第69話 別れを告げるとき
これで第3章が終わりになります。やっとここまで来た感じですね。しかし、3章でこの話数は、自分的にも想定外でした(笑)
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クラウンとリリスは話を済ませるとベル、エキドナ、ロキのいる場所へと戻ってきた。すると、ベルとロキがクラウンにタックルをかますように抱きついてきた。
そして、ベルはまた子供のように泣いた。クラウンは「さすがに泣き疲れてるはずだろ」とは思いながらも、ベルの頭とロキの顎に手を触れさせる。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"る"じざま"――――――――!よ"がっだでずう"う"う"う"う"う"!」
「ウォ―――――――――ン!」
「おい、ベル!泣き過ぎだし、鼻水をつけんな!あと、ロキ!お前はお前でこの近距離で遠吠えすんな!耳が痛てぇ!」
クラウンは段々とベルとロキの感情丸出しアタックがウザったく感じてきたのか引き離そうとするが、ベルは全身でクラウンの胴に抱きつき、ロキは片手をクラウンの胴を引き寄せている。そのせいで上手く力が入らないし、ベルとロキから離れようという意志も感じられない。
そして、クラウンは「仕方ない」といった感じでため息を吐くとまずはロキから首筋に抱擁するように腕を巻き付けた。それから、ゆっくりと撫でていく。
「ロキ、お前にはいろいろと世話をかけたな。お前と出会った時、お前にはきっと俺に近づく目的があったんだろうが、そんなことはもうどうでもいい。俺はお前がいてくれて助かっている。これからもお前にはそばにいて欲しい」
「ウォ―――――――――――――ン!!」
「だから、耳もとで遠吠えすんな」
ロキはクラウンの言葉に嬉しそうに吠えるとブンブンと砂煙を巻き起こすように尻尾を振った。そして、匂いを擦りつけるようにグイグイとクラウンに体を寄せていく。その押しはクラウンを後退させるほど。だが、クラウンは嫌な顔一つせずにロキから手を離す。
「です!」
「......はあ」
クラウンがベルを見るとベルはロキと同じようにして欲しいのか両腕を大きく広げていた。しかも、瞳は輝かしく煌めいていて、もうすでに興奮しているのか鼻息を荒くしている。そのことにクラウンはため息を吐いた。だが、仕方ないから同じように抱擁してやる。
「ベル、お前がいてくれても助かってる。お前を勝手に連れてきたことは、今も後悔していない。だから、俺もお前を信じる。これからもよろしくな」
「はいです!」
ベルはクラウンの首筋に巻いた腕の引き付け強くするとその首筋に噛みついた。甘噛みではあったが、クラウンはそのことに驚いた。
だが、ベルは機嫌が悪いった感じでは無さそうだ。なぜなら空を飛べそうなほど尻尾を振っているからだ。
「獣人族は愛情表現の一つとしてそういう風に噛むそうよ。でも、それはあくまでも信用以上の特別な人物にだけって言ったら通じるかしら?」
「ああ、わかる」
クラウンはベルの頭を軽く叩くと引き離した。すると、エキドナが両腕をクラウンに向けるように伸ばしていた。意味することは一つ。
なので、クラウンはため息を吐くとその手をハイタッチするかのように弾いた。
「もういけず......」
「うっせ、お前とは会って数週間しか経ってねぇじゃねぇか。それにお前にそんなことしてみろ、何が起こるかわかったもんじゃねぇ」
「そうね、少なくとも人様には見せられない構図になることは間違いないわね」
「もうリリスちゃんまで......私だって、節操ぐらいは身に着けてるわよ。ただ、それをしても許可されてるからしてるだけで」
「誰も許可してねぇよ」
「誰も許可してないわよ」
