第291話 世界同盟
読んでくださりありがとうございます。(≧▽≦)
これまで会ってきた人達と協力するって王道でいいですよね
「―――――ってことだ」
「宣戦布告とはまた随分のことだな」
現在はあの怒涛の戦いが終わった夜のこと。クラウン、リリス、響、雪姫、朱里、スティナ、ベル、エキドナ、カムイ、リルリアーゼ、ルナ、ラグナと総勢十二名が城の一室に集まっていた。
クラウンの隣に雪姫、リリスと座り、その机を挟んだ向かい側に朱里、響、ベルと座る。二つしかソファが無かったので残りは立っている。
そして、響が全体に向けて話したのは降臨したトウマが捨て台詞に言った言葉だ。その場にいなかった者もいたので改めて説明したという感じだ。
それを聞き終えたクラウンはふと思ったことが口に出る。しかし、宣戦布告は存外悪いことではないと理解していた。それは魚人族で出会った精霊の話によるものだ。
この世界は現在不安定で様々な場所で空間が揺らいでいる。そして、神が住む天界はその空間を一つ隔てた所にあるという。
だから、天界に行くためにはその空間の揺らいでいる場所を見つけて、その空間に干渉する力を見つけ出さなければならない。
しかし、普通の人間には空間に干渉することは出来ない。それは異常であるクラウンでも、勇者である響でも変わらない。
故に、精霊から提案された作戦は一つ。レグリアを倒して、神自らに空間に干渉させるよう手配すること。そうすれば、こちらからその問題に悩む必要は無くなる。
とはいえ、いざ神との戦争が始まって現状の戦力でどこまで行けるのかが見えない。今回はレグリア一人が呼び出した神獣の数が少なかったとはいえ、この国の大半が火の海と化した。
普通に考えれば、今回の戦力の倍以上ということになるだろう。それに、ラズリ戦と違うところを上げれば、使徒モドキが現れたということだ。
使徒モドキはラズリやレグリアのような大罪を司る奴らに比べれば、戦力は劣る。されど、この世界に住む者であれば脅威だ。
まず膂力の差で押し負ける。そして、魔力でも負ける。対抗できるのは同じく召喚された雪姫や朱里といった異世界からの勇者達になるが、そもそもまともな対人戦闘が出来るか心配だ。
恐らく、最後の戦いが始まった時、神は高みの見物としゃれこむだろう。そうなれば、こちらがそこまで出向いていかなければならない。
加えて、残りの大罪の使徒が使徒モドキなら普通に倒せる連中を掻っ攫って行くと思うので、対人戦闘が浅い連中らで使徒モドキを相手にする時に勝てるかどうか。
クラウンは聞いた話を腕を組みながら悩む。出来る限り被害が出ない作戦を模索していく。もうこれ以上、仲間を失うことのないように。
しかし、それを考えるとやはりどうしても決め手に欠けてしまう。自分が神のもとへ行くのは前提だとしても、残りの大罪が何体いるのかいまいちわからない状況で戦力を分散させるようなことは出来ればしたくない。
そんな悩むクラウンを誰もが見つめる中、クラウンの隣に座る雪姫はそっと肩を叩く。そして、優しい声で告げた。
「大丈夫だよ。『信用して』なんて大それたことは言えないけど、それでもクラウンが信じる私達を信じて欲しい。そうすれば、必ず上手くいくし、仁には仁のやるべきことに集中して欲しいから」
「俺のやるべきことか......」
「そうよ。それに一人がダメそうだったら私だって手を貸すわよ。ここまで付き合った仲よ。それに最後を見届ける義務があると思うわ。だから、リスク管理も大事だけど、クラウンが望む大団円の道を私達に告げなさい。信じる気持ちが力になることをあんたは幾度となく経験してきたはずだわ」
「......そうだな。わかった」
雪姫が押した背中をリリスがさらに押していく。それによって、クラウンは渋っていた一歩を踏み出した。
その瞬間、暗闇で見えなかった道に一筋の光の道が出来上がるように、進むべき道が示された。それが希望の道なのか絶望の道なのかわからないが、それでも前に進むべき時がやって来たようだ。
クラウンはふと周りを見る。人族、獣人族、魔族、鬼人族、竜人族、魚人族、異世界人―――――種族もましてや世界も違う者達がこの場に集まっている。
本来なら一生関わる機会があったかもわからない人達がこの場にいる。これも何かの縁であり、自分の運命と呼ばれる糸が示した結果なのかもしれない。
様々な場所に訪れ紡いだ糸が今こうして自分のもとに手繰り寄ってきた。きっとこんな日は二度とお目にかかれないかもしれない。
ならば、自分が出来ることはその糸が希望の道へと繋がっていると信じて前に進むため。勇気をくれた二人のために。
「それじゃあ、今から作戦会議を始める」
クラウンは一つ息を吐くと不敵な笑みを浮かべながらそう告げた。そして、それぞれに指示を出していく。
「一先ず考えるべきことは戦力だ。相手がどのくらいかわからない以上、数はいるだけいた方がいい。だから、ベルが獣人族に、エキドナはそのまま竜人族に、カムイは鬼人族に、ラグナは魚人族に、スティナは自国もとい各国へと応援要請してくれ」
「仁、僕は何をすればいい?」
