6日目~昼~
結局、昨日はあまり寝れなかった…。
作戦に緊張してたのもあるが
それよりも…
「おはよ…。」
少し顔を赤らめた
歩美が頬にキスをしてくる。
「おはよう、歩美はちゃんと
ぐっすり寝れた?」
「あんまりかな…だって。」
「あ、いや!わざわざ
言わないでもいいよ!!」
流石に照れくさくなって
ベットから飛び起き、着替えを始める。
この何日かアプリで動きをみていたら、
あの男達は昼前にID更新を
行っている事が多い。
理由は知らないけれど昼以降は
この前みたいに何かアクションがない限り
北側で何かしているようだ。
「そろそろ行かないとね。準備は出来てる?」
歩美にIDを手渡す。
万が一の場合IDの位置で
歩美の場所を探せるし
俺に何かあっても
IDさえあれば歩美も
何とかなるだろう。
殺人者との鬼ごっこだ。
捕まれば死は確定だろう。
もしもの時には歩美だけでも…。
ポケットに仕込んでおいた
ものを握り締める。
「悠斗君?どうしたの?緊張してる?」
歩美が不安そうに覗き込んでくる。
「あ、いや作戦に穴がないか
頭の中で確認してたんだ。」
よし…いこう。歩美の…いや俺達の
これからのためにも。
しばらく2人で歩きながら逐一アプリで
様子をチェックしていると、2つのIDが
中央管理センター前に集まっている。
おそらく森山さんと水野さんの2人だろう。
北端のあの男のIDは固まったまま
今は動く様子はない。
ヘリが使えるならあせる必要もない
そういう余裕なのか。
「歩美、大丈夫?」
「平気よ。水野さんから
歩きやすい靴貸してもらった
のが良かったみたい。」
とはいえ、これからもっと大変になる。
今はまだ急がないでも大丈夫だろう。
中央管理センターにはあと20分位で
たどり着くって所かな。
30分後、所定の位置にたどり着く。
俺達2人は彼らに気づかず
中央管理センターに来てしまい
鉢合わせしてしまったと言う設定で
行動する事になる。
まずは森山さんにメールを送信する。
内容は
『B地点にたどり着きました。
作戦開始時にまたメール送ります。』
送信してしばらくして
『了解』
と返信が来る。
後は奴等が動き出すのをじっと待つだけだ。
俺はアプリに神経を集中させる。
歩美は冷たい水で冷やしたタオルを
俺の額に当ててくれる。
ひんやりとした感覚で暑さを一瞬忘れられる。
この島は昼の温度がとんでもなく暑い。
歩美はそれを見越して氷の入った袋や
保冷作用のある入れ物を持ってきたのか。
彼女の優しさに、笑顔で感謝を表す。
そして1時間後…ついに奴等が動き出す。
大江はIDを所持していないから
分からないがまず別行動するとは
考えにくい。
さて連絡メールを
『目標移動開始作戦開始予定時間
10分前。次のメールが
作戦開始合図メールです。』
この10分間が俺はとても
長く感じていた…。
ただ待っているだけなのに
心臓の動悸が治まらない。
今からこれでは大変だ。
もっと冷静に落ち着いて
いかなきゃ失敗する。
落ち着いて深呼吸をし耳を澄ます。
気がつけば10分は過ぎていた。
そろそろヘリの音が聞こえてくるはずだ。
予想通りヘリのプロペラ音が
聞こえてきて、中央管理センター前に
降りてきて、2人を降ろす。
『作戦開始』
そうメールを送った後、
俺と歩美はヘリが一旦飛び立ったのを
確認して中央管理センターへと歩き始める。
そうワザと見つからなければならないのだ。
相手に意図を気付かれない
ようにしないとな。
道を歩き、しばらくすると
中央管理センターの前に
俺達はたどり着く。
都合のいい事に大江1人で留守番のようだ。
「あ…!?」
「嘘…。」
俺と歩美はいかにも鉢合わせた事を
予想外だという風に演技を始める。
「ほう…。まさかわざわざ
ターゲットから、こちらに
来てくれるとはね。」
「く…。」
俺は歩美を背中に庇いながら少しずつ
後ずさりをする。
「ふ…安心しろ。まだ殺さないでやる。」
大江の口から想定外の台詞が飛び出す。
何だって!?それじゃ困る!
奴にはこの場を離れて
貰わないと作戦が!!
「…貴方が私の命を。父から雇われた
殺し屋何ですね…。」
歩美!?
「そうだ。お嬢ちゃんに
恨みはないが仕事でな。」
大江はニヤリと笑う。
「そう。でも、悪いけどそんな
ナマクラ仕込み杖の刀では死ねないわ。
それに、今時日本刀なんて時代遅れも
いいところよね。はっきり言って
ダサすぎなのよね。」
歩美の話を聞いている内に大江の顔色が
変わっていくのが分かる。
「お嬢さん…そんなに今すぐ
死にたいならお望みどおり
わが愛刀でその首叩き切ってやるわ!!」
「悠斗君!今よ!この場から
離れましょう!」
「お、おう!」
いきなりの展開で少し戸惑いながらも
俺達のベースキャンプに走り始める。
目的地まで距離はかなりある。
2時間を目安につかず離れずで
逃走しなければならない。
どうやら刀をバカにされると
プライドが許さないらしい。
時間が経つにつれ、大江も
あまり離れてはまずいと
考え始めたのか、徐々に
スピードを落としている。
「やっぱり刀はダセ~。
銃なら楽なのにな。
こだわり過ぎ?キモっ!」
俺も相手を挑発する。
今ので完全に頭に来たらしく、
怒りの形相で追い掛けてくる。
こちらはうまくいったが、森山さん達の方は
大丈夫なのだろうか?
