第96話 大事な仲間だからこそ
光は友の存在
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響は戦闘担当の役職のクラスメイトと共に教会へと訪れていた。一人一人がちゃんとした装備に身を包み、必要な物が詰まった荷物を背負っている。
時刻は早朝。こんな朝早くから呼び集められたのは、ある村で応援要請が来たからだ。しかし、厳密なことはまだ知らされていない。だから、ここに集まっている。
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます」
神の像が立つ祭壇の前で、スティナは恭しく頭を下げた。いつもの柔らかいといった雰囲気ではなく、お仕事モードといった感じである。
しかし、スティナの表情を見て、響は少し悲しそうであると感じた。そして、ふと雪姫と朱里を見る。すると、自分と同じような気持ちを抱えた表情であった。
「先日お伝えした通り、皆さんには遠征に向かってもらいます。そして、これから向かって村う場所はバリエルートという霊山近くの村です。その村は丁度魔王城と中間の位置にあり、魔族とのいざこざが絶えない場所でありました」
「バリエルート......魔族......」
響はその言葉を思わず呟く。そして、脳内に反芻させる。
「バリエルート」それは帝国のコロシアムの際、鉄球の戦士と会話した時に出た言葉。確か、その村は昔に魔族が現れて、瘴気が漂う一体となったはず。そして、その村で多くのものが亡くなったと聞いた。
また、鉄球の戦士から瘴気によって倒れた友達を助けるために、薬を買うための賞金稼ぎをしているという話も聞いた。
しかし、もう鉄球の戦士はいない。帝国のコロシアムで死んでしまったから。
あの時、自分がいなければ生きていただろうか。そんなことを考える日々も多かった。だが、それはあまりにも後ろ向きな考えだ。
だから、自分が強くなったら、鉄球の戦士の故郷であるバリエルートに向かおうと決めていたのだ。そして、約束したわけではないが、その友達のアルドレアさんという人物を救うために。
また同時に、響は「魔族」という言葉に反応していた。いや、これに限っては全員が反応していた。
これに関しては当然の反応だ。もとより、響達勇者は魔王討伐のために召喚された。とはいえ、本格的に戦うのはこれが初めてなのだ。
そして、響以外にとってこれが初めての殺しになるかもしれない。「殺す」という倫理観がこの世界の人達よりも強いから足踏みしそうになる。
とはいえ、勇者としてこれまで優遇されてきたのはこのためであるとも言える。それに、もとの世界に戻るためには避けては通れない道。
しかし、もとの倫理観が邪魔をして、足が震える。
その時、響は言葉を告げた。
「要するに魔族と戦うということでいいんだよな?」
「はい、そうなります。一度気まぐれのような動きを見せた後、今まで動きがなかったのですが、ここに来て動き始めた......ということは本格的な戦いの日が近いということです」
「「「「「......」」」」」
「そして、遠からずの日に他の国と協力して、魔王城へと攻め込もうと考えています。具体的な作戦とかはまだですが......それでもそういう日が来ることは承知しておいて下さい」
スティナはそう言うと再び頭を下げる。その心苦しさといった感じの雰囲気が伝わったのか、その言葉に意見を唱える者達はいなかった。
するとその時、響が一歩前に出て、仲間達へと振り返る。
そして、全員を動揺させるような発言をした。
「皆、聞いてくれ。実はこれまで黙っていたことがあるんだ。それは.....僕が人を殺したことがあるということだ」
「「「「「!!!」」」」」
その言葉は全員が動揺した。
スティナ、弥人、雪姫、朱里の4人はここでそのことを言ってしまうのかということ。そして、残りの全員は響の衝撃的な言葉に驚きが隠せない様子だ。
だが、それは仕方ないことである。仲間の突然の人殺し告白にどうして驚かずにいられようか。
しかし、この行動は響の考えがあった。それは友達思いの響だからの言葉であった。
「もう一度言う、僕は人を殺した。僕が帝国に行った時、コロシアムに出場したことは知っているよな? そのコロシアムはまさに血で血を洗うような戦いだった。さながら小さな戦争......僕はそう感じた」
「小さな戦争か......」
響の言葉に弥人は思わず呟いた。そして、同時にコロシアムの決勝のことを思い出していた。これから言うことはおそらくその時のことだろう。
「そして、僕はその時、一人の戦士と知り合いになった。たまたま少しのキッカケで話すようになったんだ。たった1回の会話だけだったけどな。でも、その会話だけでどのような人物かはわかった。そして、その人も大切な人を助けるために出場していた......だけど、亡くなった」
「響さん......」
スティナはなんとなく響の言いたいことがわかった。だからこそ、思わず涙が流れ出そうになる。そして、思わず口を覆う。
「その人を殺したのは、殺人鬼だったよ。普通にこの世界でもいてはいけないような。そして、その人は僕と決勝でぶつかった。僕は怒りで、自らの意志で相手の腕を切り落とした。その時の肉を、骨を断ち切る感触をよく覚えている」
「響君......」
「光坂君.....」
雪姫と朱里はふとその瞬間がフラッシュバックした。響が激情のままに剣を振るって攻撃したこと。そして、相手の腕が吹っ飛んだこと。そして......
