第87話 氷獄の花園 ヒュードレイア#2
関東は雨がヤバかったらしいですね。こちら北陸は雨のあの字すらなかったというのに。大きな被害がないことを祈っています
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クラウン達がその雪が降る空間に入ってしばらく、魔物が現れた。
その魔物は植物のようで、さらに薔薇のような花びらに口があり、その口には鋭い歯がついていた。
そして、鞭のように棘のついた蔦を振るってくる。もちろん、その魔物も氷で出来ている。
「この空間は広い。いくつも分かれ道がある。こんな所で濡れては敵わないから、火属性の魔法は使うな」
「おい、俺の出番が!?」
「そんなものは知らん。それでもなんとか出来るだろ」
「まあ、出来るがよ......」
カムイは不満そうな顔をしながらも、刀に魔力を纏わせると向かってくる蔦を切り刻んでいく。
そして、その合間を縫って魔物へと近づいていったエキドナがその魔物の茎に右ストレート。そこを中心に全身に亀裂が入ると砕け散った。
しかし、その魔物がやられたと同時にまた複数体の同じ魔物が現れる。
そして、その魔物の一体が飛ばしてきた蔦をリリスが弾いていく。すると、ロキがその蔦を細切れにしていく。それから、クラウンがその魔物に近づき両断すると後方にいる一体の蔦に糸を飛ばした。
そして、カムイへと向かうと蔦を糸で取り押さえる。すると、カムイはその一体へと向かって切り飛ばしていく。
また、エキドナが飛んできた2つの蔦をそれぞれの手で鷲掴みにする。すると、その蔦を飛ばした魔物へとリリス、ベルが向かって行く。
それから、ベルがその蔦を短剣で切ると2本ある短剣のうちの一つを上空へと投げた。
すると、リリスはその短剣の軌道に合わせて上に跳ぶと、その場で<自由に飛びたい>を使って、短剣の先をその魔物へ向けた。
そして、その短剣をかかと落としでプッシュしながら、魔物へと叩きつける。その瞬間、重力で重くした蹴りによって加速した短剣は、魔物の胴体を一気に貫通していく。
そして、ダメ押しとばかりにリリスの踵が魔物に当たり、その魔物は砕け散った。
「ふうー、初にしては意外と連携が取れたな。いや、取れるように動いたってところか」
「まあ、私達の動きは互いを利用しての動きだからね。そんなもんは慣れよ、慣れ」
カムイは「時間がかかっても仕方ないか」と言いながら、刀を鞘へとしまう。すると、ふとクラウンの背中に何かあることに気付いた。その何かは氷で出来た花であった。
そして、その花は僅かの脈動とともにクラウンへ根を張ろうとその根を徐々に伸ばしていってる。
そして、クラウンに声をかけようとした時、先にクラウンに声をかけられた。
「カムイ、お前の肩に氷の花が咲いてるぞ」
「え?」
カムイは思わずクラウンの視線が向いている方の肩を見るとクラウンと同じような花が咲いていた。その花は脈動して肩を締め付けている。
そのことに、カムイは思わずその花を殴って砕いた。だが、砕け残った氷の欠片は未だ脈動している。
「なんだこれは?......あ、ちなみにクラウンにもついてるぞ」
「それを先に言え。しかし、これは一体......」
「なにか体調が変わったこととかないかしら? いつもより疲れたとか、魔力を少なく感じるとか。とりあえず私の知り得る情報で検索をかけてるけど、あまり期待はしないでね。ここの神殿自体来るのが初めてなんだから」
「特にはない。まあ、俺の場合、魔力が多すぎるから当てにならないのだがな」
クラウンとカムイはエキドナに言われた通りに体の状態を確認しているが、特に変わった様子はない。
そして、リリス達の方ではロキがリリス達にも氷の花が咲いていることを吠えて知らせた。すると、リリス達はそのことに驚き、咄嗟に壊していく。
