第41話 スティナの悩み
バトンタッチ(/_^)/ ● \(^_\)
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「それで?よくこの地に足を踏み入れることができたわね?」
「これも全てエルザ女王殿下のおかげでございます」
スティナは目の前にいる男女に膝を着きながら深々と頭を下げる。だが、目の前にいる女性は依然として高圧的な態度を崩すことは無い。そのあまりの迫力は隣にいる男性を萎縮させるほど。
その態度にスティナも緊張の色が隠せない様子で、その額は汗ばんでいる。現在、スティナは【帝国 グランシェル】にいる。
そして、目の前にいる男女こそこの国の王と王妃。だが、この国はこの流れだけでもわかるように王妃が実権を握ている。そのため、王であるその男性は委縮しているのだ。
そして、そのことはスティナにとって非常に厄介なことであった。端的に言えば、スティナはこの王妃が苦手なのだ。
自分と年があまり変わらず、下級貴族であったにもかかわらず実力1つでのし上がったこの王妃が。自分とは違って才能が有り、それを意のままに使え、魔剣からも選ばれた。自分は神の加護すらまともに受けられないというのに。いわばコンプレックスの権化。
だからこそ、この王妃がいない時を狙って会いに来たというのに、その考えすら見透かしたようにこの場にいる。
それにこれから話すことは確実にマウントを取られるはなしだというのに。しかし、それを今更嘆いても仕方がない。ここはもう覚悟を決めて言うしかない。
「実は折り入って頼みたいことがあります」
「へ~、奇遇ね。実は私もなのよ。その要件を言うならば、誰かさんの国で現れた仮面の男が私の国の大切な兵士達を大量虐殺していったのよ。それも特別な獣人奴隷を攫って行ってね。それで頼みたいというのは別にその男を探して、捕まえてこいという訳ではないわ。ただ、兵士を貸してくれないかしら?」
「兵士......ですか」
「ええ、力ある兵士が総じて殺されてしまってね。それに仮面の男がまた現れないとは限らないじゃない?だから、国の警備を手伝ってほしいのよ。......あ、ただその兵士が『帰りたくない』と行ったなら、もらっていっても構わないわよね?」
スティナはその言葉に苦虫を噛んだ表情をした。しかし、言い返すことは出来ない。頼むのはこっちであるから。
先ほどエルザは「私も」と言ったが、あれは頼みではなくもはや脅迫だ。完全にマウントを取りに来た。それにあの言葉からしたら貸し与えた兵士はまず戻ってこないと思った方が良いだろう。
.......やはり、この王妃がいるのは不味かった。今の私にはその答えに「はい」としか言えない。
私が頼みたかったのは復興の支援金もしくは人員だ。そして、本来ならいろいろな利子をつけられながらも上手く事は進む予定であった。
だが、この国に海堂さんが訪れていたのは想定外過ぎることであった。しかも、この国で王族の奴隷を奪ってしまっている。これは非常に不味い事態だ。
そして、エルザはそのことを口実に聖王国から搾れるだけ搾ろうとしている。現在、復興に多くの兵士も駆り出しているというのに、その状況で兵士を取られるのは不味い。
だからといって、断って王妃の機嫌を損ねたら、これからの帝国との貿易もなくなってしまう。
するとエルザはさらにスティナを追い詰めるように言った。
「ねぇ、スティナ王女......いえ、女王殿下。私の国で奴隷がどれだけ重要な役割をしているかわかるわよね?しかも、王族がわざわざ呼び寄せた奴隷なんて以てのほか。......まさか、自国では奴隷制度は行っていないからなんて言わないわよね?」
「はい、もちろんご存知です。そして、私の国のせいでこの国に不利益を与えてしまったことを深くお詫び申し上げます」
「私が欲しいのは謝罪ではないわ。先ほど言ったでしょう?兵士が欲しいと。なら、あなたの答えは決まったも同然でないかしら?」
スティナは思わず悔しそうな顔をした。話を自然に流せるかと思ったが、やはりエルザ相手ではそう簡単にはいかないようだ。それに決断を迫ってきた。
これは時間をかけさせないで心理的に追い詰めるという事だろう。それが分かっているなら、こちらも臆してはいけない。
「それで私が決断した場合、私の頼みは受け入れられるのでしょうか?そうでなければ、私の決断は揺らいでしまいそうですが」
「ふふふっ、良いわね。あなたは私のことが苦手のようだけど、私はあなたのこと結構好きよ。こういう空気の時、大抵臆して私の予想通りの展開になってしまって退屈していたのよ。でも、あなたは見事私の退屈を紛らわしてくれた。その褒美はちゃんとしなくてわね」
「褒美?」
スティナは思わず聞き返した。だが、あまりいい言葉期待していない。が、機嫌を取れたならそれなりの情報があるかもしれない。
エルザは良くも悪くも自分の考えに関しては真っ直ぐだ。そして、言った言葉は必ず責任を取る。エルザはそういう女性だ。
そして、エルザは答えた。
