第7話 会話#2
ヒロインはキャラ濃いめでいこうと思ってます。
神殿の中は驚くほどに目だったことは無かった。薄暗くて、壁に何か絵が描かれているぐらい。強いて言えば、森よりも魔物が若干弱いことぐらいか。
「魔物が弱いんじゃないわよ、あんたが強いの」
「こんなんじゃ、俺は強くなれない。もっと、強い奴はいねぇのか」
「そうそういてたまるもんか」
舌打ちしたような顔をしているクラウンにリリスは呆れたため息を吐きながら、傍にいるロキを撫でる。
こんな戦闘狂と一緒にいたらこっちまでおかしくなってしまう。癒し成分を補充せねば。そして、撫でられたロキは気持ちよさそうに目を細める。
少年は<気配察知>を使いながら、頭を左右に動かし反応を探す。だが、反応はあるが、すぐ近くにいるわけではない。そのことに少しずつイライラしている。
「そんな顔したってしょうがないじゃない。ここは神殿と言いつつも中身はダンジョンなんだから。下にいけば、もっと強い魔物がいるかもね」
「なら、さっさと行くぞ」
「道分かるのかしら?ちなみに、私は分からないわよ」
「......チッ」
クラウンは再び舌打ちした。挙句の果てに襲ってきた魔物に八つ当たり。もはやどっちが魔物なのか。いや、この男に限っては魔物の範疇を超えてるか。それから、クラウン達は迷いに迷いながらも15階層まで降りてきた。
「おい、こんなに長いものなのか?」
「こんなもんよ、どこもそこも。あんた風に言うなら、『張り合いがない』ってところね。」
「.......」
「ウォン!」
「ロキ、図星じゃねぇぞ。」
と言いつつもクラウンはどこか悔しそうな顔をする。リリスは「なんでロキちゃんの言葉が分かるのよ」とツッコミを入れながら、またしても呆れた顔をする。
「え、なに!?何の音」
「......。」
クラウンたちはある部屋に入ると突如として警告音のような音がなり、入り口と出口が勝手に閉ざされた。リリスは思わず驚いて、何事かと辺りを見回す。一方、クラウンはというと不敵な笑みを浮かべていた。
「グオオオオオオ!」
「ギャシャアアアアアァァァァ!」
「ワオォォォォォォン!」
この部屋にある入り口と出口以外から人が通れるような穴が開くとそこから大量の魔物が溢れてきた。魔物は血気盛んにこちらへと向かって来る。そのことに、クラウンは大きく笑った。その表情は悪役そのもの。
「ははははは、これを待っていた」
「笑い事じゃないわよ!?っていうか、あんたどこの部屋に入ってるよ!?」
「道を知らないからって、俺に任せたのはお前だろ?なら、キレんのは筋違いじゃねぇか?」
「うぅ......こういうときばっか、正論言って......」
「ウォン」
思わずロキが「仲良いな、お前ら」といった感じで吠えたが、誰も気にしてもらえずしょんぼりした顔を浮かべる。そんなことは露知らず、リリスは大きなため息を吐くとクラウンの一歩前に出た。そのことにクラウンは怪訝な顔をする。
「何をする気だ?」
「何って、戦うんでしょ?だったら、私に任せて」
「なぜだ?」
「信用してもらうためよ。いくら同盟関係とは言え、私が弱かったら意味がないでしょ?」
「......そうか、ならやってみろ」
「ええ、任せて」
クラウンはリリスが魔物の群れに向かって行くとその場に座り込み、ロキを撫でながら観戦した。ロキは「少しは気づけよ」と先ほどのことを根に持った感じで尻尾をクラウンにペチペチさせる。
一方、リリスは軽く深呼吸すると片足を軽く上げる。そして、軽く笑って見せた。
「かかってきなさい。特別に蹴り殺してあげるわ」
「グガアアアア!」
リリスは襲ってきた虎の魔物の攻撃をバク転しながら避け、さらにその虎の魔物の頭を跳ね上げる。
「風突」
そして、リリスはすぐさま体勢を整えると空中で死に体になっている虎の魔物の腹部に、風を纏わせた蹴りをぶち込んで吹き飛ばす。
「ギャジャアアアアアア!」
「ウォォォォォォォ!」
「ピィ――――――――ッ!」
一瞬の隙をついて犬の魔物が一気にリリスのもとに駆けて行き、上からは鷲の魔物がリリスの頭部に目掛けていき、蛇の魔物が犬の魔物を後を追って突撃してくる。
リリスは向かって来る犬の魔物に向かっていくとしゃがみ込んで、犬の魔物足を払おうと地面スレスレに足を投げ出した。犬の魔物はその攻撃を避け、通り過ぎ去るとすぐさま方向転換してリリスに突撃した。
「ピィッ!」
「キシャアア!」
リリスはそれを冷静に見極めると先に空中から攻めてきた鷲の魔物をサマーソルトキックで、胴を伸ばしてきた蛇の魔物に向けって蹴り飛ばす。そして同時に、犬の魔物の攻撃を避ける。
犬の魔物はまたしても方向転換し、リリスに飛び掛かって来るが、上手く着地したリリスは地面を手に付け逆立ちの状態になるとそのまま足を開き、回転し始めた。
そして、回転の勢いで犬の魔物の蹴り飛ばし、そこからバク転しながら蛇の魔物に近づいて頭上までジャンプする。
「おりゃあああああ!」
「キシャアアアアアアア!」
リリスは空中で体勢を立て直すと蛇の魔物の頭にかかと落としをかまして、地面へと叩きつけた。すると、蛇の魔物は頭を潰され、その頭は無残に飛び散った。
その戦いを見ていたクラウンは、リリスはどうやら足技主体の攻撃型らしいと分析した。これは何と言ったか......サバットだったか?
