだろう。
「今日はもう遅いから、そのベッド使っていいよ。
俺はそのソファーで寝るよ。」
「え、そんな、悪いよ!」
とはいえ、流石に杉田を椅子で眠らせる
訳にはいかないだろう…
「気にするなよ。今日位はゆっくり休んでおけよ。」
俺の言った意味が分からなかったのか
きょとんとした顔でこっちを杉田は見ていた。
「自分のベースキャンプには最大3日しか
滞在できない。トータルなのか、立てこもった時から
なのかは分からないけど、それ以降は特殊部隊が
強行突入してくるらしい。多分、セキュリティをカット
出来る装置を持っているんじゃないかな?」
「そんな・・・もう嫌だよ。
何で私がこんな目に会うの・・・。」
杉田はベットにうずくまってわんわん泣き出す。
「・・・落ち着いたら、改めて
これからの事話そうぜ。」
色々あった杉田に今考えさせたとしても、
いい答えがもらえるとは思えない。
ここは冷静になった所で改めて聞くべきだろう。
「じゃあ、もう寝よう。昼まではゆっくりしてくれ。
おやすみ・・・。」
正直、体力も限界だ。足の怪我だって治ってない。
それであの距離を歩いたのだから、相当体力を
消耗しているようだ。
杉田の返事を待たずに俺は深い眠りに落ちた
のであった・・・。