第48話 響のタイマン#2
バトルです。バトルですよー!
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「さあ、やってまいりました!このグランシェリエッサの最後の試合にして、至高の試合になること間違いなしの決勝せ~ん!......始まりだ!」
「「「「「おおおおおお!!!」」」」」
司会者の言葉で歓声が沸く。まだ、選手も入場していないというのにどの試合よりもハイボルテージになっていた。そして、その歓声を維持するかのように司会者は言葉を続ける。
「それでは、選手の紹介へと参りましょう!東から入場するは―――――――――」
響はその司会者の声を聞きながら、静かに目を閉じて集中していた。緊張はない。今あるのは怒りのみ。状態を言うとするならば、冷静に怒っているというところか。そして、司会者が次の紹介に入り、響は歩き始める。
「そして、西から入場するはこのコロシアム最大のダークホース、【光坂 響】!」
「おおおお!」
「がんばってー!」
「キャー、カッコいいー!」
響が入場するとまず聞こえてきたのは女性の歓声。耳をすませば男性の歓声も聞こえるが微々たるものだ。しかし、今の声にそんなことを気にしている余裕はない。そして、目を据えて見るのはただ一人。暗めの濃い緑色のフードに、太ももにつけた針、キラリと輝く短剣。
「くくくっ、来ると思ってたぜ?ガキんちょ」
「お前だけは、絶対に許さない」
響とフードの戦士は互いに目の前に立つやいなや、すぐに一触即発といった雰囲気を出した。その空気が周りの観客にも伝わったのか次第に声は小さくなる。それは恐れというよりも、集中して見ようといった感じだが。
すると、フードの戦士は嘲笑いながら言った。
「許さない?......ああ、俺がここ来るまでに殺してきた奴らのことか。奴らは残念だったと思うな~。きっともっと生きたかったんだろうな」
「どの口がそれを言うんだ!僕は僕の正義のためにお前を悪とみなして、お前をぶっ倒す!」
「くくくっ、いーねー、いーねー。その考えは実に良い。ルールなんてあくまで多数と共存するためのものだ。個人には必要ない。なら、俺は俺の正義のためにお前を殺す」
フードの戦士がそう言うと、タイミングよく銅鑼が鳴った。そして、同時に動き出した。まず仕掛けたのは、小回りが利く短剣を持ったフードの戦士。その戦士は左手で針を取り出すと響に向かって投げた。だが、響はそれを剣で防ぐ。
「!」
「そらあああ!」
するとフードの戦士は短剣を上から下へと袈裟切りする。しかし、響はそれを剣で受け流す。だが、それはわかっていたようにフードの戦士はどこからともなくナイフを取り出すと響に投げた。
「ぐっ!」
響はその動きを冷静に見極めるとその向かって来るナイフを右手で掴む。そして、逆に投げ返した。これにはフードの戦士も予想外だったのか咄嗟に避けるが、その隙を響に蹴り飛ばされる。
「なんだ?まだ甘えてんのか、ガキィ。今、俺を切れたはずだろう?なぜ切らない」
「それは僕の意思だ。切ることが全てじゃない」
「違う。それはただ覚悟から逃げているに過ぎない。どうせまだ心が定まってないからなんだろ?だが、ガキには俺を切れる動機があるはずだ。そのわかりやすい表情からひしひしとなぁ」
そう言ってゆらゆらと立ち上がるとフードの戦士はニタニタと笑った。それは言葉通りに響の顔を見て。だが、この時の響の表情は明らかに憤怒の表情をしているわけではない。むしろ凍ったように冷たいだけだ。
そして、フードの戦士は言葉を続ける。
「ガキの目は俺を殺したがっている。あの鉄球野郎の仇を討ちたいんだろ?そう、それはまるで――――――」
「もう終わらせる!」
「――――――――復讐者の目だ」
「!」
響はその言葉を聞いて一瞬思考が止まった。だが、同時に脳裏にあの夜の仁がしていた目を思い出した。つまりは今の自分はその仁の目と同じ目をしている。この感情が仁が思っていた感情なのか?