「ふふっ、そう責められるのもなんだか悪くないわね。早くしっぽりと過ごしたいわ」
エキドナが相変わらずなことにクラウンとリリスは思わずため息を吐いた。だが、これが自分が取り戻したかった世界の一つかもしれない。
自分は特別な存在としていたいわけじゃなかった。違う世界に来てもただ仲間と協力していろいろな困難に立ち向かっていければよかった。
だが、この世界はそのささやかな願望を否定した。そして、残酷な運命を叩きつけた。それからはもう滅茶苦茶であった。
自分が自分でなくなるような恐怖にどこか怯えながら、しかし、その恐怖に突き動かされて復讐という道を選んだ。選ばざるを得なかったというのもあるが。
そして、また自分が殺そうとしている神の力の一端を見た。その開きはあまりにも広かった。
しかし、当然このままでいられるはずがない。あいつは仲間の一人を殺したのだ。復讐は復讐を呼ぶ......まさにその通りかもしれない。俺はあいつを殺したくて仕方がない。それはもう元から持ちうる感情だ。
自分はもう完全に堕ちる一歩手前にまでいるのかもしれない。それを支えてくれているのは紛れもないリリス達。
だからこそ、完全に変わってしまう前にリリス達を信じることが出来るようになってとても良かったと思っている。だが、逆を言えばもう後がないということだが。
クラウンは一人でに考えていると無意識に握りしめた拳を見た。まるでその拳を自分と見立てて客観視うように。
「クラウン、もう考え過ぎないで。強さを否定しないで、無意識に自分を責めないで。あんたは強い。それは私達全員が感じていること。だからどうか、その拳を広げて、あんたが護りたいものを今度こそその手で掴んであげて」
「リリス......」
リリスはクラウンの手に触れるとその拳をゆっくりと開かせる。そして、その手に自らの指を絡めていく。より思いが届くように。
「私達はもう一人一人で生きてきたわけじゃない。仲間がいる。その仲間を連れて来てくれて、その絆を育ませてくれたのは全部あんたのおかげ。それはどうか誇って欲しいの」
「俺は......」
「私はあんたを信じてる。ロキも、ベルも、エキドナも、皆あんたを信じてる。あんたもそうでしょ?」
そう言うとリリスは仮面を見た。その仮面は現在クラウンの腰へと付けられていた。つまりはもうクラウンは全員の前でも仮面を外しているということ。その視線の意味をクラウンはちゃんと理解していた。
「ああ、そうだな。すまん、また一人で不安がってしまった。自分の弱さを見せつけられたようだったからな」
「皆同じよ。だから、共に強くなっていくんでしょ?」
「そうだな」
リリスは思いを伝えきったかのように手を離すと我に返ったのか照れくさそうに、その握った手を後ろ手に隠した。しかし、その熱は再び感じたかったのか自身の両手を合わせ、指を絡めさせる。
「主様の素顔、初めて見たです」
「ウォン」
「ふふっ、思ったよりも男らしく、優しい顔ね。それにしても、その仮面は『戒め』って意味で付けてたのじゃないかしら?」
それは、砂漠の国にいた頃にエキドナとクラウンが会話した時のことだった。その時に、確かにクラウンはその仮面を「戒め」と言っていたのだ。
なので、取ってしまったら、「戒め」という意味はどうなってしまうのか聞いてみたくなったのだ。
すると、クラウンはその問いに答えた。
「そうだな。その意味は確かにあった。だが、もう必要ない。それはしっかりと心に刻まれ、お前たちがいれば、もう俺はこの仮面をつける必要は無い」
その言葉に全員がドキッとした。その強い瞳からの優しい笑み。それはリリス達の心を溶かしていくには十分な熱量を所持していた。だから、こそリリス達はトロンとした瞳で返し、エキドナは......
