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第95話 響の選択

ドラクエ実況、面白い


評価、ブックマークありがとうございます。励みになります(≧▽≦)

 現在、響はガルドとともに弥人の後ろを追って走っている。大通りの人達は「何事か」といった様子で見ている。


 だが、弥人は気にすることもなく歩く人を避けながら走っていく。響とガルドは一度顔を見合わせると弥人の隣へと並ぶようにペースを上げた。


「弥人、何があった? そもそもどうして僕達の場所を知ってる?」


「ああ、それか。それは俺も一度団長に連れて行ってもらったことがあっただけだ。そして、いつもいるはずの場所に響がいなく、城に団長がいないとなるとそこにいるのかもなと思っただけだ。それと詳しいことは俺もわからん。ただ神官が慌ただしく勇者を探していたから呼びに来ただけだ。」


 響は弥人に並ぶとすぐに質問した。すると、弥人は特に焦った様子もなく淡々と答えていく。


 そんな弥人の様子を見て響は一先ず安堵の息を吐く。あの時の弥人の言葉で城に何かが起こったのかと思ってしまった。しかし、そんな様子ではないので少しは心が落ち着くというものだ。


「それなら、もっと言い方があっただろ。俺達はかなり焦ったぞ」


「すんませんした。とにかく急ぎを優先した方がいいのかと思って」


「まあ、何もなかったんだ。そこまで気にすることはない」


 ガルドは思わず俯いている弥人の背中に軽く手を当てた。それでも、弥人の体が軽く揺さぶられるほどの強さだったが、弥人は元気が注入されたように良い顔に変わる。


 するとここで、響が先ほどの弥人の言葉に言及する。


「弥人、神官が慌ただしかったって言ってたけど、本当にその様子を見ただけか? 弥人は時折、聞いていたはずなのに忘れてる時があるからさ」


「そうだな......あ、そういえば、神官の一人が『神からの神託ではないのか!?』って言ってたな。その言葉で他の神官も反応して、大騒ぎってところだな。そして、その神託として落ちていたとされる一枚の神々しい紙の文面を見て、勇者を呼んだ方がいいのではと」


「お前.....そこそこ詳しく知ってるじゃねぇか」


 ガルドは思ったよりも神官の様子をがっつり見たり、聞いていたりしていた弥人に呆れたため息を吐く。


しかし、同時に疑問に思うこともある。それはその紙を一番に見つけたのが神官であるということ。本来なら朝の祈りをしているはずのスティナが見つけるのが当然だ。


 だが、結果は違う。スティナが仕事をさぼることが珍しいからこそ、疑問に思うこと。


とはいえ、教皇が亡くなってから、聖王国の跡継ぎはスティナしか存在していない。なので、スティナが必然的に王となる。


そして、スティナは王の仕事だけでさえ激務なのに聖女の仕事と並立して行っている。それに加え、民に対しても配慮を怠ってない。それはかなりの善王と呼べるだろう。


 だからこそ、これまで積み上げてきた信頼もあってスティナが王となっても民衆からの反発は起きていない。


とはいえ、良識的に考えればスティナはまだ少女だ。15歳から成人して少しばかりで体はまだ子供であると言っても過言ではない。


なら、どのみち遅かれ早かれどこかのタイミングで体調を崩すのは当然なのかもしれない。


 ガルドは思った疑問に自己完結させると「とにかく急ごう」と声をかけて、さらに走るペースを上げた。


 そして、響達が教会にやってくる。すると、神様の像の近くに大勢の神官とスティナ、雪姫、朱里の姿があった。


響は少しだけ息を整えるとスティナ達のもとへと向かって行く。スティナは例の紙を持っているので、もうすでに目を通してある様子だ。


「スティナ、弥人から大体の流れは聞いた。それでなんて書いてあったんだ?」


「簡単に言ってしまうと響さん達は勇者であり、言い換えればもうすでに神の使いという扱いになっていますが、どうやら響さんは創造主トウマ様から直々に神の使いとして選ばれたといいますか......」


