第86話 氷獄の花園 ヒュードレイア#1
神殿攻略編ですね
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クラウンとカムイの間で一悶着あったものの、別段険悪な雰囲気とはならず順調に進んでいた。
そして、その間にも気配の修行を続けていて、リックが言った無機物に宿る気配の感覚は読むことが出来た。
だが、未だ最終段階の無機物そのものの生体エネルギーを読むということは出来ていない。
そんなこんなで数日が経ち、クラウン達は遂に霊山の森林限界まで登っていた。
ここまで来れば、木など生えていてもまばらでしかなく、眼下に広がる村や街が一望できる。その光景をリリス達は目を輝かせながら見ていた。
「奇麗ね。この景色を見れるのもここに来なきゃよね。そう考えると、この旅にも少しは感謝すべき点はあるかもね」
「ここから獣王国は見えるです?」
「さすがに遠すぎるわね。帝国がギリギリ見えるぐらいだから、霊山がもう少し高ければ見ることは出来たと思うわよ」
「ほー、良い眺めだな。やっぱ、外には出ないとダメだな。こういう景色は母国じゃまず味わえない。外に出るよう勧めてくれたルナには感謝しないとな」
リリス達は各々の感想を口にしていく。クラウンはそんな光景を見ながら、ロキへの顎下を撫でていく。
そして、リリス達が一通り楽しんだのを確認すると「行くぞ」と一言かけてクラウンは歩き始めた。その後をリリス達はついて行く。
それから、その場所を少し上った所で大きな洞窟を見つけた。その部分にはもう見慣れたような神殿が存在していた。
ただ、変わった所を挙げるとするならば、その神殿の外装は全て氷で出来ていた。魔法による何かと思われたが、冷気を感じるのでおそらく本物だろう。
「リリス、結界を」
「これにはないわ。あと言っておくけど、基本的に結界はないわよ。ほら、砂漠の国の時もそうだったでしょ? 結界というのは、基本的に人が張るものなのよ。大切なものを奪われないようにね」
「あの森にあったのは?」
「そういえば言ってなかったわね。あれは母さんが張ったものよ。だから、私が結界の解除方法を知っていた」
「そういうことか」
クラウンは結界がないとわかるとどんどん進んでいく。そして、神殿の中に入ると辺り一面が氷の世界。
上を向けば氷柱がひしめき合っていて、道すがらにも氷が山のように積み上がっている。それから、床も氷で出来ているため、かなり滑りやすく踏ん張りがきかない。
今のところ魔物の気配は感じられない。というか、こんな空間に魔物が住み着いているとも考えずらい。なら、今はそれよりもこの空間を問題視すべきかもしれない。
「はあ、神殿内がここまで寒いとは思ってなかったけど、あらかじめ厚手のコートを買ってきて正解だったわ。まあ、動きづらさが出てしまうのが難点だけど」
「このコート裏毛がついていてあったかです」
「ふふっ、ベルちゃんはもともとあったかでしょ」
「あ、俺にはあんま近づくなよ?纏い火でそのコートが燃えちまうからな」
神殿に入るや否や、リリス達は冷凍庫に入れられたような寒さに耐えかねず、街で買ったコートを指輪から取り出すとすぐに着た。
そのおかげでクラウンとカムイ、ロキ以外が全員モコモコとした見た目になった。特にベルは尚更。また、コートがないカムイは自ら作り出した炎を纏わせて体温を維持している。
「それはお前の服は燃えないのか?」
「安心しろ。時間が経って真っ裸になるようなことにはならないから。それに服が燃えないのは俺の刀の付属効果だ。標的は燃え尽くし、自身も燃え尽くすようじゃ。諸刃の剣すぎるからな」
「それにダレトクって感じよね」
「俺の価値は妹のためにある」
「おそらくだけど妹ちゃんにとっても無価値よ」
カムイの言葉にリリスとエキドナが突っ込んでいく。カムイもクラウン達の空気にだいぶ慣れてきたようだ。
ただ、これが正解と問われれば、クラウンにとっては疑問でしかないが。特に変態の協調性に関しては納得しかねる。
それにしても、本当に何もない。魔物もいなければ、罠もない。ましてや試練など。ここまでなければ調子が狂うし、逆に何かがあるのではと警戒しなければならない。
そのようなことを考えていると、不意に頭上から鋭い氷柱が振ってくる。それも、丁度クラウン達を狙ったかのような位置で。
クラウン達は持ち前の反射神経で避けていく。だが、クラウンはそのことに疑問を感じた。降ってきた氷柱を見る限り降ってきそうな感じではない。
だが、それが振って来たということは何者かが意図的に落としたということになる。
しかし、この場に気配を感じなかった。何かがいれば必ず感じるのにも関わらず。
すると、カムイが集中するように瞳を閉じて立っていた。様子から察するに気配を探っているのだろう。
そしてしばらくすると、カムイは天井のある一点を指さした。
「見つけた。そこにいる魔物だ?」
「魔物だと? それは、気配の最終段階ではないとわからない存在なのか?」
「まあ、そうだな。あの魔物には魔物が持ちうる心臓がねぇ。となると、これはもともと生物じゃないと考えた方がいい。現状から考えるとこの神殿で作り出されたってところか」
