第45話 響のバトルロイヤル#2
前回はタイトルに「バトルロイヤル」とありながら戦闘シーンは一切なかったですね。ですが、今回は戦闘シーンがメインです。
ロキ「ウォン、ウォン!(評価、ブックマークありがとう!とっても嬉しいよ!)」
「それでは簡単にルール説明をします。今からこの場にいる30名で戦ってもらい、この中で本戦に進める方は5名となります。そして、その五名の方はさらに他のグループの本戦出場した15名とトーナメントをしてもらうことになるのですが......まあ、その詳しい説明はあとにするとして.......」
このコロシアムのスタッフらしき男は一回咳払いをするとさらに説明を続ける。
「それでこの予選では半径15メートルの円形フィールドの範囲で場外に落とされるか相手を意識を落とされ、フィールド内に倒れるかで失格となります。なので、膝立ちでもしていればまだ戦う意志があるとみなしセーフと捉えます」
「武器はなんでもありか?」
「基本的にはなんでもありです。ですが、この試合は神聖であるため致死量の毒の使用は原則なしとさせていただきます。それ以外は、実力とみなし全くのことがない限り一度始めた試合を止めることはございません」
「くくくっ、つまりは死ななきゃ毒の使用も、痺れ薬の使用も、幻惑剤の使用もなんでもありってことか。これは神聖とは言い難い実に狂った試合じゃないか。だが、面白い」
フードを被った男は手に持ったナイフを舌なめずりさせながら、実に愉快に笑う。その神経が響にはわからなかった。するとガタイの良い男がこのルールの上で一番と言ってもいい質問をした。
「なあ、風の噂で聞いたんだが......この試合では人を殺すこともありだと聞いたんだが、それは本当か?」
「本当です。相手と戦いやむを得ず切って殺した場合、それは帝国憲法の第131条グランシェリエッサにおける戦闘事項によって無罪と規定されています。意図的に動けない相手を殺しに行くのはどうかと思いますが......」
「まさか本当だったとはな......それも憲法で決められていることとは」
「ひっ!」
そのスタッフが「殺しはあり」と言った瞬間、この場に猛烈な殺気が渦巻いた。一人一人が視線だけで人を殺せそうな目をしながら笑っている。
その殺気に当てられたスタッフは顔を青ざめさせ、響はその雰囲気に圧倒され自分の想像との違いに苦悶の表情を浮かべた。
そして、時間は経ち、響はフィールドへと立った。すると司会者は声高らかに試合開始の声を聞かせる。
「それでは予選4組目、これが予選最後の試合となります!この中で注目すべき選手は――――――――――」
そう言ってこれまで何度も出場して来た戦士やどこかの地で名声を高めた戦士、中には過去に極悪を働いた戦士まで様々な人を紹介していった。
だが、その声を聞く余裕は響にはなかった。この場に立つと緊張とは違った圧迫感がある。
それはこのフィールドで3度試合があったせいか染みついた血の跡と匂い。しかも、その匂いはもちろん新鮮そのもので魚の生臭さよりも何倍も濃い血の匂いがする。
それは、酷く嫌悪感と吐き気を催させた。そのせいか始める前から手に汗をかき、やや痺れを感じる。口内も乾いており、喉はあまり乾いてないが水分が欲しい。
「それでは予選最後、4組目の試合開始!」
「!」
響が別のことに意識を捉われていると紹介が終わっていたのか司会者が銅鑼を思いっきり鳴らした。
すると、響はその音で我に返り、目の前から襲ってくる戦士達に気が付いた。おそらく開始してすぐに動かなかったからカモだと思われたのだろう。
だが、響は持ち前のチート反射神経ですぐさま腰の剣を抜く。
「がはっ!」
「げほぉ!」
そして、目の前の戦士の攻撃を剣で受け流すとその空いた隙間へと潜り込み、その後ろにいる戦士に剣を振り上げた。
それから、その攻撃で相手の剣を弾き飛ばすと腹部を蹴って場外へと吹き飛ばす。また、自分の背後にいる先ほどの戦士の襟を掴む。そして、地面に背中から地面へと叩きつけた。それから、顎を殴って意識を飛ばすと場外へと投げる。
