第8話 試練
クラウンとリリス、そしてロキは神殿の最下層に辿り着いた。そこはどの部屋よりも広く、何本か柱が立ち並んでいた。
そして、その部屋の先には出入口のような扉がある。ただその扉は鉄柵で固く閉ざされているが。まあ、それだけなら何ら問題もない。力任せにこじ開けることも可能だろうから。だが、問題は目の前にある。目の前にいる5メートルぐらいある二体に人型の爬虫類に。
「......つまりは、あれがボスか」
「あれはリザードマンね、きっと今までの敵とは違うわよ」
「ウォン」
三人が戦闘態勢に入るとその殺気に反応したのか、石像のように固まっていた二体のリザードマンが静かに動き始めた。一体は薙刀を持ち、もう一体は大剣を持っている。
「俺は薙刀を相手する。リリスとロキは大剣を相手しろ」
「OK、了解したわ」
「ウォン!」
クラウンは<瞬脚>で薙刀リザードマンの前に移動するとそのままの勢いを利用して、左肩に蹴りをぶち込んだ。
「......!」
クラウンは思わず目を見開く。確実に左腕は吹き飛んだだろう蹴りを入れたのに、身じろぎ一つしていない。
すると、薙刀リザードマンは左腕でクラウンの足を払うと自身の身長よりも長い薙刀を片手で突いてきた。その攻撃をクラウンは空中で半身になりながら避ける。だが、薙刀リザードマンはその薙刀をそこから真下に振り下ろした。
「くっ!」
クラウンはその攻撃を腕をクロスさせて受け止めるが、思わずうめき声が漏れた。それはまるでクラウンの周りだけ通常の数倍の重力がかかっているみたい攻撃だったからだ。
「シュルル」
「!......がはっ!」
薙刀リザードマンの攻撃に耐えることで精一杯のクラウンに丸太のような太い尻尾が鞭のように脇腹へと直撃した。
クラウンは血反吐を吐きながら、吹き飛ばされ壁に激突する。そして、壁に大きくクレーターを造った。
「クラウン!」
「ウォン!」
その光景を横目に見ていたリリスは思わず叫んだ。だがすぐに「目の前の敵に集中しろ」とばかりにロキが吠える。
するとその時、ロキは大剣リザードマンに<斬翔>を放った。だが、大剣リザードマンはその大剣でロキの斬撃を防ぐとそのまま横なぎに払った。
「皮膚が固いなら、これでどうよ......雷切!」
「シャラアアアアアア!」
ロキに視線を誘導された大剣リザードマンは死角から現れたリリスの存在に気づかず、その一撃を受けた。
大剣リザードマンはその体を小刻みに震わせると痺れたまま動かない。それを好機と捉えたリリスは追撃を開始ししようとしたその時―――――――――
「畳みかけるわよ、ロキ――――――――――」
「なめんなぁ、爬虫類がぁ!!」
「「シャアアアアアアアアア!!」」
「........」
リリスとロキが攻撃しようとした瞬間、どこからともなく薙刀リザードマンが飛んできて、大剣リザードマンに当たり、そのまま二匹はふっとんだ。
もちろん、投げたのはクラウンだ。リリスとロキは思わずその男を見る。
「あんた、無事だったの?」
「あんなので死ぬわけねぇだろ」
「まあ、そうりゃそうね」
リリスは深く追求するのを止めると再び身構える。すると、二匹のリザードマンは立ち上がるとリリス、ロキとクラウンに向かってそれぞれ突貫していった。
薙刀リザードマンはその薙刀を大きく横に大きく振るう。クラウンはそれを背を大きく仰け反らせて避けると同時に薙刀の柄を掴んだ。そして、地面を瞬間的に蹴ると再びサマーソルトキックをかました。
「極震!」
「シャラアアアアアア!」
クラウンの蹴りが当たった瞬間、薙刀リザードマンの左腕は激しく揺さぶられ、そのままあらぬ方向に腕が曲がる。その痛みに薙刀リザードマンは苦しみの声を上げた。
「汚ねぇ、声をあげんな。」
