第68話 最初の仮面が剥がれる時
とりあえず、昨日と今日で書きたかったシーンが書けたので、結構満足
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「......落ち着いたかしら?」
「すまない、迷惑をかけた」
「ふふっ、あんたからそんな言葉を気なんて、まだ弱ってんじゃない?私がサキュバスとして慰めてあげようかしら?」
「そんな度胸もないくせに、無理して言うな」
「別に無理して言ってるわけじゃないんだけど......」
クラウンはリリスから上体を話すとリリスと少し軽口を言い合った。その行動でリリスはクラウンが良く知っているクラウンに戻ってきたことを嬉しく感じたが、若干寂しさも感じた。全く、自分はどこまでぞっこんなのか......悪い気はしないけど。
すると、クラウンが弱った姿を隠そうと仮面を深くかぶろうと探したが、その仮面はどこにも見当たらないことに気付いた。
そういえば、起き上がった時に随分と外が明るく感じたが、そういうことだったのか。しかし、不思議と嫌な気分はしないのはなぜだろうか。
その時にはもう雨は止んでいた。
「私、あんたの顔を初めてみたけど、目つきが鋭い割には優しい笑みをしてるのね。私、その顔好きよ」
リリスは膝を折りたたんで三角座りをするとクラウンをしたから覗き込むように見た。すると、クラウンの反応がいつもとは違った。表情はわかりづらいが、どことなく恥ずかしそうに目を逸らしたのだ。そのことにリリスは思わず口元をニヤけさせる。
すると、リリスはそのニヤけを払拭するように立ち上がるとクラウンの仮面を拾いに行った。
「はい、これ。あんたのでしょ?」
「ああ、助かる」
リリスはクラウンに仮面を渡すとある方向を指さした。
「少し開けた場所に行かない?ここじゃ暗いし、気分も沈みそうだわ」
「......わかった」
そう言って、リリスとクラウンが向かった先は花畑が眼下に広がる少し高いところ。その場所で二人は腰を下ろした。そして、しばらくの沈黙の後、リリスは口火を切った。
「......あの男がね、私の居場所を二度も奪ったの。とっても恨んでたし、憎んでた。あんたに会った時に最初に言ったでしょ『ある男を倒すため』って。今考えれば、その時点で負けていたのよね。『殺す』じゃなくて『倒す』だもの」
「......」
「そして、いざ会ってみれば、私は恐怖で動けなかった。仲間がやられていく光景をただ見させられているだけ。『また、仲間を失う。私がそばにいるとみんな死んでしまう』って本気で思ってたの。それから、あの時は護ってくれて、逃がしてくれた人がいたけど今はもういない。そうも思ってたのよ。でも、違った。あんたがいた」
「俺は逃げただけだ。本当の強さをまだ知らずに、調子に乗っていただけだ」
「今回で知れたじゃない。でも、良かったとは言わないわ。大切な仲間を一人失ってしまったもの」
リリスはふと空を見上げる。さっきまで悲しい状況だったとは思えないくらいの快晴。いつの間に曇っていた空は晴れていたのか。その時、リリスの目から涙が溢れ、頬を伝ってこぼれていく。
.......あれ?おかしいな。さっきまで流れてなかったのに。クラウンがそばにいてくれるから安心しちゃったのかな。クラウンの前で出来る限り弱いところは見せたくなかったのにな。
「これでも被ってろ」
その時、クラウンが持っていた仮面をリリスの顔へと被せた。リリスはそのさりげない優しさが後押しとなったのかその仮面を両手で押さえて、嗚咽交じりに号泣し始めた。
そんなリリスの様子をクラウンは横で感じながら、兵長の手向けとばかりに近くで咲いていた花をちぎると花畑に向かって投げた。
「......俺はお前がいてくれて良かったと思っている。これは純粋な気持ちだ。どうももうお前らを駒としては見れなくなってしまっているような気がするんだ。ロキと同じで、いて当たり前のようなそんな感覚」
「あ"あ"あ"あ"あ"あ......うぅ、グスン」
「だから、あの時、お前が光に見えたんだろうな。きっとあの時、闇に飲まれてしまっていたら、『俺』という一人の人格は完全に消えていただろう.......どうしてだろうな、もう人は信じないと思っていたのにまた信じてしまっている」
「.......グスン」
「だからこそ、また裏切られるのが怖い。どうしようもなく、それが一番怖い。それに一度でも完全に人を拒絶してしまったせいか近づき方もわからないんだ。俺は何をしたら信じてもらえて、信じられて、裏切られずに済むんだ?」
「......」
「俺は本来ならもうこの気持ちすら持つのもおこがましいのかもしれないな。信じてもらう前に悪を重ね過ぎた。必要最低限で押さえられたはずだ。俺の力ならわざわざ殺さなくても全てを成すことが出来た......なあ、こんな俺でもお前は信じてくれるのか?」
「......信じるわよ。それが私の恋だから」
「!」
その時、リリスは仮面を取ってクラウンの胸ぐらを掴むとその頬にキスをした。その行動はクラウンの思考を少しの間停止せた。