「カムイ、肩の花が小さくだが復活している。しかも、そこだけじゃない。体中に小さな花が咲いている」
「うぉ! マジだ!?」
「ロキちゃん、ジッとしてなさい。ロキちゃんの背中にも花が咲いてるから」
「ウォン」
クラウンが指摘した通り、カムイの体には米粒ほどの小ささだが確かに花が咲いている。しかも、その全てが脈動している。すると、これを見たベルが思ったことを言い始めた。
「思ったです。これはエキドナ様が言った言葉に関係するじゃないです?」
「それは俺も思っていた。というか、それしか考えられないな。そうであるならば、この雪に触れ続けていることが原因なのかもしれない」
「あの逸話が本物だったとはね。まあ、あったという話があるからこそ逸話になるのかもしれないけど」
「それじゃあ、とりあえず風で防いでおくわよ」
クラウンとベルが言ったのはエキドナがこの空間を見て話した逸話のこと。その話を簡単に言えば、雪に触れれば天に召されるということ。
だが、触れて死ぬようなら、こんな場所には誰もいられない。とはいえ、その逸話は間違ってはいないようだ。
その根拠を挙げるとすれば、この体にある氷。この氷は脈動して根を張るように氷が広がっている。このまま広がり続ければ、今にも体中を覆いつくしそうだ。
そして、覆いつくしたなら最後。もう二度と空気には触れれない氷の世界にとらわれるということだろう。
すると、リリスから驚きの声が聞こえる。
「嘘......この雪、私の魔法を貫通してくるんだけど!? これじゃあ、防ぐことは出来ない」
「なら、あまり時間がかけれないな。急いで下に降りる階段を探るぞ」
そこから、クラウン達は自身に纏わりつく雪に気をつけながら探索を始めた。
この空間にはいくつかの分岐する道があり、その道には雪を使った罠が張り巡らされていた。たとえば、雪玉。これは当たった瞬間に凍り付き、時間をかけて氷が広がっていく。
また、雪ダルマの魔物もそうだった。その魔物は強い冷気を放っており、ジッとして無くてもだんだんと足元から氷が張っていく。
もちろん、その魔物とエンカウントした時も雪が降っているので時間はかけることは出来ない。その2つの効果で急速に体が凍り付いて来るからだ。
それとは別にも、最初に戦った氷の魔物も出てきて、破壊するとすぐに再生して再び襲いかかってくる。
しかも、その場にいる魔物は時折スライムのように体を変形させて、凍り付かせようとしてくるのだ。故に、遠距離で攻撃するしかない。
しかし、距離を取ると露骨に細かい棘を飛ばして攻撃してくる魔物もいるので、どっちつかずな戦闘をしなければいけない時は非常に厄介だった。
だが、それ以上にやばかったのは雪崩であった。雪はリリスが証明した通りに魔法で防ぐことは出来ない。
故に、避けるしかないのだ。だが、大概それが起こるのが移動が制限されている狭い空間。その地味ないやらしさに何度イラッとしたことか。
そして、何度も迷いながらクラウン達は次の階を見つけ、下っていく。それまででクラウン達の体力はだいぶ消費していた。
それは、運動によるものというより、汗で体温が下がったことによる消費だ。それでも動いている分消費は抑えられている方だが。
「やっと抜けたわね。地味にめんどくさかったわ」
「ロキ様の毛がとってもあったかです」
「旦那様、私達もあったかしましょ」
「お前は体の半分ぐらい凍らせても大丈夫だろうな」
「まあ、竜人族だから基礎体温が高いしね」
「全く別の意味で言ったのだが......まあ、いい」
「それにしても、また随分と広い場所に出たな」
カムイが言った通り、3階層の空間はかなりの広さを有している。そして、案の定全面が氷に覆われていて、天井には巨大な氷柱が存在していた。
それから、辺りを警戒して、その空間の中心に進んでいくと突然空間全体が揺れ始めた。
