第57話 重力の遊戯場 マチスカチス#2
スピード感を意識して読んでもらえると良きと思います(`・ω・´)
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「あーもう!しつこい!」
「ですが、魔法が使えない以上、走るしかないです。私の膂力では、あれは破壊できないです」
現在、リリスとベルは走っている。とにかく走っている。それは、その二人の後ろから追いかけるように転がっている鉄球。
この場では、未だ魔力が霧散してしまって魔法を使うことが出来ない。故に鉄球を破壊できるリリスの魔法は封じられている。
また、ベルはあることを試したが、それは出来ないに終わったことがある。それは、竜人族に伝わる<竜化>の魔法。
ベルは覚醒魔力で一度視認したものは自由に使えるという魔法が使えるのだが、なぜか<竜化>だけはそれが出来なかった。なにかコツがあるのかもしれない。しかし、使えない以上、ここで考えても仕方がない。
「「はあはあはあ......」」
二人は少しずつ息を切らし始めている。それは一体どれぐらい経ったかもわからないほど一本道を走っているせいだ。終わりがあるのかというぐらい先が続いている。このことは二人に精神的なダメージを与え続けていた。
しかし、こんな所で立ち止まる訳にはいかない。分断された仲間達の安否も心配だし、なによりクラウンを一人にするのはいろんな意味で危険だ。
とにもかくにも、一本道だけしかないのなら、終わりが来るまで走るしかない。
その時、ベルの耳がピコッと反応した。そして、リリスに抱きつくように跳んだ。
「そこを離れてください!」
「え、ベル!?......!?」
リリスは突然飛んできたベルに横に弾かれながら受け止める。すると、先ほどリリスがいた位置には真上から大量の矢が降ってきた。そのことにリリスは思わず驚く。
そして、次にリリス達を一時停止させたのは、目の前の床が抜けた時であった。しかも、次の足を踏み出そうとするタイミングで。そこは見えない。ただただ深いであろう闇が見えるのみ。
しかし、それを悠長に見ているわけにはいかない。なんせ後ろから鉄球が変わらず転がってきているからだ。
「急にいやらしくなってきたわね!」
「私が先行するです。リリス様はついてきてくださいです」
そう言うとベルは一気に加速していった。その後をリリスが追う。ベルが右に避けるとそれに合わせて右に避け、上に跳ぶと合わせて上に跳ぶ。ベルが下に滑り込むように動けば、全く同じように動いていく。
すると、リリスはこの空間がやや暑く感じた。気のせいかもしれない、なんせ先ほどからずっと走っているのだから。
だが、妙に嫌な予感が絶えなかったリリスは指輪で防御結界を作りだした。そして、その結界内にベルを引き込む。
その時、両端の壁から穴が開いてノズルが出て来たかと思うと一斉に炎を噴き出した。まさに火炎放射器。
当たれば、皮膚を焼き爛れさせて、痛みで意識を飛ばすことも出来ずに地獄の苦しみを味わった後に死んでいただろう。しかし、それはリリスの危険予知とも言える判断で逃れることが出来た。
「はあはあ......あんなの他にどうやって通ればいいっていうのよ」
「大丈夫です?」
「まだ大丈夫よ。けど、この結界は維持にひどく魔力を使うの。だから、あまり使いたくないのよね。いつ魔力が必要になるかもわからないから」
そうは言いながら、リリスの顔色は先ほどよりも悪い。それだけ一気に魔力を消費したということだ。
そのことをなんとなく察したベルは再び先行しながら安全な道を探していく。これ以上、戦力を削られるのは不味い。しかし、そんなことはお構いなしに罠は続いていく。
すると、前方の天井から穴が開いて、道を塞ぐように二体のオークが降ってきた。しかも、二体とも盾を持っていて、攻撃もせず防御態勢に入った。
「あー!邪魔ね!」
「そこを開けるです!」
ベルは一気に間合いを詰めると二つの盾を弾くように<極震>を使った。その影響で二体のオークは腕が痺れたような感覚になり、思わず隙を開けてしまう。
そこにリリスが向かっていく。そして、一体のオークの顔を蹴って首を折るとすぐにもう一体のオークの顔を足で挟んでねじ切った。
そして、再び走り出す。
「伏せるです!」
「え、なに!?」
リリスが走り出すとすぐにベルはリリスに抱きついて、地面へと伏せさせた。そのことにリリスは思わず困惑する。
なぜなら、前方からは何も向かってきてないのだ。罠の一つも発動している様子はない。なのにベルはそのような行動をとった。
するとすぐに、その答えが出た。それは二人の後方から槍が飛んできていたのだ。そのことにリリスは思わず目を見開く。そして同時にベルがいてくれたことに感謝した。
だがすぐに、唇を噛む。それは今度は後方にも注意を向けなければならないからだ。ただの鉄球かと思えば、このタイミングで仕込み槍を出されるとは完全に油断していた。とはいえ、後悔にふけっている暇はない。
この罠を防げてことは良かったが、鉄球との距離は大幅に詰められた。そして、チラッと二人は後ろを見ると鉄球の形状がいつの間にか変化している。それは均等に鋭く針がついているのだ。これで刺されれば、まず死ぬ。
何を考えていても仕方がない。やるべきことはただ一つ。走って生き延びるだけ。
「行くわよベル」
「はいです」
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「ここはどこだろうかの。それにクラウン君は......まあ、大丈夫だとして、リリス君とベルが心配じゃの」
「そうね、私の夢の三色丼のためにも二人はいなくてはならない存在だわ。是非とも無事でいなくては」
「なんかその言葉が酷く卑猥に聞こえるのじゃが......」
「ふふっ、それ以外になんの意味があるのかしら」
兵長は何とも言えないため息を吐いた。こんな状況でそれを本気で言えるだけ頼もしいということか。
しかし、ここはどういう空間なのかサッパリだ。見える限りにブラックホールのようなものが空中に点在していて、その間を赤い線と無数の武器が宙に浮いている。
それからまた、この場には足場はない。向こうに見える道まで底なしの闇があるだけ。つまりはこの場を飛んでいけということ。
もちろん、後ろに道はない。そしてまた、この場も魔法が使えない。それ以外に望みがあるとすれば、エキドナの<竜化>であるが......
