第92話 吐き出した思い
めっさ話してるけど、状況だけで考えてみれば乙女3人のお風呂回というサービスシーン
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「話って何?」
雪姫がスティナに声をかけるとスティナはゆっくりと息を一つ吐いた。それから、言葉を返していく。
「私が話したいことは私と仁さんがかかわったことです。あの襲撃の夜に変わってしまった仁さんを見て思いました。仁さんが変わってしまったのは、私にも原因があると。仁さんを裏切ったという思いを抱えているのは、雪姫さんだけではないということです」
「......詳しく教えてもらっていいかな?」
スティナは雪姫の覚悟を感じるような声色に少しだけビクッとさせた。しかし、すぐに雪姫の反応は仕方ないことだとスティナは思った。
雪姫は仁にした酷い仕打ちを誰もが後悔している。しかし、それは主に自己嫌悪といった感情が近いのかもしれない。
だが、裏切りというのは全くもって違う。それは、意図的以外に発生し得ることはないのだから。
だから、仁と幼馴染である雪姫は裏切ったという気持ちを強く抱いている。特に、雪姫にとって、仁の存在はまさしく大切な存在であり、多大なる信頼を寄せていた。
また、仁もそんな雪姫に信頼していた。そして、互いに困難があっても助け合うと思っていた。そんな中での仁を処刑するという雪姫の判断は裏切りの他に何があるというのだろうか。
だからこそ、仁が生きていたことには嬉しかったし、変わってしまった仁に恨まれていることが死にたくなるほど悲しかった。
今であればこそ、メンタルもだいぶ回復して、処刑の日であった今日を迎えている訳であるが、それもただガラスにメッキは張ったような感じでしかない。強い衝撃を加えれば、すぐに壊れてしまうような感じだ。
つまりは、裏切った当人からしてみれば、このような感情が勝手に生み出されてしまう。長い月日を経て積み重なった感情がモンスターとなって襲いかかってくる.......そのような感じ。
雪姫からしてみれば、幼馴染である仁を裏切ったことは大罪に等しいのだから。
しかし、雪姫は今の今まで裏切ったというような気持ちをずっと一人で抱えてきた。一人だと思っていたから。
だが、ここに来てスティナが自分も仁を裏切ったと言われれば、怒りが込み上げてくるものだ。それがたとえ身勝手なものだとしても。
そんな雪姫の気持ちがスティナにはわかっていたからこそ、言うに言えなかった。しかし、状況が変わった。
それは、雪姫のメンタルがかなり回復してきたことと一方でメンタルが弱って、一人で背負い込もうとする人を見つけてしまったこと。
また、どんなに頑張ってもスティナ自身の気持ちが仁に伝わることはないと感じてしまったこと。その気持ちを吐き出すようにスティナは雪姫に告げ始めた。
「私は雪姫さん達が召喚されてから1ヶ月ぐらいのある日、護衛もつけずお忍びである場所に向かっていたのです。それは母が眠る心地よい木漏れ日が刺す森の中。その森にある小さな小さな花畑の中央に立つ墓石に」
「「......」」
「お母様は自然が大好きでした。それはもう鼻歌交じりで、森の中をスキップしていくように。そして、お母様はなぜかどんな魔物にも好かれ、歩けば萎れていた花も生まれ変わったかのように元気になるのです。そんなお母様の姿を見て育った私は同じく自然が好きになりました」
「朱里もそんなお母さんだったら、自然を好きになるよ」
「ふふっ、ありがとうございます......ですが、今思えばそれは『残された命を自由に生きよ』という風に感じています。なぜなら、それはお母様の体が弱かったからです。日が経つごとにお母様の体は弱くなる一方で......だから、死ぬまでのせめてもの奇跡のようなものだと感じました。そして、お母様は私がまだ幼い頃に亡くなりました」
「それじゃあ、森の中にお墓って......」
