第70話 暗号
第4章始まります
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クラウン達は兵長と別れを告げるとすぐ近くの街を目指さず、霊山に一番近くの街まで向かっている。
その訳は単純で、街を訪れた際にいろいろと目立ち過ぎたからだ。仕方ない状況だったとはいえ、それは周りの人達には関係ない。
故に、そこにいれば確実に奇異な目で見られることは間違いなく、また余計な面倒ごとに巻き込まれかねない。
なので、その街へと向かったのだ。ちなみに、移動手段はもちろん徒歩である。竜に乗って向かうという手段も考えられたが、それはエキドナによって「止めた方がいい」と言われた。
この世界には竜が2種類存在する。それは、人から竜へと変わるものともとから竜として生まれたもの。
その違いは下級種か上級種の違いらしいのだが、それの違いは竜になってしまえば、竜人族ではないと判断がつかないのだ。
また下級種の竜が時折近くの街を襲うことがあるということで、基本的にはどの街でも竜を迎撃する体制は整っているらしいのだ。
その状態で竜になって移動してしまえば、竜の見分けがつかない人族は迎撃へと動いてしまう。そうなれば、街へと入っていろいろと調達することが困難になる。
なら、「その近くまでバレないように飛んでいけばいいのでは?」と思うかもしれないが、それも難しい。それはなぜかというと......
「竜になると当然飛ぶために最低限必要な速度というのが存在するのよ。その速度はまず間違いなく周囲へと強風を吹き荒らす速度で、その状態で低空飛行してしまえば、そこら中の木々はなぎ倒され、少し遠くにいた人でさえも吹き飛ばしてしまうの」
「......なるほど、では逆に上空を飛べば、それはそれでどこにいるかもしれない人が竜の存在を発見して、それを他の人達に伝達。伝聞とは案外伝わるのが早いから、気が付けばあっという間に街は武器を纏った要塞に早変わりというわけか」
「そういうこと。だから、出来る限り早めに送ってあげたいのもやまやまなのだけどね」
「別に理由があるのなら構わない。俺も余計な面倒ごとは避けたいからな」
「あ、街が見えてきたわよ」
そう言ってリリスが指を指した先には小さめだが、立派な壁で囲まれて、大きな時計塔が見える街であった。
そして、その街の背後には目的地である霊山が見える。その霊山をクラウンは強い眼差しで見つめていた。
それから、門番まで辿り着くとリリスの出番だ。また、ロキは森でお留守番。
「ねえ、私達、身分証明書持ち合わせてないのだけど、通ってもいいかしら?」
「全員か!?それはさすがに出来ない」
「え~、良いじゃないですか先輩。あの男だけ調べちゃえばそれで~」
「ふふっ、良いこと言うわね。ただ、全員よ」
その時、リリスはその若い男の近くに寄っていくと目を赤く光らせた。そして、好感度が最低ラインをクリアしていることを確認するとその若い男の顎へと手を伸ばしていく。そのことに若い男は思わずゴクリと唾を飲み込んだ。何かを勘違いしたのだろう。
だが、その感情はサキュバスであるリリスには絶好の獲物でしかない。そして、その若い男と目を合わせると共鳴するようにその男の目も光った。すると、その男の目から光が消えていく。
「ダメかしら?」
「いえいえ、何の問題もないよ!さあ、どんどん通っていって!」
「おい、ダメに決まっているだろ!そこの少女!今何をした!」
「何もしてないわよ......ね?あんたもそう思わない?」
「イエス、マイロード!」
「え、えぇ......」
「おい、こいつは不真面目なところもあるが、こんな奴ではないとは知っているぞ!正直に吐け、何をした!」
リリスの特性が効き過ぎたのか若い男は自分が意図していない方向に勝手に暴走し始めた。どれほど性欲が強いのか。
そのことにリリスも思わず引いてしまう。すると、そのことでやはりベテランの男にその部分を突かれてしまった。こんなことで失敗するとは予想外だったリリスは、思わずため息を吐いた。
「仕方ない......膝まづきなさい」
「くっ!」
リリスはその男に手を向けるとそう言った。その瞬間、その男の周りだけ重力が変わったかのように、その男に重さがのしかかる。
その影響でその男は思わず膝を地面につけた。すると、リリスはその男の額へと手を触れさせる。
「何を.....する気だ?」
「安心して、私達にあった記憶を忘れるぐらい眠ってもらうだけよ」
そう言うと特性を使ってその男を眠らせた。そして、若い男に少ししたら起こすよう命令を刷り込むと街の中へと入っていく。
すると、その光景を面白そうに見ていたエキドナがリリスに向かって話しかけた。その笑みは実に興味ありありといった感じだ。
「ねえ、リリスちゃん。あれがサキュバスの特性というやつかしら、凄いわね。殿方ならまず虜にできそうね」
「それにもある程度の条件はあるのよ。特に相手が私のことを嫌っていたり、信用していなかったりしたらあの魔法も通じないの......ね?」
リリスは言いながらクラウンへと目線を向ける。その顔は実にニヤニヤとした顔であった。
その主張するような言い方はリリスなりにもなにかがあったのだろうということは、クラウンでも分かっている。だが、それに反応するのは負けなような気がして思わず顔を逸らした。