「エキドナ君、この場で竜になることは可能かの?」
「問題ないわよ。旦那様の推論が正しければ、私の<竜化>は体内から変質させる魔法だから使うことも出来るわ。試してみようかしら........竜化モード(地)」
エキドナが魔力を高めるとその場で白き鱗を輝かせた竜になった。どうやら問題なく使えるようだ。なら、この場を突破できるだろう。後は目の前にある赤い線が気になるところだが。
すると、エキドナから辛そうな声が掛けられた。
「おじ様、どうか早く背中に乗ってくださらないかしら?あの黒い点が私の体を吸い込もうとしているのよ」
「なるほど、やはりか」
兵長はエキドナの背に乗ると一気に飛び出した。なんとか黒い点に吸われないように無理やり体を維持していく。
すると、そのエキドナ達に向かって周りにある武器が一斉に襲いかかってきた。兵長は剣を構えるとその武器がエキドナに刺さらないように弾き飛ばしていく。
前方から来た武器を上から下に弾くとそこから横を向いて、横から来た武器を弾いた。また、その場で上体を逸らすと横から通ってきた剣の柄を左手で掴むとそれを振り下ろした。また、後ろに振り返ってその剣を投げると再び右手の剣を横に振った。
また、エキドナの方でも極光を放って武器を蹴散らしていく。その際、黒い点にも放ったがそれは見事に吸い込まれた。
武器を弾きながら、兵長は考えていた。それは赤い線のこと。あれが何なのかはわからないが、この場にあるブラックホールと武器から考えてみれば間違いなく危険なものに違いないだろう。しかし、それを確かめないことには変わらない。
兵長は一つの飛んできた武器を手に取るとそれを前方に投げた。すると、赤い線に触れた途端真っ二つに分かれた。
その事実に二人は思わず驚き、歯を噛みしめた。なぜならその赤い線が隙間を埋め尽くすように張り巡らされているからだ。
「エキドナ君、あれには触れてはいかん。武器は儂に任せて、飛ぶことに集中してくれ」
「ふふ、頼もしいおじ様。若かったら食べてたわ」
「この状況でそれだけ言えるなら上等かの」
「なら、いくわよ......モードチェンジ(空)」
すると、エキドナの形は大きく変化し始めた。首や手足は短くなり胴体と一体化するようにくっつき、翼は少し小さくなって、全体的にジェット機のような三角の形になった。おそらく、この形は空気抵抗を最大限に減らす形なのだろう。
そしてその形になった瞬間、速さは段違いに変わった。だが、兵長には影響はなかった。そして、これは後に聞いた話だが、この時エキドナは風の保護膜を張っていたらしい。
エキドナは上に行ったり、下に行ったり、体を傾けたり、一度旋回していきながら、より安全な隙間を一秒にも満たない時間で選択をし続けていく。
また、その間にも武器は構わず降り注ぐ。エキドナの移動速度が上がったことで、飛んできた武器もより速くなって捌くのが難しい。
しかし、それを防がなければエキドナにその武器が刺さり、移動に支障を与えてしまう。そうなれば、この場で二人とも死ぬであろう。それだけは出来ない。
兵長は武器をとにかく捌いていく。自分はその武器でかすろうともとにかくエキドナには与えてはいけない。擦り傷、切り傷は増えていき、呼吸が荒くなり、腕が重くなっても剣を振るい続けた。
「後少しよ、踏ん張って!」
「承知!」
エキドナはその場で一気に上昇するとそこから一気に下降した。それが今の時点の赤い線を無事に抜けられる道。
自分だけが抜けるなら、こんな大回りな道は通らなくてもいい。しかし、兵長を乗せている今は、スレスレを狙ってしまえば、兵長に危険が及ぶかもしれない。
それから下降するとそこから真っ直ぐ飛んでいった。こんなところで死ぬわけにはいかない。そう心に誓いながら。
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