第94話 誉め言葉
や、やばいストックが!?このままでは不味い!でも、ここから時間があまりにもない......(ノД`)・゜・。
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響は修練場を後するとガルドともに中央通りを歩いていた。
その道はまだ朝方である故に人はまばらでしか通っていない。それに見る限りではどこもそこもまだ開店してはいなかった。
なので、ガルドは嘘をつかない人物であることは知っているが、半信半疑な心持ではあった。
響は思わず手を傘にするように額に当てると空を見上げた。
その空に照り付ける太陽はもうだいぶ上っていて、感じとしては夏のようであった。
召喚された当初は、朝でもまだ太陽が昇り始めるぐらいであった。なので、「ここまで過ごしてきてほぼ同じような気候でも多少は変化があったのだな」とふとそんなことを思う。
すると、ガルドは「こっちだ」と言いながら、中央通りから外れた路地の方へと歩いていく。響はその後ろについて行く。
響達が歩いている路地は丁度建物と建物の間にあり、通れる幅も二人分ほどの狭さだった。そして、この路地には陽の光も当たらず、風も流れてこないので、若干薄暗くて暑いところとなっていた。
なので、響は額から流れてくる汗をタオルで拭う。しかし、あまり効果はない。もうすでにタオルがかなり水分を吸ってしまっているからだ。
とはいえ、何もしないよりはマシなので、そんぐらいの意味合いで再び流れてくる汗を拭う。
「ここだ、俺のオススメの店は。隠れた名店ってところだな」
そして、ガルドが立ち止まった場所は木のドアに、「騎士の隠れ家」という小さな看板が壁につけられているだけの質素な外観の店であった。
響はその店を見て思わず呟く。
「へぇ~、こんな所にお店なんてやってたんですね。しかし、なんでこんなところに?」
「もともとは店主が友達と飲み交わしたいということのためだけに作った店らしいんだ。だから、特に他の客を呼び込む必要はなかったんたらしいんだ。だが、一部が情報を流して、今やマニアのための店となったらしい......とまあ、そんなことより早く入ろうじゃないか」
ガルドは店の中に入っていくと響もその後に続く。
その店の内装はカウンター席があり、多少の四人掛けの机といすがあるだけだった。
そして、そのカウンターにいる老紳士とも思える風貌の男性は響達を一瞥する。それから、ガルドの存在が確認できると再び手元のコップを拭き始めた。
ガルドはカウンターの席に座ると「いつものを2つ」と一言だけ告げる。すると、その男性は自身の背後にある棚に並べられている瓶を手に取り、サッとコップに注いでガルドの前に出す。その一連の動きには何も無駄がなかった。
「おい、早く座れ」
「あ、はい」
響はガルドに促されるままにガルドの隣の席に座る。そして、同時に先ほどの男性の動きにも注目した。
その男性はガルドの時と同様の動きをしているのだが、その動きにはやはり無駄がない。職人の成せる業と言われれば、なぜかそれだけでは無いような気がする。
なので、響は思いっ切って聞いてみた。
「あの、冒険者とかやっていましたか? それもかなりの手練れで」
「お、それに気づくか。さすがに凄いな」
響が男性に聞くと次に言葉を発したのは男性ではなく、ガルドであった。そして、ガルドはまるで自分のことのように嬉しそうに笑っている。
「実はな、こいつはこんな老け顔だが俺の友達だ。お前と廊下で会った時に言っただろ『友達と飲んでた』って。そいつがこいつミストだ」
「老け顔は余計だ。それにしても珍しいな、お前が客人を連れてくるなんて。もしかしてこの少年が?」
「ああ、勇者の【光坂 響】だ。ちなみに、こっちは元聖騎士副団長だ。だから、冒険者は良い線いってたぞ。というか、そもそも俺が質問する時点で気づくとはな」
ガルドは響とミストの仲を取り持つように紹介していく。
そして、やはり響が動作だけで、相手の能力値を判断できるほど成長していることに、嬉しく思っている様子だ。修練で相手にしている時よりも格段に表情が柔らかい。
「そんじゃあ、響も飲め。グイッと」
「はい。それじゃあ、いただきます―――――――――――ぶー!」
「あちゃー、飲めなかったかー」
響はガルドに促されるままに紫色の液体を飲む。すると、喉にとてつもない渋みを感じて思わず吹いた。そして、男性が出してくれていたチェイサーでのどの不自然さを軽減していく。
しかし、今の飲み物はなんなのか? 酒であるのか? それともブドウ的なやつなのか? だとしても、こんな渋みは出ないはず。
「俺の好きなワバットっていう果実を使った果実水でな、癖があるから好き嫌いが多くてな。だがまあ、お前ならいけるかと思ったが、無理だったか」
「げほぉげほぉ......これって飲み物って言うんですか? 渋みが凄いんですが」
「一応、飲み物扱いだが......好き好んで飲むのはガルドぐらいだ。だから、私のチェイサーを出すという判断は間違ってなかったな。酒ぐらいにしか出さないチェイサーをここで出す羽目になるとは思わなかったが......とにかくすまんな」
ミストはガルドの代わりに詫びるように響に言う。一方で、ガルドは響の反応に若干笑っている。そのことに響は少しだけ恨みを抱いた。
そして、気を取り直すようにもう一度口に水を含むとミストへと話しかけた。
「そういえば、先ほど紹介の時にガルドさんが『元聖騎士副団長』と言ってましたが、どうして辞めてしまったのか聞いてもいいですか?」
