第29話 めんどくせぇ
雨が降って欲しい日に雨が降らず、別に降らなくてもいいという日に雨が降る。このやるせないきもちはどこで発散すればいいのか......(´-ω-`)
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「さて、二人とも準備は良いか?」
「構わん」
「儂もじゃ」
修練場にある観客席からその二人を眺める獣王は戦闘準備の有無を尋ねた。すると、二人とも......いや、クラウンが一方的に殺気を剥き出しにしながら兵長と対峙している。
そんなクラウンを見て、獣王は思わずため息を吐く。あの男、勢い余って殺しちまうんじゃねぇか?あの兵長はまだ重宝すべきところがある人物だ。さすがに殺されるのは不味いのだが......
そんな思いなど知る由もなくクラウンは兵長へと話しかける。
「言っておくが、手加減など出来ないからな。精々必死に生き延びてみろ」
「フォフォフォ、それは怖いの。じゃが安心せい、今のお主なら死ぬことはない」
「......そうかよ」
「それでは試合始め!」
その言葉に思わずいら立ちを見せたクラウンは、左手で逆手で刀の柄を持つと一気に飛び出した。そして、一瞬で兵長の目の前に現れると体を捻りながら刀を一気に引き抜いた。
右手で刀を振るって来ると思っていた兵長はそれで思わずコンマ数秒タイミングがずれ、剣を引き抜いて防御態勢に入るも吹き飛ばされる。そこにクラウンは追撃の一手を加える。
「それだけか?」
「まだそう考えるのは早計じゃよ.....光槍」
「!」
クラウンは地面で仰向けになっている兵長に左手で逆手に持った刀の先を向ける。すると、右手で押さえながら突き降ろした。
だが、その攻撃は剣で受け流される。そして、兵長が伸ばした手から収縮させた光の槍が放出された。その攻撃を<天翔>を使って空中を蹴ってバク宙しながら避け、さらに距離を取った。
「光魔法か......」
「どうかしたかの?」
「いや、なんでもない」
クラウンは再び兵長に向かって走り出した。兵長が使った光魔法がどこぞの勇者を彷彿とさせたが、そんなことはどうでもいい。
クラウンは刀を右手に持ち替えるとその腕を引き、左手を伸ばして狙いを定めた。そして、兵長を間合いへと入れると一気に突き刺す。
だが、それは半身で避けられる。だが、そんなことはわかっていたとばかりに躱した方向に刀を振るった。
「これではまだ届かぬぞ?」
「ほざくな」
「ぐはっ!」
クラウンの攻撃は兵長によって剣で受け流される。だが、刀を振るった方向とは逆方向に回転すると後ろ回し蹴りで兵長の腹部を蹴って吹き飛ばした。
その攻撃に兵長は思わずうめき声を上げ、地面を引きずられる。
するとすぐに、クラウンは空いている左手を握りしめると手前に思いっきり引いた。そして、その動きに合わせ吹き飛ばされた兵長がクラウンのもとへと吸い寄せられるように向かって来る。それも手足も動かない状態で。
「これで終わりだ」
「じゃから、まだ早いと言うとるのに」
「......!」
クラウンがタイミングを合わせ刀を振るう。すると、兵長の目の前で見えない壁に阻まれて攻撃が届かなかった。
そのことに驚いたクラウンは一瞬、兵長に巻き付けていた糸を緩ませてしまう。その隙を逃さなかった兵長はクラウンに向かって思いっきり蹴りを入れる。だが、クラウンはそれを右腕で受け止めながら後方へ引き下がる。
クラウンはそれがどういう魔法かを調べるために<剛脚>で足元の地面を隆起させる。そして、細かくなった石粒を左手で掴んだ。
そして、その状態のまま接近する。それから、その石粒を兵長に向かって投げた。だが、兵長は高速で飛んでくる石粒を簡単に剣で払い落とす。
しかし、兵長が気づいた時には目の前にクラウンの姿が無かった。
