第44話 響のバトルロイヤル#1
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王様から与えられた一室で響とスティナの二人は集まっていた。今この場では男女二人の甘い雰囲気といった感じではなく、人もいるのかというぐらい静かであった。
そして、響はまるで死んだような目をしており、スティナもこの空気を打破できずにいた。
響がそのような目をしているのは二つある。そのまず一つ目はこの国の王妃であるエルザに嫌われてしまったこと。
それはこの国に嫌われているということに等しい。であるならば、魔王討伐の協力はほぼ無理になったのだ。そのことは、魔王討伐を意気込んだだけにショックもかなり大きい。
そして、二つ目はあの王妃が言った「あの仮面野郎の方が好印象」という言葉。その言葉で思いつく仮面の男は一人しかいない。それはもちろん【海堂 仁】だ。
とはいえ、もちろん全く別な人物という可能性もなくはない。だが、その可能性の方が低いだろうが。だからこそ、その言葉は響にとって衝撃的だった。
すると響は静かに話始める。
「僕は何を間違えたんだ?......僕はあの人の言っている言葉がわからない。確かに僕は人を戦うことに抵抗を持っている。そして、この世界では人と戦うことが普通であることもわかっているつもりだ。けど、戦いを始めた時点で平和的解決の余地がないなんてそれはあんまりだろう。それに戦うだけで死の覚悟なんて......」
響はこの世界ともとの世界の違いを改めて実感した。そして、その違いに苦しんだ。死という存在に対して命があまりに軽い。戦うだけでそう死を覚悟してもらっては困る。
だが、それはあくまで死という存在を意識することがほとんどなかった世界から来た響だからこそ思うことだ。
だからこそ思ったこともある。そして、響はそのことについて聞いてきた。
「スティナ、正直に答えてくれ。王妃様がそう言ったということはこのコロシアムで僕は死を覚悟した人と戦うことになるのか?これはあくまでもただの試合ではないのか?」
「......この国ではそのコロシアムについての死は認められています。そもそもこの国は傭兵が創った国と言われています。すると必然的に強者と弱者が生まれます。そして、強者はいろんなことに重宝されます。それがこの国です。つまりは弱い者が死のうと強い者がいれば関係はないのです」
「人がそんな簡単に死んではいけないだろ!強い人と弱い人がいるのはわかっている!でも、弱い人が死んでいい理由にはならない!弱い人は弱い人なりに役に立つことがあるはずだ!」
響はスティナの言葉に思わず怒鳴った。弱い人が死んでしまうなら、一体どれだけ多くの人が死んだことになるのか。
だが、響はスティナの表情を見るとすぐに冷や水を浴びたような気持になった。それは唇を噛みしめ悔しそうな顔をする表情。
この気持ちは自分以上に多くの人々と接してきたスティナが思っていること。しかし、この国は自国ではない。
故に、こんなことを言ったところで、「そうと決まっているから」となるだけで結局何も変わらない。だからこそ、何も言わない。自分が言っていたことは酷く言う相手が違うのだ。
その言葉にスティナは黙って受け止めるとそっと返答した。
「響さんの世界がどれほど幸せな世界か知りませんが、この世界ではこれが現実であり、事実なのです。前に言いましたよね?その考えを変えるには自国が帝国に対して優位に立たなければならないと」
「......」
「......これは言ってませんでしたが、時にはそれで決まったとしても国がそう動くとは限らないのです。国は民がいて初めて成立するものです。その国民がその考えに否定すれば、それはほとんどの場合成立しません。その意思を無視して、言わば独裁的に従わせる国もありましたが、それらの国は総じて良い末路は迎えていません。この国の民が殺し合いを望んでいるとは言いませんが......血の気の多い国ですから色々と私達の知らない問題があるのですよ」
「僕はそんなのは嫌だな.....」
そんなことを言ってもこれから参加するコロシアムがそうならないことはわかっている。だから、これはただ言いたかっただけだ。
それに自分は勇者だ。その力を使えば、すぐに終わらせることが出来る。しかし、そうするならばこれだけはスティナに言っておかなければならないことがある。
「スティナ、ごめん。僕はやはり死の覚悟を受け取ることはまだ出来そうにない。こんなままではいけないとわかっているのに。こんな気持ちでは仁をを止めることは出来ないのに」
「落ち着いてください、響さん」
「!」
するとスティナはそっと響に近づくと母親が赤ん坊を抱きしめるように、優しく響の頭を抱いた。そして、ゆっくり響の頭を撫でる。
そのことに響は驚きながらもされるがままに.....いや、スティナの服を掴みながら悔しそうに唇を噛んだ。
