第97話 不審な村
め、目覚まししっかりして......
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「あれ? 瘴気で充満していると聞いてたけど......」
響は思わず困惑が隠せないようだった。しかし、冷静に考えてみれば、鉄球の戦士がいつ頃から村を離れたとかは聞いていないので、自分達が来る前に何とか出来たとも考えられる。
すると、響達に向かって一人の男性が走ってくる。
「もしかして、勇者様方ですか?」
「はい、魔族の出没情報を聞いたので、僕達が相手をしに......それにしても、ここは随分と賑やかそうな場所ですね」
「ああ、魔族の襲撃に遭ったことをご存知でしたか。あの当時は実に悲惨なものでした。唯一無事だった一人の少年が友達を救うついでに、村も救おうと飛び出していったんですが、今はどこへやらって感じで......ってどうかされました?」
「いえ、なんでも。そうだったんですか」
響はその男性の言葉に適度に相槌を打つ。だが、最後の言葉には思わず反応してしまった。なぜなら、その少年が鉄球の戦士と知っていたから。
そして、その少年が薬を探しながら、コロシアムに挑み、殺人鬼に殺されたということを知っていたから。その時の光景をしっかりと見ていたのだ。忘れるはずがない。
「それでどうしてここはこんな風に?」
「1年前ぐらいに霊山へと向かっている賢者様がいろいろと施してくれまして。それでここまで回復したんですよ。だから、この事をあの少年にも伝えようと思っていたのですが、なにぶん辺境な地でして。手紙など送るのも一苦労でして、未だ帰りを待ってる次第でして」
「そうなんですか」
「あ、勇者様方には関係ない話でしたよね。ささ、私について来てください。勇者様を立たせっぱなしというのは心証に悪いですから」
男性はそう言うと響達を村長宅へと連れて行く。そして、着いた村長宅は屋敷の風貌ではないが、それでもそれぐらいの大きさを有していた。
そのことに響達は思わず言葉を失う。なぜなら、凄まじく場違い感があるからだ。
確かにこの村は豊かである。しかし、それぐらいの大きさを有するなら、ここが村ではなく街であるべきだ。まるで領主の屋敷のような感じなのだから。
余談だが、クラウン達はこの屋敷の存在は知らない。村長宅は村から少し離れた場所にあるからだ。
ただ必要な食料調達をしていったクラウン達はそこまで行く必要がないので、知ることはなかった。
「さあ、こちらへ。村長は出かけてますが、この村に勇者様が来たなら通すよう許可を得ていますので。ただ、この家にはいくつか部屋がありますが、そこを数人で使っていただくという形になりますが」
「大丈夫ですよ。そもそも休む場所を提供していただけるだけでありがたいですから」
「そうですか。それは良かったです」
そして、響達が村長宅へと入っていくとまんま屋敷のような構造だった。広い玄関があり、すぐ正面に2階へと続く横幅の広い階段がある。
また、1階、2階ともにいくつか扉が見られ、その内の2階と1階の半分の扉は客間なのだという。
響達はクラスメイトの他に十数人の聖騎士も含めるとそれなりの数となるのだが、部屋の数だけ見れば全員が泊まることが出来そうだ。
それから、響達は話し合って部屋を決めていく。そして、2階の一室になった響は弥人と共に向かって行った。
すると、弥人は響に話しかける。
「なあ、なんか怪しくねぇか? やっぱり場違いすぎるぜ。賢者って言う人物がやることとは思えねぇ。だって、賢者だぜ?」
「それは根拠に乏しいと思うが......でもまあ、僕もそう思う。それにここは村から少し離れた場所だ。そして、こうも一緒くたにされると......まるで袋のネズミだ」
「違いない。この家で爆発なんて起これば俺達は漏れなく死ぬ。少し調べてみるか?」
「そうだね」
それから、二人は一旦荷物を置くと隅々まで調べ始めた。台所、居間、浴室、地下の食糧庫と。また、途中で会った雪姫と朱里にも手伝ってもらい、クラスメイトが村へと向かっている最中に自室以外の部屋も調べていく。
しかし、目立ったものを見つけることは出来なかった。魔法陣とかも何も。
響はそのことに一先ずの安堵の息を吐く。とはいえ、不安が拭えたわけではないが。
この村は魔族が出没したという報告でやって来た村だ。となれば、そのことを見越して魔族が何かを仕掛けてる可能性だって存在するのだ。
言わば、敵陣の中にいると言ってもいいのだろ。なら、安心できることはない。いつでも、魔族と戦えるように用心せねばなるまい。
そして、響達は次に村へと向かった。念のため村長宅に魔族が侵入ができないように結界を張っておきながら。
それから、響は弥人と別れると他の村人に話しかけながら、ある家へと向かった。それは当然ある目的のためだ。
響は目的の家に辿り着くとその扉をノックする。すると、一人の茶髪ロングの女性が出てきた。
「はい、どちら様で......って、勇者様!?」
「あなたがアルドレアさんでいいですか?」
「はい、そうだけど......何か用でも?」
「はい、伝えたいことがあるのですが、時間宜しいですか?」
「構わないよ。どうぞこちらへ」
響はアルドレアに連れられて家へと招かれる。そして、二人掛けの椅子に座るとアルドレアは響にお茶を出した。それから、自身も座ると響に話しかける。
