6日目~夜~
俺は彼女の亡骸を横に星空を見ていた。
涙は既に枯れはてた。
歩美と出会って数日だったが彼女との
思い出が色々思い浮かぶ。
「よく初恋は実らないって
いうけど…これはないよな。」
もの言わぬ彼女に語り掛ける。
もちろん答えが返ってくる
訳でもなく、静かな時間が
流れていくだけだった。
しばらくして水野さんがやってくる。
「山上君…。」
「水野さん、あれ、森山さんは?」
「カレも、死んだわ。あれほど油断するなと
話してたのに、バカな奴よ。本当に…」
「一体何があったんですか。
森山さんはどうして?」
「うまくいってたんだけど…相手の銃を
奪って、IDやスマホも没収して、
色々話を聞いていたんだけど、
丁度その時に君からのメールが来て、
彼がメールに気を取られた隙に、やつが
隠し持っていた銃で脳天を
撃ち抜かれちゃったってわけ。
ホント、ドジなんだから。」
冷たい言い方だと思って
水野さんの方を向くと彼女は泣いていた。
「でも、彼のおかげでこのゲームの
開催者の情報を手に入れられたわ。
後はこれを上層部に持っていければ…
と、思っていたんだけど…
悔しいけど、事件の立件は不可能ね。」
「どうしてですか!?こんな人が簡単に
死んだりする事を事件に出来ないなんて!」
水野さんは沈黙している。
「最初からおかしいですよ!拉致、監禁!
そして殺人!何でこんな事が平然と
この日本で行われているんですか!!」
「このゲームはね、ある大物政治家数名、
企業の会長レベル数名、後は裏の実力者数名
が共同で出資して行われている、反対勢力や
反乱分子を始末する闇のゲームなの。
それと外国からの多数の関与もあるみたい。
これまで4回行われているらしいけど、
過去3回は彼らの都合の悪い人間を
連れてきて特殊部隊に処理させて
来たらしいわ…。」
「嘘だろ…俺はただの高校生で
そんな事にまったく関係ないぞ!」
水野さんが話を続ける。
「そう、今回はそういう人物とまったく
関係のない人間が選ばれているの。
私や森山君はある方の密偵で
入ってきたけどあの男…須藤って
言うんだけど、彼のアプリで
確認した20名は私と森山君、
須藤に大江それ以外の16人は
一般市民から選定されてるの…。
ああ、桜井さんは政治家の父親からの
指示でこの島に処理されるために
送られたみたいね。」
実の娘を…処理…あんないい人を…
自分の立場を守るために自分の
ことだけ考えて…
「許せねえ…。このゲームを作った
奴等そしてそのゲームを利用して
自分の身の保全を考えてる奴等…
絶対許せない!!」
「森山君と桜井さんの遺体は
事故死として部隊に処理されるわ。
どうも、ナノマシンかなにか
を埋め込まれてるみたいね。
ゲームの参加者全員…。
生死判定をコンピューター
で確認してるらしいし、死亡後
24時間以内に処理に来ると須藤は
喋っていたわ。」
何だよそれ…
「俺達は実験動物かよ!」
「そうよ。大企業の参加の理由が
新商品の試験運用がメインなんだもの。
マニュアルにない出来事が起こる
可能性もあるわよ。主催者の独断と
企業の利益の為に。」
そんなことでこんな事許されるのかよ!!
「でも!一般人が16人もいなくなったら
流石にマスコミも…」
「死ねば偽装されて事故死にされるし
もし私達が生きて戻っても、
私達の発言なんてもみ消されるわ。
最悪精神異常者として監視下の病院に
軟禁されてしまうかもね。
今回は一般人を拉致して報道操作や
処理班の性能を実験してるみたい
それが一般人を使った理由みたいね。」
「なんだよそれ!!
わけわかんねえよ!!
馬鹿じゃねえの!!」
「ホント腐ってるわね。それを正す為にも
生き残ってこの島を出ないと駄目よ…。」
「須藤でしたよね?あいつに色々聞きたい
のですが、駄目ですか?」
「駄目よ。」
やはり重要参考人だから まずいのか?
「私が撃ち殺したから
喋りようが無いわよ。」
撃ち殺した!?
「刑事失格だわ。一時の感情で
短絡的な行動をしてしまったわ…」
やはり森山さんを失ったのは
かなりショックだったようだ。
クールな感じでいるけどかなり心は混乱
してるんだろうな…
しばらく沈黙が続いた後
水野さんからIDとスマホを渡される。
「森山君のIDと何個かのアプリは
渡せないけど他のものは全部
あなたに譲るわ。」
「あ、はい…。」
「アプリは半分も貰ったわ。Sランクの
ものはあなたに渡しておくわ。
その代わりヘリのアプリは貰うわよ?」
もう、どうでもいいことだが
フルコンプで20億もらえるのに
水野さんは興味ないのかな。
「IDも半々でいいんじゃないですか?」
「私には必要ないもの森山君の分と
2枚あれば充分だからね。」
俺はスマホにアプリを転送する為に
受信モードにして須藤のアプリを
俺のスマホに移す。スマホのアプリを
確認してみる。
【物価変動】ランクE
【真実の書】ランクS
【一斉転送】ランクB
【機能拡大】ランクD
色々アプリが増えたが今は確認を
したいとは思わず、そのまま
スマホをしまう。
「彼女にこれ掛けてあげなさい。
そのままじゃ可哀想だし。」
水野さんは背中のリュックから
シーツのようなものを取り出す。
あ…そのリュック確か森山さんの…。
「はい…。ありがとうございます。」
シーツを彼女にそっとかぶせる。
もう彼女の笑顔は見られない…。
枯れたと思った涙が又溢れて来る。
「山上君、何かあったら
連絡して頂戴。これ番号書いたメモ。
じゃあ私は行くわね、お互い
生き残ってたら又会いましょう。」
水野さんは立ち去っていく。
俺はまだこの場から離れる気には
なれなかった…。