第72話 ゲーム
最近、飯食うのかなりサボってる気がする......(-_-;)
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「今からやるのはとってもシンプルなやつだよ。このコインを使って、どの手にコインがあるかを当ててもらうだけ」
リックは右手を大きく開くと人差し指と中指でコインを挟みながら、クラウンへと見せつけた。そして、そのコイン右手でしっかりと持ち直して、そのコインを指で弾いた。
そのコインは乱回転しながら落ちてくるとそのコインに一瞬だけ両手を合わせ、すぐに引き戻した。
「さて、どちらに入ってると思う?」
「バカにしてるのか?右に決まっているだろう」
クラウンは思わずイラ立ったように言った。それは見れば誰でもわかるような取り方だったからだ。
それにクラウンの常人を超えた動体視力ではその速さはスローに見えてると言っても過言ではない。それ故にこんな茶番のために時間を取られたことが腹立たしいのだ。
だが、リックはそんなクラウンの様子にもどこ吹く風といった感じであった。むしろ、警戒すべきはソファに座っているクラウンの後ろにいる女性、エキドナだ。
エキドナのことはもちろん知っている。なぜなら同業者だから。知っている人とはいえ、慣れているかと問われれば別問題だ。
正直言って、リックにとっては唯一と言ってもいいほどの苦手な人物だ。今も舌なめずりしながら見られていることに寒気を感じる。
なので、クラウンがエキドナを御してくれていることにはとても感謝している。これで身の安全も感じられるというもの。
閑話休題
リックは涼しい表情でクラウンに話しかける。
「それじゃあ、二回目いくよ」
「まだやるのか」
「あんなのは僕がやるゲームのデモンストレーションのようなものさ」
そう言うとリックは再び親指でコインを弾いた。そして、同じようにコインを右手か左手のどちらかに持った。
それから、選んでもらうようにクラウンへと両手を差し出す。その手を見るとクラウンは考えるように沈黙した。
リックの言った言葉からすると今さっきのがどんなことをやるか見せただけで、これが本番であろう。
そして、リックのことだ。あの単純な行動に何か仕掛けているに違いない。とはいえ、何をしたかはわからない。現状で分かっていることは、コインをまた右手で受け取ったということだけ。
だが、リックが何かを仕掛けたとするならば、右手で持っている可能性は低い。なら、左手かと問われれば、そうである確証も低い。俺がそういう思考を読んであえて右手に持ったままという可能性もなくはない。
すると、リックがクラウンをさらに惑わすような発言をした。
「僕は右手にコインを持っている。けど、それは嘘かも知れないし、その発言すらも嘘かも知れない。『運も実力のうち』という言葉があるけど、僕はあんまり好かないね。仕事柄もあるけど、個人的にも運に身を任せて行動するというのはかなりの博打だと思うよ。それが悪いこととは言わないけどね」
「......つまりは?」
「是非とも実力で当ててみてよ。結果次第でどうこうするつもりは無いからさ」
リックの言葉を聞いてクラウンはさらに考える。リックの言葉が真とすれば、右手にあることになり、偽であるならば、左手に入っている。
そして、リックの言葉よりこのゲームは実力でコインの場所がわかると判明した。
だが、その決め方がわからない。実力で判断するならば、リックはコインを右手に持っている。だが、それは嘘かも知れない。
何か魔法を使って右手に持っているように見せかけているだけ。しかし、それすらも嘘だとしたら......クソ、考えがまとまらない。
「さて、そろそろ決めてもらうよ。時間はちゃんとあげたしね。それで、コインがある方は?」
「......右だ」
「根拠は?」
「最初に持った方は右手だった。だが、それはなんらかの仕掛けが施されていて左手に持っていると考えた。だが、俺がそう思考すると考えて裏の裏を読んだ......つまりは表。もとのままだと考えた」
「なるほどね......ちなみにエキドナさんはどう考えた?」
リックはクラウンの読みを理解すると不意にエキドナへと話しかけた。そのことにエキドナは驚く様子見せずに答えた。
「そうね......両方かしら?」
「!」
クラウンはその言葉を聞いて思わず目を見開く。だが、考えるとすぐにその選択肢もあったかと後悔した。
なぜなら、リックは「コインがある方は?」としか聞いていない。そのどちらかの手にコインが入っているとは限らないのだ。
そして、それまでの情報からもコインがどちらかの手にあるような言葉については言及していない。
つまりは、自分の勝手な思い込みで話を進めていたということ。これほど自分に腹立たしくなることはあるだろうか。
「まあまあ、そんなに自分を責めないでよ。これは僕がこうなるように仕組んだことだからね」
「......なに?」
すると、リックはこのゲームの趣旨をを伝え始めた。
「僕が行ったゲームにはね、ちゃんと意味があるんだよ。その中で一番重要なのはどれだけ視覚情報に惑わされないかということ。僕たちは目で物事を判断する。故に目に映るものが全てだと思いがちだ。だから、僕はそこを突いた」
