第298話 勇者の光
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勇者はあくまで前座です
「勇者なんだから、どうせチヤホヤされてるんでしょ!? その想像をするだけで憎たらしい! ああ、クソ! 色欲がいなくなっただけマシと思ったのに......愛を無償享受してる奴らは全員死ね!」
「さっきからすごい暴言の数だな」
ベル、エキドナと戦っている神の使徒を除くと響のところで最後であった。そして、その神の使徒である嫉妬を司るぼさぼさの髪をして細身の女―――――ベネティスは発狂気味に髪を振り回していく。
ブンッとまるで鋼鉄の何かを振り回すような音をするそれは自由自在に動き回り、響の接近を許そうとしない。
さらに、その髪は長さも調節できるのか鞭のようにやたら滅たら振り回している。その予測がつかない動きに響は攻めあぐねいていた。
響は髪に向かって斬撃を飛ばす。しかし、髪が一本一本の細い髪にばらけてその斬撃を避けていく。ならば、とベネティスに向かって斬撃を放つが、その前に割って入った多くの束ねた髪がしなやかに動き弾き返してきた。
響は向かってきた斬撃を避けるともう一度、斬撃を放つ。すると、ベネティスが同じように束ねた髪を差し向けた。
そこで、響は旋回していくことで髪が無い場所から突撃していく。だが、それ以外の髪が針のような細さに束ねられると一気に突撃してきた。
「くっ!」
響は咄嗟にいくつかを聖剣で弾き返す。しかし、対象物の攻撃がほぼ点のような突きなので、少しだけくらってしまった。
鎧を貫通して腕や太ももに突き刺さる。そして、すぐに抜いて戻っていく。恐らく今頃は中に着ている長袖が赤く滲んでいるだろう。
響は斬撃を飛ばす。すると、ベネティスが最初に放った響の斬撃で相殺させてきた。「これ以上の接近はなしだ」そう判断した響は一旦距離を取る。
すると、ベネティスは響に突き刺した髪の先端を髪千切るとそれを袖からサッと取り出した藁のような人形を取り出した。
「ねぇ、あなた。私の魔法がずっと気になっていたんでしょ? 大罪にはそれぞれの魔法があって、よそで見えるブランとアグリルの魔法はなんとなく見当がついてるけど、私のにはしてないんでしょ?」
ベネティスの言葉に響は歯噛みする。その質問は実に響の疑問の的を得ていたからだ。
ベネティスが言うようにチラッと見える他の使徒の魔法はなんとなく見当がついた。アグリルは半信半疑だが、殴り専門で戦っていることから自強化という推測もつく。
しかし、ベネティスの戦い方は鋼鉄以上の強度をの髪を自在に操り攻撃するというもの。見た目は完全に嫉妬に狂ってヒステリックを起こした女の人に見えるが、よもや髪を自在に操る魔法では「嫉妬」との
結びつきは弱い。
故に、あれはただの通常攻撃での能力で、他に何か別の魔法があると踏んでいたのだ。しかし、それを見極める前に本人が話しかけてくるとは思わなかったが。
「まさか、教えてくれるっていうのか?」
「ええ、別に教えたって構わないもの。だって、あなたはもう私には勝てないんだし」
ベネティスは人形に僅かな裂けめに血に濡れた髪を入れていく。そして、しっかりと中に入ったことを確認すると裂けめを閉じる。
「ねぇ、人間がもっとも捨てれない感情って何だと思う?」
「......恐怖か?」
「違う違う。嫉妬よ。どんなに徳を積んだ人でも、無我の境地を目指す人でも最大の壁にぶち当たるのは嫉妬という壁なの」
「.......」
「よく言うじゃない。上には上がいるって。どんなに『すごい』って言われてる人でも、誰かしらの才能を羨ましがっているものよ。それが嫉妬。自分にないものを人が持っている。自分がそれを持っていたらどうだろうと考える。考えて、その違いの差を自らまざまざと目の当たりにして、自分の無力さに悲観してさらにその才能を持つ人を強く羨ましがる」
「何が言いたい?」
「嫉妬は最大の感情エネルギーなのよ。自分より上の人がいて、さらに上の人がいて、さらにさらに上の人がいてと際限なく続く。嫉妬に狂ったものは自意識が崩壊する。それほどまでに嫉妬は強い力を持つの。ならば、その嫉妬でリスクがあるけど誰でも使える最強の魔法って知ってる?」
「......まさかその人形は!?」
「そう呪いよ」
「んがっ!」
ベネティスは人形を投げるとその大の字の人形の左腕を束ねた髪で突き刺す。その瞬間、連動するように響が左腕に痛みを感じた。
次に、ベネティスは右足に髪を突き刺す。すると、またしても響は右足を痛がるように咄嗟に手を触れさせる。
「鎧で見えないから確認しようがないのかしら? それなら――――――」
「くっ!」
ベネティスは反応を楽しむようにして左手付近へと神を突き刺す。その瞬間、響の左手のひらに突然貫通したかのような穴が出来て、そこから血が溢れてくる。