「ああ、いい!いいわ!なんだか気分が上がってきちゃったわ!その顔だけでどれだけでもイケそうよ!」
「こら、あんた!せっかくの良い雰囲気をぶち壊しに来るんじゃないわよ」
「くくく......ははははは」
エキドナの発言にリリスはさすがにといった感じで突っかかりに行くとその光景を見ていたクラウンが大きく笑った。
そのことにリリス達は思わず目を丸くする。それは今までこんなクラウンの姿を見たことがないからだ。
自分の都合通りの展開や強者との戦いで時折、不敵な笑みを見せたことがあったが、それ以外ではどんな感じであっても笑う顔は見せたことがなかった。大概は呆れたようなため息だけ。そんなクラウンにリリスは思わず口角を緩める。
もう特性を使って見なくてもクラウンがどれほど自分達を信じ、心を開かせているかが伝わってるからだ。だからこそ、一抹の不安が拭えない。
それは先ほども見せたが、クラウンが自らの闇を制御できていないこと。
二人でいた時も感じたことだが、先ほどもリリスが止めなければどうなっていたか。闇の制御が、あの純粋な悪の人格がクラウンの心に潜んでいた時の方が、安定していたというのはなんとも困ったことである。
そして、一番問題なのはその制御をクラウン自身が出来ていないということだ。
どうにか気づいて欲しいものだが、(それはリリスでさえ気づくことが難しいというのに)本来の心を取り戻したクラウンが出来るとは到底思えない。
となれば、そうならないようにリリス達がカバーしていかなきゃならないということ。全く、世話のかかることだと思わざるを得ない。
そう思うとリリスはふとロキ、ベル、エキドナと順に目を配っていった。すると、全員がわかったように頷く。まあ、ここにいるぐらいだ。それぐらいは気づいて当然なのかもしれない。
すると、クラウンが不意に動き出した。そして、歩いていった場所は兵長の墓。その前で膝をつくとその盛り土に手を触れさせた。
「お前もいてくれて助かった。お前から教わったことも、知ったこともいろいろあった。そして、命を張って救ってくれて感謝する。お前が、過去のお前達が果たせなかった無念は俺が預かった。必ず、その無念を晴らして見せる」
クラウンは触れさせた右手とは反対側の手で拳を作るとその手を胸に当てた。目には見えない兵長の意思を掴み、胸にしまい込むかのように。
「すまんな......お前のことは信用できたが、まだ今のお前は信用できそうにないんだ。俺の中でもいろいろと止まったり、迷ったりしてるんだ。不審感が拭えないんだ。だが、お前のことだ。きっと神には屈していないだろう」
すると、クラウンは立ち上がって近くの花を千切った。その行動に続くようにリリス達も花を千切っていく。そして、クラウンが再び墓の前に戻ってくるとその花をその場に置いた。それにもリリス達は続いて置いていく。
「安らかに眠れ。お前の約束を果たして再び戻ってくる」
そう言うとクラウン達は去っていった。
兵長の墓にある花はそよ風に吹かれ揺れていた。
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場所は変わって、ここは真っ白い雲に覆われた果てしなく広く続く空間。その一部に王座のような椅子があり、そこに一人の男が頬杖をつきながら座っていた。
そして、その男が見下ろす先には、ダルそうにも背中を曲げながら膝を地面につけ、その顔からは汗を流しているラズリの姿があった。
「申し訳ないネ。おれっち、任務を果たせなかったネ。処分はいかようにも」
「あー、そのことなんだけどな。別にいいや。逆にあの行動は良かったと思うよ。うん、いい影響を与えた。さすが、僕の作り出した人形だね。僕のシナリオをよりよくしてくれている」
王座に座る男はある男を殺すというラズリの任務の失敗を責めるどころか、むしろ褒め倒した。そのことにラズリは思わず驚きの表情を見せる。
「あ、そうそう。僕のシナリオ的には君の出番はしばらくない。ゆっくりとしているといいよ」
「ですが、おれっちは任務を―――――――――」
「僕の言葉を聞いてなかったのかい?」
その言葉を聞いた瞬間、ラズリは心臓ごと締め付けられるような金縛りにあった。そして、その顔からは滴るほどの汗を噴き出す。だが、その男はそれだけ言うとすぐに優しい笑みに戻した。
「さてと、あいつの居場所は掴めた?」
「いいえ、まだです。申し訳ありません」
その男がどこかに向かってそう言うとその場にいない男の声が響いてきた。そして、その言葉を聞くとその男は「うーん」と唸りながらも、それぞれの手の人差し指だけを突き立てた。
「それじゃあ、次は勇者と魔王をズドーンと一回目の衝突だね」
その男はそれぞれの人差し指を突きわせるとニヤリと笑った。
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