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神逆のクラウン~運命を狂わせた神をぶっ殺す!~  作者: 夜月紅輝
間章 勇者の絶望

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第98話 凶行の一撃

少しずつ闇は広がっていく


評価、ブックマークありがとうございます。励みになります(*´ω`*)

 響は思わず顔を逸らし、顔を腕で覆った。それは1階にいた魔族であろう男が薬品を飲んで自爆したことに対して。


 眩い光と激しい轟音がこの家を飛び出して外までにも響き渡る。


 響は簡単に1階へと目を向けることが出来なかった。それは見なくても悲惨な状況が脳裏にビジョンとして流れてたから。


 あの爆発で確実に死んだ。もちろん、限りなく小さくても生きていると願いたい。でも、コロシアムを経験した響だからこそ知っている。人は死ぬときは死ぬのだと。


 だが、響は恐る恐るも少しずつ目線を1階へと向けていく。「現実から目を背けてはいけない」と自分を叱責しながら。


 すると、響は思わず目を見開く。


「あれ? 俺生きてる......」


「僕も助かってるみたいだ」


「あの距離じゃ確実に死んでいたのにな。あんまし生きてる実感が湧かないし」


 男の周囲にいたクラスメイトが全員無傷であった。しかも、そのクラスメイトの近くに爆発で焼き焦げたような跡はない。クラスメイトの手前で不自然に終わっている。


 そのことに爆発に巻き込まれかった他のクラスメイトや聖騎士は安堵の声を上げた。そして、響も思わず胸に込み上げた息を吐いた。


 それから、どっと疲れが出て、思わずふらついて手すりに寄り掛かった。それにしても、深夜に突然殺気を感じて目覚めたら、目の前に暗殺者がいるとは。


 完全に失念していた。自分はこれまで相手を殺すことを考えていた。しかし、殺されることについては微塵も考えていなかった。


 「人を撃つのは撃たれる覚悟をもった奴だけ」確かそんな言葉を漫画で聞いたことがあったが、まさかこんなところで実感することになろうとは。


 響はその言葉に思わず苦笑いする。そして、ふと周囲を確認してみると杖を掲げ、荒い呼吸をしていた雪姫の姿に気付いた。


 なるほど、どうやら雪姫が咄嗟に結界を張ったようだ。だから、全員が無傷に生還しているのか。これは後で感謝でもしなければなるまい。


「すっー、はー。行くか」


 響は一度深呼吸をするとしっかりと立ち上がる。そして、1階へと降りるとクラスメイトに声をかけながら、改めて周囲を確認した。


 爆発地点には男の一部のようなものは何もない。まさに木っ端みじんになったのだろう。それから、静かに扉のドアノブに手をかける。


 そして、ゆっくりと扉を開ける。すると、何かが扉の前にドサッと横たわった。


 その何かが倒れた音は小さかったにも関わらず、一瞬にして全員の喜びの声を静めた。先ほどまでの温かった空気が一気に冷え込んでいく。


 その姿を確認してみると聖騎士の姿であった。胸を一突きで死んでいる。その光景に怒りと憎悪しか湧いてこない。これが戦いというものなのだろうか。


 響はその聖騎士をしゃがんで抱えると周囲を確認している。すぐ近くにいた聖騎士も死んでいる。


 聖騎士の実力は知っている。だからこそ、こんな声も出せず死んでいることに驚きも隠せない。もういろいろな感情がごちゃ混ぜになってる気分だ。


「結界は......張ってあるのか......」


 響は手を掲げて魔力を空気中に当てる。そして、空気に抵抗感を感じたので、そう判断した。ということは、魔族は何らかで結界を無効化できるものを持っているということか。


「助けてくれてありがとう」


 響はそう言いながら、聖騎士の開いていた目に手を触れさせる。そして、そっと目を閉じさせた。


 それから、響は太陽が昇るまでずっと居間にあるソファに座っていた。あまりの突然の体験に体が眠るのを拒絶しているかのようだった。また殺されるかもと感じて。


 また、響の隣には弥人が座っており、正面には雪姫と朱里が座っていた。また周囲には必ず複数人で固まって、同じく夜を明かしているクラスメイトに姿があった。


 会話はポツリポツリとしたもので、基本的には静かなものだった。だが、全員が安心感を求めるように一人を嫌がっている。


 そして、その永遠とも言える長い時間はやがて朝日と共に終わりを告げる。


 早朝、全員が心の安寧を保つかのように外へ出て、新鮮な空気を思いっきり吸った。何度も何度も深呼吸を繰り返しながら。


 まるで戦う恐怖を拭うかのように。


 そして、響が全員に告げた。


「それじゃあ、今日は朝から村の警備をする。僕の暗殺に失敗した相手のことだ。強行手段に出てこないとも限らない。何か異変を感じれば、すぐに全員に知らせてくれ。そして、もし攻撃を仕掛けられたら、すぐに動ける者以外防御をしててくれ。犠牲は出したくない」


 響の最後の言葉は全員の胸の中へと届かせていた。つい数時間前、自分達を護るために死んだ聖騎士のことを思い出しているのだ。


「それから、村の人達を助けるのは自分の命を護れる状況にあった時だけにしてくれ。本当はこんなことは言いたくないけど、僕はあの人達の命より目の前にいる皆の命の方が大事だから」