お互い連絡は作戦成功時、または失敗時に
一文字メールの取り決めがあるから
気になっても連絡は出来ない。
まずは俺達がうまくいくように
頑張らないと駄目だ!
「歩美、着いてこれるか?」
「大丈夫!まだまだ走れるから
気にしないで!」
少し息が上がり始めてるが、
これ以上スピードを落とすと
追い付かれる恐れがある。
しかし、一時間もすると相手の方が
疲れてきたようで、追い掛ける
スピードが落ちてくる。
「はあ、はあ、少しペース落とそう。
あっちが追い付けないと
意味が無いから。」
「はぁ…はぁ…はぁ…う、うん…。」
歩美の体力も限界に近いらしく、
かなりフラフラで肩で息をしている。
「後少し、後少しだから。」
実際かなりハイペースで来たらしく
あと15分も走ればたどり着く距離
まで来ていた。
だが、ここからが難しい…
うまくやらないと全て水の泡となる。
何とかベースキャンプ前にたどり着く。
入るタイミングを間違えると意味がない。
相手との距離を計ってドアを開ける!
どうだ…!?
閉まりかかったドアに大江の手が
差し込まれて無理やり開け放たれる!
「ぜえ…ぜえ…随分逃げまくってくれたな
だが、一歩遅かったな覚悟しろ
わが愛刀の錆をしてくれるわ。」
次の瞬間、俺は相手にボールを投げつける!
「無駄な抵抗を!!」
予想通り刀で切りつける。
次の瞬間!中でパンパンに圧縮されていた
催涙ガスがキャンプ内に放出する!
こんなものも中央管理センターで
裏サイトという項目で販売している。
森山さん達から聞いた情報で
色々な武器が格安で販売されている。
プレイヤー同士の戦闘をさせるため
用意されているのだろう。
「なにい!!ぐああああ!」
直撃を受けた大江はまともに目を開けれず
こちらに向かってくるが
まともに歩けていないようだ。
俺達は…
事前に用意して貰ってた防護マスクを
つけていたので問題なくこの場にいる
ことが出来る。
「歩美!今のうちに!」
「う、うん!」
歩美を先に外に出し俺も出ようとするが
足を大江につかまれる!!
「小僧!!!にがさねえ!」
「なに!?」
俺のに声のする方向に手を
伸ばしていたらしい。
なんて事だ!!
大江は俺の足を斬ろうと刀を
下段に構えそのまま振りぬく!
「うわあああ!」
ふくらはぎを少し切り裂かれる!
大きな傷ではないがジンジンと
切られたところが熱くなっていく。
「ふひひひひひ!少し見えてきたぜ!
死ね!小僧!!」
大江は俺に向かって
日本刀を振りかざす!!
ああ、駄目だ。足が痛くて
立ってられない
俺、死ぬんだな…。
諦めた俺は目をつぶり
斬られる瞬間を待った。
ドシュ!という肉を切り裂く音。
しかし斬られた痛みは感じず
目を開けてみると…
俺の目の前に歩美の笑顔が…
「え…?」
「悠斗…逃げて…。」
歩美は俺に覆いかぶさるようにしている。
その背中からは赤い物が
歩美が俺を庇って斬られた…!?
「ふふふふ!順番が変わっただけだ!
小僧も今楽にしてやる!」
歩美は笑顔を崩さない。
「…ざけんな…。」
俺はポケットからスタンガンを取り出す!
効果は一回のみの使い捨てスタンガン。
中央管理センターの裏サイト
で販売してあったものだ。
これをやつの首筋に押し当てる!!!
バチン!という音と同時に大江は
白目をむいてそのまま気絶する!
「歩美!しっかりしろ!!」
歩美を抱き上げてキャンプから脱出する。
「悠斗…。私死ぬのかなあ…?」
素人の俺ではなんとも言えないが
血がまだ滲んできている。
止血の仕方なんて知らない!!
俺は森山さんにメールする。
『作戦成功、歩美が背中を斬られて
出血多し応急処置が分からない!』
するとすぐ返事が来るが
どうやらあちらも成功はしたらしい。
応急処置の仕方も書かれていたので
必死に止血をして彼女を
ベースキャンプに戻ろうとするが
俺も脚切られているのだ。
とてもじゃないが抱き上げたまま
歩ける状態じゃない。森山さんに
現在地を伝えると合流可能みたいなので
小さな広場に歩美を寝かせる。
「悠斗…」
「歩美!しゃべんな!!」
「ありがとうね…
こんなゲームに巻き込まれて
最悪だと思ってたけど
あなたに会えてよかった…。」
「いいから喋るなよ!!
そんな事聞きたくない!!」
「ねえ…キスしたいな。」
「後でいくらでもしてやるから
そんな事言わないでくれ!!」
「お願い…」
駄目だ…血が止まらない刀の傷は
思ったよりも深くてどんどん体温が
下がっていくのを感じる。
「駄目だ駄目だ駄目だ!!」
「…。」
なんで!苦しいはずなのに
そんな笑顔でいられるんだよ!
もう俺はどうにも出来ない。
彼女の願いを叶える為優しく、
そして今までの中で一番熱いキスをした。
「ごめんね…IDとスマホ貰って…ね。
私のこと忘れて、生き延びて…おねがい…」
すっと涙を流した歩美は
そのまま力なく目を閉じる。
「嘘だ嘘だ嘘だああああ
ああああああああああ!」
俺は彼女を抱きしめ続ける。
生気が急速に失われていく。
俺にはもうどうすることも
出来なかった…。