第90話 休むこともまた大事
活動報告で第1章のキャラ紹介後半戦を書きました。良かったら参考程度に見てください。
それと今回は会話メインの話になります。スマホから見る場合、かなり酷いことになるかもしれません。すいません(技量が足りず上手く区切ることが出来ませんでした)
評価、ブックマークありがとうございます。励みになります(≧▽≦)
時は遡り聖王国修練場、そこにはもう既に必要な修練が終わっているにも関わらず、ただ一人だけ修練を続けている者がいた。
その者は聖剣と同じ大きさと重さの木刀を、動きに合わせて上から下へと振っていく。それをただひたすらに繰り返す。それだけでもう1時間は繰り返している。
しばらくした所で、ピタッと止まる。そして、その状態で目を閉じると上がった息を整えていく。
それから、カッと目を開くと上から下へと袈裟切りにしてから、今度は切り上げる。
その次は少しだけ木刀の位置を落とすと横に振るう。最後に腕を引いて、思いっきり突く。
そこまでしたところで、初めて脱力したように腕をダラッとさせ、膝に手を付ける。そして、肺に溜まった空気を疲れと共に吐き出した。
額からは汗がスーッと流れて。顎まで伝って行くと地面に落ちていく。その汗が落ちていく光景を見るたびに、このままではいけないと感じてしまう。
「響さん、まだこちらにいらしたんですか?熱心なのは良いことですが、何事もやりすぎは返って体に毒ですよ」
「.....そうだな。スティナの言葉に甘えさせてもらうよ」
「それではこちらをどうぞ。ここ最近ずっと根を詰めてますから、いるだろうと思い持ってきていました。作り損にならなくて良かったです」
「ありがとう、スティナ。それと迷惑かけてごめんな」
「『ごめん』は余計ですよ。それに響さんが必死になってくれているのは、私達が原因ですから。むしろ、その言葉はこっちのセリフですよ」
響とスティナは修練場の脇にあるベンチの座ると二人して夕暮れ時の修練場を眺めた。
そして、スティナから受け取ったタオルを首にかけ、水筒で喉を潤していく。
最近はどれほどまで同じ光景を見てきたのだろうか。日数はわからない。ただ始まりはわかる。それは帝王国での試合の翌日からであるということ。
あの時から一度だって、あの刺した光景、感触を忘れたことはない。いつまで経っても風化しない。ただ慣れてきた。
あの時を夢で飽きるぐらい繰り返して、だいぶ抵抗を持つようになってきた。まあ、現在も睡眠不足気味ではあるが。
すると、スティナが不意に響に尋ねる。
「......響さんはまだあの時のことを気にしてらっしゃるのですね」
「!......気づいていたのか?まあ、気づくか。僕が頑張りだした日はあまりに極端だったからな。ただ、あの光景を弥人達に見られなくて良かったと心の底から思っている」
「あまり気にしないでください......と言われても無理ですよね。響さんの世界では殺人というものがあっても、普段の日常ではほとんど出会うことはない。人によっては、一生無縁の人もいるということを聞きました」
「そうだな。誰かが死んでしまうという話ははたくさん聞いた。誰かが殺したという話もたくさん聞いた。だが、その話を聞いても少なくても僕達の日常には関係がないといっても過言ではなかった。可哀そうだなと思うことがあっても、それだけだった。まあ、つまりは無縁だったのさ。身近に感じるのは、基本的に身内が亡くなった時」
「改めて聞くと幸せな世界に感じます。聞くところによると、技術も文化も食べ物も住宅も全てが私達の世界の遥か上にあるらしいですね。もちろん、響さんの世界の全てがそうでないということは理解してますが、それでも羨ましく感じてしまいます」
「まあ、スティナはそう思うよな。でも、僕達はその世界を少なからず退屈に思ってたんだ。だから、来た時は確かに戸惑ったでも、僕はほんの少し嬉しかった」
「そうだったのですね。やはり、『美人も慣れればただの人』ということなのですか。どの世界もそれは変わらないんですね」
「なんだその言葉?」
「私のお婆様が教えてくれたのです。意味はそのままですよ。どんな絶世の美女と結婚できたとしても、月日が経てば見慣れてしまうもの。まあ、例外はあるとしても、ほとんどの人はそのような気持ちを抱いていると思うのです。響さんが私に言った言葉もそういう意味合いですよね?」
「......そうだな」
響は静かに頷いた。もとの世界にいる時はいつからか思うようになったことだ。
まあ、自分はそれでも友達と楽しく過ごしてきて、そう感じるのは少なかった方かもしれない。ただ誰しもが一度は思ったことはあるのではないか。
自分は先ほど言った通りに思ったことはある。そして、空虚で変わり映えのしない世界をただひたすらに眺めていた。
毎日毎日、同じ時間に、同じ場所を通り、基本的に決まったような景色を眺める。それをもはや飽きということも忘れて、無心で過ごしていく。
そんな時、少しでも変わったことが起こると嬉しくなり、楽しくなる。そして、それをもっと感じたいがために心から欲が出てくる。
それが、世界が変わったことにする妄想だ。例えば、突然最近のパンデミックが起こり町中にゾンビが溢れるとか、突然異能力が使えるようになり同じく異能力が使える悪の組織と戦うハメになるとか。