「だが、分かりやすすぎる!」
「何がだ?」
「!」
兵長は後ろから殺気を感じ取り、後ろに向かって剣を一気に薙ぎ払う。
そして、その攻撃はクラウンを捉えた......かに思えたが、切った瞬間クラウンの姿は蜃気楼の如く霞み始めやがてその姿は消えた。
そして、気づけばまた背後にクラウンがいて一気に切りかかってきた。
兵長は間に合わないと思ったのかクラウンの方向に目線だけ向けた。すると、クラウンの攻撃はまたしても見えない壁に阻まれて届くことはなかった。
その事実に確信を持ったクラウンは距離を取ると兵長に話しかける。
「その見えない壁......どうやら見ただけでその目線を向けた方向に作り出せるようだな。さっきのは確実に後ろから切れていた。だが、切れなかった。体も動かす余地もなかったジジイをだ。なら、その原因はジジイにある。目線だけ動かしたのはそういう意味だろ?どのくらいの範囲かはまだわからないが、おそらくは背後まではその壁は届かないはずだ」
クラウンの言葉を聞くと兵長は驚きながらも満足そうな笑みを見せた。そして、クラウンの発言に返答する。
「ご明察ってところかの。確かにクラウン君の言う通りこれは儂の魔法じゃ。覚醒魔力【見えない守護者】。視線が届く任意の方向に絶対的に壊されない壁を作り出す。これがある以上、儂にその刃が届くことはない」
「ぬかせ。ならば、届かない隙を切ればいいだけのことだ」
「その考えはさすがクラウン君と言ったところかの。ならば、やってみるがいい。儂は受けて立つ」
その言葉を聞くと同時にクラウンは動き始めた。そして、右手で持った刀を上段に構えるとそのまま一気に切りかかる。
だが、兵長はその攻撃を後ろに飛んでそれを避ける。そこから単調な刀と剣の打ち合いがしばらく続いた。
クラウンはどこかタイミングを見計らっているようにも見える。そして、仕掛ける直前の攻撃をワンテンポ素早く振るって兵長の剣を弾く。それから、左拳を振るって脇腹を狙った。
それに対し、剣を弾かれバランスを崩した兵長は間に合わないと判断したのか、すぐに見えない壁を作り出した。
「がはっ!」
だが、そこに攻撃が来ることはなかった。
クラウンは先ほどの攻撃でフェイントをかけて逆の脇腹を蹴り込んだ。クラウンはそこで新たな情報を得る。......どうやら見えない壁の範囲はそう広くはないようだ。なら、もう終わりだな。
「俺に接近戦を挑まれた時点でお前の敗北は決まっている」
クラウンは左手を兵長の眼前に出すと兵長の頭がその手に吸い込まれるように収まった。
そして、それで目元を覆い隠すと首元に刀の背を当てる。これでクラウンの言葉通り敗北を認めた兵長は剣を放して、両手を頭上に上げることで降参のポーズをした。
「そこまで、勝者クラウン」
獣王がそう宣言するとクラウンは兵長から距離を取った。そして、獣王がクラウンのもとまでやってくすると話しかけた。
「見事な戦いだった。攻撃には少々野性味があったが、その分を身体能力で補っていたというところだろう。それにしてもまさかこいつに勝つとはなぁ。まあ、安心しろ、俺様は言葉は違えない。それにこの事はいずれ決着をつけなければいけなかったしな。獣人族は力で人を信用する。故にお前を信用してこの国の運命を託す」
そう言って獣王は信用という言葉を行動に表すがごとくクラウンに握手を求めた。だが、クラウンは人を、たとえ獣人であっても信用しないことを基本としている。
なので、信頼という言葉をこんなにもハッキリ言われその証を示すような握手に思わず戸惑う。
きっともとの姿だったら通りだった考えなくても次の行動がわかったように動けていただろう。だが、信用という言葉に酷く抵抗を持つクラウンにとってその行動を移すことがとても躊躇われた。
「いいからちゃっちゃと済ませなさい」
「主様なら問題ないです」