「ウオオオオォォォ!!」
すると、壁に亀裂が入っていき、その揺れが大きくなっていくとともに亀裂も広がっていった。そしてやがて、その亀裂から巨大なイエティが現れた。
そのイエティは激しくドラミングしながら、吠え猛る。その咆哮によって、小さな氷柱が降り注ぐ。
「あれを倒せば下の階に繋がる階段が出るってところか」
「一体だけなら問題ない。だが、奴もおそらく冷気を伴った攻撃をしてくるはずだ。それだけは気をつけろ」
「「「「了解」」」」
「ウォン」
クラウン達はイエティに接近していくとイエティはクラウンに向かって拳を叩きつけた。
その拳の一発は重く、地面へと亀裂を入れた。だが、避けれれば問題ない。
クラウンは拳に乗ると刀を刺したまま肩に向かって駆け上がる。
イエティは思わず痛みの声を上げながら、クラウンがいる肩に拳を叩きつける。だが、簡単に避けられて自身の肩を痛めるのみ。
すると、今度はベルとロキが向かって行く。ベルは<隠形>を使いながら、イエティに近づくと脚に短剣で何度も切りつけていく。
イエティはベルを蹴飛ばそうと脚を振るうが、その前にベルの姿は陽炎の如くゆらめいて消えていく。
そして、イエティの攻撃が空回りした所で、ロキが傷ついた腕の方の肩に向かって<雷咆>を放って、その肩を貫通させる。
「ウオオオオォォォォ!」
イエティは苛立ったように地面へと拳を叩きつける。すると、叩きつけた個所に亀裂が次々に入っていく。
そして、その振動に氷柱も落っこちて、さらに亀裂を入れていく。イエティに近づくのはかなり危険だ。しかし、クラウン達にその憤慨は周りを見えなくさせているということに等しい。
故に、エキドナとリリスが、落ちてきて地面へと刺さった氷柱で姿を潜ませながら進んでいく。そして、横からリリスが雷を纏わせた脚を横から落ちるように固有魔法を使って、イエティの横っ腹に蹴り込んでいく。
その攻撃によって、イエティの巨体が横に動くと竜化(闘)へと変身したエキドナがイエティをぶん殴り上げる。
「さあ、お膳立ては出来たわよ」
「濡らせてみせなさい」
「そりゃあ、どうも――――――――天元鬼人流 破城閃」
カムイは死に体になっているイエティに走り込むと一気に抜刀させた。そして、イエティを思いっきりい上げる。
切られたイエティの胸からはこの空間には似つかわしくない紅い液体が舞う。
すると、カムイは思わず苦虫を噛みつぶしたような顔をした。
「すまん、切り過ぎた」
「「「「「は?」」」」」
カムイはそう言った瞬間、イエティの切り傷方向に合わせて地面、天井とに切り込みを入れた。
その瞬間、地面にあった亀裂が急速に広がっていき、天井にあった巨大な氷柱は亀裂の入った地面へと落ちていく。
そして、氷柱が亀裂に触れた瞬間、地面が砕け巨大な水溜まりが現れた。それはもはや湖と言ってもいい。
そのあまりの一瞬のことにクラウン達はその中へと落ちていく。
「カムイ、何してんだ!」
「わりぃわりぃ、つい張りきっちまった」
「張り切りすぎよ」
「それに切り過ぎね」
「やる気が空回りしてるです」
「うぅ、それを言わんでくれ。昔から気にしてることなんだ」
カムイはクラウン達からのダメ出しによってしょげていく。しかし、クラウン達にそんなことを気にしている余裕はない。
ただでさえ寒い空間で水に浸かっているのだ。このままじゃ体温が持ってかれる。そして、動こうとするその時だった。
「下から何かがくるぞ!」
クラウンが<気配察知>で下から感じた気配を全員に伝えるが、その時はもう遅かった。
その気配の主は巨大な口でクラウン達を包み込んで、水中に潜っていってしまったからだ。
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