クラウンは体勢を立て直して着地するとそこから肘を槍のように突き出す。そして、<瞬脚>を使って薙刀リザードマンの腹部に一気に間合いを詰めた。
「グギャッ」
「そらよ!」
「ギャガッ」
「おらああああ!」
「ギャジャアアアアアア!」
クラウンはそのまま流れるように、コンボを繋げるように攻撃した。まずクラウンの肘鉄で薙刀リザードマンの頭が下がるとその頭に思いっきりアッパーを決めた。
そして、死に体になっている薙刀リザードマンの横っ腹に<剛腕>と<流爪>を連続に使って突き刺しながら抉った。
薙刀リザードマンの右の横っ腹から左肩にかけて五本の爪のような斬撃が飛び出した。薙刀リザードマンは血反吐を吐きながら叫びの声を上げる。
クラウンはその悶えた姿を見ると仮面の奥で狂気じみた笑みを深めた。
そこからさらに薙刀リザードマンの全身の骨を砕くように殴って、蹴って、破壊して、殴って、蹴って、破壊して、殴って、蹴って、破壊して、殴って、蹴って、破壊して、殴って、蹴って、破壊し続けた。
そして、奪った薙刀で頭を跳ね上げ空中で死に体にすると薙刀を上方に向かって投げる。
「最初の勢いはどうした?爬虫類」
「ギャハッ!」
クラウンはそのリザードマンに近づくと<剛腕>を使いながら両拳をそのリザードマンの腹部に向かって殴った。そして、<極震>を使ってその一点に衝撃波を放つ。
薙刀リザードマンの腹部はポッカリ風穴があき、そのまま地面へと崩れ落ちる。その瞬間、クラウンは上に向かって跳ぶと空中にある薙刀を掴む。そこから、一気に薙刀リザードマンの頭部に向かってぶっ刺した。
すると、そのリザードマンは頭を無くして動かなくなり、その体を粒子状にして消えていった。
「なんだコイツ?」
クラウンはそう思いながらリリスとロキを待った。
――――――――時は少し遡り、リリスとロキの戦闘。
大剣リザードマンはその大剣を大きく振りかぶるとそのまま振り落とした。リリスとロキは半身になって避ける。だが、その大剣は地面に当たるやいなや地面を割りながら周囲の地面を隆起させた。
そして、大剣リザードマンはその隆起した地面に斬撃を放ってリリスとロキに向かって飛ばしていく。
「風断」
「ヴアアアァァァ!」
リリスは咄嗟に風で障壁を作り出して防ぎ、ロキは衝撃波を放って飛んで来た地面の破片を砕いた。だが、そこで数秒の時間を要した。それが大剣リザードマンの狙いであった。
大剣リザードマンは左手を腰辺りに構えると体を捻りながらリリスに向かって一気に殴った。
「くっ!」
リリスは両腕を揃えて攻撃を防ぐが、明らかに嫌な音がした。そして、そのまま壁際まで吹き飛ばされる。
「調子に乗ってんじゃないわよ!」
だが、リリスは空中で無理やり体を反転させると壁を蹴って大剣リザードマンに突っ込んだ。
「ギャシャアアアアア!」
「くっ!」
大剣リザードマンはリリスを迎え撃とうと構えた瞬間、右腕が激しい痛みに襲われた。その方向を見るとロキが右腕をガッチリと噛んでいた。
そして、そこからさらに激しい痛みが来るやいなや右腕が吹き飛んだ。
ロキはもぎ取った右腕を捨てると無防備になった右半身にゼロ距離で<雷咆>を放った。
「ギャアアアァァァァ!」
大剣リザードマンの直に当たった右脇腹は黒く焼き焦げ、全身を激しく痺れさせた。そこに向かってくるリリス。リリスはライダーキックのように進んでいる方向に足を出すとさらに加速させる。
「流風の舞」
加速したリリスは硬直したまま動かない大剣リザードマンの胴体に蹴りをめり込ませるとそのまま貫通させた。すると、大剣リザードマンは叫ぶことも許されず前のめりに倒れ込んだ。
「ふん、私を煩わせればこうなるのよ」
「終わったか」
「ウォン」
「ええ、でも腕がやられたわ」
「さっさと治せ」
「あんたじゃないんだから、そんな異常魔法持ってるわけないでしょう!?」