「お、おい待て.....」
するとリリスとベルが優しい笑みをしながらクラウンの背中を押す。それにクラウンはあまりいい気分ではなさそうな顔をするが、甘んじてその握手に応じた。
獣王は最初に会った時とは別人のようないい顔をすると兵長に少し話をして戻っていった。それから、リリスとベルがその光景を見届けると二人はこの国を歩きに回った。
「フォフォフォ、クラウン君のおかげで何とか死なずに済んだわい」
「お前が死のうが死ぬまいが俺にはどうだっていい、だがお前にはなぜか既視感を感じる。だから、正直言ってお前が生きていることは都合が良い。気にしない手もあるが、要らぬ問題を抱えそうな気がして感じが悪いからな」
「そうか。ちなみに儂はクラウン君のことをよーく知っておるぞ?もちろん、面識は今はないがの」
「......」
クラウンはその兵長の言葉に疑問を生じた。それは仕方がない。なぜなら全く知らないジジイが自分のことを知っているのだから。
リリスの母親といい、教皇の存在といい、このジジイといい訳の分からんことが多い気がする。
そして、このジジイは「今は」と答えた。なら、昔はあったことがあるとでも言うのだろうか。もちろん、ジジイが自分と同じ年齢の頃は自分は生まれてもいないだろう。しかも、それについてはまだ答える気がないらしい。
「めんどくせぇ、ジジイが」
クラウンは思わず独り言ちる。だが、そんなことを言われても一切怒ったような表情をせず、むしろ笑って見せる。
「まあまあ、そう言うでない。儂もまだまだ動けることは証明したはずだがの。それで戦ってわかったことは儂にもある」
「なんだ?」
「クラウン君は殺気を出し過ぎておる。闘気と呼ぶには些か悪意が満ち過ぎたものがの。しかし、それは必要なことだとはわかっておる。それにクラウン君が過酷な環境にいてそうならざるを得なかったこともな」
クラウンは増々疑いの目を向ける。このジジイは確実に俺の過去を知っている。どこまでかはわからないが、おそらく俺が森にいた時のことは絶対にだ。
そう思った瞬間、クラウンは兵長に対して警戒心を強めた。するとその空気を感じ取った兵長は慌てて言葉を付け足す。
「これはある人から聞いたことじゃ。それをさも儂が見ていたかのように言ったのは悪かった」
「ある人とは?」
「若い美人の女性じゃったよ。まあ、それは儂がまだ若かった頃の話じゃからあまりあてにはならんが、その当時に随分と予言めいたことを言っていたの」
兵長はその時の記憶を懐かしそうに思い出しているのか優しくは長く伸びたひげを触る。一方、クラウンは難しい顔をした。それは「予言」という言葉にだ。
リリスの母親も同じように予言めいたこと言うことがあったという。だが、魔族の寿命は人族より少し長いぐらいだ。なので、寿命的に考えたらリリスの母親であることは考えにくい。
「はあ......」
クラウンは思わずため息を吐く。別の意味でめんどくせぇ事が多い。しかもそれは自分自身に関わることだから、尚更無視がしにくい。
するとそんなクラウンの苦悩を知ってか知らずか兵長は話しかける。
「それでどうかの、儂の修行を受けてみる気はないか?」
「あ?」
「まあ、そんな怖い顔をするでない。クラウン君は儂より強い。じゃが、殺気が出過ぎてせっかく不意を突いても位置がバレバレですぐに対処出来てしまう。それはこの先の戦いにとっては大きな壁となろう。じゃが、ここでそれを抑えられるようにできれば、クラウン君はさらに強くなれると思うがの?」
「......いいだろう」
これまでの話で上手く乗せられている気しかしないが、これで強くなれるというならやってみる価値はある。
そして、二人は再び向かい合った。
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