「私、明確な日程はまだないけど、近頃に強い兵士を集めるためのコロシアムを開催する予定なのよ。それに勇者を参戦させなさい。興味あるのよ、勇者にね」
「.....え?」
スティナは思わず呆けた声を出した。それは仕方ない。なんせ勇者とは世界最強の存在なのだから。仁のことを抜きにすれば、まず勝てる相手はいない。
さすがにこっちの事情も知ってはいてくれているはずなので、聖王国から勇者を取り上げるという事はしないだろう。
なら、本当にただ興味本位なだけなのか?......いや、この人は利益で動く。逆に言えば、それがなければそうは言わない。何か裏があるはず。
するとエルザは言葉を続けた。
「そう言えば、聞いたわよ。勇者が人を殺すことに抵抗があって仮面の男の仲間に手も足も出なかったって」
「どうしてそれを!?」
「簡単な話よ。国同士で勝敗を分けるのは全て情報の有無。なら、その情報を集めるために諜報員をばら撒くのは当然じゃない?」
「......」
スティナは思わず唇を噛む。エルザはまだマウントを取る気でいる。エルザの頭脳では一体何を考えているのかその思考がまるで読めない。
コロシアムはその場では人を殺すことも許可されている。それと響の人を殺せないという感情を利用して、行動を制限させる。いくら強かろうとも時に意思や感情は力を超えるのだから。
その上で勝てば、帝国と聖王国の上下を完全に決められる。そうなれば、聖王国は事実上の属国となる。となれば、確実に搾り取られ、やがて帝国に吸収されるであろう。
それだけは避けなければならない。となれば、答える言葉は1つになってしまう。こればかりは仕方がないことなのか。
「わかりました。勇者様にはそのように伝えてさせてもらいます。では、私の国の支援はあるという解釈でよろしいですね?」
「ふふふっ、やはりあなたは好きよ。その抵抗の目も含めてね。だから、わかったわ。私の言質を大事に受け取りなさい」
そうしてエルザとの謁見を終えると逃げるように聖王国へと帰る。それから帰りの馬車で疲れたようなため息を吐いた。
「あの人に好かれても全然嬉しくないのですが......」
スティナは思わずそう呟く。正直、エルザとは面識が少ない.......はずなのだが、どうにもあちらは私のことを知っているようだ。
まさか成り上がる前から私の動向を探っていたりしていたのだろうか。あの人ならやりかねないから否定できない。
それに王妃として顔を合わせてからも特に好かれるような発言はしていないが、時にエルザのマウント取りを防ぐようなことをしていたからであろうか。
だとしたら、それは仕方ないことで防ぎようがないことである。あの人にマウントを取られるのだけは避けなければならないから。ならば、響様には頑張ってもらわなければならない。私の国のためにも、世界のためにも。
「はあ......」
スティナは思わずため息を吐いた。しかし、どうしたものか。あの事件以来、響様はより一層人の死に抵抗を持ってしまった。
おそらく、教皇様の死が目に焼き付いてしまったのだろう。そして、それを払拭しようと鍛錬に励むばかり。あのままでは壊れてしまいかねない。
とはいえ、どう説得したらいいかもわからない。加えて、今回のことを話した時、必ず海堂さんが起こした帝国での事件についても話さなければならない。それが伝われば、響様はより自分を追い込もうと動くだろう。
それに自分を追い込もうとするのは何も響様だけではない。響様のクラスメイトもショックを受け、特に雪姫さんに限ってはその影響は計り知れないものがある。
せっかく心がまともに動き始めたというところでこの情報を伝えてしまったなら、雪姫さんは自分を追い詰めて今度こそ修復できないぐらいに心が壊れてしまうんではなかろうか。となれば、やはり伝えることは得策ではない......か。
「どうすればいいんでしょうか......」
スティナは馬車の窓から思わず空を眺めた。その空は憎たらしいほどに青い。こっちの心は晴れることがないというのに。
こういう時、気さくに話しかけてきた仁という人物はいない。そのことがとても胸を締め付ける。
「海堂さん......ごめんなさい。助けられなくて......」
スティナの目からは涙が溢れてきた。制御できないほどとめどなく。そして、思い出すは仁を見捨てたあの時の自分。
声が出せなかった、体が動かせなかった。それら全てがただの言い訳。仁が復讐として聖王国を襲い、教皇を殺した。
それら全てが自分の責任。何が聖女だ。大切な人も救えないでおいて。自分が好きになる資格なんて一体どこにあるというのだろうか、いやどこにもない。
「海堂さん......どうか謝らせてください。私はあなたに謝りたい!」
まるで目の前に仁がいるかのようにスティナは言った。だが、その言葉はもちろん届くことはない。心が虚空になっていく感じ。スティナは自然に涙が止まるまで泣き続けた。
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