第56話 重力の遊技場 マチスカチス#1
神殿攻略開始!(`・ω・´)
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クラウン達は案内役のドワーフと離れてから順調に探索を進めていた。というか、逆に言えば、それほど何もなかった。
砂漠の神殿というわけかわからないが、この神殿ではやたらゴーレム系の魔物が多い。もちろん、他にもいるが総じてレベルは高くない。
「だから、それはあんたが強すぎるからでしょうが」
「そんなになってまで力を追い続ける......カッコいいです」
「ふふっ、惚れ直しちゃうわ。私のリビドーも高まってきちゃう」
「ジジイ、なんとかしろ」
「フォフォフォ、無茶言わんでくれ」
クラウンは若干一名の舐め回されるような視線を耐えるようにロキの毛並みを触っていた。やはり、この毛並みが一番落ち着く。だから、ベル、自分の尻尾を差し出してくるな。
そして、10階層に辿り着くと体が急にどっと重く感じた。気のせいかと思ったが、周りの仲間も同じように感じているのか手を握ったり、開いたりして感触を確かめていた。
クラウンは刀を抜いてその場で軽く振ってみる。この感じの重さは2キロぐらい増えた感じであろうか。
大した問題はないが、いつも通りに振ってしまうと的確に敵を仕留められないだろう。これは少しだけ意識を向けた方がいいか。
それから、進んでいくと一斉に魔物が現れた。だが、レベルがわかっている以上、いくら多くとも脅威にはなり得ない。そして、クラウンが歩きだそうとするとそれを制止するようにリリスが前に出た。
「いちいちあんなのを相手にするのは、面倒でしょ?だから、ここは私に任せて」
すると、リリスは大きく息を吐くとそれから思いっきり吸った。
「~~~~~~♪」
リリスはその吸った空気を全て吐き出すように美声を前方へと響かせた。すると、前方にいる魔物達は次第にバランスを崩していき、やがて総じて地面に倒れた。見た感じでは、どこかから血が出ているというわけでもなく、ただ眠っているようにも見える。
「今のは?」
「私はサキュバスよ?サキュバスは淫魔とも言われるけど、夢魔とも言われるの。故に相手を眠らせることが出来るのよ。きっとあの魔物は夢の中で盛っているだろうね」
「そんなことができるの!?ねぇ、こんどそれを私にかけてくれないかしら。旦那様が相手してくれなくて悶々とした日々を過ごしているのよ」
「それは自分でどうにかしなさい」
「私も――――――――」
「ベル、あんたはどうにか染まらないで」
リリスは相変わらず対処に困るエキドナに辟易としたため息を吐きているとふと視線に気づいた。その視線を探ってみるとそれはクラウンから向けられたものであった。
しかし、数秒だけリリスの方を見ただけで、何も言わず振り返った。そのことにリリスは怪訝な顔を浮かべた。
そして、クラウン達が進んでいくと目の前に大きく開けた空間が現れた。その空間には長方形のブロックが横に回転していたり、縦に回転したり、十字の形をしたものが斜めになりながら上下していたりしていた。しかも、それは全て宙に浮いていた。下は暗く底が見えない。
しかし、たとえ底が無かろうとクラウンには関係ない。なぜなら、クラウンは空中を歩ける人族なのだから。
なので、クラウンが<天翔>を発動させようとした瞬間、外に出した魔力が霧散した。その事実にクラウンは静かに目を見開く。そして、そのことを確かめるためにリリスの話しかけた。
「......リリス、適当に魔法を放ってくれ」
「え?いいけど」
リリスは前方へと腕を伸ばして火の玉を放った。すると、その火の玉は数センチいかずに霧散した。そのことに驚いたリリスはもう一度火力を高めて放つが、結果は同じ。
「なるほど、どうやらこの空間では魔法は使えないと思った方が良いようじゃの。それがどこまで続くかは定かではないが」
「みたいだな。だが、リリスが確かめている間、俺もあることがわかった。この空間では魔法は使えないが、それは体外へと出る魔法に限った話だ。俺の<天翔>は足元を魔力で覆う必要があるため出来なかったが、<身体能力強化>は体内で増長されるため使うことが出来た」
「ということは、この先の戦いは接近戦主体になるってことです?」
「そういうことになるな」
その話を聞いたリリスは思わず暗い顔をした。それはこの場において自分が足手まといになってしまうことに。するとその時、右肩に手が置かれた。リリスは思わずその方向を見るとそれはクラウンの手であった。
クラウンは無言のままタイミングを計って回転する長方形に飛んだ。リリスはどんどんと進んでいくクラウンを見ながら、先ほどの行為に呆気に取られていた。
それは本来のクラウンからしたらまず取らないはずの行動。その「気にするな」というような行動はリリスの鼓動を急速に上げた。
心なしか触れられた右肩があたたかく感じる。顔はちゃんと熱い。状況が状況だけに浮かれるのは不味いのだが、嬉しいのだから仕方ない。リリスは一度深呼吸して後に続いてく。
それから、アスレチックともいえるブロックを次々と超えていく。しかし、そのペースは段々と落ちていく。
「......このブロックを超えるたびに重力が強くなって来てやがる」
「おそらくはこの重さはプラス13キロぐらいかの」
そう言ってクラウンと兵長は後方を見る。それは残りの3人が遅れているからだ。重さ的には全員大した問題ではないのだが、普段慣れていな重さで長時間の負荷が加えられ続ければ、当然体力は削られてくる。
ここにいればいるほど、自分も含め状態は悪くなってくる一方。そこでクラウンはその3人に糸を飛ばした。そして胴体に絡みつかせると一気に引いていく。
