第296話 想いを乗せた一撃
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それぞれの戦いが始まりましたね
「こっちに来るです!」
「オデ、お前、逃がさない」
クラウンが扉の奥に突入してからすぐのこと。スキンヘッドで太った男である暴食の使徒ブランとベルの戦いが始まっていた。
ベルは扉の近くから離れるように移動していくとブランはその後ろを追いかけていく。そして、手を伸ばすとその前にいくつもの魔法陣が浮かび上がり、その魔法陣から多種多様な生物が召喚されていく。
そして、それらは空中を駆けていくベルに追いつくと襲い掛かる。しかし、ベルは素早く後ろを振り向いて逆手に持った短剣で素早く斬り伏せる。
大きさにして一メートルはあろうかというハヤブサのような魔物が大量に召喚された。それらは目にも止まらない高速でベルに鋭いくちばしを振るおうとする。
ベルはクラウンから借りた<超集中>を利用して、そのハヤブサの通過速度と位置を予測する。そして、その場所とタイミングを合わせて斬り殺す。
「ガアアア!」
「!」
突然、真上から声がしてきた。その声の方向を見ると魔法陣があり、その魔法陣から巨大な猿が現れ、亀の尻尾を掴みハンマーのようにして振り下ろす。
ベルはそれを避けていくと背後からまたしても魔法陣から現れた熊が大きく爪を立てて切り裂こうとする。どうやら、魔法陣はどこからでも出せるらしい。
しかし、その前に背後の空中を蹴った。その瞬間、<極震>による衝撃波で熊を吹き飛ばしていく。するとすぐに、先ほどの猿が亀を思いっきりぶん投げてきた。
亀は頭や手足を引っ込めてグルグルと回転しながら、固い甲羅をぶつけようとする。とはいえ、投げただけで当たるはずもないし、投げたタイミングで猿が襲ってくるのも予測できている。
ベルは空中を蹴って、自身の身軽さと大きさで素早く避けていくと自ら猿の魔物に接近していく。
「オデ、腹、減った」
「くっ!」
ベルが猿に斬りつけようとした瞬間、猿の腹から手が生えてきた。それは固く握られた拳で近づいていきたベルを思いっきり殴りつける。
ベルは咄嗟に短剣で防いだが、体が軋むような強い衝撃によって吹き飛ばされる。また同時に、避けたはずの亀がブーメランのように方向転換しながら帰ってきた。
殴られた勢いが未だ止まらないベルは無理に体をねじりつつ、タイミングを計って真下に<極震>を放つ。それによる衝撃の反作用で少し高く自身の位置を上げる。
そのすぐ下を高速回転した亀が通り抜けていく。そして、そのままブランに直撃―――――する前に止まった。ブランは猿の魔物と同じように甲羅を貫通させて止めた。
「いただきます」
「え?」
ベルは思わず声が漏れた。それは目の前にいる男が両手に串刺しにした猿と亀をそのまま食い始めたのだ。皮のままがぶりと。
そのあまりにもショッキングな光景にベルは少しだけ顔が歪む。それは同じ人型でありながら、自分の配下でまだ生きている生物をそのまま食っているからだ。
ベルの主であるクラウンとて、虫ならともかく魔物は生きたまま食うことはなかった。その倫理観から外れるようなことに心が動揺する。
しかも、変化はそれだけじゃなかった。毛深かった猿と甲羅を背負っていた亀をまねるように体の一部が変化していく。
両腕は毛深くなり、背中には甲羅が出現した。さらにブランは魔法陣からカニの魔物を召喚すると再び食い始める。そして、左手を大きなハサミに変えた。
「なるほどです。神の使徒は司る大罪によって能力が決まるとありましたが、あなたが司るのは暴食で、しかも自身が召喚した生物を食べることでその生物の特徴を一部受け継ぐということです」
ベルはそう分析しながら、今度はハヤブサを食べるブランを眺める。ブランの能力で一番厄介なのは生物を食べきらなくてもいいこと。
ブランは暴食でもあるが美食家でもあるようで、毛深かった猿の魔物は一口食べたらすぐに捨てていた。その代わり、亀とカニは完食している。
何が問題かというと一口食えば能力により特徴が受け継がれるということだ。それは恐らく人間とてほとんど変わらないだろう。
そして、推測だが能力は恐らく自身で取捨選択できる可能性がある。いわば受け継ぐか受け継がないか。それで厄介なのは自分の一部を食べられた時だ。
少しでも食べられれば特徴を受け継ぐ。自分の特徴は巫女として生まれた膨大な魔力。それが受け継がれれば、相手は膨大な魔力を有することになり、それによって召喚された生物は、相手の糧になる。最悪の展開が始まる。
それだけは絶対に避けなければならない!