「はい、予想通りだと思いますよ。自然が好きだったお母様のため、私が反対を押し切ってその場所にしてもらったのです。そして、私が護衛をつけずに行ったのは、泣いている姿を見られたくなかったからです。それは聖女という立場があったから」
「どうして聖女だと泣いちゃダメなの?」
「別に泣いてはいけないということはありませんよ。ただ、聖女というのは国の象徴であり、一番多くの民と接しています。そして、私の言葉一つで民は息を吹き返したように笑顔になったりするのです。それは兵士さんとて例外ではありません。それ故に、私が悲しい表情でもすれば、民や兵士さんも同じく悲しい表情に変わってしまいます。聖女の影響力はすさまじいですから、時には国全体にも大きく影響し得ることだってあるのです」
「それって、実質泣いちゃいけないってことじゃん。そう考えると聖女という職業は可哀そうな職業なのかもしれないね」
「そう思われるのは初めてですね......それで、話を戻しますと私はお母様の墓石を見ると必ず泣いてしまうのです。だから、護衛をつけたくなかった。しかし、その日はその森にいたのは私一人ではありませんでした。私の泣いている姿をたまたま見ていた人物がいました」
「もしかして、その人物が?」
「そう、仁さんです。仁さんは自分の職業能力や鍛錬のためにその森にいたそうで、さすがに人がいることは想定外でした。しかし、見られてしまったのはどう言い訳しようとも無理でしかありません。ですから、私は墓石のことを話しました」
スティナはゆっくりと手を動かし始める。そして、丁寧に雪姫の背中を洗っていく。
「すると、仁さんがお返しとばかりに私にもとの世界でのことをいろいろと話してくれました。その時の話はとても面白く、新鮮でした。仁さんとはそれまであまり会話をしたことがなかったのですが、すぐに仲良くなること出来ました」
雪姫は思わずチラッとスティナの方向を見た。すると、スティナは雪姫の視線には気づいていないようで、その時のことを思い出しているのか、ただただ嬉しそうに口をほころばせていた。
そして、頬をほんのり紅く染めて。もはや恋する乙女かのようだ......いや、それで正しいのだ。なぜならもう......
「それからしばらくして、私は仁さんとともに聖王国へと戻ろうとしました。しかし、私達がいるのは森の中、当然魔物はいます。そして、複数の魔物に囲まれた時、仁さんが私を庇いながら助けてくれました。その時、私は仁さんの背中がとてもカッコよく見えました......恋をしたんです」
「え!?スティナ、そうだったの!?......海堂君も罪な男だったんだね」
「......それが、あの襲撃の夜に話したことなんだね?」
スティナの言葉を聞くと雪姫はとある記憶を引っ張り出し、質問した。
それは襲撃が起こるほんの数分前の出来事、雪姫とスティナがバルコニーで話したことだ。あの時の会話は雪姫にとって衝撃的なことだった。
だからこそ、スティナに本音を問い質した。
「つまりは何が言いたいの?」
「言うことはあの日と同じです。ですが、あの時より確かな覚悟を持って言います。私は仁さんから完全に身を引きます。私の思いもどうか一緒に仁さんへと伝えてください。私からのお願いです」
「根拠は?」
「え?」
スティナは自身へと体を向き合わせるように姿勢を変えた雪姫の言葉に思わず驚いた。
なぜなら、その問いはまるで自身を引き留めるようにしているとも聞こえたからだ。
それは普通ならありえないこと。恋のライバルなど一人でも少ないことに越したことはないはずだ。しかし、雪姫の目からはそれ以上の何かが感じられた。それが何かはまだわからない。
スティナはとりあえず思いつく限りのことを告げていく。
「私はまず助けてもらった恩がありながら、仁さんを裏切りました。そして、仁さんとあの会話以来大して会話が出来ていませんし、それに雪姫さんの思いの強さには勝てそうにありません。思ってきた長さが違いますから。それに、大好きな雪姫さんが幸せになって欲しいという気持ちもあります。また、無理している人に気付いてしまったから」
「......」