クラウンはカムイの言葉を聞くと納得しながらも、悔しそうな顔をした。だが、出来ない以上は仕方がない。見つけたなら、処理するのみ。
すると、カムイによって居場所を特定されたその魔物はクラウン達に飛び掛かってきた。
その魔物は全身が氷で出来ていて、形はとかげのような姿をしていた。そして、そのトカゲは鋭い針のような舌をクラウンに伸ばす。
だが、その攻撃速度はクラウンにとってはスローと変わらない。なので、舌を分割に切り払っていき、トカゲの魔物に一気に切りかかった。
「!」
だが、刀がトカゲの魔物に触れるとその刀はトカゲと共に凍り付いた。そのため、切ることが出来ない。
そこに、ベルが追撃とばかりに短剣を突き付けるが、その短剣も凍り付き、切断することが出来なかった。
だが、そのトカゲは関係なしとばかりにその状態で体から氷の針を生み出すという形で攻撃してきた。
「二人とも離れて!」
だが、その前にリリスが突っ込んでくる。そして、リリスの動きに合わせてクラウンとベルが離れると、リリスは炎を纏わせた脚で思いっきり蹴り込んだ。
すると、リリスの蹴りはくっつくことがなく、そのまま壁へと吹き飛ばされた。そして、その壁に叩きつけられるとトカゲは砕け散った。
クラウンとベルは先ほどの光景を疑問に思いながらも、床に落ちている短剣を拾いに行く。
それから拾い終わると、クラウンはふとトカゲの欠片に目を通す。ほんの微弱だが、魔力を纏っている。やはり、この神殿で作られた魔物だということか。
「しかし、今のは一体......物理攻撃が効かないと思っていたが、リリスの蹴りは効くんだな」
「はいです。そこがさっきから引っかかってるです。私と主様、リリス様に違いがあるとすれば、攻撃時に魔法を使っていたということぐらいです」
「おそらくそれなんじゃないか? 魔力はそれぞれ持ち主にあった魔力の性質を持っている。そして、基本的に親和性がない限り、他の人と魔力は混ざり合わない」
「言うなれば、魔力と魔力が反発するってことよ。魔力が反発するならば、当然魔法も反発する。なんとなくだけど、さっきの魔物から魔力を感じたしね.....まあ、ここは普段人が立ち入らないところだから、これは良い情報になりそうね。夢見がちの冒険者に高く売れそう」
「発想がゲスになってるわよ......それじゃあ、倒すときは常に何らかの魔法を使うか、魔力を纏わせておくしかないみたいね」
そして、クラウン達は意見を一致させると周りを見る。
すると、いろんな動物の形をした魔物がクラウン達を囲むように現れた。もちろん、全て氷で出来ている。
その時、カムイが全員の前に立った。
「たまには俺にも活躍させてくれよ。俺も出来るってことはちゃんと教えてあげないとな」
カムイは軽い口調でそう言うと抜刀の姿勢に構る。そして、相手との間合いを測りながら、目を鋭くさせて集中させていく。
「天元鬼人流―――――――――――炎旋」
カムイは一気に抜刀すると炎を纏わせた刀を目の前の敵に切り込んだ。
すると、その魔物に火が付くとその魔物から感染していくように火が燃え広がっていく。それはやがて、クラウン達を囲んでいる魔物全てを炎で包み込んだ。
「どうだ?あったけぇだろ」
「ああ、おかげでこの空間が溶け始めている。このままではずぶ濡れになる。ここを離れるぞ」
「なんかその一文だけで俺、結構ダサくならなかったか?」
辛辣な、だが真実を述べるクラウンにカムイは思わず頭を掻いた。そして、すぐにこの場を離れていくクラウン達について行く。
それから、しばらくその階を彷徨った後に下の階へと続く階段を見つけ、下りていく。
そして、その次の階にやってくるとそこは真っ白い空間だった。白い何かが天井から降り注いでいる。
「嘘......洞窟内で雪が降ってる」
「幻想的です」
「けど、何か嫌な予感がするわね。これがただの背景だったらいいのだけど」
「それに落ちている氷の塊から微弱な魔力を感じる。こりゃあ、何かありそうだな」
「この場で何を言っても変わらん。警戒だけして進むぞ」
そして、クラウン達は雪の道を歩いていく。シンシンと雪が降っている割には全然積もっていない。踏めばすぐに氷の地面が見えてくる。
また、クラウン達が入ってきたというのにその魔力を感じる氷の塊からは動きがない。
すると、エキドナがこんなことを話し始めた。
「そういえば、この霊山についてのこんな逸話を聞いたことがあるわ。この霊山は『霊が集う山』という略称から来ているの。そして、この霊山にもたらされる雪は全て霊をあるべき場所へ帰すためのもの。故に、生きているものが雪に触れれば、その霊とともにあるべき場所に誘われてしまうと」
「このタイミングでその話をするか」
「ええ、雪を見たらたまたま思い出してね。それが何か?」
「いや、なんでもない」
クラウンは面倒な気しかしなかった。その言葉がフラグにしか聞こえなくて。
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