「次、お前!」
「そうはさせな――――――いっ!?」
ハヤブサの翼を生やしたブランは一気にトップスピードまで加速するとベルまで接近していく。しかし、その速度は先ほど突撃した魔物と同じならば速さは知れている。
そう思ってタイミングと軌道を合わせ攻撃―――――したが、刃すら通らないカニのハサミによって防がれ、突撃の勢いのままに押し込まれていく。
そして、ブランが振りかぶった拳がベルを真下へと叩きつける。頭を強く殴られたベルは一瞬だけ意識を飛ばしながらも、すぐに覚醒し体勢を立て直す。
「もっと集中するです」
自分を叱咤激励するように声をかけると魔力を高めていく。相手の能力がわかったのなら、戦い方もわかる。
それにそもそも相手に捕まる前に倒しきってしまえば、それだけで済む話というわけだ。深く悩みすぎるなど何もない。
真下に急降下してくるブランの姿が見える。今の速さは重力も相まって先ほどより速いだろう。ならば、それを逆に利用するのみ。
ベルは短剣を軽く掲げると意識を深く無意識へと落としていく。周りの雑音が一切聞こえなくなるような静寂となった自分の思考のままに接近してきたブランに反射で攻撃する。
「獣牙流 燕の型―――――――流れ飛閃」
ブランはベルに攻撃することもなく横を通り抜けていく。するとすぐに、胴体のいたるところが裂け、青い血が噴き出していく。
ベルがやったのは速い相手に通じるカウンター的な技だ。その威力は相手が速ければ速いほど威力は増していくため、言わばブランのダメージは自分自身を攻撃したようなものなのだ。
故に、その威力は絶大。たとえ、相手が神の使徒であろうと、いや神の使徒だからこその驚異的な一撃と言うべきか。
「オデ、痛い。だから、食う」
「あ、あれ!? ここは!? ――――――いたっ!?」
「何やってるです!」
真下に見えるブランはダメージに堪えたまま、差し出した右手で魔法陣を作り出す。その魔法陣は今までで一番大きく、その魔法陣から飛び出したのは竜であった。しかも、飛び出したのは首までである。
しかも、その竜はしゃべった。つまり竜人族だ。そして、反応的に強制召喚されたのだと思われる。その竜の首根っこを右手で掴むとそのまま噛り付いた。
竜人族は痛がった声を上げる。それを気にすることもなくブランは齧り続ける。それを見かねたベルはブランに向かって突撃し、顔面に思いっきり飛び蹴りした。
蹴られたブランはさらに真下に向かって飛んでいく。そして、召喚された竜人族はそれによって召喚が解除され、そのまま魔法陣とともに消えていった。
「オデ、腹減った! 邪魔するな!」
「!」
ブランはドスの効いた声を出すと自身の体を変化させていく。体の大きさは十倍以上になり、そして全身を竜鱗で覆っていく。
顔も体の大きさも翼も典型的な竜になった。それでいながら、両腕は毛深く、左手には巨大なハサミがあり、背中には甲羅と竜の翼と同じ大きさのハヤブサの翼がある。
どうやら先ほどの食事で得たのは<竜化>魔法らしい。竜人族だけが使える固有魔法の一つ。それを特性として受け継いだ。
「お前、ウザい!」
「ああ"っ!」
竜となったブランはベルよりも高く飛翔すると固い殻で包まれたハサミをベルに叩き落した。それを避けきれず直撃したベルは地面へと爆砕音を鳴らしながら叩きつけられる。
ベルを中心に大きめなクレーターが出来上がり、大量の砂煙が舞う。竜による強大な力と刃すら通らないハサミによる一撃はベルの特大ダメージを与えたのは言うまでもない。
地面に体の半分ほどめり込んでいるベルは額から流れ出ている血を感じながら、体を無理に起き上がらせていく。
もう少しダメージを与えてから一気に使おうと思っていたが、渋っている暇はなさそうだ。そっちが大きさと力で優位に立つなら、その土俵に立って見せようではないか!