「僕は人を刺した。間接的にだけどな。それでも、あの時僕が剣を持っていなかったら、刺すこともなかった......けど、持っていた。だから、刺したことには変わりない。そして、あの時はもう忘れることもない」
響は思わず顔を背ける。その顔は歯を食いしばっていて、手は酷く震えていて、拳はもう既に血が滲んでいる。
その言動で全員が時が止まったかのように固まった。もう嘘ではないと十分にわかるような感情がダイレクトに伝わってくる。
「僕は皆に伝えたい。もう既に僕は汚れた手をしてる。そして、その汚れはもう拭うことは出来ない。けど、皆は違う! 皆はまだ道を踏み外していない! だから、突然で悪いけど、今ここでそれでもついてくる人は挙手してくれ」
「「「「「......」」」」」
「僕は皆に人殺しを味わってほしくない。もう僕は皆とは一緒にいれない場所にいるから。どうかここでは皆はついて来ないで欲しい」
「お前はどうすんだ?」
「僕は他の聖騎士さん達と一緒に行くよ。ガルドさんが来てくれれば良かったんだけどな」
響は不格好な笑みを見せた。それは皆を不安にさせない意味であり、それによって、皆にはここで辞退してもらいたかったのだろう。
しかし、響の言葉とは裏腹に弥人はそっと手を挙げた。その行動に響は驚きが隠せないと言った様子だ。
「どう......して......」
「そんな辛そうな顔を隠せるほど、お前は嘘がうまかねぇんだよ。少なくとも、俺に見破られるぐらいにはな。それに、お前一人にそんな重荷を背負わせられっか」
「けど、人を殺すんだぞ!?」
「だからだよ。だから、俺はお前の味方になるんだよ。どうせお前のことだ『魔王を殺ったら、もう人を殺した自分は帰れない』とでも言うつもりだったんだろ?」
「......」
「図星だな。けど、そんなことはさせねぇ。お前も、そして仁ももとの世界に帰す。だったら、同じ気持ちである奴がいた方が帰りやすいだろ?」
「......」
「それに、魔族がどれだけ強いかわからないし、魔王なんてもってのほかだ。そんな相手と戦う時に全てをお前に負担させるわけねぇだろ? そもそもお前が死んじまう可能性だってある。そんなのは俺は嫌だ。お前は俺達のことを思っているようだが、俺もお前のことを思っているし、他の奴らだってそうだ。まあ、他の奴らには強制はしないがな」
弥人は上げた手を響に向けた。そして、拳を作ると響の胸に当てる。
すると、良い顔で言った。
「前から言ってるだろ? 頼れって」
響は思わず胸に込み上げる熱を感じた。するとその時、雪姫が手を挙げた。その次に朱里が手を挙げる。それから、ポツリポツリと手を挙げていく。
そして、響は目を疑った。その場にいる全員が手を挙げたことに。わけがわからなかった。あれほどまで説得した言葉も全て無意味だったように。
「響君、一緒に戦おう。そして、魔王を倒して、仁と和解して皆で帰ろうよ」
「正直、朱里だって怖いよ。でもね、それを一人に全ての重荷を背負わせる方がもっと怖いんだよ。苦しいんだよ。それにみんな一緒だったら、怖くない」
「そうそう。それにさ、ここで人を殺したからって、もとの世界でも人を殺すのか?」
「いや......それは......」
「違うだろ? なら、ここでやらかしたことはここで何らかの形で清算すればいい。そして、気持ちよく帰るんだ」
「......そうだな」
響は思わず嬉しそうな顔をする。なんだかんだで皆が一緒が心強いようだ。そんな思いを伝えるように拳を握ると弥人の胸に当てる。
皆が清々しい顔になる。今そのような顔が出来るのは朱里の言葉があったからだろう。「皆一緒なら怖くない」それが全員の心を繋げてくれている。
そして、また雪姫が先立って動いたことが、他の女子の心を動かすきっかけになった。
だが、それもこれも弥人の言葉があったからであり、もとを辿れば響の言葉から始まったことだ。
こんな異常な世界の人殺し行為を決断する日が来るとは誰しもが思わなかった。だが、もう皆が自分の意志で決めた以上文句は言えない。
しかし、そんな不満も、不安も今の全員の目からは見られない。
すると、響達の様子が落ち着いたのを確認したスティナが話し始める。
「皆さんの決断を見届けさせてもらいました。私は内政の関係で皆さんについて行くことは出来ません。申し訳ありません」
「気にしなくていいよ。わかってたことだから」
「ありがとうございます。皆さんのご武運と無事を心からお祈りしています」
そして、響達は馬車に乗りバリエルートに向かった。
それから、響が目にした村は「瘴気」という言葉とは無縁な営みをしている栄えた村であった。
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