第99話 溢れ出る憎悪
響は闇の感情の一端を
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「おらああああ!」
「女はすっこんでろ!」
「ぐはっ!」
魔族の男はアルドレアの剣を流すとアルドレアを吹き飛ばす。すると、響に向かって接近してきた。剣を大きく上段に構えて。
そして、魔族が振り下ろす剣を響が聖剣で受け止める。だが、すぐに響は腹部を蹴られて吹き飛ばされる。
そこに追撃とばかりに魔族が迫ろうとする。だがそこに、後方からアルドレアが魔族に襲いかかった。それによって、響の攻撃は中断される。
響はすぐに立ち上がると魔族に向かって迫っていく。そして、魔族に向かって聖剣を突き刺す。だが、魔族はアルドレアを吹き飛ばすとニヤついた笑みで振り返った。
「なんだ所詮勇者もこの程度か。なら、勇者の首を手土産にするのかもありだな。なにしろ―――――――」
「くっ!」
「―――――――――殺すことに抵抗を持っているのだからな」
魔族は振り変えると何もしなかった。なにもしなくて良かったのだ。なぜなら、響の剣は男の胸の前で止まるから。その事に魔族は思わず笑ってしまう。
それは先ほどの一撃でわかった。響が攻撃をためらっていることに。 剣を受け止めた時の響の手は震えていることに。
そこで「何を考えているかわからないが、殺し合いで殺しを躊躇っている勇者は取るに足らない」と思った魔族はあえて攻撃を受けにかかったのだ。
「がっ!」
「死ね」
「させねぇよ!」
魔族は響にアッパーして、宙に浮かすことで死に体の状態にする。そして、その胸に剣を突き刺そうとする。だが、その前にアルドレアが袈裟切りにして、邪魔をした。
そして、アルドレアは男をスルーして、響を担ぐと一旦距離を取る。
「おい、勇者なのに全然勇者っぽく感じないんだが? 何を躊躇ってんだ?」
「殺すことですよ。切りかかる瞬間に思い出すんです。あの切った時の感触、刺した時の感触を。だから、思わず止めてしまって」
「そんなんで本当に魔王を倒せんのかよ......」
響の言葉にアルドレアは思わずため息を吐いた。すると、少し腕を組んで考えたような表情をしたアルドレアは響に告げた。
「そういう強烈なイメージってのは、そう簡単に剥がれないから仕方ないと思うんだけどよ。だったら、こう考えろ。もし魔族が仲間に剣を向けていたらと」
「......」
「今も周りでお前の仲間は戦ってる。だが、それは魔族を殺そうとするためじゃない。自分が生きるために戦ってんだ。そして見る限り、お前より動きにキレがない。ということは、これが初めての殺しになるのだろう」
「そこまでわかるんですね」
「伊達に冒険者やってないからな。そして、その仲間達はお前の言葉についてきたんだろ? だったら、お前が頑張らなきゃどうする? それに魔族に対して聖騎士と連携して、一体複数と戦っているとしても勝てるとは限らない。だが、お前が勝てるようにするんだよ」
「......どうやってですか?」
響がそう言うと「簡単なことだ」と言って、アルドレアは響に向かって笑みを見せる。
「仲間を助けるために剣を振るえばいい。お前の目的は魔王を倒すことじゃない。魔王に仲間が倒されないように剣を振るうんだ。そのためにはいい加減悪に染まる覚悟を決めろ。殺した人の数を数えようとするな。救った人の数を数えろ」
「......わかりました」
響はゆっくりと深呼吸をする。そして、聖剣を握り直す。今度は震えはない。「剣は心を映し出す」もうやるしかないんだ。
アルドレアの「行くぞ」という言葉で響はともに魔族へと接近する。そして、身体能力の高さから響がまず剣を振るった。
魔族はその剣を受け流す。そして、響に向かって手を向けた。
「魔黒の破断!」
響に迫ってきたのは漆黒の斬撃。だが、響はそれを半身で避けると魔族の横っ腹に拳をぶち込む。その攻撃によって、魔族は一瞬怯む。
そこにアルドレアが剣を振り下ろした。それに対して、魔族は咄嗟に後ろに下がるが、胸元を大きく切られる。
そしてさらに、アルドレアがその魔族の腹部を蹴って吹き飛ばしていく。
「地隆山!」
「光滅の刃!」
魔族は転がることで威力を殺すと両手を地面へと触れさせた。そして、魔法を発動させる。すると、地面は響に向かって連なった山を作り上げていく。
その山は剣山のように鋭く尖っていて当たればひとたまりもないだろう。だが、響はその山々を光の斬撃で蹴散らしていく。
そして、響はアルドレアと共に接近していく。
二人は挟み込むように互いに反対側から大きく回り込んでいく。それから、ほぼ同時に切りかかった。
だが、魔族は剣を地面に突き刺すとそれぞれに向かって手を向ける。そして、再び<魔黒の斬撃>を飛ばしていく。
それを二人はそれぞれ剣で切り払っていくが、アルドレアにはすぐに魔族の剣が迫って来ていた。
アルドレアは振り下ろされた剣を自身の剣を横に構えることで防いだ。だが、すぐにがら空きになった腹部を回し蹴りされる。
すると、魔族の後ろに響が迫った。だが、魔族はその場から振り返るようなことをしなかった。ただその場でジッとしている。
そのことに響は疑問に思いながらも、剣を振り下ろそうとする。するとその時、魔族の背中から剣が突き出してきた。
おそらくコートで剣が隠れることを利用して、脇腹近くから剣を通してきたのだろう。
響は咄嗟の反射神経でその剣を自分の剣で受け止める。そして、次に来た魔族の回し蹴りも籠手で受け止めて、一旦距離を取った。
「はあはあはあ......」
響はいつもより早く息が上がっていた。無駄な動きが多いというのもあるが、今は何より相手が魔物ではなく、人であることが大きい。