すると、リリスは前髪をかき上げると先ほどのツンツンした態度とは違い、妖艶な笑みを見せた。
「あははははは、私に逆らおうなんて百年経ったって足りないわよ」
「.......」
「さて、次に私にお仕置きされたいのはどいつかな~」
「.......」
クラウンはリリスの変化に思わず目を見開いた。「なんかSMやってる女王様みたいだな」と思わず脳内にそんな感想が思い浮かんだ。その感想はあながち間違っていないと気づくのはそう時間がかからなかった。
「それじゃ~、そいつ。特別に私の足をなめさせてあげるわ、感謝しなさい」
そういって指名したのはトナカイの魔物。そのトナカイの魔物は地面を蹴って戦闘態勢に入る。しかし、リリスはすぐに言葉を変えた。
「ん~、やっぱ、やめた。気が変わったわ。あんた一人じゃ、私の高ぶるこの気持ちを発散できないしね。全員、相手してあげる」
そうして、リリスは魔物の群れに突っ込んだ。その戦っている光景は音声のみで聞けば、ただリリスが女王様口調でいろいろなこと(時々、ピ――――という規制が入りそうな言葉も含む)言っているだけなのだが、映像も含めると蹴りのみでやる殺戮解体ショーのようなものだった。
「あいつ、性格変わり過ぎじゃね?」というクラウンの意見はとてもわかる光景であった。
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「......見んじゃないわよ」
「無理言うな。あんな面白いもの触れない方がどうかしている」
「うぅ......」
目つきがいたずらっ子のようなクラウンにリリスは思わず上気した顔を隠した。しかし、まさかあんな魔物に対しても出てしまうとは、さすがに想定外な事態だった。
「それで、あれはなんなんだ?お前の性癖か?」
「そんなわけないでしょ!?あれは......『性癖』じゃなくて『特性』よ」
「どういった?」
「さ......サキュバスの......」
「.......」
恥ずかしそうに答えるリリスにクラウンは疑わしそうな目を向ける。こいつがサキュバス?色気も皆無で、ツンツンした態度で、胸もないこいつが?......フッ。
「今、なにかの冗談だろって思って笑ったでしょ!?」
「良く分かったな、その通りだ。な、ロキ」
「ウォン」
「ちょ、ロキちゃんまで反応しなくたっていいじゃない!」
「まあ、そう言われても仕方ないな」といった感じで返事をするロキをクラウンはそっと撫でる。何やら隣でピーピーキャーキャー言っているが、無視しとけ。
「しょうがないじゃない、気分が高まってくるとこうなるのよ!それにサキュバスは人によってタイプが違っているの!例えば、Mになる人もいれば、ヤンデレ、メンヘラ、言いようもない変態とか.....」
「それでお前はSの女王様と?」
「そ、そういうことよ、気分が高まるとスイッチが入ってしまうの。けど、なぜか母様とは違うのよ。本来、血でその特性は受け継がれるはずなのに.....」
リリスは顔を赤らめて実に恥ずかしそうな表情をしている。それに対してクラウンは仮面の奥でのバカにしたような笑みが止まらない。コイツ、キャラ濃すぎだろ。
「それに、私には別の問題もあるのよ。まあ、それは今は薬を飲んで押さえているけど」
「問題?薬?」
「私のもう一つの特性を抑えるためのものよ。まあ、ほとんど自業自得なんだけど」
「自業自得?なにがだ?」
リリスはクラウンがオウム返しのように聞いた単語を聞いて思わずハッとした表情をした。不味い、口が滑って余計なことまで話してしまった。
リリスはできる限りその部分に触れて欲しくないのだが、クラウンの興味を完全に引いてしまってのである。自分でまいた種なのだが、激しく後悔した。だが、今更言わないという選択肢はこの男の前にあるのだろうか、いやないだろう。
「言わなきゃ......だめ?」
「......言えよ」
クラウンはニヤッと笑った。リリスはその表情で悟った。この男、完全に分かってやがる。い、言わなきゃダメなのか.....。そのことにリリスは再び顔を赤くする。
「そ、そのサキュバスは成人しした時に、か、か、貫通していないといけないのよ!そうしないと上手くコントロールが出来ずに周りに被害が出過ぎるから、誰でもいいから一度はやっとかなきゃいけないの!でも私は、そのことに抵抗があって、やっぱす、好きな人が最初が良いからって思って、お母さんに特別な薬をもらっているの!ねぇ、この意味わかる!?分かるよね!?」
「ああ......」
リリスは一気に言葉を連ねてそのまま言い切った。その羞恥心を隠しもせずに「それがどうした」と言わんばかりの表情は初めてクラウンを気圧させた。だが、その表情が赤いせいで説得力がやや欠けているが。
クラウンは何とも言えない雰囲気に、何とも言えない表情で、押し黙った。簡単に言うと言葉が見つからない。茶化す程度の軽い気持ちで聞いたが、本人にとっては重要なことだったらしい。
クラウンはリリスを一瞥するが、目が合うとすぐに睨み返される。出会って数日で、もうここまで肝が据わったのか。ある意味感心する。
「まだ、薬はあんだろ?」
「そうね、まだ........ない」
リリスはクラウンに聞かれて、指輪の中にある薬があるか確かめた。だが、その薬がなく、リリスは表情を一転させて青ざめさせた。そして、告げた言葉がさっきのだ。
「........」
「........」
「......森を出たら、勝手にしろ」
「な、な、なにバカなこと言ってんの!?私、大変なことになるんだからね!?同盟組んだでしょ!?その時は助けてよ、ねぇ聞いてるの!?」
クラウンとリリスは終始こんな調子でダンジョン内を巡っていった。そんな二人の関係性を喜ばしく思うロキであった。
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それではまた次回