その素早い動きは他の戦士達に衝撃を与えた。響はこの中で最も細身の戦士だ。
なので、「どうしてこんなひょろっこい奴が参加しているんだ?」とか「こいつはカモだな}と思っている者も少なくなく、いや、ほとんどの実力者以外がそう思っていた。
だから、その戦士二人に引き続き攻撃を仕掛けようとしていた戦士はブレーキをかけて、近づくのを止めた。
響はチラッと観客席を見る。すると、先ほどいた位置に未だスティナが座っていた。それから無事を祈るように両手を合わせている。
それを見て響は左手で頬を叩く。そして、一つ息を吐くと剣を軽く構えた。
「すぐに終わらせる。時間はかけない」
先ほどの二人の戦士の攻撃、ガルドとの戦闘のおかげか勇者の能力としてのおかげか、どちらにせよ非常に遅く感じた。それは、それほど自分と相手との能力に開きがあるということ。
......正直、自分はまだ覚悟が定まらない甘ったれた思考をしている。だから、自分が全てを相手どれば、人は死なないと思っている。
けど、それでいい。少なくともスティナはその死を見たがってはいない。
響は勇者の力を活かして一気に戦士達が争っている所へと入っていった。そして、そこで冷静に相手との距離を測る。
戦士達は瞬きをした瞬間、先ほどまで遠くにいた少年がこんな近くにいることに驚き、思わず固まった。そして、一人の戦士がその隙を狙われ、響に腹部を蹴られ場外へと吹き飛ばされる。
響はすぐに体勢を立て直すとその戦士の近くにいた戦士の手を剣の柄で叩いた。それから、剣が離れたのを確認すると掌底で横っ腹を殴り飛ばす。
「人は死なせない」
ガルドとの修行のおかげか、人との戦いに抵抗を持っていたとしても問題なく動くことが出来た。だからこそ、吐いた言葉により一層力が入る。
すると、響を危険視したのか先ほどまで戦っていた戦士が徒党を組み、響を狙い始めた。
そして、響に一人の戦士が剣を振るう。それを半身で避けるとその振り下ろした手を掴んで、重心が傾いている方向にその腕を引っ張った。
それから、足払いをして、転ばせる。するとすぐに、剣を両手に持ち横に傾けた。そこに三人の剣がのしかかるが、響の剣は男三人の力を以てしてもビクともしない。
「かはっ!」
「げふぉ!」
「あがっ!」
そして、その三本の剣を全て弾いて連続で一発ずつ腹部に入れていく。するとその時、その戦士達の隙間から他の戦士達が、その戦士達を貫通させて自分を攻撃しようとしているのが見えた。
なので、すぐに目の前の戦士達の横に移動すると剣を横に突き出した。
「「「!!!」」」
その戦士達はいつの間にか響が近くにいることにも驚いたが、響の突き出した剣一本で三人の突きが止められたことにも驚いた。そのせいで一瞬だけ硬直してしまった。それがいけなかった。
響はその三人の戦士をまとめてタックルで吹き飛ばした。そして、すぐにその場にしゃがむ。
すると、先ほど頭があった位置には剣が横から通った。そしてすぐに、響はその状態から背後に向かって足払いをして、背後にいた戦士のバランスを崩すと剣の柄でその戦士の腹部を殴った。
「おいおい、随分と舐めたことしてんじゃねぇか」
「!」
すると、響に向かって巨大な針の突いた鉄球が落ちてきた。響はすぐに避けるが、その巻き添えを食らった戦士が怪我を痛がりながら、しゃがんでいる。
そのことに響は思わず攻撃を仕掛けた戦士を睨みつけた。するとその鉄球の戦士はその目に関して上機嫌に笑う。
「ははははは、そんなクソ野郎どもに情けをかけるなんて、随分と優しいじゃねぇか。だがよ、それはこの場に立っている連中に限っては侮辱にしかならないことを気づいてるか?気づいてやっているならそれは結構。だが、もし気づいていないでやっているとすれば、お前さんがいくら強かろうとも.......」
「!」
「この場にいる資格はねぇ!」