「つまり、どういうこと?」


「トウマ様から神としての力の付与がなされるということです」


「「「!?」」」


 響達は思わず驚きで言葉を失った。というより、思考回路が正常に機能しなかったのだ。しかし、それは響と弥人にとっては当然かもしれない。


なぜなら、もとより神という存在が実在していることを認識していなかったのだ。もとの世界にもいなかったので、この世界でも神という存在は想像上の人物であると考えていたからだ。


 ガルドの場合は別の意味での驚きであった。ガルドは聖騎士団長、つまりは多少なりとも神に関することは知識の一つと知っているのだ。


そして、ガルドの認識の中では神が神託として聖女に助言を渡すことはあっても、直接干渉することはないと思っていたのだ。前例は一つとしてない。


しかし、たった今この場においては違う。「これは魔王の戦いに神が味方しているのか?」とガルドが考えてもおかしくない。


 すると、響が若干震えた声でスティナに聞いた。


「神の力というのはどういう感じなんだ?」


「わかりません。過去の聖書にもこういったことはないので。しかし、それがたとえ力が上がるだけの付与であったとしても、化けることには変わりません。となれば、準神格化......受け取ることが出来れば、半分人間を止めることになるかもしれません」


 スティナは響の問いに自分の予想を交えながら、正確に答えた。


しかし、その表情は悲しく見えるような表情でもあった。それにはしっかりと理由がある。それはスティナの目の前にいる響の表情を見たからだ。


 今の響は驚きが半分と嬉しさ半分といった感じの表情をしている。口角が僅かに歪に上がっている。


 だからこそ、スティナには嫌な予感が拭えなかった。まるであの襲撃の夜に見た仁の目に似た狂気が宿っているような感じがして。


 そんな思いを抱き、スティナはそっと両手を祈るように握り合わせる。


「僕に神の力が.......」


 一方、響は小さく言葉を呟く。そして、開いた手をぼんやり見つめながらも、思考だけを巡らせていた。


 それはその力が受け取れるとして、受け取るか、否か。正直な話、響の中にも恐怖というのは存在している。当たり前のことだ、未知なる力に関しては誰だってリスクを考える。


 響でも、スティナの予想が当たったとして、その神の力を受け取って肉体がどうなってしまうかもわからないのだ。


 しかし、今の響の中では受け取るという方向に考えが傾き始めている。それは仁との関係のこと。


 あの夜以前から響はずっと修練を続けている。そして、勇者という職業が持つもともとのスペックにより今はもうあの襲撃の夜の時でも勇者に勝てる存在はいなくなっていた......たった一人の例外を除いて。


 それが仁である。仁は最強と呼ばれる勇者である響を赤子の手をひねるように簡単にあしらった。響の攻撃は一つとしてまともに与えることが出来ず、仁の一撃でダウンした。最強の勇者の力で歯が立たなかったのだ。


 これを一言で済ませるなら、それほどまでに力の差があったということ。修練で仁と戦った時のイメージをしても、勝てるビジョンが全く浮かばないのだ。


 そんな状態でどうして勝てようと思うのか。そして、今や仁はさらに強くなっている可能性があるだろう。


「僕は力が欲しい.......」


 この願いは切実であった。それはひとえに仁を止めて、仲直りしたいため。そのためには仁を止めるための力が必要なのだ。


 いや、きっと止めるだけじゃ足りない。超えるほどの力が必要だろう。そして、それを手に入れるためのことが目の前にある。あとは受け取るか、受け取らないかだ。


「でも......」


 響は思わず考えが煮え詰まる。そして、思わず歯を噛みしめ、開いていた拳を握る。もうほとんどは受け取る方向に指針が傾いている。


 しかし、残り僅かが強固にその指針の動きを止めている。それじゃあ、何がそれほどまでに止めているのか。


 それは心である。


 響は力を得たいというしっかりとした理由あったとしても、それはほとんど欲で動いている。


 その力があれば、仁を止めることが出来て、魔王すらも簡単に殺すことが出来るだろう。しかし、それでいいのかと思ってしまう。それでしっかりと仁に自分の気持ちが伝わるのかと。