そう言いつつもリリスは指輪からレモンのような果実を取り出した。
「ねぇ、それを絞ったやつを飲ませてくれない?.....あ、『噛り付けばいいだろ』とかはなしよ」
「.....チッ」
クラウンは地面に落ちた果実をリリスの頭の上まで持っていくと片手で絞り始めた。リリスはその果実から出た汁を舌を伸ばしながら、汁を受け取って飲み始める。
「ん......んん!」
リリスは少し体をビクつかせながらもその汁を飲むことを止めない。むしろ、よりしっかり受け取れるようにクラウンが持っている手に背伸びをしてまで顔を近づける。
「......ん......ん、んん......ゴクンッ」
ビクついているリリスはその絞り汁を全て口に含めると一気に飲み込んだ。するとリリスの腕がもとの正常な形に戻った。クラウンはそのことに驚いた。
「これは体を治すのか?」
「まあね。でも、一度破損した体の部位は元に戻せるような状態が良いものじゃなきゃ治せないけどね」
つまりは切り落とされた腕の断面が焼けてでもしていたらもう治せないってことか。それじゃあ、俺の超回復と変わらないってことか、つまらん。クラウンの興味は一気に失せた。
クラウンは出入口の方へ歩き出す。そして、出入口の前に立つが鉄柵はそのままの状態であった。そのことにリリスは困惑の表情を浮かべる。
「なにこれどうなってんの?結界も張られてるし、ここが開かないとは聞いてないわよ」
「......なるほどやはりそういうことか」
「何かわかったの?」
「ああ.....死ね」
「......え?」
クラウンはそういうと後方にいるリリスに向かって腕を振るった。そして、鮮血が舞った。
リリスの頬からスーッと血が滴れる。あまりに一瞬の出来事で何も動けなかったリリスの後ろから「バタンッ」と何かが倒れる音がした。思わずそ方向を見るとそこには倒したはずの大剣リザードマンの体があった。
リリスは思わず後方を見た。すると、大剣リザードマンは最初に倒れた向きとは異なっているので、あのリザードマンは自分が倒したと思っていた時にはまだ生きていたのだろう。油断していた。
結果的には助けられたということか......しかたない。非常に仕方ないことだが、乙女の柔肌に傷をつけたことは許してあげ......よう?
リリスはふと頭のバランスが悪いことが分かった。やや右側だけ重いような......気のせいかな?
そう思いながらも軽く感じる左側の頭を触れようとすると気づく。あるはずのものがないことに。リリスは恐る恐る地面を見た。その瞬間、言い得ぬ怒りを覚えた。
「ちょっとあんた!?乙女の髪を切り落とすってどういうつもり!?」
「あ?......なんだそんなことか」
「そんなことじゃないわよ!?......いい?髪は命の次に大切な『命』なの!?」
「そっちか。というか、髪ねぇ......」
「許してあげようかと思ったけど、やっぱ言うわ。あんたねぇ、確かに私の落ち度かもしれないけど、後ろに私が倒した敵がまだ生きてるって伝えてくれていいじゃない?」
「......」
「ちょっと、無視しないでよ!?」
リリスの文句を聞くのがうんざりになったクラウンはリザードマンが消え、結界と鉄柵がなくなったのを確認するとそのまま歩き出した。
未だ愚痴が絶えないリリスは切り落とされた髪を大事そうに持つとクラウンの後を追う。
一方、ロキはというとずっと蚊帳の外で寂しそうに二人の後ろを歩いた。
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『凶気が 2 上がりました。現在の凶気度レベル 3 』
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それではまた次回