「なめるな、です!」
ベルは血反吐を吐き捨てるとじょう空に見える巨大な竜を見る。そして、自身の膨大な魔力を使って体を変形させていく。
ベルの体が光によって包まれる。すると、その光は一気に膨張し、周囲に強烈な威圧を放っていく。
ベルに光が収まっていくと同時に見えてきたのは狐の尻尾。それも九本ある。尻尾の先から耳の先から黄金色一色に染まった姿はまさに妖怪―――――九尾の狐と言ったところだ。
「エキドナ様の<竜化>を応用したベルのとっておきです。そっちがその大きさを誇るなら、ベルとて同じ土俵で完膚無きに殺すだけです!」
「お前、美味そう」
「ベルは食べ物じゃないです!」
ベルは一気に空中を駆けのぼっていく。すると、ブランはそのベルに向かって急降下。そして、同時に思いっきり頭突きをし合った。
ゴンッという巨大で鈍い音が周囲に響き渡る。その頭突きによって、どちらかが吹き飛ぶといったことはなく、互いにぶつけ合ったままにらみ合うとブランがハサミを振るった。
ベルは尻尾の一本を巧みに使いブランの左腕に巻き付ける。しかし、それでも動いてくる。ならば、もう一本追加して止める。
すると、ブランは大きく翼をはためかせる。何度も何度も大きくはためかせる。すると、次第に推進力がれ始め、ベルを押し始めた。
ベルは空中で踏ん張って耐えようとするが、それでもやはり翼の推進力の方が大きく押されていく。そして、ブランはそのまま右手でベルを抑えると地面に叩きつけ、引きずり始めた。
ゴゴゴゴゴッと地面が抉れていく。森へと侵入すれば、木々を次々になぎ倒していく。それが背中にすれてとても痛いが、ベルは葉を食いしばって耐える。
「いい加減にするです!」
「がぁっ!」
ベルは両手両足をブランの腹の下にセットすると一気に蹴り上げた。その瞬間、ブランの体が大きくくの字に曲がって、真上に吹き飛んでいく。
ベルは起き上がると口を大きく開けて、エネルギーを溜めていく。そして、一気に発射、それはブランの胴体に直撃する――――――が、貫通することはなく少し外皮を焦がすほどのダメージしか与えられなかった。
すると今度は、ブランが空中からブレスを薙ぎ払ってくる。ベルがそれを避けようとして逃げるとブレスはその後を追っていく。
ブレスが通った場所は地面が溶解してできた溝があり、その溝は数秒後にドドドドドッと連鎖爆発を起こし始めた。
なんとか間一髪逃げ切ったベルはブランと同じ高さに立つと大きく口を開けた。ブランも似たことを考えていたのか同じく口を開ける。次の一撃で勝負をつけるようだ。
ベルは口に雷核を作り出すとそれにさらに九本の尻尾を向けて、魔力で圧力を加えて小さくしていく。一方、ブランは紫電を走らせた球体を口の中心で作り出すとどんどん膨張させていく。
ベルがやろうとしているのはロキが見せた巨大な膨張爆発だ。作り出したエネルギーの規模からみれば、ロキの何百倍とあるだろう。
「これはロキ様が編み出した必殺の一撃です。あなたの仲間に殺された無念はこの一撃を持って晴らしてみせるです」
「オデ、お前に、負けない。その体、食う」
「ほざきやがれです!―――――豪雷咆」
ベルはその雷核を一度口に含み、ボンっと音を立てて口から煙が漏れると一気に放出した。それに合わせるようにブランは顔程もありそうな紫電の球体をベルに向かって放つ。
その大きさの違う球体は二人の丁度中間で拮抗するようにぶつかり合う。どちらも負けず劣らずのエネルギーなのかあまり大きく変化はない。
しかし、その状況はすぐに変化した。
「オデ、負けない!」
「私の、私達の想いの方が何百も強いです!」
ベルは口からさらに雷咆を放ち、先にはなった雷核を押し込んでいく。すると、ブランも同じように押し込み始めた。なら、さらに押し込むだけのこと。
「私達は負けないです!」
ベルはさらに雷咆のエネルギーを増やした。その瞬間、中間で拮抗していた二つの球はブランの方へと押し込まれ始める。そして、ブランに直撃するまでにそう時間はかからなかった。
「オデ、オデはまだくいたりな――――――」
―――――――ドゴオオオオオオオオンッ!!!
一切合切を飲み込む白い爆発は空中でキレイな球体を作りながら、ブランの体を包み込み消滅させていく。
そして、焼け野原となったそこに残っていたのは巨大なクレーターとそこに残るドロドロに溶けたマグマだけであった。