 正直、バカな思考なのかもしてないことは響もわかっている。しかし、その気持ちを本当にないがしろにしていいのかと思うと悩んでしまう。


 その欲で仁を止め、和解し、魔王を殺したとして、変わってしまった自分を見て仁はどう思うのだろうかと。


 仁を止めるために人間を半分辞めた。もちろん、あくまでスティナの予想の範疇だ。しかし、起こらないとも限らない。


 そして、もし起こってしまったなら、仁は自責の念にかられてしまうのではないか? そう考えが一部でも過ってしまって、もう動かないのだ。


 それに「剣は心を映し出す」という。欲まみれでの剣を振るって、仁に気持ちがしっかりと伝わるのだろうか。


 それは「もとの世界に帰りたい」という気持ちが伝わってしまうのではなかろうか。わからない。考えがまとまらない。


 力を受け取るべきか、受け取らざるべきか。


 響は思わず強く拳を握らせる。そして、その拳は何かに耐えるように小刻みに震えだす。


 視界が狭くなっていく。まるで思考がドロッとした何かに段々と包み込まれていくような感じだ。


 それは堪えていた何かを溶かしていくようで.......もう無理するのは良くないのかもしれない......それに早く楽になりたい.......


 響がそのような気持ちを抱え始めた時、一人の白い修道服を着た少女は歩き出した。


 誰よりも清楚に、美しく、柔らかに響へと真っ直ぐ迫っていく。


 そして、響の目の前に立とそっと響の拳をしたから添えるように握った。すると、段々と響の小刻みに震えていた拳は動きをさらに小さくしていき、やがて止まる。


 その瞬間、響は目の前にスティナがいることを認識した。


 その時のスティナの表情はまさに聖母といった感じの優しい微笑みで、穢れのない瞳で、とてもとても美しかった。


 それによって、響の体の熱は上がっていき、暗い思考を取り除いていく。


「響さん、一人で抱え込まないでください。あなたには私が、私達がいます。支える人もいて、支えてくれる人もいます。一人ではないのです。だから、あなたが選びたい方を選んでください。私達はその行動を支援しますよ」


「スティナ......」


 響はその言葉を告げられている間、スティナから目を話すことが出来なかった。


 そして、思わず言葉が漏れる。すると、両肩から重みを感じた。思わず顔だけ振り返ってみるとガルドと弥人が良い顔でサムズアップしている。


 また、弥人に指を指された方向を見てみると雪姫と朱里が力強く頷いていた。


 仲間がいる。


 それだけで、目頭が熱くなってくる。一人で考え、行動しようとしていて大事なことを忘れていた。


 だからこそ、スティナから手を放してもらうと自分への罰として、頬をパシンと叩く。


「もう大丈夫だ。スティナも、弥人も、ガルドさんも、倉科も、橘もありがとう。俺は受け取らない」


「わかりました」


 響がそういうとスティナは嬉しそうに笑った。それから、響は「神の使い」という称号だけを得て、一人の神官が例の紙を預かるということになり、その場は解散した。


***********************************************

「はあ、僕もしくじったみたいだね。これはラズリのことは何も言えないや」


 一人の神官は周囲に誰もいないことを確認すると例の紙をビリビリに破いて、燃やした。そして、疲れたように壁に寄り掛かる。


「クソ~、思ったよりも邪魔が多いな。聖女はまだなんとかなるとしても、勇者の心を動かす存在が多すぎる。まあ、もとのシナリオから大きく外れてないからいいものの、これは少し強引になってしまうかもしれない」


 神官は大きくため息を吐くと霊山のある方向へと顔を向けた。


「それじゃあ、邪魔者排除よろしくね。()()()()()

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