 響の発言に驚く者はいなかった。全員が同じ気持であるからだ。ほとんど関わりがない人が死ぬよりずっと協力してきた仲間が死んだ時の方が辛いのは当然であるから。


「行こう」


 響達は村の方へと向かって行く。そして、それぞれが村の中で等間隔ぐらいで立って警備し始める。もちろん、その数は半分ぐらいだ。


 残りの半分は巡回警備と適宜な休憩。それを1時間交代で繰り返していく。


 サボる者は誰一人いなかった。それは全員が今まで感じることもなかった死という存在にハッキリ気づいてしまったから。常に近くで首を狙っていると。


 しかし、警戒していた朝方狙いという予想は外れて、時間はもう昼近くというところに来ていた。


 だが、この時点で実はもう自体は大きく動いていたことを知っている者は一人もいなかった。


「なあ、なんか臭うよな?」


「そうか? 俺はあんましだ。まあ、においに疎いだけかもしれないが」


 響がそう聞くと弥人はその場でクンクンと空気中のにおいをかぎながら答えた。しかし、腕を組みながら、頭を傾げるばかり。


 しかし、響はこの臭いに嫌な予感が拭えなかった。だから、全員に伝達しようと動き出したその時、遠くから大声が上がった。


「魔族が出たー!」


「魔族が!?」


「とりあえず、行こうぜ」


 響と弥人はその声が聞こえた方向に向かって行く。しかし、その間も響の不安はずっと拭えず、むしろ増すばかりであった。


 それは臭いの件もあるがこのタイミングで堂々と魔族が出現したことだ。


 魔族は深夜に勇者である響を暗殺しにやって来た。結界破りの何かを使ってまで。だとするならば、このまま策がないとも思える行動をするとは思えないのである。


 よって、今ある選択肢は二つ。何か仕掛けを施し終えたから堂々と現れて、注意を逸らそうとしているのか。


 それとも、本当に策がなく、単純な実力行使に出たということなのか。願わくば後者だ。前者は全滅の可能性すらある。


「あれが魔族か」


「女もいやがるな」


 響達が目的地に辿り着いて見た光景は男4女1の5人組の魔族であった。全員が浅黒い肌の色をしていて、暗闇に紛れやすい黒いコートを着ている。


 加えて、特徴的な額に生えた日本の角。それがスティナから伝えられた魔族の特徴と何よりも合致している。


 ふとその時、丁度目の前にいる男と目が合った。すると、その男は歪に二ィっとした笑みを見せる。


 その瞬間、響は全身を駆け巡る戦慄と警告音とともに叫んだ。


「皆、今すぐここを離れ――――――――――――」


 だが、その言葉を最後まで伝えきることは出来なかった。なぜなら、その男が両手を打ち鳴らした瞬間、響達へと爆炎がまるで走ってくるように真っ直ぐ迫ってきたからだ。


 例えるなら、線を引いたガソリンに火がついていったように。


 響はその時気づいた。先ほどから臭っていたのはガスなのではないかと。ただ、臭いはよく知っているような臭いではなかった。


 だが、ここは異世界。似たようなものなら、過ごしてきた中でもいろいろと見てきた。ならば、知らないだけであったかもしれない。


 響は咄嗟に剣を引き抜くと爆炎に襲われる前に上空へと斬撃を飛ばした。それはその場で強制的に上昇気流を作り出して、爆炎を上空へと押し流すためだ。


 しかし、それは微々たるもの。爆炎に響達は包み込まれていく。


 爆炎はやがて村全体にまで広がり、その場にあるものを焼き滅ぼしていく。そして、通った時で発生した熱波は衝撃波と共に家々を簡単に吹き飛ばしていく。


 その村にあるのは紅の炎だけ。響達の姿はそこにはない。


「げほぉげほぉ......助かった......」


 結果から言えば、響達は生きていた。それはこの村に向かう前にスティナからお守りとして受け取っていたペンダント型の魔道具のおかげだ。


 その魔道具は一度だけ死ぬような攻撃を食らった時にダメージを半減させるというもの。そのおかげで響達は生存を果たしていた。


「くっ!......痛てぇ......」


 しかし、そのダメージは個人差があった。それはもともとの防御力による差だ。


 スティナの魔道具はあくまで致死に至る攻撃を半減するだけのもの。故に、防御力が弱い者にとっては酷ければ瀕死状態の者もいる。


 なので、現状で動けるのは十数人といえるところか。その誰もかれも深手を負っているが。しかし、それぞれポーチから回復薬を取り出して飲んでいく。


 そして、痛みが生じても十分に動けるぐらいまで回復すると魔族の五人組に武器を向けた。


 そこで響が叫ぶ。


「倉科! 僕達が時間を稼ぐ。出来るだけ多くの皆を回復させてくれ!」


「わかった!」


「お前達の相手は僕達だ! 邪魔はさせない!」


「その意気だ」


「え?」


 その時、不意に声がかけられたとともに肩に手が置かれた。そして、颯爽と何者かが横切っていく。その事に響は思わず声を漏らした。


 その人物はアルドレアだった。アルドレアはロングソードを肩に担ぎながら、誰よりも早く魔族へと接近していく。


「よう! クソ魔族ども! 全ての始まりはお前らが来たことから始まったんだ。もう払いきれない額のツケ、その命で償ってもらうぜ!」


 そう言うとアルドレアはロングソードを上段に構えながら、一気に振り下ろす。その攻撃に対し、響の直線上に立っていた魔族は腰から剣を引き抜いて防いだ。


 同時に、残り4人の魔族は周囲にいるクラスメイトや聖騎士へと襲いかかる。


 そして、響の魔族との殺し合いは幕を開けたのだ。

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