リックは両手を開くとそこには両方の手にコインが収まっていた。そして、左手に持ったコインをクラウンへと見せつけるように持ち上げる。
「僕がコインを弾いた時に受け取ったのは右手。だけど、これは右手で受け取る前から机に置いておいたもの。それに実は一番最初に見せていたんだよね」
「最初?」
「僕が右手で指と指の間にコインを挟んで見せつけていた時だよ。あの時、僕は自分の唯一使える幻惑魔法を使って、中指と薬指で挟んでいたコインを見えなくしていたんだ。だけど、注視すれば、空間が歪んでいるせいですぐにバレちゃうけどね。そして、デモンストレーションとしてコインを弾いた時に、当然コインの方へと注意が向く。その視線がしっかりとコインの方へ向いていることを理解しながら、左手に持っていたコインを机に置いた」
「.......」
「で、デモンストレーションを終えての2回目。僕は言葉を添えて両手を見せる。そして、お得意さんはバカじゃないから当然考える。となると、意識は思考へと集中して他は見えなくなる。その時の視覚情報は大した情報じゃない。なぜなら、僕が机に置いておいたコインを左手で掴む動作に気付かないぐらいだしね」
「視覚情報に惑わされないと言っていたが、それはどういうことだ?」
「僕たちは基本的に見えている実体を真だと捉える。となると逆に、見えて無いものは全て偽と捉える。だけど、実はあるのにもかかわらず見えて無いとしたら?目ってやつは、見えているようで案外盲目的な部分もあるんだよ。まあ、僕が今やったのはそういうのには当てはまらないけどね」
リックはそういうと左手に持ったコインを親指で弾いた。
すると、空中で回転していたコインは周囲に同化するように消えていき、リックはそのコインが見えているかのようにどちらかの手で受け取った。そして、その手を差し出す。
「これを視覚情報を利用せずに他の情報だけで当てみてよ」
「......」
「視覚情報は時として猛毒だ。それの情報が全てだと思い、思わされて、その情報だけで考え込む。すると、あったはずの可能性が無意識のうちに除外される。そう考え始めたらどうなるかは、お得意さんが知っているはずだよ」
「勝手に右手か左手か、どちらかにコインがあると思うことだな?」
「そういうこと。あ、安心してよ。今は一つのコインしか使っていないから」
クラウンはリックの手を見ながら考える。視覚情報以外でコインを当てる......となると、それ以外で判断できるのは聴覚か嗅覚。
だが、コインは無機物であり匂いなど発生しないし、コインが手の中で固定されている以上は音も発生しない。なら、他に何があるというのか?
すると、リックがクラウンへと声をかけた。
「考えてるところごめんね。これは難しいから先に言ってしまうけど、気配なんだ」
「気配......」
「そうこればかりはすぐにどうこう出来るものじゃないからね。獣人族や竜人族のようなもとから感覚が鋭敏じゃなきゃね」
「ふふふっ、そうね。ズルと言えばズルになってしまうけど、私にもリックがどちらの手にコインを持っているかはわからなかったわ。でも、その気配のおかげで両手に持っていることがわかった。まあ、それは感覚が鋭敏と言われている竜人族でもしっかりと意識しなきゃ捉えられないものだけどね」
クラウンはエキドナの言葉を聞くと考え込む。気配......それはこれまででもっとも頼りにしていた感覚だ。だが、それはあくまで生体だけだ。生きていない無機物にまで気配があるとは思えない。
すると、リックがクラウンへと両手を開いた。
「ちなみに、答えは左手ね。そして、戸惑っているようだけど、お得意さんなら知っている感覚だと思うよ。例えば、殺気を帯びた剣を向けられたときとかね」
「ああ、ある。それが気配なのか?」
「そう、それが無機物の気配。通常......というか、当たり前だけど、物には気配はない。だけど、その物に扱っている人の思いが乗れば、その物に気配が宿る。それは、本人の強い思いからしたら微々たるものだ。でも、その物には確かに気配が宿る。今僕が手に持っているコインにもね」
「......」
「あんまりわかっていないようだね。なら、例えばの話だけど、ある男が借金取りに追われているとする。そして、ある男は後ろを見ずに走っているとた恐怖を異常に感じる瞬間があった。その時咄嗟に男が避けると借金取りが剣を振り下ろした後だった......って感じ」
「それが物に気配が宿るってことか?」
「そういうこと。その男が無意識に切ろうとする剣にやどった借金取り気配を感じ取って避けたんだ。それが物に思いが宿り、気配を感じるということ。まあ、それが全てだとは当然言えないけどね」
そう言うとリックはクラウンのそばへとコインを置いた。
「それは相手の殺気を感じ取る力の応用といったところだね。まあ、それはいろいろと試しながら身につけていってよ。もう時間だからさ」
その瞬間、後方から扉が開く音がした。クラウンはその方向を思わず見るとそこにはリリスとベル、そして知らない女の人が立っていた。
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