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それから数日が経った。依然として響はエルザに嫌われており、事あるごとに無視される。だが、響はそれを耐え続け、そして時は来た。
「さあ、始まりました!帝国グランシェルの年に一度の大イベント!兵士選抜を兼ねた血が湧き、肉が踊り、生と死が入り混じるそのコロシアムの名は.......」
「「「「「グランシェリエッサ!」」」」」
コロシアムの司会者が声高らかにそのコロシアムの名を言うと全く同じタイミングで観衆もその名を叫んだ。たったそれだけでこの場のボルテージは上がっていき、すぐに熱気に包まれた。
その声を参加者控室から聞いていた響は静かに緊張していた。だが、その緊張を受け入れながら目を閉じて集中していた。
この場から聞こえてくる声は様々だ。自分と同じく緊張しているであろう不安な言葉を吐く人や自信たっぷりな人、知り合いと話す人や武器を手入れしながらその武器に語り掛ける人。
そして、響は目を開けると自分の武器をチェックした。それはここに来る前にエルザから渡された兵士が使う剣。
手入れもされているようで、その刀身が鏡のように反射して響きの顔を映し出す。......これは勇者としてのハンデだと王妃様は言っていた。
聖剣では自身の力を最大限に引き出せてしまうのに加え、自分が勇者であることがバレるのを防ぐためであろう。
それから王妃様は「これで戦えば、あなたはこの世界の人となる」とも言っていた。だが、それはどういう意味か分からなかった。
たとえ、聖剣から兵士用の剣に変えたとして、勇者そのもののスペックは変わらない。なので、まず負けることはない。だから、その言葉を言っていた時の王妃様の笑みもわからなかった。
響は自らの手で両頬を叩いた。うぬぼれはいけない。それはガルドさんが言っていたことではないか。
実力差が開けば、開くほどその足をすくわれた時のダメージは大きい。時にそれは致命的な一撃にもつながる。だから、自分の力に溺れてはいけない。あなどってはいけない。
すると別グループの試合が始まったのか観衆の声がこちらまで伝わってきた。それを気分転換に見に行こうかと響は観客席に向かった。
「響さん、どちらまで?」
「ああ、スティナか。僕のグループまで時間があるから少しどんなのか見ようかと思ってね。もしかして、スティナもか?」
「はい。私もこういう催しが開かれていることは知っていましたが、見るのはこれが初めてなので......」
そして、二人は観客席にてその試合を見始めた。だが、すぐに言葉を失った。それは自分が思っていた以上にひどい光景だったからだ。
血は舞い、腕は飛び、フィールドに倒れる戦士。そして、それを見ながら興奮する観客。それに響とスティナは思わず吐き気を感じた。
「惨い......これが試合であってなるものか」
「これがこんなに悲惨だとは......これは戦争と変わりありません」
「スティナの言葉は最も」だと響は思った。響はもとの世界にいた頃、こういう系の漫画を読んだことがある。そして、その漫画を読むたびに「よくこんな惨いことが考え付くな」と思っていたが、それが全然優しく感じるぐらい本物は凄まじいインパクトを響に与えた。
そしてまた、響は改めて覚悟が足りないと感じた。それはスティナの言った言葉のこと。
今見ている試合が戦争ならば、本物の戦争はどれほど惨いものなのか。ただでさえ吐き気を感じているというのに。しかも、それをいずれはすることが決まっている。
人を戦う覚悟など、死の覚悟などあって当たり前の如くその試合に出ている戦士達は血気盛んに戦い合う。これが魔王と戦う際に持たなければいけない最低限の覚悟。
確かにあの夜に出会った仮面をした女性の言っている言葉は正しかった。自分達は魔王を倒しに行くのではない。魔王を殺しに行くのだと。
何度覚悟を決めようともそれは未だ決めているつもりになっているだけで、その仮初の覚悟は何回も粉々に打ち砕かれる。
それは本来持つべき覚悟ではなく、自分が心を護るために勝手に作り上げた覚悟。この覚悟の違いが魔王と戦う時には致命的になるかもしれない。
だからこそ、ここで戦うという認識を改めなければならない。
ガルドさんは自分達に優しすぎた。こんな試合を見ればよりそう思う。そして、この最低限の覚悟は魔王と戦う全員が持たなければいけない覚悟。
その覚悟を自分が最初に持たなければ。勇者として皆を引っ張っていけるように、支えられるように。
そして、試合が終わると響は立ち上がる。その目は悲しいような、悔しいような、怒っているような、そんな複雑すぎる感情が宿った目であった。
「スティナ、僕はそろそろいくよ。僕にできる限りのことをやってくる」
そう言って静かにこの場を去った。その後姿をスティナは悲しそうな表情をしながら、「ご武運を」と言って見送った。そして、その姿を見終わると一つ息を吐く。
「......私は何もできないのですね」
そう自分の不甲斐なさを呪った。
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