そんなことを思ってしまったのがいけなかったのか、フードの戦士はいつの間にか響の前にいた。そして、思いっきりに短剣を投げる。響は目の前で投げられた短剣を首を傾けてなんとか避けるとフードの戦士は後ろ回し蹴りをした。
響はそれを一歩下がって攻撃に転じようとした瞬間、その蹴り足のつま先からナイフが飛び出してきた。響はその攻撃を咄嗟に上体を逸らすことで鼻の薄皮一つで避けることが出来た。だが、それは同時に響がそこからすぐには動き出せないことを示していた。
「かはっ!」
フードの戦士は右手で太ももから針をに引き抜くと指に挟んだまま、響の腹部へと叩きつけた。そして、フードの戦士は響の足を払うとすぐに体勢を立て直して蹴った。その連続攻撃で響は思わず吹き飛ばされる。
「なにを考えてたんだ?もしかして.......復讐という言葉に心当たりでもあるのか?ガキの仲間に復讐を抱いた奴がいる......それは違うな。どっちかって言うと、ガキが誰かに恨まれている......違うか?」
「くっ!」
「その顔は図星みたいだな。なら、俺は丁度いい相手かも知れないな。良かったじゃないか。その相手の復讐の感情の一端を知ることが出来て」
フードの戦士が高らかに笑う。その一方で、響は苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。そして、立ち上がろうとすると腕に思ったよりも力が入らないことに気付く。この感じは鉄球の戦士にも見た感じだ。......まさか!
響は咄嗟に針を抜く。そこからは止まることなく血が流れ出る。それから、響は立ち上がる。幸い、まだ剣は握れる。だが、先ほどよりは思いっきり振れないだろう。すると、そんな響を見てフードの戦士は笑った。
「それは、あの鉄球野郎にもやった痺れ針だ。だが、それを三本も受けてまだ立ち上がれるとは......人間か?ガキ」
「僕はこんな所で負けるわけにはいかない。特にお前だけにはな!」
響は激情のまま<身体能力強化>で無理やり自身の体を動かしていく。そして、フードの戦士に向かっていく。その速さは普通の戦士ではまず出せない速さ。そのことにフードの戦士は思わず目を見開いた。そして、一瞬の思考停止の中、意識を取り戻すと既に剣が振り下ろされていた。
「ああああ!!」
その瞬間、フードの戦士の右腕が響によって切り飛ばされた。響にとってこれが初めて人を切りつけた瞬間であった。その切った時の若干の肉と骨の感触は魔物を切った時よりも随分と感じ方はあっけないものだった。だが、切ったことには変わりない。
しかし、覚悟は無理やり決めた。やはり、弥人の言う通り自分が足りなかったのは覚悟を持つ勢いだったらしい。こうなった以上、もう踏み込んだ世界、逃げることは出来ない。
そして、さらに下から上に袈裟切りした。その攻撃によってフードの戦士の胴体から血が舞った。それから、その男は思わず座り込む。
「降参しろ。今なら、まだ助かる」
「くくくっ、これで覚悟を持ったつもりか?なら、まだ一歩足りない。あの仮面の男ようにな」
「何を......!」
響は思わず固まった。そして、確かに感じた。魔物よりも生々しい肉の感触を。それはフードの戦士が立ち上がって、左手で響の剣を掴むと自身の体に突き刺した時に感じた感触。
響にはその戦士の行動が理解できなかった。なぜなら戦士の行動は自殺に等しいのだから。そして、その戦士は死に際に捨て台詞を吐いた。
「これが人を殺すということだ。どうだ?足りてねぇだろ」
そして、その戦士は血を吐きながら倒れた。その瞬間、勝者が決まった音が響く。しかし、響はずっと固まったままであった。それは痺れ針の効果もあったが、それ以上に人を間接的にも殺してしまったからであった。
人が死んだ。それは響にとってあまりにも呆然とするに相応しい理由であった。そして、目から自然と涙が出て来る。
「あ.....ああ、ああああああ.......」
響は僅かに声を出しながらその涙をこぼし続けた。するとそこにエルザがやってくる。エルザは響の泣いている姿が嬉しそうに笑みを浮かべている。
