第88話 氷獄の花園 ヒュードレイア#3
朝の火照った体に冷たい飲み物はいいですよね
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暗い暗い空間の中、どこにいるのかもわからず、どこへ向かっているのかもわからない。しかし、その中でもわかることはある。
今いる場所はある巨大生物の腹の中、そして一緒に食われた仲間達の存在。咄嗟に括り付けた糸から脈動を感じる。
「よし、死んではいないようだな」
クラウンはそれぞれの仲間に糸から感じる脈拍を確認する。仲間は巨大生物が大量に飲み込んだ水を飲んだのか気絶しているだけで生きている。
周囲を見る。ここは胃の中だろうか。それにしても、この巨大生物が巨大な氷柱を一緒に食ってくれて助かった。そうじゃなければ、今頃胃液でおさらばだ。
「それに空気があって助かった。そして、お前らもいい加減に起きろ」
「「「「うぅ......」」」」
クラウンはリリス達の顔を軽く叩き回ると起きるのを待った。そして、全員がちゃんと目を覚ますと簡単にわかる状況をリリス達に伝えた。
「なるほどね。とにかく生きてることが奇跡みたいな状況ね」
「氷で出来ている感じじゃないです。それにしても大きいです。かなりの広さがあるです」
「しかし、このままここにいるのは不味いでしょうね。そう遠くないうちに胃液でこの氷柱も溶けてしまうでしょうね」
「それじゃあ、ここから脱出するか?」
クラウンはカムイの言葉を聞いて考えた。最終的にここから脱出しなければならないだろう。しかし、ここから出た時に場所が悪ければ自分達は溺死する可能性がある。
すると、ここでエキドナがクラウンの考えを読み取ったように言葉を告げた。
「とりあえず、水の中に出た時のことは考えなくていいわ。私の固有魔法は状況に合わせて進化できるようになってるの。まあ、要するにモードチェンジの追加ね。これまで海を泳いだことがないけどおそらくできると思うわ」
「そうか。なら、今は様子見の方が良いかもな。また何かあれば、水面に浮上するかもしれない。無理やり出るのは最終手段――――――――――」
カムイが言葉を言い切る瞬間、この空間に激しい振動が襲った。つまりは、今クラウン達がいる巨大生物に何かが起こったということ。
これはこの場に何かが起こるかも知れない。クラウンがそう思っていると予想は的中した。
突如として、クラウン達がいる胃の中に大量の水が流れ込んで来た。しかも、その水の中には血のような赤色も含まれていた。
これからわかることは、この巨大生物が何者かの襲撃を受けたということ。そして、水が一気に流れ込んでくるということから、おそらくこの巨大生物は死んだと判断するべきか。
「お前ら、肺の中に空気詰め込んで口を閉じろ。目も閉じろ。俺の合図があるまで絶対に開けるな。エキドナ、頼んだ」
「ええ、わかったわ。いくわよ―――――――――――竜闘変化(海)」
エキドナは水の中に飛び込みながら、一気に竜化した。すると、エキドナの竜の形は手や足はヒレのようになり、尻尾も尾ヒレとなった。
そして、翼は一時的になくなり、竜鱗はサメの肌のようにより水の抵抗が受けずらい形に変わった。
そして、クラウン達は空気を肺に溜めて、口を閉じるとエキドナの背中へと乗った。それが確認できるとエキドナは思いっきり泳いだ。
胃から食道、口へと渡って体外へ出るとそこにはもう一体の巨大な魚がいた。いや、体格的にはネッシーといった首の長い生物って感じであった。
クラウンは自身と仲間をエキドナの胴体へと固定すると手を刀の柄へと触れさせた。
クラウンは目を閉じながら、周囲に気配を張り巡らせる。まだ周囲がどうなっているかの気配は読めない。
しかし、追ってくるネッシーは敵意剥き出しで襲ってくるため、非常にわかりやすい。
ネッシーは口に中に大量に水を含むと一気に吐き出した。その水弾は真っ直ぐにクラウン達を狙い撃ちしてくる。
しかし、クラウンは水の抵抗に負けずに抜刀してその水弾を切った。すると、ネッシーはさらに何発もの水弾を放ってくる。だが、その全ては切っていく。
「ギャアアアアア!」
ネッシーはクラウン達に攻撃が当たらないことにイラ立ったのか実力行使に出た。そして、ネッシーはエキドナの尻尾へと噛みつこうと長い首を突き出してくる。
だが、当然そうさせるわけにはいかない。だから、クラウンは尻尾への方へと走っていくとネッシーはの噛みつきに合わせて刀を横にした。
「ぐっ!」
クラウンは息を漏らさないように必死に堪えながら、足を踏ん張らせる。しかし、かなりの速さで肺に溜まった空気が消費されているような気がする。
息の苦しさが増してくる。このままでは溺死も時間の問題。ネッシーを早く倒すか、早く地上に出るかしなければならない。
クラウンは力任せにネッシーの顔を蹴飛ばすと自分達から距離を取らせた。その瞬間、クラウンはエキドナが作り出した水流に流されるが、エキドナへと繋いでいた命綱のおかげで流されることは長った。
だが、ネッシーは水の利を活かして再び接近してくる。
ここで、クラウンは全員の脈を確認した。まだ糸から伝わる振動を感じる。しかし、その振動が弱くなっている気がする。いや、それは当然かもしれない。自分とロキを除き、この水中の温度に適応できることはない。
ここは氷に覆われた世界だ。肌に刺すような冷たさの水中はどんどんと体温を奪っていく。体温が奪われれば、気力が奪われる。
気力が奪われれば、必死に堪えている空気を吐き出してしまうかもしれない。そうなってしまえば、待っているのは死のみ。
クラウンは足をタップさせて、エキドナの反応を見てみるが、エキドナからの反応はなかった。まあ、反応出来る余裕がないのかもしれない。
そう考えると自分が息が持つ時間も考えた。あと数分は持つ。全く、進化した体には感謝ものだ。
すると、クラウンは一度刀をしまう。そして、抜刀の構えをした。クラウンの構えに対して、ネッシーは勢いよく襲いかかり、口を大きく開けた。
そのタイミングを計り、一気に抜刀しようとするその瞬間だった。
「ガアアアアアア!」
「ごぼぉ!」
ネッシーはクラウンに向かって衝撃波を放った。それはクラウン達を全員を襲い、口から息が漏れていく。
すると、エキドナがだんだんと体積を小さくしていき、もとの形へと戻っていく。クラウンはそのことに危機感を感じざるを得なかった。
今いるクラウン達の上は水中が明るく輝いている。それは、水面が近いということ。だが、それまでにまだ距離がある。
全員の脈がかなり危険な状態にある。泳いではいけない距離ではない。だが、問題はまだある。それは......
