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第91話 持つべきは友

今日はうら若き3人のお話し。


評価、ブックマークありがとうございます。励みになります(≧▽≦)

 聖王国のある一室、その部屋は煌びやかな装飾や美しい絵画がある......というわけではなく、ほとんどが質素、いやこの場合はシンプルなデザインと言ってもいいであろう部屋であった。


 そして、その部屋にあるベッドの上でスティナが上体を起こし、「ん~」と声を僅かに漏らしながら伸びをする。


「.....さてと」


 今日もやることはいろいろとある。朝の祈りに、お清め、趣味のガーデニング。それから、民の様子を見に行ったり、話を聞いてあげることや王としての仕事。


 また、勇者様方への気配り。まあ、これに関しては自分が好きにやっていることなので思ったよりも関係ない。


「ふぅ......」


 ただ、朝起きると必ずと言っていいほど気分は暗くなる。それは見たくもない夢を見させられているためだ。


 そして、見る夢は勇者である響と敵対者である仁が互いに和解をし合うことなく、殺し合いを始めること。互いに互いを殺そうとする殺意を持って、ためらいもなく。


 今までは、まだ霞んだような夢の内容だった。けど、その中でもわかることはあった。それは仁が誰かと殺し合っているということ。


 しかし、つい先日響と話をして以来、まるでパズルのピースがピタッとハマるかのように霞が晴れていく。その時に見えた人物が響であった。


 そして、その夢は今でもしっかりと夢に見る。時間が経っても忘れさせないように。そして、酷く現実味を帯びているまるで正夢でもあるかのように。


 もし、これが正夢であったなら.....いや、そんなことは考えたくはない。親友同士が殺し合うことなどあってはならない。


 スティナはゆっくりとベッドを降りると顔を洗って、聖女専用の修道服に着替えていく。それから、パシンと両手で頬を叩くと「良し」と言って気合を入れる。まずは向かうべき場所は大教会。そこで朝の祈りを行うのだ。


 廊下を歩いていく。そこはやたら目新しい。襲撃され、改修されてからまだ日が浅いのだ。これだけであの事件が過去であったと告げるようである。


 しかし、修復されても色あせることなく、あの夜の悲劇を思い出す。特に今日の日は。自分が招いた悲劇が全てを生んだ。


『あなたは神に背いた不届き者です。あなたに生きる資格はない』


『やめろ......やめてくれ......そんなことを言わないでくれ......』


『私はお父様の意向に従います。あなたがいては、私達の身が危ないですから』


『違う、違うんだ!信じてくれ!俺は殺していない!だから――――――――――』


『あなたは死ぬべきです。これは私達の総意です』


 ハッとスティナは我に返る。今の記憶はスティナと仁のやり取りの一部。惨いと感じるほどの殺伐とした空気の中で、自分は突き放すような言葉を言った。


 助ける気なんてサラサラない。無慈悲で残酷で冷酷な言葉。それを自分の口から吐いた。


 スティナはふと頬に伝っている何かを感じた。目から零れ落ちた涙だ。無意識のうちに勝手に流れ落ちてきたのだろう。


 それだけ、全ての原因を生み出したことを後悔している。たとえ、自分の意志でないような感じがしたとしても。


 スティナは思わず膝から崩れ落ちた。そして、両手で顔を覆った。


 もう見たくない見たくない見たくない見たくない。何度現実を、起こった事実を遠ざけようとしても、罪悪感が自分をどうしようもなく攻め立てていく。


 怖い、苦しい、辛い。誰か助けて欲しい。でも、そんな願いは許されるはずがない。


 なぜなら、助けてもらった仁を裏切り、見殺しにしたからだ。処刑の際に見た仁の顔はもう絶望という言葉に相応しい顔そしていた。あの顔も記憶に焼き付いて離れない。


「うぅ.....うぷっ」


 スティナは止まらぬ涙をそのままに、酷い吐き気に襲われた。それに対して、思わず腹部に手を当てる。


 今日はいつになく思い出す......ああ、そうか。今日は処刑した日と同じ日であるからか。もうダメだ。そう思うと気持ち悪さが拭えない。


 その時、スティナの背中に温かい手の感触を感じた。そして、その手の人物がスティナの代わりに手で口を軽く覆う。


「我慢しないで、スティナちゃん。思う存分吐いて。私の手のことは気にしなくていいから」


「うぷっ......うえぇぇぇぇ」


 スティナはその手と声の主が雪姫とわかると安心したのか、思いっきり吐いた。


 スティナは朝食を食べていなかったので、吐いた全てが胃液であった。だが、雪姫はそれを汚いとは思わず、スティナに優しく声をかける。


「スティナちゃん、ありがとう。私達のために頑張ってくれて。でも、スティナちゃんこそちゃんと休まなきゃダメだよ。たとえ、聖女としての仕事があっても、それに今は王様としての執務もしなければならないとしても。私は、私達はスティナちゃんに倒られるととても悲しい」