雪姫はスティナの言葉をただジッと聞いていた。そのことがスティナには怖かった。どんな悪口を言われても耐えれる自信はあるが、それでも仁とはまた別に大切に思っている人に言われることは辛いから。
すると、雪姫は口を開く。
「それじゃあ、否定出来ることは一つ一つ否定させてもらうね。まず初めだけど、裏切ったというのなら私も一緒だから。次に会話量は問題ではないし、思っている強さも長さも関係ない。思いは自分が心から強く思えば必ず届く。それに、幸せになって欲しいというのは私も同じ気持ち」
「......どうして否定するの?」
「それはまだスティナちゃんが全てを吐き切ってないからだよ」
「!」
雪姫は瞳を真っ直ぐとスティナに向けた。その瞳にスティナは目が離せなくなる。
「スティナちゃんが仁に恋するのも、告白するのも、恋を諦めるのもすべて自由。だけどね、そんな泣いた顔で自分の気持ちにケリをつけようとしても後悔が残るだけだよ」
「え?」
スティナは思わず自分の頬に触れた。すると、目から勝手に流れ落ちている涙の存在に気付く。
「勝手に否定して、勝手に諦めて、勝手に泣く。なんとも笑いぐさだ」と自身で思っていたが、その押し固めたような気持ちは雪姫の一言で崩壊する。
「スティナちゃん、後悔せずに気持ちを捨てたいなら、その全ての気持ちを私にぶつけて。私がしっかりと受け止めて仁へと伝えに行くから」
その瞬間、スティナは感情のままに涙を流した。
そして、全ての気持ちを吐き出していく。
「私は仁さんが好きだった! 助けてくれた時の姿が、物語の騎士のようでとてもカッコよかった! だから、好きになった! でも、私は私以上に仁さんのことを好きな人を知っていた! その人は私の大好きな人だった! それに、私は仁さん達を勝手に呼び出した責任がある! だから、私には好きになる資格はないって......それでそれで何度も諦めようと忘れようとした!」
「そうなんだね......」
「でも、諦めきれなくて、忘れられなくてとても苦しかった! そんな時に、私は仁さんを裏切ってしまった! もうどうしよもなく辛かった! けど、仁さんが生きていることは嬉しくて、変わってしまったことは悲しくて、その姿を見た瞬間、もう仁さんに私の声は届くことはないと感じてしまった! だからもう、自分が傷つくぐらいなら、この感情を押し殺してしまおうと思った!」
「そうだったんだね」
「雪姫さんはずるいよ! 私がなかったことにしようとした感情を、気持ちをこんなふうにするなんて! もう私には仁さんが届かない距離にいるというのに! なのにどうしてすんなりと諦めさせてくれなかったの! どうして引き留めるようなことをしたの! もう酷いよ! 私はこの気持ちをどこにぶつければいいの......」
「私でいいんだよ。遠慮しないで。私もスティナちゃんに酷いことをしたと思ってる。でも、こうしなきゃスティナちゃんが前に進めないような気がしてね。おせっかいでごめんね」
「う"わ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!」
それから、スティナはしばらく雪姫に抱きつきながら、泣きじゃくった。心に溜まりに溜まり続けた思いがとめどなく溢れて、流れ出ていく。
自分ではもう止められない。どうすることもできない。けど、こうして感情を吐露出来てしまうのは気持ちを受け止めてくれる人がいるから。
そして、やがて泣き止むとスティナは雪姫に顔を合わせる。
「良い顔になったと思うよ」
「......それはとても良かったです」
雪姫が笑顔でそう言うとスティナも笑顔で返した。
そんな二人の様子を黙って見ていた朱里は「さすが素晴らしい友情だね。こういう時はやっぱり、裸の付き合いだね」と感心したように一人でに頷く。
そして、二人の体についた泡をお湯で流して、浴槽へと促した。冷えた体が温まったのは言うまでもない。
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