「どうかしら?死の覚悟を受け取った気持ちは?想像以上に辛いでしょう?けど、それがあなたになかった覚悟よ。知れて良かったじゃない」
「僕は人を......殺して......」
「ええ、確かに殺したわね。あなたの意思ではないけども。でも、あなたはそれをこれからは意思的にやっていかなければならない。それはちゃんと理解してるわよね?」
響は唇を噛んだ。しかし、何も言い返さなかった。それはエルザの言う通りであったからだ。それからまた、あの夜に会った仮面の女とも同じであった。
自分は勇者である。そして、その目的は魔王を倒すこと......いや、殺すこと。しかも、戦う相手はきっと魔王だけではない。その軍勢とも殺し合わなければならない。そして、その覚悟は作ってしまった。作らされてしまった。もう後戻りはできない。
「もし、あなたが望むなら帝国は力を貸してやってもいいわ。そして、もっと強くなりなさい。あなたとて、仲間に同じような気持ちは背負わせたくないでしょう。頼るなとは言わないわ。でもそう思うなら、あなただけがいれば済むように強くなりなさい」
「......はい」
響は肩を震わせながらも確かに返事をした。エルザの言う通り、仲間にこんな気持ちを感じさせたくないと。
そんな響の様子をスティナ達は心を痛めながら見ていた。
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「あーあ、運ぶのも辛いなー」
「死体を処理する身にもなってくれって感じだよなー」
帝国の兵士二人はフードの戦士の死体を死体処理場まで運び終えると息を吐きながら、そんなことを呟いた。この二人は予選から死体を運び続けているせいかだいぶ顔がやつれている。
「全くこれで給料が少ししか上がんないんだぜ?」
「まあ、少しでも上がればマシな方だろう。このグランシェリエッサで優秀な兵士が増えるんだから、今に俺達の給料は減るぞ」
「うげぇー、それは嫌だな」
兵士の一人がそのようなことを言うともう一人の兵士は増々疲れたような顔をした。するとその時、声が聞こえた。
「なら、楽にしてあげようか?」
「ん?何か言ったか?」
「いんや、なにも」
二人は思わず死体の山を見た。もしかして、この中にまだ生きている奴がいるのか?いや、そんなはずはない。処理する前にちゃんと生気があるかどうかは確かめた。それでない奴だけ運んできたのだ。それで、声が聞こえるとなれば......
「まさか、アンデットにでも何かがなったのか!?」
「バカ言うな。それはただのおとぎ話だろう?それに実際にそうするには死霊魔法しかない。だが、こんな国にそんな魔法を使える奴はいないし、そもそも俺達が死体を確かめていたんだ。その時に、俺たち二人しかいなかったはずだ」
「そ、そうだよな......」
一人の兵士はそう頷きながらも恐れているような顔をしている。すると突然、フードの戦士の死体がありえない立ち上がり方でゆらゆらと立ち上がり始めたのだ。そのことに二人は思わず驚きと恐怖が混じった声で尻もちをついた。
「「ひっ!」」
「まあ、落ち着けよ。すぐに忘れる」
「「な、なにを!?」
フードの戦士がそう言うとすぐさま二人の兵士の頭を跳ね飛ばし、死体を二つ作った。そして、その死体から兵士の服を剥ぎ取って、死体の山に放り投げるとその姿を小さくしていった。それからやがて、その姿を小柄な少年のような姿に変えた。
「ふぅー、加減するのも、煽るのも、タイミングよく血糊を使うのも大変だね。僕の性分じゃないし、それに一つストックを減らしちゃったし。まあ、刃の潰れた剣には用がないから仕方ないんだけどね」
少年は大きく伸びをする。そして、軽く息を吐くと歩きながら、独り言ちた。
「まあ、いいや。これで布石も作ったし。これで我が主に最高のシナリオの最高の愉悦を体現することが出来る。けど、まだ少しかかりそうだけどね」
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