「雪姫さん......」


「だから、元気なスティナちゃんが見たいな。私は私が落ち込んでいた時に助けてくれたから。今度は私が助けるのは当然だよ」


 そう言うと雪姫はスティナに屈託のない笑顔を見せた。その笑顔で自分の心にかかった曇り空が晴れて、光が刺してくるような感じがした。


 すると、後方からも声がかけられる。その声も聞き覚えのある声であった。


「雪姫、スティナは大丈夫?とりあえず、タオルとか着替えとか持ってきたけど」


「ありがとう、朱里ちゃん。少し吐いたら良くなったみたいだよ」


「良かった~。たまたまだったけど、本当に良かったよ」


「雪姫さんも、朱里さんもありがとうございます。おかげで気分も良くなりました」


 スティナは口元を手で拭いながら、二人にお礼の言葉を告げた。それに対し、二人はにっこりとした顔をすると朱里はスティナと雪姫にタオルを渡していく。


 すると、朱里はあることに気付いた。


「あ、服汚れてるよ」


「吐いた時みたいにかかってしまったみたいだね。このままじゃ、匂いが付くから早く着替えないと」


「それなら、大浴場があります。最近は朝稽古をする方達もいますので、もう湧いていると思います。なので、少し洗ってきます」


 スティナはそう言うと朱里はピコーンと何かを閃いたような顔をする。そして、すぐに告げた。


「だったら、朱里達もいくよ。せっかくだからね」


「「え?」」


「さ、立って立って!行くよ」


 それから、二人は朱里に押されるままに大浴場に向かった。


―――――――――――大浴場


「ほうほう?ここが気持ちいみたいだね」


「ははは、気持ちいというよりくすぐったいよ」


「ふふっ、楽しそうですね」


 雪姫、朱里、スティナのうら若き3人の乙女はスティナ、雪姫、朱里の順で背中を洗っている。


 その際に、イタズラ心に火が付いた朱里が雪姫の脇腹を撫でるように洗ったのだ。そのくすぐったさが雪姫にはツボだったのか、笑いが先ほどから止まらない。


 そしてしばらくした所で、スティナが朱里を一喝。それで再び真面目な洗いっこが始まった。


 しかし、その時スティナが朱里に対して怒った言い方はとても柔らかいものだった。それは、スティナが朱里に感謝しているからだ。


 朱里が明るく振舞っているのはわざとだということが、スティナにはよく分かっている。


 その行動はひとえに場を明るくすることで、自分の気持ちを明るくしようとしてくれているのだ。


 だからこそ、その行動が嬉しくてたまらない。本当に良き友達を持ったものだ。


 すると、落ち着いてきた雪姫が不意にスティナへと聞いた。


「スティナちゃん、何を思い出していたの?」


「!......過去のことですよ。私が仁さんに言った言葉をたまたまです。そういえば、二人はどうしてこんな朝早くに?」


 スティナは思わず二人に聞いた。それは当然言った言葉の通りだ。


 スティナは基本的に聖女としての仕事があるためにまだ二人が寝ている時間に起きる。そして、やるべきことを始めていく。なので、ごく少数のシスター以外は活動していないのだ。


 だからこそ、二人がこんな時間に起きていることを不思議に思った。


 すると、雪姫がスティナの背中を洗う手を止め、その手から思いを伝えるように言葉を言った。


「たまたまだよ。私達も本当に()()()()


「そうでしたか。珍しいこともあるのですね」


 スティナはあえてその言葉に反応しないようにした。雪姫が伝えたい言葉は、自分と同じ今日が何の日かを知っているということ。


 そして、その時の記憶を思い出したからということ。やはり、今日という日は誰にとっても特別な日で、何か月経とうとも霞むことはないのだということ。


「雪姫さん、今度は私が洗ってあげますよ。というより、させてください。先ほどのお礼をしたいのです」


「そんなことは気にしなくていいよ。さっきのはむしろお返しのようなつもりだったから」


「それはそれ、これはこれです」


「え~」


「雪姫、雪姫がやってくれないと朱里の背中が......さきほどから寂しくて、凍えちゃってるんだけど」


「あ、ごめんね」


 雪姫は本当に忘れていたかのようにハッとした顔をするとその表情を後ろからなんとなく悟った朱里はため息を吐く。


 そして、ちょっとした恨みを込めるかのように雪姫の横っ腹を掴んだ。その瞬間、雪姫は素っ頓狂な声を上げる。


「あひゃ!?」


「あら可愛らしい声」


「こらー!朱里ちゃん!」


「忘れてた雪姫が悪いんだからね」


 朱里が雪姫にムッとした表情を見せると雪姫は「はあ、不問にしてあげる」と言いながら、体を明りの方へと向けた。


 その動きに合わせて朱里も背を向ける。そして、また背中を洗っていく。すると、スティナが雪姫に声をかけた。


「雪姫さんはもう体調は大丈夫なのですか?」


「うん、大丈夫だよ。お陰様でね。皆がいなければ、ここまで迎えられていなかったと思う。こうして、今日という日を耐えれていることも......ね」


「朱里はもとの雪姫に戻ってくれて嬉しいよ。やっぱり、雪姫と一緒なのは楽しいから」


「ありがとう、朱里ちゃん......もとの......か」


 雪姫は最後の言葉を聞こえないように小さく呟いた。しかし、その声はスティナには聞こえていた。


 だからこそ、スティナは決意した。


「少し私の話を聞いてくださいませんか?」

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