「ギャアアア!」
クラウンは向かって来るネッシーに攻撃態勢を構えた。そして、仲間達に「堪えてくれよ」と思うと一気に抜刀する。
「もう容赦はしない」「仲間を瀕死状態に追い込んだお前を絶対に許しはしない」そんな意志の籠った冷たい刃がネッシーの口元を捉えた。
ネッシーはクラウンの刃に噛みつこうと牙を立てたが、その牙ごと切られていき、口から顎にかけて一気に切り裂いた。
その攻撃はもう即死であった。そして、ネッシーはゆっくりと底の見えない暗闇に落ちていく。
しかし、クラウンにそんなものに気にしている余裕はない。自分の息も限界に達しているし、仲間達ももうデッドラインに入りかけている。
「よく耐えた」クラウンはそう思うと水面に向かってとにかく足を動かして泳いでいった。
遠い、まだ遠い。久々にかなり危険な状態だ。少しでも油断すれば意識を持ってかれかねない。まるで喉をずっと締め付けられているようにきつい。苦しい。だが、それがどうした!
クラウンは水面へと一気に浮上する。
「かはっ!」
クラウンは水面に顔を出した。その瞬間、肺の中に大量の空気が入り込んでくる。こんなにも空気が美味しいとは知らなかった。
そして、すぐにクラウンは地上を探す。少し離れた場所に上がる場所がある。幸い、地面は氷ではないようだ。それから、そこへ泳いでいくとリリス達を引き上げた。
クラウンは急いで脈を確認する。衰弱しているがまだある。反応がないのは気絶しているだけか。
すると、クラウンはリリス達の胴に糸を巻き付けるとその糸に<極震>をして、振動をリリス達に与えていく。
その瞬間、リリス達の口から飲んでいた水が噴き出し、「ごほぉごほぉ」という言葉と共に息を吹き返した。
「大丈夫か?」
「ごほぉごほぉ......え、ええ大丈夫よ。助けてくれてありがとう」
「そんなことはいい。早く服を脱げ。そして、火をたくぞ。このままでは、助かっても体温低下で凍死する」
「それじゃああああああ、おおおお俺の出番だなななななな」
「声が震えてるででででですすすすす」
「.....ふふっ、ベルちゃんもよ」
「ワフゥゥゥゥゥゥ」
「ロキは早く水気を払え。俺が乾かしてやる」
それから、リリスは全員を囲むようにかまくらのようなドーム状の大きめな建物を土魔法で作るとさらに風の結界を作った。
そこへとカムイがかまくらを囲うように火を焚いていく。すると、その場はだんだんと温度が上昇していく。
そして、男女分けるように策を作ると服を脱いで乾かしていく。服を脱いだ瞬間はかなり寒かったが、だんだんと体温は復活していく。それからやがて、全員は安堵の息を吐いた。
「はあ、さすがに死ぬかと思ったぜ」
「しばらく水の中はこりごりね。生きていることがびっくりだわ」
「主様、ロキ様のように尻尾乾かして欲しいです」
「いいわね、それ。それじゃあ、私は冷えた内部を温めてもらおうかしら。ほら、こういう状況の時って裸で温め合うって言うじゃない?」
「だ、ダメに決まってるじゃない!ベルも私が乾かしてあげるから!」
「あら、私知ってるのよ?先に起きたリリスちゃんが私達が寝ている隙に旦那様にイチャコラしようとしたの」
「~~~~~~~~っ!」
「お、賑やかになってきたな」
「そうだな。全く死にかかってたくせにな」
「それだけお前さんの存在が大きいってことだろ? どんな状況になっても安心できる」
「......どうだかな」
「ウォン」
クラウン達はその場でしばらく温め合う。
そして、体温が戻り服が渇いた所でクラウンは黒いコートに身を包み、リリスは真紅の髪をサイドテールに結ぶ。
また、ベルは櫛でフサフサな黄金色の先だけが白い尻尾を梳かしていき、エキドナは水色のセミロングの髪をかき分け、カムイは和服を合わせ、ロキは体をブンブンと震わせる。
それから、全員が準備を万端になると再び行動を開始した。いきなりとんでもないことになったが、無事に全員が生還していることには、クラウンは内心で結構安堵している。
もうただの仲間ではないのだ。これ以上失うことがあれば、心が持たない可能性も出てきている。
それが前まではきっと生み出てくる感情ではなかったはずだが、まあいい。これもまた一つの結果だ。利用よりもよっぽどマシなのかもしれない。
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