そんなクラウンの行動をリリスは愛おしく見つめた。最近はクラウンとリリスの間でこんな甘い雰囲気が増えてきた。まあ、それの原因は何かと問われれば、二人の心がちゃんと通い始めたということだろう。
とはいえ、この二人にそんな雰囲気を出している自覚がないというのが問題で、周囲からの鋭い目線にも気づかないぐらいだ。
その二人だけで済むのならまだ問題ないが、それに時折ベルも加わってくるとまたそれはそれは甘い雰囲気が、周囲を気にすることなく広がっていくのだ。
それは実に周りの人(特に男の冒険者)にとって、環境汚染と何ら変わらない。リリスとのやり取りだけで、そんな目を送るぐらいだ。今ベルも加わったなら、砂糖を大量に口から吐いて呪いの言葉を残しながら死ぬのではなかろうか。
しかし、そんなことは当然クラウン達には関係ない。別にわざと出しているわけではないが、勝手にそうなってしまうのは「仕方ない」と言ってもいいぐらいだ。その時、前方から向かって来る周りの視線とは別の視線を感じた。
周囲には人で混雑しており、正確な位置はわからないが、それはさして問題ないだろう。
なぜなら、その視線の主がこちらに向かって歩いて来るからだ。その視線からは敵意は感じられない。恐怖も感じられない。仕事としてやっているような感じだ。
そのことでクラウンは大体のことを悟った。だからこそ、あえて反応をしないようにその男とすれ違っていく。
その瞬間、その男から手渡しで一枚の紙を受け取った。そして、少し人通りの少なくなった場所に向かうとその内容を読んでいく。そして、その内容を読み終わるとエキドナに渡した。
「エキドナ、お前にも意見を聞きたい」
「あら、何かしら?......ふーん、なるほどねぇ......少し時間がかかるけどいいかしら?あと、旦那様にもついて来てもらえると助かるのだけど」
「構わない。俺もそのつもりだったからな」
「何を話してるです?」
「情報屋の仕事よ。二人に任せておけばいいわ。それじゃあ、私とベルは調達に行って来るわ。特に馬車なんかはこの先にも必要だからね」
「任せた」
リリスはクラウンとエキドナのやり取りを察すると別行動を提案してきた。それは、二人の仕事を邪魔しないためでもあり、そちらに任せた方が効率が良いという理由からだ。
それに過去には情報屋に頼ってきたことがあるが、自分が買った情報はロクなものじゃなかったものが多かったのであまり関わりたくないう思いもある。自分で情報を探した方が正確だったことが多いからだ。
しかし、エキドナに関してはリリスには信用がある。それは仲間であるということもあるが、これまでの旅の中で話してきたことで得た確信である。
故に、適材適所といった感じでもあるのだ。そして、リリスとベルがクラウン達のそばから離れるとクラウンはエキドナへと話しかける。
「それで『白い鳥が高らかに鳴く時、東に太陽が昇る。大地より吹き出るしぶきの前では多くの人が心安らぐ憩いの場所となる。その時、時が告げる鐘が光の行く先を導く時、歓迎の闇は同胞を誘う』という意味はわかるか?」
クラウンが言った言葉が渡された際に紙に書かれていた内容である。そして、それを見た時のクラウンの反応はわからないの一言に尽きた。完全にわからないわけではない。
この街に入る前に見えた時計塔、それが『時を告げる鐘』を表しているのだろう。また、『歓迎する闇』というのは、おそらくはリック達のことであろう。だが、それ以外がわからないのだ。
だからこそ、情報屋として動いていたエキドナを頼ったのだ。エキドナなら少なくともこういう暗号類のことは知識があるはずだからだ。それがダメだったら、先ほどすれ違った男に糸をつけてあるので、そいつに聞けばいい。
最初からそういう風にやればいいと思うかもしれないが、クラウンはこれを信用を確かめる一つの手段として使っていると思った。
故に、ズルをしてしまえば、せっかくの大情報源であるリックの組織との関係性が切れてしまう可能性があるからだ。
これはエキドナがいれば問題ないというわけではない。仮にエキドナがいたとしても、それは日が経つたびに風化していく情報となる。
一日そこらで前まで偽だった情報が真に変わることは少ないが、新しく出た情報が偽とは限らなくなるのだ。
また、情報屋は信用を繋ぎとして動く。故にクラウンがズルをすれば、クラウンの仲間であるエキドナの信用も失う。
そうなれば、エキドナは新たな情報を得ることが難しくなる。となれば、困るのは自分達だ。聖王国の動向がわからなくなるのは非常に厄介だ。なので、それはあくまで本当の最終手段というわけだ。
すると、クラウンの言葉にエキドナは答えた。
「ええ、分かるわよ。でも、これをわかるのはあくまでもこの街の地形や目印となり得るものを知っている人だけ。だから、これは旦那様向けというより私向けの内容ね」
「そうか。なら、案内してくれ」
「ふふっ、頼られちゃうなんて。普段とは違うむず痒い感覚だわ。なんか気分が高まってきちゃう」
「興奮すんな、欲情竜が。さっさと行くぞ」
そして、エキドナの先導のもとクラウンは歩き始めた。
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