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第4話 同盟

ヒロインのご登場~!

 少年は立っていた。周囲を仲間に囲まれて。


 少年は苦しんでいた。仲間に裏切られ。


 少年は悲しんでいた。仲間に弾劾され。


 今にも心臓が押し潰されそうなほどの視線の数に少年は狂ったように頭を抱えた。そんな少年に一人の法衣を着た男性がゆっくりとゆっくりと、まるで少年に罪の重さを感じさせるように近づいていく。


『僕は、やってないんだ!信じてくれよ!!』


『見苦しさが増すだけです。おやめなさい』


『うるさい!―――――――――、僕が何もできなかったことを知ってるだろ!?どうして、なにも答えてくれない!』


『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい―――――――――――』


『おやおや、君はこんなにか弱い少女を道連れにしようというのかね?』


 法衣の男性は一歩、また一歩進んでくる。その一歩が自身の処刑の残り時間を表しているようだった。命の炎がか弱く小さくなっていく。


 少年はもう......この時点で狂っていたのかもしれない。自分はなにもしてないのに、誰も助けてくれない。誰も自分の心の声を聞いてくれない。誰も目の前にいる男の本当の姿を知ろうとしてくれない。


 もう誰も......信じられない。


 法衣の男は少年のそばに来ると肩に手を置き、そっと耳打ちした。


『喜びたまえ。君は我らが主に選ばれたのだ。......最初の醜い傀儡としてな』


「!」


 少年は目を覚ました。いや、もとより眠ってなどいない。目を閉じると勝手に再生される。あの忌まわしき記憶が。


 そして、あの時の臨場感、緊迫感は拭えるものではない。だからこそ、思い出すたびに汗が出てきて、荒い呼吸になる。


 少年は苦虫を噛み潰したような顔をする。


 憎い......憎い......憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い。


「......だから殺す」


 あの男もあの男が崇める神も俺に歯向かう奴全て!


「クウン?」


「悪い......起こしたな」


 大きなあくびをするロキの喉元をそっと優しく撫でる。この時ばかりは、少年も優しい笑みを浮かべ、ロキも気持ちよさそうに目を細める。この森の中で、この時間だけが唯一心が安らぐ時だ。こいつは、裏切らない。どこかそう感じる。


「......うぅ」


「.....!」


 少年は咄嗟に作っておいた仮面を被る。そして、今にも起きようとしている少女に鋭い眼光を突き付けた。


 すると、少女はその視線に気づくと跳ね上がるように体を起こし、少年から距離を取った。そして、ゆっくり腰にある短剣に手をかける。


「......あんた何者?」


「それはこっちのセリフだ」


 少年は依然警戒を緩めない。少女が警戒心をむき出しにしているからだ。だが、これでわかることもある。こいつは自殺願望者ではなく意図的にこの森に入ってきたらしい。ということは、目的が存在するはずだ。少女がこの死の森に入る理由が。


 少女は怖気づくことなく、「それはそうね」と呟くと胸を張って、やや赤く染まった瞳を向けてしゃべり始めた。


「私はリリス・エリザベート。それであなたは?」


「......」


「だんまり.....か。せっかく答えたのに、答え損じゃない」


「なぜこんなところに人間がいる?」


「それでいて質問はすると......あんた、いい性格してるわね」


 リリスの皮肉った言葉にも少年は動じない。ただの「敵」だと認識している。すると、リリスは大きなため息を吐くと「気が済むまで答えれることは答えてあげるわ」と言うとそのまましゃべり始めた。


「まず初めにあんな悪神を崇めている野蛮人と一緒にしないで。私は『人間』じゃなくて『魔族』よ。」


「......ククッ......ハハハハハ!」


「......!......突然何よ?」


 少年は思わず笑ってしまった。あまりに愉快な回答に。あの神を悪神と言うか。人間を野蛮人と言うか。これは面白い人物に出会ったかもしれない。少年はそう思うと殺気を収めた。もっと話が聞いてみたくなったのだ。


 すると、この場に張りつめていた空気は霧散した。少年が警戒を解いたので、リリスも警戒を解く。ただ完全に解いたわけではないが。


「どうして、人間(あいつら)を野蛮人と?」


「......人間(あいつら)はわたしの故郷を二度にまで消滅させた。私の家族も友達も少し知り合っただけの他人まで!.......人間(あいつら)は私たちを悪魔と言う。だけど、私たちから見ればあっちが悪魔よ!だから、私は人間を許せない」


「......いい話だ」


「どこがよ!」


 リリスは思わず怒鳴り声を上げた。今語った話に良い話など一つもない。だが、少年(あの男)は「いい話」と言った。これが怒鳴らずにいられようか。


 そんなリリスの怒りの顔に少年は鼻で笑う。


「違う、そういう意味じゃない」


「なら、どういう意味って訳よ!」


「......お前が人間を嫌っていることについてだ」


「......?」


 リリスは先ほどの怒り顔から打って変わって疑問の表情を浮かべた。それは、単純に目の前にいる少年の言っていることがわからないからだ。だから、口にする。


「あんた、人間よね?」


「ああ、そうだが?」


「それなのにどう......いえ、やっぱいいわ」


 リリスは問い出そうとしたが、すぐに言い淀んだ。人間のことは分からないが、そもそもこんな森の中で出会っている時点でおかしいのだ。ここは死の森。どんなに強い人であろうとまず近づかない。なぜなら、その人よりも強い化け物がうようよいるから。