「それで話って?」
「実は――――――――」
そして、響はコロシアムであったことを包み隠さず話した。すると、アルドレアの表情は段々と曇っていく。
それからやがて、響が全てを話し終えた時には、アルドレアは必死に涙は流すまいと目頭を指で押さえている。
だが、その表情はいかにも悔しそうで、殺した男を恨んでそうで、でもそんな機会は二度と来ないことに苦しんでいるような感じであった。
「あいつと話してどうだった?」
「そうですね。大切な人のために命を張れる凄い人だと思います。いざ同じ立場に立ったらあんな風に覚悟を決められるかどうか」
「基本的にあいつも勢いだよ。ただ自分が恐怖をしっかりと認識してしまうと動けなくなってしまうから。あいつも昔はへっぴり腰だったもんだ」
「そうだったんですね」
「けど、魔族がやってきて村は一度崩壊して、魔族がばら撒いた毒によって私が倒れた。そして、そんな私を救うためにはあいつは......あいつは私が殺したも同然だ」
「......」
響は何も言葉をかけることが出来なかった。言葉すら見つからなかった。いや、本当はわかってる「あなたのせいじゃない」と。
だけど、その言葉を送る自分にはあまりにも何もないと感じた。確かに鉄球の戦士とは関わったが、それでもあの一度きり。まるで何も知らない。だから、声をかけるのがおかしいと感じてしまった。
それからしばらく、響はアルドレアの静かに涙を流す音を聞いていた。ただジッと泣き止むのを待ちながら。
数分後、泣き止んだアルドレアは響へと声をかける。
「なあ、どうか私にも魔族と戦う時に戦わせてくれないか? これでも冒険者としてそれなりにやって来たんだ。今も定期的に魔物とかを狩ってるしよ」
アルドレアの言葉を聞くと響はすぐに言葉を返した。
「ダメです! 危険すぎます! あの人はアルドレアさんが助かってもらうことに意味があったはずです! ここでみすみす命を捨てるような行為をさせることはできません!」
「だったら、どうやってこの気持ちを晴らせばいいんだよ!」
アルドレアはいきり立った声で机を思いっきり叩いた。そのことで響は思わず怯む。それに、アルドレアの見せる表情がまるであの時見た仁の表情と重なって......
「私が今あるのはあいつのためだ。あいつの無念を誰以外が晴らせる? それは私しかいないんだ恋人だった私しか」
「恋人だったんですか?」
「あいつはそういうことを他人に言う時隠す癖があるからな。気づかなかったのも当然だ。だからこそ、私が晴らす必要がある。そうは思わないか?」
「僕は......」
響は思わず言葉に詰まる。しかし、本当はわかっていた。きっと同じような行動をするだろうと。とはいえ、死にに行くような真似はさせることはできない。
それは自分が勇者として。
「すいません。僕は人々を護ることが役目です。だから、たとえどんな事情があろうと戦わせることはできません」
「......そうか」
「僕はここで失礼します」
響は席を立ちあがると足早にこの場を去っていく。それはアルドレアの余計な言及を避けるため。きっともう一度強気で出られてしまったら、吐いた言葉が揺らいでしまうような気がして。
そして、響は外に出るとふとこの村がほんのり薄い霧に覆われていることに気付いた。それは気にしなければ気づかないほどであるが。
もしかして、この村特有の気候なのだろうか。ただ、少しだけに匂いが気になる。ほんの少し鼻につくような臭い。
響はそのことに少し警戒しつつ、村長宅へと戻った。そして、その日は何も起こらず、就寝した。
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時は真夜中。夜空に輝く月がほのかに村を照らしていく。しかし、段々と暗雲がその月を覆いかぶさるように姿を隠していく。
まるで闇を作り出すかのように。
「誰だ!」
「!」
響が目を覚ますと目の前に角を生やした男が立っていた。その男は全身を真っ黒な衣装で、顔を見せないように口も布で覆っている。また、短剣を逆手に持ちながら。
その男は短剣を響に向かって突き刺す。しかし、響は横に転がって避けた。そして、体勢を立て直すとドアに向かって、男を蹴り飛ばす。
すると、その男は扉へとぶつかり、そのまま廊下へと飛び出した。しかし、響はすぐにその男を追わずベッドの近くにある一つの球体を手に持つと床へと叩きつけた。
その瞬間、耳をつんざくような音が響き渡る。その音によって、弥人達は目覚めた。やはり魔法で起きないようにされていたらしい。
自分を暗殺しに来た男、あの男が魔族なのだろうか。確かに、特徴である角が生えていたが。しかし、どうやって侵入したのだろうか。しっかりと結界も張って、数人の聖騎士が見張っていたのに。
響は考えをそのままに先ほどの男を追っていく。そして、響が階段までやって来た所で、1階で他のクラスメイトが男を捕らえようと囲っていた。
しかし、その圧倒的有利とも言える状況が響にはなぜだか不安でしかなかった。
するとその時、男はポーチから一つの小瓶を取り出すとその中にある何かを飲んだ。
その時だった。
「皆あああああ!」
男を中心として眩く輝く大爆発が起こったのだ。
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