もちろん、全員がそうでないだろう。しかし、その場で何も出来ることがなく、何もやる気が起こらない時にふと思うことはなかろうか。
少なくとも、響はそういう日常の中で過ごしてきたのだ。だが、ある日その願いは叶うことになる。
スティナは思わず俯いている響の背中にそっと手を伸ばした。しかし、思わず止まってしまう。
どんな気持ちで慰めてやればいいのかわからないのだ。聖女として情けないことだと思う。しかし、色々と迷いがある今はそんな気持ちで接してはいけないと思ってしまう。
だから、スティナは横目に見ながらそっと声をかける。
「響さん、今はこの世界をどう思いますか? 率直な意見を聞かせてください」
「......僕は『生きてる』って感じがする。なんというかな楽しいくも面白くもあるんだけど、これが僕の一番に思っている気持ちかな。死がグッと身近になったからかもしれない」
「それはありそうですね。魔物と戦うということを考えることと行動に移すことはかなりの違いがありますから。考えること自体に危険はない。ですが、行動となると命を落とす危険を伴う。平和的な世界を生きてきた響さんがそう思うのも当然だと思います」
「けど、僕は今の生活が楽しいよ。ちゃんとした役割がある感じだ。誰かの役に立てている感じはとても嬉しい。確かに、魔物と戦ことは怖いし、人を殺すことになるのはもっと怖い。でも、仲間達がいる。心の底からちゃんとやれてるよ」
「......」
響はスティナに満面の笑みを見せた。その笑みは先ほどの俯いていた時の表情とは嘘みたいだった。
そう嘘だ。
その表情はただ張り付けたような、万人受けするような笑み。そのことにスティナは気づいていた。だから、あえて反応せず、きつく切り込んだ。
「......それは本当ですか?」
「!......バレるよな、スティナには」
「伊達に多くの民と接してきていませんからね。それはもしかしなくても、仁さんのことですよね?」
「ああ、そうだよ。これは思った以上に堪えていてね、人を殺したことよりもきついかもしれない」
「仁さんとは仲が良かったとは知っていますが、もともとどういう関係でしたんですか?」
響はスティナの言葉を聞くと答える前に水筒で喉を潤し、ついでに体も冷やしていく。
しかし、思った以上に水は喉を通らず、体の熱も消えない。このままでは気持ちが高ぶってしまうかもしれない。
あの時の光景がフラッシュバックで蘇る。
すると、スティナが響の手に自らの手を重ねた。辺りはもう日が沈んで、夜の空に出番とばかりに星々が輝く。
「ゆっくりでいいですよ」
「......僕は仁とは小さい頃からの付き合いでな。ケンカもしたことない親友だ。でも、僕はあの日に仁を裏切った。親友にもかかわらず、簡単に仁の言葉を否定した。あの時の記憶はよく覚えていない。ただ自分の意志ではないように言葉を告げていた」
「それは私も同じですよ。仁さんに助けていただいた恩義がありながら、それを仇で返した。最低な女です。聖女としても失格です。ですから、私は仁さんがこの国を狙う理由もよくわかりましたし、納得しました」
「僕は仁も今でも親友だと思っている。でも、仁は僕のことはそうは思っていないだろうな......けど、僕はもう一度仁と仲直りがしたい。また普通に話したい。だから、仁の行動を止めたい。自分が仁が変わった原因を作っておきながら、身勝手な話だけど、僕は仁を止めたい。そして、話がしたい」
「そのためにも力が必要だと?」
「そう。僕は確かに魔王を殺すための力もつけている。でもそれ以上に、僕がつけたい力は仁を止める力。そのためには僕はあの時の、いやあの時以上に力をつけて仁を越えなければならない。これでも足りないくらいだ」
「そうだったのですか......ですが、あえて言わせてもらいます。このままでは仁さんを止める前に響さんが壊れてしまいます。ですからどうか、時には休むこともしてください。響さんが壊れてしまっても悲しむ人はたくさんいるんです。私もその一人です」
「!......その言葉は卑怯だ」
「わかってますよ。あえて言ったんです。そうでなければ、響さんは自重して止まってくれましたか?休むことも考えてくれましたか?そんなことは微塵も考えていなかったことは、響さんの表情からはそのようなことは読み取れません。ですから、言わせてもらいました」
「......スティナの言う通りだ。ははは、返す言葉もないよ」
「この時点で響さんがどうにかなってしまったら、仁さんは誰が止めるのですか?仁さんは一筋縄で済む相手ではありません。そのためには、響さんは万全な状態でなければなりません。どうかそのことを胸にしまっておいてください」
「わかった。ありがとう、スティナ」
「どういたしまして。私は響さんの役に立ててとても嬉しいです」
その時初めて、スティナは響に満面の笑みを見せた。その笑顔は普段あまり見せることのない少女らしい笑みで、響は思わずドキッとする。
そして、スティナの「そろそろ戻りましょうか」という言葉で二人は城へと戻っていった。
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