 しかし、リリスは同時に疑問も浮かんだ。今の警戒心を解いた状態なら聞けるかもしれない。だが、それは同時に死の綱渡りしなければいけないことになる。


 あの男は異常だ。この森で生きているというだけで異常なのに、この森に住む魔物まで従えている。それも警戒心が高すぎて、尋常なまでに強いあのデスグレイファウンドを。


 そして、その魔物を主と認めさせるほどの強さ。この男は得体が知れない。だが、この男の目的が聞き出せれば、もしかしたら仲間にできる可能性があるかもしれない。


 リリスは軽く深呼吸をすると少年に問うた。


「あんた、この森にいる目的は何?」


「......強くなることだ」


「そう。......なら()()()目的は?」


 その瞬間、少年は不敵な笑みを浮かべた。それは、少年の殺気に怖気づかなかったリリスが冷汗を掻くほどに。


「神殺しだ!」


 少年が言い放った途端、森に静寂が訪れた。先ほどまでの葉を揺らした音など一切せずに。まるでこの森自体が目の前にいる少年に怖気づいているかのように。


 リリスは静かに答えた。


「......なら、ほとんど私と一緒ね」


「.....なんだと?」


「あんたと同じで、私はある男を倒すためにここにいるって言ってんの。」


「......そうか」


 少年は静かに笑った。まるで今自分を中心にして世界が回っているかのような都合のいい出来ごとに。リリスが誰を倒そうとしているかはわからない。


 だが、自分と近しいような気がした。だから、乗った。これがたとえ神の手のひらの上だとしても、今はまだ()()()()()()()


 そして、少年が言葉を発すると同時にリリスも言葉を発した。


「あんた、―――――――」


「お前、―――――――」


「私の仲間になって」


「俺の駒となれ」


「......は?」


「......あ?」


 少年とリリスは互いにいら立ちの声を上げた。互いにほとんど目的は同じなのに、両者の意見が微妙に食い違って辺り一帯は険悪な雰囲気になる。


 そしてしばらくした後に、先に折れたのはリリスだった。リリスは小さくため息を吐くとそれ以上少年を逆なでしないように言葉に気を付けて発した。


「あんたの駒にはならない、けど仲間になってとも言わない」


「......なら、どうする?」


「同盟を組みましょう」


「......同盟?」


「ええ、そうよ。お互いほとんど目的は一緒なんだから、あとは条件を出しあってそれを守るようにすればいいでしょ?」


「......」


 少年はしばらくの沈黙の後、「いいだろう」と肯定的な言葉を返した。そして、その言葉を聞くとリリスがまず先に条件を提示した。


「もう一度言うけど、私には倒したい男がいる。そいつを私に倒さ(やら)せて。そうしたら、あんたの神殺しを手伝ってあげる。そして、先に言うわ......あんたの条件を破ったら即座に私を殺しなさい」


「......!」


 少年はリリスの発言に静かに驚いた。殺したい()がいると言っていた割には、最後は随分と自分に厳しい条件を提示したことに。


 少年はそのことをそっと問う。


「倒したい()がいるんじゃなかったのか?」


「ええ、いるわよ。その目的を果たすためなら私が折れることはないわ。だから、提示したのよ、簡単にクリアできることだしね。」


「......ククッ、ハハハハハ!」


 少年はその回答に豪快に笑った。あのふてぶてしく、豪胆で、怖気づくことのない自信に。気に入った。


「俺からの条件は、俺を裏切らないことだ。お前にはこの上なく簡単だろ?......俺がお前の条件を破ったら一つなんでも聞いやるよ」


「あんたも随分と大きく出たわね。......これで、同盟成立ね」


「ああ、成立だ」


 すると、リリスは「それで」と少年に声をかけた。


「さっきから『お前』って呼ぶのやめてくれないかしら。私にはリリスって言う立派な名前があるの」


「今更か?」


「同盟が成立した今だからでしょ!」


「......まあ、いいだろう」


 少年は立ち上がるとその後に続いてロキも立ち上がった。少年はロキの存在を思い出すとロキをリリスに紹介した。


「こいつはロキだ。俺の一番の相棒だ」


「ウォン!」


 ロキはリリスのもとへ行くとその自慢の毛並みでスリスリする。そんなロキにリリスは愛おしそうに抱きしめた。それから、ロキの頭を撫でるとリリスは少年に問うた。


「あんた、名前は?さすがに、同盟組んだんだから教えてくれるよね?」


 「それから仮面の下も」と言わなかったのは、リリスの配慮だ。それに、まだ踏み込むべきではない。そして、少年はしばらく経つとリリスの質問に答えた。


「俺の名は......クラウンだ」


「クラウン?変な名ね。自分を『道化師』だなんて」


「間違ってはいないだろう?俺とリリス以外が『神殺しをする』など聞けば、『道化』だと思うだろ?」


「......なるほど、まだ名は明かせないってことね」


 リリスはそっとため息を吐く。会話でこんなに疲れるなんて初めての経験だ。だが、それ以上にいい収穫をしたと思う。


 そして、クラウンが大剣を持って歩き始めるとリリスはその後をついて歩いて行った。

評価、ご感想、ブックマークありがとうございます。励みになります。


それではまた次回

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