「ごめんなさい、上手く体が動かなくって」
「ごめなさいです」
「わかっている。後少しだ」
「この糸は旦那様の魔法ね。ふふふっ、この糸なら縛りプレイとかできそうね」
「お前だけは置いていけばよかったな」
「ここでの放置プレイはさすがに嫌よ」
クラウンはもう何度目かのため息を吐くと進んでいく。そして、最後のブロックにやってくると全員が膝をブロックにつけた。
それはここだけ重さが異常なのだ。さながら3Gぐらいかかっている感じだ。しかも、相当重い。
クラウンはチラッと周りを見る。リリスとベルは完全に固まっていて動く気配がない。その他はかろうじて動けるぐらいだ。まだまともに動けるのは自分ぐらいか。
「!」
その瞬間、上方からヒュ―――――――――と音を立てながらこのブロックの上に何かが降ってきた。それは片手に盾、もう片方に槍を持ったケンタウロスであった。
しかも、このケンタウロスは重さを感じてないのか興奮したように両前足を上げる。
すると、そのケンタウロスはクラウン達に向かって一気に駆けていった。それに対抗するようにクラウンも飛び出すが、明らかに進んでいない。いや、進む速さがとても遅い。
「くっ!」
クラウンは突き出された槍を刀で逸らしながら、足を踏ん張る。すると、ケンタウロスは盾を思いっきり突き出してきた。それに対し、クラウンは咄嗟に左手を突き出して防ぐ。しかし、その重力下でのシールドプッシュは容易にクラウンの左腕を破壊した。
「うぜえ、離れろ」
「ガアッ!」
クラウンは左腕をすぐに回復させるとともに刀の柄を口に咥えた。そして、右手をケンタウロスの胴体に向けると<極震>による衝撃波を放った。
すると、空気という質量弾によってケンタウロスは数メートル吹き飛ばされる。
「旦那様だけに無理はさせないわ。それにここで動かなければ、竜人族の名が廃る!」
エキドナは気合を入れて走り出すとケンタウロスの正面に向かった。すると当然、ケンタウロスは動きが鈍いエキドナを攻めてくる。
しかし、エキドナはそのことをむしろ望んでいたように右腕を振り上げると部分竜化で右腕だけ竜の腕にした。
「誰が旦那様を攻撃していいと言ったの?」
「グファッ!」
エキドナは殺気だった目を向けるとその腕を思いっきり振るった。ケンタウロスはその攻撃をガードしようと盾を突き出すが、重力が乗った拳はその盾をひしゃげながらケンタウロスを吹き飛ばす。
「儂もなにもしないわけにはいかないの!」
「ウォン(引き裂いてやる)!」
すると、吹き飛ばされたケンタウロスに合わせるように兵長とロキが重たい体を引き吊りながら走った。そして、両側から挟み込むように同時に切り込んだ。
「ねぇ、クラウン。私をあのケンタウロスまで投げてくれない?」
「私もです」
「なぜだ?」
「あんたの役に立てないのが癪だからよ!」
「主様の役に立てないのが癪です!」
「......そうか。なら、仕留めせみせろ」
クラウンはリリスとベルの体を抱えるとその服を掴んでリリスを上方へ、ベルを前方へ思いっきり投げた。すると、ベルは死に体となっているケンタウロスの胸元へと袖から取り出した短剣を突き刺していく。
「ガアアアアアア!!!」
その痛みにケンタウロスは吠えた。しかしすぐに、自分のもとを離れたベルを蹴り込もうと両前足を上げた。
だが、そこにリリスが降ってくる。リリスは右足を大きく前に伸ばしながらケンタウロスの胸元へと踵を叩きつけた。そこは丁度短剣がある位置だ。
その短剣はケンタウロスの胸元を深く抉り、心臓に届いたのかケンタウロスは横に倒れたまま動かなくなった。そして、その体は粒子状に消えていく。
討伐を確認するとクラウンはリリスとベルを抱えてすぐにこの空間を抜け出した。すると、重力が元に戻ったのかとても呼吸が楽になった。しかし、未だ魔法を使える気配がない。
「お前ら、行けるか?」
「はあはあ、スーハ―.....大丈夫よ」
「私も問題ないわ」
リリスとベルの体力が回復したのを確認するとクラウン達は先へと進んでいく。そしてしばらくすると、小さな空間に現れた。その空間には先がなく行き止まり。
しかし、床には魔法陣がある。おそらくはここに乗って進んでいくのだろう。
『この先、3つの道がある。運が良ければ、簡単に進んでいくことが出来るであろう』
目の前に壁にそんな言葉が浮かび上がった。その文字を見た瞬間、全員がクラウンを見た。「運が良ければ」という部分に反応してのことだろう。
クラウンはそのことに眉をピくつかせながらも我慢した。そして、クラウン達はその魔法陣に入るとすぐに全身が光に包まれる。
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「ここはどこかしら?」
「それから主様達の姿がないです」
光が消えた先にはいただの一本道で背後は行き止まり。それからこの場には。リリスとベルしかいない。察するにあの魔法陣によって分断されたということだろう。無事に会いたければこの道を抜けていくしかない。
「相変わらず魔法が使えないわね」
「でも、重力はいつも通りです」
リリスとベルは状況を把握するとすぐに気持ちを切り替えて歩き出した。そして、現れた場所から数メートル離れた位置に来た瞬間、背後からガコンと何か音がした。
二人は振り返るとその後ろの道の天井から斜めの坂のブロックが降りてきた。そして、その穴から道を塞ぐような鉄球が.......
「「.......」」
リリスとベルは無言で焦ったような表情をしながら走り出した。
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