響がそう聞くとミストはコップを洗っていた動作を止めた。そして、何か物思いにふけったような顔をする。
それからしばらくして、洗ったコップを手に取るとそれを拭きながら、話し始めた。
「ケガをしたからだよ。魔族との交戦中に手首の靭帯を切られてね、回復させても回復しなかった。どうやら切った剣は呪いが付与してあったようで、奇跡的に回復しても剣をしっかりと握れるようにはならなかった。だから、国のために役に立てないと思い辞めたんだ」
「魔族と......そうだったんですか......」
「だが、それはちゃんとした理由ではあるが、個人的にはあくまで表向きの理由だ」
「どういう意味ですか?」
響はその言葉が思わず気になって、口に寄せた水の入ったコップを持った手を止めた。そして、そのコップを手前の場所に置くと質問する。
すると、ミストは拭き終わったコップをそばに置くと自身の手を見つめながら、答え始めた。
「裏向きの理由は......人を切るのが嫌になったからだよ。たとえその相手が魔族であってもね」
「......」
「人を切った感覚は慣れてくるし、人によっては忘れる。しかし、人を切った感触は慣れることはないし、絶対に忘れない。切れば切った人数分の感触が手に残る。そして、その人数分だけ罪を背負う。人一人の人生をその手にかけたんだ。当然の義務とも言えるだろう。だから、国から指南役としての依頼が来たが、断った。兵の模擬戦を見ているだけでも思い出してしまうからね」
ミストは拳を軽く握る。そして、遠くを見るような目でジッと拳を見続ける。
「私は腰抜けさ。実力はありながらも臆病者。そんなことはないと思っても、この国の、民のために引退まで戦い続けられなかった自分を私自身はそう思うんだ。だから、ガルド達聖騎士団が無事であることを嬉しく思っているし、君達のような少年に人を殺させ、国の命運を託すことに悲しく思っている」
ミストは表情を暗くさせながら、顔からもわかるように申し訳なさそうな顔をしている。すると、ミストの言葉を聞くと不意に響はしゃべりだした。
「......僕は人を殺しました」
「「!」」
その内容にガルドと男性は驚く。ミストの反応は当然だが、ガルドの反応も実は当然だったりする。それは響が帝国で起こったほとんどの情報をガルドに話していなかったからだ。
これは響のことを思い考えたスティナが意図的に情報を遮断したことも原因しているのだが、そのことを知らないガルドは響がいつの間にか人を殺していることに驚くのは当然である。
そして、ガルドはその詳細を聞いた。すると、響は帝国であった一切のことを話した。
響から全てを聞いたガルドはコップに入っている液体を全て飲み切る。そして、響に告げた。
「お前がいつの間にそんな経験してるとはな......怖かったろ?」
「はい、怖かったです。糸が切れた人形のように倒れて、生命が途絶えた瞬間を見ましたから。それに、刺した感触は確かに今でも残っています」
「すまんな。いずれは盗賊相手にそうさせるつもりだった。そして、その時は全員だった。だから、たとえ殺したとしても共感してくれる人がいたはずだ。だが、お前は一人で成し遂げてしまった」
「勇者である僕が率先して勇気を出さなくてどうするんですか......まあ、結果的にですけどね」
「......よく耐えたな」
ガルドは一言だけそう言うとゴツゴツとした手を雑に響の頭に乗せた。その瞬間、響は不意に涙が出てきそうになる。
これまで自分が殺人をしていることを知っているのは、自分とスティナ、それから帝国にやってきていた雪姫、朱里、弥人の3人。
そして、4人は決勝戦でまさか響が意図的に出なくても殺人をしてしまったことに、驚きが隠せなく、帝国の一件が終わってもそのことを口にすることはなかった。
それは響のことを思ってのこと。しかし、実はそれが響を苦しめていた。
響は本当は全ての辛さをぶちまけたかった。「辛かったな」「よく耐えた」と殺人に対する罪の意識に対して、仲間から何か言葉が欲しかった。
しかし、響自身も仲間やガルドに迷惑かけるわけにはいかないと言うに言えない状況になっていた。その間、ただひたすら自分自身でその意識と戦っていた。
そして、慣れてきた最近で言われた言葉がガルドからの一言だ。
塞いでいた感情が思わず爆発しそうになる。しかし、ここで全てを爆発させてしまうのは良くない。そう判断した響は指で目頭を押さえて、ただ感情を出さないようにする。
そして、しばらくしてそんな静寂の時が流れた。その間、ガルドはずっと響の頭に手を乗せ続けた。
それから、響が調子を取り戻し始めたのを確認するとガルドは手を離す。
「落ち着いたか」
「はい、ありがとうございます。これからは僕が先陣を切って戦います」
「無理すんなよ」
響の決意の言葉にガルドは親が子を見るような目をしながら、そっと言葉を送った。
するとその時、この店の扉がガタンと雑に開かれた。そして、一人の男が叫ぶ。
「ここにガルド団長と響はいますか?」
「弥人! どうしてここに?」
叫んだ男は弥人であった。その事実に響とガルドは思わず驚く。しかし、もっと驚いているのは弥人が少し焦っているような表情をしているからだ。
「響、ガルド団長、要件は途中で話すんですぐに来てもらえませんか? 教会で見せたいものがあって」
「わかった」
「すまん、あとで払いに来る」
そして、響とガルドは弥人の後を追った。
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