簡単に言えば、実戦だ。
そのことが響を徐々に疲れさせている原因である。慣れないことをすると疲れるというが、今はまさにそんな感じである。
修練の際でも聖騎士達やガルドとずっと模擬戦を続けていた。だから、いざ戦いとなっても少しぐらいは余裕を持って動けると思っていた。
しかし、現実は違う。そんなことは微塵も感じなかった。むしろ今は実戦よりきついとさえ感じてしまっている。
それは相手にしている魔族が手練れというのもある。だが、それ以上に死のやり取りをしているという感覚がより体に圧を加えている。
模擬戦の時は死なないという前提が無意識にあったのだろう。それに気づかないままやって来て、結果が今だ。
だから、もう早く終わらせたい。
響は呼吸を整えながらふと周囲を見渡す。すると、雪姫のおかげか先ほどまで大けがを負っていた仲間が動けるようになっている。
また、魔族と戦っている仲間達は数の利を活かして、魔族を仕留めていた。誰がやったかはわからない。ただもう2人の魔族が地面に伏している。
すると、響の近くにアルドレアが歩いてくる。
「勇者が先を越されちまったな」
「良いんですよ、そんなことは。仲間達が無事であるなら、僕はそれで十分です」
「まあ、そうだな。だったら、私達も早いとこ終わらせようか。次で仕留める。いいな?」
「わかりました」
響は魔族に正面から近づいていく。そして、瞳の温度を冷たくさせたまま、思いっきり聖剣を振り下ろした。
すると、魔族は先ほどの切られたダメージが来ていたのか避けることはせず、右手に持った剣を左手で支えながら受け止めに入った。
だが、響の聖剣が光るとともに振り下ろされた一太刀は魔族の剣を両断して、胴体を切り裂いていく。そこに、魔族から注意を逸らされていたアルドレアが背後から背中を一突き。
魔族は思わずそのまま膝を落とす。しかし、最後まで勇者を狙うように手のひらを向けた。だが、響は何かをされる前に心臓に聖剣を突き刺した。
そして、二人が剣を引き抜いたその瞬間、魔族の男は地面に倒れた。もう動くことはない。
そのことに響が思わず辛そうな顔をしてしまう。すると、そんな響に腕を叩きながら、アルドレアが声をかける。
「良かったな。これでお前は何人もの大切な仲間を護った。これでもう、この魔族によって仲間が死ぬことはない」
「......そうですね」
アルドレアの邪気を感じさせない二カッとした笑みに、響も思わず釣られて笑ってしまう。
その時だった。
響の目の前に閃光が駆け抜け、アルドレアの胸を貫いた。
そのことに響は固まった。そして、視線だけで口から鮮血を吐きながら、地面へと倒れていくアルドレアを眺めていた。
それから、動いたのは数秒後であった。
響はしゃがむとアルドレアを抱え上げる。
「アルドレアさん!」
「しまったな......下手やっちまったみたいだ。遠くの森の方に狙撃手がいるとは思わなかった......ぐはぁっ」
「アルドレアさん! もうしゃべらないでください!」
「なんだ? 生かしてくれようとしてんのか? それは嬉しいが、これは深すぎるぐっ......もうダメだ。体が限界を告げているみたいだ......」
「待ってください! ここで死んでしまったら、あの人が!」
「ああ、あいつのことか......なら、気にするな......あの世で会えるからさ」
「そんな――――――――――」
響は思わず抗議しようとした。だが、その口はアルドレアによって塞がれる。そして、アルドレアはゆっくりと頭を横に振った。もう何も告げなくていいように。
そして、最後に響に告げた。
「あいつのこと伝えてくれてありがとな」
アルドレアは満足そうに目を閉じた。その瞬間、響の腕にこれまで感じたこともない重さを感じた。そして、思わず叫んだ。
「ああああああああぁぁぁ!」
叫ばずにはいられなかった。目の前で命が途絶えたのだから。それも鉄球の戦士を通じて知り合った人だ。ただの無関係の人ではない。
それからしばらく、叫び続けた。自分の良心を吐き出すかのように。
「......」
その瞬間、響の横から先ほどと同じような閃光が向かってきた。すると、響はそれを片手で受け止める。その閃光の正体は魔法が付与された矢であった。
響はゆっくりと矢が飛んできた方向に顔を向ける。その瞳はもう氷のように冷え切っていた。
溢れ出るのは怒り、憎しみ、悪意、殺意。
そして、響はアルドレアの体を静かに地面へと降ろすとゆっくりと立ち上がる。その時の響の雰囲気は誰かを彷彿とさせるようだった。
それから、しっかりと捉えた狙撃手の姿を目に焼きつけながら、歩いていく。
ゆっくりとした歩行速度は段々とペースを上げていく。
そんな響の変化に何かを感じた生き残りの魔族2人は目の前の相手らを放置して襲いかかる。今もっとも危険な男が響であるから。
しかし、その2人は響の横なぎの一撃で胴体を切られ、即死した。しかもその時、響は一度もその魔族に目を向けていない状態で。
そんな物々しい雰囲気を仲間達も感じ取っていく。しかし、何も言うことが出来ない。今言葉をかけることが危険だと感じたから。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す......」
響は怨嗟のような言葉を吐きながら、歩きを早歩きへ、早歩きを走りへと変えていった。
向かう場所は一つ。あの狙撃手のもとだ。
その狙撃手の魔族は危険だと感じて逃げていく。それを響は追いかける。その響を仲間達は追いかけた。
そんな中、一人だけニヤついた笑みをしていた聖騎士の存在に気付く者は誰一人していなかった。
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