7日目~夜~PART1
杉田のベースキャンプまで後、約30分位の
距離で、俺は、周りの様子をうかがっていた。
杉田のベースキャンプに別のプレイヤーが
入っている。2人は知り合いなのか、
ここで協力体制を取っている関係なのかは
判らないが、ひとつ言える事は、
2人のIDは共有化されていない。
つまり、共存関係ではないという事になる。
相手は佐藤敏彦。俺はこの男の事は知らない。
ここで知り合いになったのだろうか?
俺と歩美のような関係に
なっているのかもしれない…
チクリと痛む胸を押さえ、軽く深呼吸する。
捕獲部隊は夜はまったく行動しないようだ。
先程から、全部隊が動かない。夜間装備は
配備されていないと考えて問題ないだろう。
一時間を過ぎた辺りで、佐藤敏彦は
杉田のベースキャンプを出ていく。
中央管理センターに向かって
歩いているようだ。
今の内に杉田と接触しよう。
俺は杉田のベースキャンプに
向かうことにした。
約30分歩き、ようやくたどり着く。
さて、どうしたものか…呼び鈴が
ある訳でもない。大声で呼び掛けても
果たして聞こえるかどうか…
まずは大声で呼び掛けてみる。
「お~い!杉田!いるんだろ!?」
だがまったく反応がない。寝てしまったのか?
いくらなんでも早すぎな気もするが…
仕方ない…。
俺は歩美のスマホを
取り出してアプリを起動する。
『カウント30を起動します。なお、
この間は全てのセキュリティ、
システムが使用できません。
ご了承ください』
ピー!という音の後、
スマホは使用できなくなる。
俺はベースキャンプのドアに
手を掛ける。何の抵抗もなく
ドアが開く。
あまりモタモタしていると
セキュリティが復帰してしまう
素早く部屋に侵入する。
ほぼ同時にセキュリティが復帰して、
ドアが閉まる。そして真っ暗だった
室内にシステム復帰で明かりが灯る。
杉田はベッドにいた。
「杉田…お前…」
杉田の姿は酷い有様だった…
ビリビリに破られた服…ほとんど
裸と変わらない。両手はベッドに
ロープで結ばれた状態で、目隠しを
させられている。俺は杉田の側に
近寄ろうと、一歩前に出る。
「イヤぁぁぁぁ!!!」
杉田は肩を震わせガタガタ
震えながらベッドから逃げようとする。
だが、ロープで縛られているので、
逃げられない。
「もう許して…もう殴らないで
もう……ないで。」
「杉田…。」
なんて事だ…今までどういう酷い目に
あったのか、聞かないでもその状態を
みれば明らかであった…。
俺は杉田の顔にそっと手を触れる。
「何でもします…だから、
蹴らないで…タバコの火を背中
に押しつけないで下さい…。
お願いします…。」
「大丈夫、杉田。俺だよ、山上だよ。」
俺は目隠しを外して、真正面から
杉田を見つめる。
最初は信じられない…って顔をしていたが、
すぐに目に一杯の涙を溜めて
声を押し殺して泣き始める。
「山上君…夢じゃないよね?」
「ああ、杉田。今まで辛かったな。
でも、もう心配するな。」
杉田の手のロープはナイフで切断し、
ようやく自由になることが出来た杉田は
俺に抱きついてくる。
「山上くん、山上くん!」
なかなかたまらない状態だが、
あまりのんびりしているわけにはいかない。
「杉田、まずはここを出て、俺の
ベースキャンプに向かおう。」
そういって、手を取ろうとすると
杉田はビクッと反応し後ろに下がる。
「杉田…?」
「山上くんも…目的はそれなの?」
「は?」
「男なんて所詮みんなケダモノなのよ…
あの人もそうだった。最初だけ優しいのよ!」
少し錯乱状態になっている…
まあ、無理もないよな…。
「杉田、まずはここを出て、それから
ゆっくり話し合おう。佐藤敏彦が戻る前に。」
「山上くん、どうしてアイツの
名前知ってるの!?まさか…グルなの!?」
ああ、まずい…ますます警戒している。
「詳しくは後で話すから。まずはここを出よう。」
だが杉田はうなだれてしまう。
「ここはアイツのベースキャンプだから、
私のIDじゃ開けられないよ…
そういえば…どうやって入ってこれたの?」
話すと長くなりそうだったので
実際にアプリを使用して、
セキュリティを停止させ、
ベースキャンプから脱出する。
「出れた…ああ、出れた!」
「感動してる所悪いけど、
早くここから離れよう。」
大分落ち着いてきたのか、
素直に付いてきてくれる。
しかし…まともに見れない格好だよな…
確か…歩美の服が何着が
購入してあったはずだな…
まずはベースキャンプに
戻らないとまともに会話も
出来そうもないよな…
杉田の体力は限界だったらしく
ヨタヨタしながら付いてくる。
これじゃあ、夜が明けるぞ…
この状態で捕獲部隊に
見つかったら逃げられない。
「杉田、背負ってやるから、
こっち来いよ。」
「え、い、いいよ!?」
あからさまに警戒してる。
「このペースだと、夜が明けちゃうから。」
杉田は最初は嫌がっていたが、
渋々背中に乗ってくる。
背中越しにも震えているのが
伝わってくる。
背中から切ない吐息が
聞こえてくる。
背中には杉田のぬくもりを
感じられる。
正直、動悸がおさままらない。
男って単純だなあと、
自分でも思ってしまう。
もちろん、歩美の事を
忘れたわけじゃない…
だけど…今は杉田を守ってやらないと…
今のガラス細工のような
弱々しい杉田は見ていられない
この島に来る前に出会った、
あの明るく可愛い杉田に
戻ってもらいたい。
まずは落ち着いて話が出来る
環境にならなきゃ駄目だな。
俺は気合いを入れ直して
歩き始めるのであった。