鉄球の戦士は鉄球を引き戻すともう一度、響に向かってぶん投げた。だが、響はそれをたやすく避けるとその鉄球の戦士の懐に入る。
しかしその瞬間、その鉄球の戦士によって逆に一歩間合いを詰められた。そのせいで剣を振るう隙が無い。
「おらよぉ!」
「がはっ!」
響はその鉄球の戦士に左拳を思いっきり腹部へと叩きつけられると吹き飛ばされる。さらに、殴ったと同時に引き寄せた鉄球が響の背中にぶち当たる。
「やっぱ、お前さんはこの場に相応しくない。先ほどのお前さんの動きを見ていたが、あの動きならさっき近づいた時に確実に仕留められていたはずだ。だが、お前の剣には迷いがあった。その迷いがお前さんにダメージを与えた。それは人を傷つけたくない故なのだろう。だからこそ、もう一度言おう......お前さんはこの場に相応しくない」
そう言ってその鉄球の戦士は興味を失ったかのように響のもとから離れていった。響はその後ろを姿を目に追いながらもそれをいつまでも見ている余裕はなかった。
それはチャンスとばかりに襲ってくる戦士達のせいだ。その戦士達は先ほどの会話を聞いていたのか、あえて隙を見せながら突っ込んでくる。
それに先ほどから響が剣を使わずに倒していたのも原因だろう。最初こそただの舐めたプレイかと思えば、あの鉄球の戦士に心を見透かされたせいで響が剣で攻撃出来ないと知った。
なら、あえて剣で攻撃せざるを得ない状況にすれば、あの舐めたガキを殺せると。
しかし、響は勇者というチートスペックを持っている。故に、先ほどの実力者でない限り、相手になる戦士はいない。
それに、そのスペックのおかげで頑丈であることも助かった。だから、すぐさま立ち上がるとその戦士達を返り討ちにしていく。
するとその時、響はある戦士を目にした。そして、一気に怒気の籠った表情に変わった。
それはフードの被った戦士が、響が倒してフィールドに倒れている戦士を一人一人止めを刺しに行っていたのだ。もちろん、その倒した戦士達はまだ息があった。だが、それが消えていく。
「なにやってんだあああ!」
「くくくっ、おっと」
響は激情に身を任せ剣を振ったが、その攻撃はフードの戦士にひょろりと躱される。しかも、血の付いたナイフを舐めながら。
「おう?さっきからちんたらやってる甘ちゃんじゃないか?俺になんか用?あ、殺したことに文句でもあるのか?」
「当たり前だ!あの時、『意図的に殺しはいけない』と言っていただろ!」
響がそう怒鳴るとその戦士はバカにしたような表情で、そのようなポーズも加えながら告げる。
「はあ?ガキ、ちゃんと聞いてたか?あの時、あいつは『意図的に殺しはどうか』と言ったんだ。つまりは『いけない』とは一言も言っていない。それに見てみろ。俺がさっきから殺しまわっているというのに止めるやつは誰もいない。この試合は王族も見ているというのにだ」
「くっ!」
「つまりは合法。このフィールド内においての殺人は認められていると言っても過言ではない。止めたければ俺を止めて見ろ。まあ、もっとも―――――――――――」
「退場させる!」
「――――――――試合は終わっているがな」
「!」
響はもう一度一歩で加速してその戦士の顎に殴りかかった。だが、その戦士は動く様子もなく、むしろ笑みを深めながら試合が終わっていることを告げた。
そのことに思わずその戦士の顎の前で手を止めると周囲を確認する。その戦士が言った通り、この場には五人だけが立っていた。
そして、司会者の試合終了の銅鑼が鳴った。するとフードの戦士は響の肩を叩きながら、横を通り過ぎて一言。
「ちなみに、さっきガキが手を止めた時点で本来ならガキの死は確定していた。ここにいるのは振り上げた拳を収められねぇ野郎どもが集まるところだ。ガキはどっかの娼婦の乳でも吸ってろ」
「......クソ.......」
響は何も言い返せず歯を食いしばり、 拳から血が出るほど握りしめた。
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