「響は今のクラスメイトをまとめ上げ、付け焼刃でもいいから対人戦の基礎を叩き込め。生存率に大きく関わってくるし、相手の動きも読みやすくなる。あと、クラフトできる職業のやつが何人かいたはずだ。そいつらに銃を作らせろ。この城の牢獄から地下に繋がる道があって、そこに火薬庫のように現代兵器が置いてある」
「そうなのか.......わかった。だが、さすがに創作となると一人当たりの負担が大きくなるぞ」
「そうだな......」
クラウンは記憶の中からそういう創作に強い人物がいなかったか探していく。腕を組みながら、指先を上げたり下ろしたり。すると、一つの記憶がヒットした。
「エキドナ。さっき言った指示は変更だ。お前にはドワーフがいるバレッジデザートという場所に行ってもらう。そして、竜人族にはシルヴィーを向かわせろ」
「ええ、わかったわ」
「これだけならば、相当だが......まだ集められるとしたら、魔族は厳しいか。俺の存在を見ただけで反旗を翻す可能性すらある。ならば......リル、お前にはエルフの森に行ってもらう。俺の名を出せば話が通るはずだ」
「了解です、マスター」
「海堂君、海堂君。朱里は? 雪姫もだけど朱里達は何をすればいいの?」
「朱里は銃が出来次第、片っ端から銃の扱いを教えろ。地下がまっさらになるまで弾を使い切る。狙撃手のお前なら、役職補助機能でありとあらゆる飛び道具の扱いはわかるはずだ。そして、雪姫とルナは現在怪我をしている人をとにかく治療しろ。申し訳ないが、そいつらにも戦ってもらう。一般市民だったら、安全な場所に場所に避難するよう伝えろ。場所がここの近くの草原ならいつ被害が出てもおかしくない」
「わかったよ」
「わかりました」
「一先ず簡単な指示はここで終わりだ。具体的な内容は各々の進行状況を加味しつつその場その場で考えていく。だが、申し訳ないがこれから俺とリリスはしばらく席を外す。もし何かあれば各々の判断に任せるがいいか?」
クラウンが尋ねると全員がコクリと首を縦に振る。そのことにほくそ笑むとクラウンは立ち上がり、拳を強く握って告げた。
「いいか、お前ら! この日をもって俺達は世界同盟を結んだ! そして、その同盟を結んで戦う敵は最初で最後のこの世界の創造たる存在である神トウマだ! だが、神がどうした! 散々辛酸舐めさせられた挙句に神だからという理由で負けを認めるのか! 答えは否だ!」
「「「「「おおおおおお!」」」」」
「こんな先の見えねぇ世界で一生を過ごす気は毛頭ねぇ! だから、俺達は俺達の希望を掴み取るために戦う!」
「「「「「おおおおおお!」」」」」
「俺達は神に叛逆する者――――――神逆者だ!」
「「「「「おおおおおお!」」」」」
「そのためにまず必要なことは......しっかり休息を取りやがれぇ! 解散!」
「「「「「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」」」」」
クラウンの言葉に拳を突きあげながら士気を高めていく一同。そして、クラウンの鼓舞が終わるとクラウンとリリス以外はこの部屋から出ていく。
そして、クラウンはどっと疲れたように座り込むと注いだ紅茶のカップを持ってきたリリスが「一杯どう?」と聞きながら、クラウンの前にカップを置く。
「リラックス効果のある紅茶よ。特に疲れているだろう、あんたにはよく眠れる一杯になると思うわ」
「気を遣わせて悪いな」
「いいわよ、このぐらい。けど、あんたはもっと遠慮のない男だと思っていたのだけど。随分と丸くなったものね」
「.......変わるきっかけが色々あったからな」
クラウンはカップを手に取ると一口飲む。心地よい安堵感が心の中に流れていくようにゆっくりと力が抜けていく。
「ロキちゃんのこと聞いたわよ。エキドナからね」
すると、唐突にリリスが悲し気な表情を浮かべながらクラウンに告げた。それはロキが爆発の時に亡くなったことについてだ。
「最後の最後で捨て身であんたを助けるのはなんとも立派な忠義ね」
「俺のあの時の生はロキと雪姫によって成り立っている。雪姫がくれたペンダントが無ければ爆発は待逃れなかっただろうし、もしそれで爆発は防いでも爆炎で結局のところは体も焼き焦げていただろうしな」
「大変だったわね。私の胸を借りてもいいのよ?」
リリスはクラウンの方へと向くと両腕を広げた。まるで抱きついてくるのを迎え入れるように。その様子を見たクラウンは少し笑みを浮かべるとリリスの頭に手を置く。
「大変なのはお前も一緒だろ。あの気配はまさしくリゼリアのものだ。お前がここにいるということは......そういうことなんだろ?」
「.......ずるいわよ。私が塞き止めていた想いに触れるなんて。せっかく私があんたの悲しみを癒してあげようと思ったのに」
リリスは自らクラウンの胸に飛び込むと胸に顔を埋めながらぶつくさと呟いていく。すると、次第に小刻みな震えを感じた。
「ずるいわよ.......本当に」
「道化師はずるいもんさ」
クラウンはリリスが泣き止むまでそっと胸を貸し続けた。