「あなたがどれほど強い勇者であろうとね! 触れられなければ意味が無いのよ!」
「がっ!」
響に向かって拳のように束ねた髪が接近してきて、左手を注視していた響を殴り飛ばした。さらに、その拳はいくつも出来始め、まるで乱打するように振るってくる。
響は咄嗟に避けていく。すると、右肩から激痛が走る。思わずベネティスの姿を見るとベネティスが髪で人形の肩あたりを突き刺していた。
響は咄嗟に考えるこの状況を打破するためにはどうすればいいのかと。少なくとも、まず第一に呪いを何とかしなければいけないことは確かだ。
しかし、その呪いダメージを回避するためにはあの人形を奪って破壊することが必要である。とはいえ、相手もそれは読めているだろうし、簡単に手放そうとしないだろう。
「くっ!」
ダメージが蓄積されていく。このままじゃ、いつ殺されてもおかしくない.......なぜすぐに殺さない?
呪いによる攻撃は絶大だ。しかし、先ほどから腕や足など部分的な攻撃しかしてこない。心臓を突き刺せば一発なのに。
ということは、単純に遊んでいるだけなのか、何かの条件を満たしていないから出来ないのか。はたまた、そもそもそれ以上のダメージは与えられないのか。だから、髪でわざわざ殴りに来たのか。
それを確かめるためには接近するしかない。そして、人形を奪いに来たときの相手の行動で判断するしか、今の時点ではなさそうだ。ならば――――――
「<神格化>で一気に攻める!」
響は黒かった髪を真っ白にして、背中に光の翼を生やすとベネティスに急接近していく。すると、ベネティスは驚いたような顔をして――――――
「引っかかったわね」
人形の胴体を突き刺した。その瞬間、腹部に猛烈な痛みが走る。しかし、せっかく接近して何もしないのは癪だ。
「あまり僕を舐めるなよ」
「かっ!」
響は痛みを堪えて聖剣を袈裟切りに振り下ろす。それは僅かに髪で逸らされたが、脇腹を斬りつけることには成功した。
するとすぐに、響は髪の束に押されて吹き飛ばされる。そして、腹部に感じる痛みに思わず手で押さえる。
しかし、今の反応でなんとなくわかった。恐らくあの呪いは致命的なダメージは与えられない。接近した時にダメージを負わせたのが腹部であることが良い証拠だ。
あの状況で何かを企んでいたとして、それで自分をおびき寄せたとしても、万が一の場合を考えて肺を貫くとかやってもいいはず。しかし、それをやらなかったのは出来ないからと踏んだ方がいい。
とはいえ、結局人形の奪取は出来なかったが。あの人形があり続ける限りダメージは負い続ける。何か呪いに対する有効的な手段が......あった。
しかし、それは出来れば大ダメージを自分に追わせようとするときにやりたい。そして、そのタイミングを見誤るとそのままダメージがこっちに入る。
「ああ、こんなギャンブラーじゃないはずなのにな」
自然と気分が高揚する。勝ち筋が見えたからか。それとも、信頼できる友がこの世界を守ってくれると理解しているからか。
響は撹乱するように激しく動き回る。そして、ベネティスの周囲にいくつもの残像を作り出す。その響の行動にベネティスは思わず動揺するが、すぐに口元を歪ませる。
「そんなことをしても意味ないわよ! 私にこれがある限り!」
ベネティスは手に持った人形に髪で手足を突き刺していく。そして、残像の響が痛がる様子を見せるとその残像全てに約十万本もある髪を使って串刺しにしていく。
しかし、操る髪から手ごたえを感じない。そして、咄嗟にベネティスは上を見る。
「そらあああああ!」
「ああああああ!」
上空から急降下してきた響は人形を持ったベネティスの腕を切断する。それによって、ベネティスの腕は宙を舞っていくが、すぐに髪で絡めて回収されると切断された腕を髪で縫い始めた。
「キイィーーーーーー! 許さない、許さない許さない許さない許さない許さない、許さない! 私の腕を切断したお前を絶対に許さない!」
「んがっ!」
ベネティスは人形の両腕を髪で吊るすと髪で作ったいくつもの拳でその人形を殴り始める。その威力は響に連動して、響はひたすらに体中から衝撃と痛みが走る。
人形を突き刺すことでダメージが入ると思っていたが、まさかこのような使い方があるとは思わなかった。これなら急所を刺して殺さなくても、殴り殺すことは出来る。考えが浅かった。
僅かに残る響の思考部分がそのように後悔の言葉を浮かべている間にも、ベネティスはひたすらに殴り続ける。
「これで死になさい!」
そう言って、ベネティスは両腕両足、ならびに腹部に向かって針のように細く束ねた髪を突き刺していく。
恐らく失血死による自分の死を望んでいるのだろう。確かに呪いは強力な攻撃だ。しかし、ヒステリック起こして最悪のカウンターを忘れてないか?
