第77話 リリスの自爆
何かとシリアス回が続いたので、今回はただの甘々です。まあ、絆が深まった故と思ってください。
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クラウン達はリゼリアからの情報提供ののち、数日の間は霊山へ向かうための下準備を進めていた。
その影響でか、クラウンは同室であることにも慣れてしまい、今は大の字に寝るクラウンに、リリス達が腕枕で眠っているという状況になっていた。
こんな状況で寝れるようになったぐらい、クラウンの心に大きな変化があったことは、クラウン自身は未だ気づいていない。
まあ、気にしていないという方が近いかもしれないが。そして、この状況で最初に目を覚ましたのはリリスであった。
リリスは寝ぼけ眼を擦りながら、上体を起こすとふとそばで寝ているクラウンに目を向けた。
そして、リリス自身が自覚もしていない優しい笑みを浮かべながら、クラウンを眺める。ただ、正直これは喜ぶべきことなのかと迷いが生じる。
それは、兵長の存在がないこと。そのことの影響力がいかに大きいかリリスは知っていた。
リリスはクラウンと兵長がどういう関係か良く知らない。しかし、クラウンと兵長が別れ際に話した言葉に関しては、少し思うところがある。
クラウンは最後に兵長のことを「響」と呼んでいた。それは聖王国に行く前に情報を集めていた時、念のために勇者の名前を確認していたのだ。
そして、その時に知った名前が「響」。これは偶然の一致なのだろうか。
いや、そんなことはない.....と思う。根拠はないけど、勘というやつだ。そして、もしそうならば、クラウンは勇者であった響と深い関係がある。
それは、同じ転移者ということに関して。だとすると、兵長を失った痛みは、ベルと同等かそれ以上になる。ならば、あれほどの殺意が湧くのは当然と言えば、当然なのだろうか。
そして、私は兵長の死があったからこそ、クラウンと深い絆が作れた。しかし、それは言い方を変えれば、兵長がいなければこうはならなかったということ。
それに関しては寂しい気持ちもあるが、やはり時間がかかったとしても兵長がいてくれた方が、クラウンのためにも良かったのかもしれない。
しかし、そんなことは今更だ。兵長はもう帰って来ない。あれほどまでに現実を直視させられれば、誰だってそう思う。
だからこそ、ベルとクラウンが怒りと殺意によって、止められない化け物にならずに済んだと心から喜べる。
同時にエキドナがいてくれたことも大きかった。エキドナがいてくれたからこそ、ベルを任せることができ、自分はクラウンを救出しに行くことが出来た。
もしいなかったらどうなっていただろうか。それは考えたくもないことだ。
「あんたの寝顔をこんな近くで見れる日が来るなんてね......」
リリスは手前にいるベルを起こさないように、クラウンの顔へと手を近づけると前髪をかき分け、額へと手をつけた。
そして、その手に魔力を集中させていく。それは、夢魔としての力を使ってクラウンに良い夢を見させてあげようというもの。
今のクラウンはこれまで以上に、内なる悪意が高まってしまっている。一時、クラウンがうなされていた時があった。
だが、それはその悪意に飲まれそうになったのだろうか。それはどうかわからない。ただ、クラウンの心の叫びを聞いた時、自分は確かにその悪意に触れた。
あの時のクラウンの右目は酷く禍々しかった。あれこそがクラウンの内なる悪意なのだろう。
自分は咄嗟に気付いて対処したけど、クラウンの湧きおこる殺意からしてどうにも拭いきれていない気がする。
そして、本当ならどうにかしたいところだが、クラウンにそのことを尋ねて、それがキッカケで再び染まってしまうようなら目も当てられない。ここは黙っておくのが最善なのか。
「起きるまでせめて良い夢見てなさい。どうせなら、私付きでね」
リリスがその手から伝える思念は、クラウンとともに二人っきりで見た花畑の光景。その記憶をクラウンへと送っていく。
そして、リリスはふとクラウンを見てみる。特に変わった様子はない。ただ僅かながら優しい顔つきになっているのは気のせいだろうか。それとは別だが、鋭い目つきが優しくなっているのが良き。
リリスはベルとエキドナにも、先ほどの魔法をかけてあげようかと思ったが、その二人はクラウンにくっついて寝られている時点で至極幸せそうな寝顔をしている。
その時点で、良い夢を見ているのは確定だろう。ベルに関しても、クラウンのそばにいれたことは良好だったかもしれない。エキドナは、もはや言わずもがなだろう。
「少しチェックを......」
リリスは少しだけうずうずしてきた。それは、寝ているクラウンになんだかイタズラしているような気がして。
まあ、それも込みで先ほど熟睡できるような催眠魔法をかけたのだけど。そして、リリスはサキュバスの特性を使って好感度を見てみた。
すると、クラウンの場合は信頼という(まあ、少しぐらいの好意もあって欲しいが)ピンク色の靄があり、そこには嫌悪を現わす黒い靄は見られなかった。
そのことに、リリスは思わずガッツポーズ。長かった。ここまで辿り着くのは、本当に長かった。
もっと言うと、森にいた頃の自分の予定では、そうそうにクラウンの心を鷲掴みにして、自分の目的のために利用しようと考えていた。
だが、自分の感受性の高さもありミイラ取りがミイラになった。つまりは、サキュバスである自分が逆に惚れてしまった。