その行動はクラウンにとってあまりにも予想外の行動であったからだ。そして、クラウンは思わずその頬に手を触れさせる。ほんの僅か熱が残っている。
すると、リリスは泣いて乾いた後も拭おうとせず、クラウンにただ自慢げに笑って言った。
「こんな行動も出来てしまうぐらい、あんたを信じているわよ。私はね、もうあんたがいないとつまらないのよ。あんたがいなければ、寂しいし、退屈、でも逆にあんたがいるのなら、私は嬉しいし、楽しい。それぐらいの感情はあんたも分かっていると思っていたけど?」
「......分かっている。だからこそ、戸惑っていたのだ。ベルもエキドナも全く裏を見せようとしない」
「見せようとしないじゃなくて、もう見せてしまっているから見せようがないのよ。それだけあんたが信用できると思ってのこと。理由は色々あれど根幹は一緒よ。私達はあんたのことが好きなのよ。好きだから一緒にいたい。これになんか文句でもある?」
「......ないな」
リリスのドヤ顔にも似た表情からの発言にクラウンは思わず笑ってしまった。そんな仏頂面だったクラウンが笑ったことに、リリスの心臓はトクンと跳ねる。そして、もはや無意識という感じで熱を帯びた視線を送ってしまう。
だが、すぐに気分が落ち込んでしまう。それはこの先の旅のことを思うと。この先はさらに辛いことが待っているだろう。それはもはや確定事項といっても差し支えはない。
そして、仲間である兵長を殺したあのラズリという神の使い。きっとまたどこかで戦う。そうなった時に勝つことは出来るのだろうか。
その時、リリスの気持ちを読み取ったようにクラウンは言った。
「勝つ。俺が、いや、俺達がいるからな」
「......そうね、そうだったわね。なんかあんたに言われるのは癪だわ」
「勝手に言っとけ。だが、お前は望んだはずだろ?『私達の痛みを拭って』って」
「......その言葉を急に言うのは卑怯よ」
リリスは思わず恥ずかしそうに塞ぎ込んだ。言葉を思わず口に出してこともそうだが、自分が感情をダダ洩れにして言った言葉をクラウンに繰り返されるのはとてつもなく恥ずかしい。
そんなリリスを見てクラウンは静かに口元を緩める。「やはりそうだったのだな」と。「この世界が今は明るく見えるのは」と。
これこそ一人でいれば見れなかった光景であり、忘れていた感情である。だからこそ、思うこともある。
「きっとこれで最後だろうな......」
「何がよ?」
「いや、こっちのことだ。気にするな」
「気になるに決まってるじゃない」という言葉をリリスはグッと飲み込んだ。クラウンが素直になって、私達を信じてくれるようになったのはとても嬉しい。けど、今はまだ不安定な状況だ。
圧倒的な強さの神の使いに襲われたことから始まり、兵長の残酷な死、自身の闇との葛藤。それらが全てほぼ同時的に襲ったから、クラウンの心は無意識に助けを求め隙を見せたのだ。
そこに自分は運よく滑り込めただけ。あの時、森の中に消えていくクラウンを追いかけなかったら、今頃どうなっていただろうか。
クラウンの纏っていた闇はあまりにも純粋過ぎる悪だ。その悪がクラウンを乗っ取ってしまえば、周囲にあるものを利用し、破壊し、目的を果たせば自らも壊していくだろう。それを防げたことは幸運であったと言っても過言ではない。
......それに、自分が好きなクラウンはそんなんじゃないしね。
「ねぇ、クラウン。お爺さんは良い人だったわね。ベルに対しては随分と甘いけど」
「そうだな。それにやたらとベルを俺に押し付けてくる。ベルも乗り気みたいでウザかった」
「ふふっ、やっぱりそんな感じだったのね。あんた達、なんだかんだで仲良かったものね」
「仲が良かったか......そうかもな。だからこそ、俺はあのジジイの仇を討つ。必ずな」
「......」
リリスはその時のクラウンの表情を見て少しだけ不安になった。その表情は、目つきは変わらないのだが、その瞳が黒々としてギラギラしていたからだ。素直さが出た分、そういう悪意に関しても余計に感情が出てしまったのかもしれない。確実に狂気度が増している。
しかし、「それは自分達がカバーすればいいことね」と思い直すと空気を変えるように言葉を告げた。
「ねぇ、これからもそばにいてくれる?いなくならないから、いなくならないで欲しい」
「違うな、それはお前らしい言葉じゃない。お前ならよく覚えているはずだろ?」
クラウンはリリスにニヤッとした笑みを見せるとそれだけでリリスにはクラウンの意図していることが伝わった。だからこそ、思ったことを告げる。
「クラウン、私のものになりなさい」
「リリス、俺のものになれ」
この言葉が二人が森で同盟を結ぶ前に言った言葉。若干変わっているが、それは今の状況から考えての発言だった。そして、二人は眼下に広がる色とりどりの美しい花畑を眺めた。
花畑の花は二人の心が通ったことを喜ぶかのように風に吹かれながら、その体を右へ左へと揺らしていた。
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