「不浄の絶盾」
響は一瞬の隙を突いて聖剣による唯一の防御魔法を使った。この盾はあらゆる物理攻撃を防ぎ、魔法を反射する。そして、それは呪いとて例外ではない。
「あがっ!.......どうして......!?」
ベネティスは人形に髪を突き刺した。すると、突き刺した部分のダメージが響にではなく、自分に降りかかってきたことに驚きが隠せなかった。
黒い修道服の一部がさらに濃く濡れていく。傷口から溢れ出た血が服にしみたのだろう。そして、腹部のダメージから思わず吐血する。
「呪詛返しだよ。お前ならわかるはずだ」
「.......くそ、そういうことか。油断した」
「自分で『リスクがあるけど誰でも使える最強の魔法』って言ってて、嫉妬のあまりそのリスクを忘れていたみたいだな......呪詛返し、言葉通りの呪いを跳ね返すカウンター技。そして、そのカウンターは呪術師が与えたダメージの倍以上のダメージが帰ってくる。だから、それは散々僕に与えてきたダメージよりももしかしらた多いかもな」
「なら、今すぐにそれ以上の―――――――」
「もう、僕の準備は済ませた。これ以上はもう終わるまで僕のターンだ。いくぞ、聖剣―――――――聖剣乱舞」
響が聖剣を掲げるとその聖剣が太陽の光に当てられて、輝いて熱を帯びていく。そして、その聖剣は一度眩く光るとその聖剣を中心にいくつもの聖剣が複製される。
そして、複製された聖剣は剣先を周囲に向けながら、響の周りを動き始める。その一つ一つが熱を帯びている。
「それが何だっていうの?」
「すぐにわかるさ」
響は聖剣をスッとベネティスに向ける。すると、響の周囲にあった聖剣が次々と発射された。その聖剣をベネティスは撃ち落とそうと髪の拳で殴る。
―――――――ジューーーーーー
「私の髪が!?」
ベネティスの髪は響の疑似聖剣の熱によって燃やされ斬り裂かれ始める。そのことにベネティスは思わず驚きが隠せなかった。
どうしてどうして、先ほどまではしっかりと勇者の斬撃をしっかりと弾いていたのに、どうして防げない!
「髪は人の一部だろ? それをいくら硬化させたって耐えれる限界はあるよ」
「クッソガアアアア!」
ベネティスはここ一番のヒステリックな奇声を上げると髪を伸ばして、先に響を串刺しにして仕留めようとする。
しかし、自在に飛び回る疑似聖剣が髪を次々と切断していく。そのことにベネティスは驚いているとふと人形の存在を思い出した。
思わず我を忘れていたが、自分はこれがある限り最強だ。そして、直進してくる響を無視して人形の胴体に何度も髪を突き刺す。
しかし、平然と響は向かって来る。
「どうして......?」
その疑問に勇者は答えた。
「勇者の光に呪いが負けたんじゃないか?」
「そんな......嘘よ」
動き回る疑似聖剣が通り抜けざまにベネティスを切り裂いていく。そして、接近した響がベネティスに聖剣を袈裟切りに振り下ろした。
あと、明日は下手に切るとあれなんで三話投稿します。
もう終わる気満々ですね!