サキュバスとしては名折れだが、今は嬉しさの方が勝っている。もし自分の好感度を見れたなら、もれなくピンク色の靄に全身包まれていることだろう。
「あんたは堅物すぎ」
リリスは思わずクラウンの額にデコピンした。しかし、そんなことをしても起きない。さすがにそこまで深く眠るように魔法をかけてはいない。
だが、起きないのならどうにもうずうずが止まらない。一体どこまでなら起きないのか。そんなことを試してみたくなる。
ちなみに、リリスはこの時点でスイッチが入っているのだが、そのことに本人は気づいていない。
リリスはまず優しく頭を撫でる。当然、起きることはない。なら、頬はどうだ。あ、意外と柔らかい。嫌いじゃないこの触り心地。
そこから、首筋へとゆっくりと手を降ろしていく。そのたびに体が熱を帯びていく。加えて、ゾクゾクする感じ。
ちなみに、リリスはこの時点で興奮でだいぶ荒い呼吸を繰り返しているのだが、そのことに本人は気づいてない。
リリスは段々と行動をエスカレートさせていった。リリスは首を触れていくと鎖骨辺りまで指をなぞる。
クラウンは寝る時は基本薄着(森の時に半裸で寝ていた時の名残で、昼寝以外ならそれが一番寝やすい)なので、その筋肉質な体つきがやたらリリスの性癖にぶっ刺さる。ベルが筋肉フェチであることも案外わからなくもないかも。
ちなみに、リリスはこの時点でだいぶ人様には見せられない顔になっているのだが、そのことに本人は気づいていない。
「ふふっ、やってみたかったのよね~♡」
リリスは完全にスイッチが入ってしまったせいで、もう理性が吹き飛んでいる。そのせいか普段には絶対にしない行動をとり始めた。
そのために、まずはクラウンの腕にしがみついているベルをどかし、寄り添うように寝ているエキドナを遠くへ転がして、クラウンに馬乗りになる。
「やばい、やばいやばいやばい♡」
この圧倒的な攻めの姿勢、強者が下になるという位置、そして支配感。この言葉をどうすれば言葉として言い表せようか。
いや、そんな言葉など存在しない。好きな人を攻めているような構図は実にサキュバス冥利に尽きる。もう頬の緩みが止まらない。
「ふふふっ、これでも起きないなんて♡どれだけお寝坊さんなのかし―――――――――」
「いい加減、自分の性癖を認めろ変態女王」
「/////!?!??!?!!?!?!?!!!?!??」
リリスがクラウンの胸板をまさぐろうと手を伸ばすと不意にその手が掴まれた。そして、しっかりとした目のクラウンが自分の瞳を捉えて離さない。
そのことにリリスのスイッチはすぐさまオフ。まるで顔から蒸気でも出すかのように、熟れたリンゴよりも真っ赤な表情でただじっと悶えている。
もしこの場で逃げるチャンスがあったのだとしたら、一度転生してその上で地中の奥深くまで潜ってそのまま蓋をしたいぐらいの恥ずかしさ。
これこそ言葉に言い表せ用もないことじゃなかろうか。うん、絶対そうだ。そうとしかありえない。
「で、自覚したか?」
「.......................はい」
「間がやたらと長いが......仕方ない。さっさと下りろ」
リリスはクラウンの言葉に従って、両手で顔を隠しながら下りた。そして、部屋の隅で三角座りしながらうずくまり、壁と一体化するように気配を消した。
しかし、いくら消そうとしてもクラウンには<気配察知>があるので気づくのだが、あえてそこには触れないのがクラウンクオリティ。
そして、クラウンは未だ腕にしがみついているベルとそばで寝ているエキドナを起こした。
「おはようです、主様」
「ん......おはよう、旦那様。昨日は激しかったわね。こんな時間帯まで寝てしまうなんて。それに下腹部もまだジンジンするし」
「開口一番にありもしないことを言うんじゃねぇ、セクハラ魔竜が。お前は寝て二度と起きるな。それが周りのためだ」
「ふふふっ、嫌だわ。まだ旦那様を味わい尽くしてないじゃない。なので、却下よ」
「判断基準がさすがです」
クラウンは朝っぱらから頭痛がした。そして、どうしようもないため息を吐いた。まずリリスだが「あいつ本当に薬が効いているのか?」と思わざるを得ない。
しかし、実はクラウンにはそれ以上に安堵したことがあった。それは、リリスが一度だけ発動したサキュバスの催淫。
それがここで発現すれば、まあ結果は言わなくてもわかるだろう。それから、それはクラウンにも危険であった。
そしてまあ、ベルはまだ良いとして、エキドナには「エキドナにこそ薬が必要なんかじゃないか?」とクラウンが思うのは自然の摂理と言ってもいいかもしれない。最近、いや出会った頃からあんな調子なのは、感心すべきことではないが、凄いことかもしれない。
「はあ......さっさと準備を始めるぞ。こんなにも待たせたロキに悪いからな」
「と言いつつも、実はロキ様の毛並みに触れたいだけじゃないです?」
「................そんなことはない」
「間が長いわよ」
「いいから、準備を始めろ。リリス、お前もだ」
「見ないで~、私を見ないで~。私は空気だからほっといて~!」
「はあ......」
クラウンは思わずため息が漏れた。そして、クラウンの予想通りこの街を出立するまでだいぶ時間がかかった。
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それと何かと小難しい話があったので、疑問点は質問してくれていいですよ。




