第283話 襲撃開始
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ここからいいですよ~
「どういう......ことですか?」
「はあ、やっぱり死なねぇか」
驚きが隠せない様子のレグリアは頭のみにもかかわらず、クラウンに向かって話しかけた。それを見たクラウンは思わず呆れたようなため息を吐く。
「簡単な話だ。死んでねぇだけだ」
「しかし、あなたの胴体は確かに剣を貫いていたはず......それに生命力も消えたのは確かに確信した」
「はあ、やはり確認してくるか。まあ、そりゃあそうだよな。お前は何度も俺を殺そうとして、あまつさえラズリを差し向けるほどだったんだ。だがな、お前は忘れているぞ。敵は一人じゃないんだ」
「ま、まさか.......!?」
「俺には最高の勇者と賢者と狙撃手がいるからな」
「貴様あああああああ!」
「素が出てるぞ」
クラウンは悔しそうに顔を歪ませるレグリアの顔を見ると鼻で笑った。そして、後方にいる響に視線を送ると響はコクリと大きくうなづく。
それを見ると「任せた」と言ってクラウンは城に向かって走り出した。その行動を合図に空中を漂っていた竜も一斉に動き出す。
「許しませんよ。貴様らだけは!」
レグリアは頭のない体を動かすと頭を拾って、小脇に抱えると反対の手を地面につける。すると、レグリアの前方に巨大な異界の門が現れ、それが開くと同時に白き毛並みを纏った神獣が一斉に現れた。
そして、その神獣はクラウンを追いかける集団と響達に襲いかかる集団と別れて、一斉に動き出した。その一方で、レグリアは頭を首に繋げるようにセットしながら、響を見る。
「貴様らは一体何をしたんですか?」
「大体のタネ明かしはしたけどな。もっとも全て伝えたわけじゃないけど」
「なら、何を言ってないと?」
「うちの狙撃手の持っている銃は特別製らしくてね。言霊を現象として表すことが出来るらしい」
「こと.......だまを?」
「思ったことを現象化する銃。それを使って雷魔法の銃弾の中に『三分間心臓を止めろ』という言霊を乗せていたんだ。人間が心肺停止になってから復活するまでに3分以上経つと危険だから、かなりの賭けだったけどね。まあ、提案された側としては驚きが隠せないものさ」
「そんなのはあり得ない! たとえその銃がどんな特別製であれ、人間が扱う言霊の作用がそんなに使えるわけがない!」
「みたいだね。何度か魔物で試したことがあるけど、せいぜい三十秒が限界だった。けど、それってあくまで一回の検証でしかないよな?」
「まさか......重ね掛けしたということか!」
「そう。三十秒経過したら、また三十秒増やしてやればいい。言霊が作用するのは一回きりじゃないみたいだしな」
響は聖剣を引き抜くと目の前から襲ってきた白毛のゴリラの拳を躱し、そっと一振りして胴体を両断していく。
「そして、僕の目的は油断させること。しかし、その対象は仁じゃなくて、お前だったってわけだ。仁に弾が直撃してから三分以内にお前を油断させる。そうしないと、せっかくの奇襲で仁が城の中に入れないからな」
「よくも......よくも我が主の力を使って愚弄してくれたものだなあああああ!」
「怒るなよ。怒りたいのはこっちの方だ。散々仲間を傷つけられて、傷つけさせて精神が擦り減るほどのどん底に叩き落したお前が、僕達の怒りを超えられんのかよ」
響は次々に来る魔物に対して、クラウンと対峙した時とは違う舞を踊るような軽やかな動きで一撃で屠っていく。
そして、両断した魔物の先から見たレグリアは大きく腕を頭上に掲げていた。
「ははは、忘れていましたよ! 貴様の仲間にかけた呪いを! これは嘘などではありません! さあ、私を謀った罪を後悔させてあげましょう!――――――解放」
レグリアは高笑いするかのような顔で大きく叫んだ。しかし、何も起きない。呪いが発動して切り刻まれた人形のように全身から血を噴き出させ、その痛みで聞こえるはずの断末魔の叫びが聞こえてこない。
レグリアは驚いた様子で響の周りにいる響のクラスメイトが誰一人と死んでいないのだ。その事実に狼狽が隠しきれない。
そんなレグリアに響は聖剣を上段に構えると一気に駆けだした。そして、その思っているだろう疑問に答えを与えた。
「なんでも元女神様が裏工作したらしいよ」
「.......!」
レグリアはその言葉にすぐに誰か犯人かわかった。その犯人は捕まえたリゼリアだ。しかし、捕まえる時に一度も攻撃されて―――――――
その時、思わず脳裏を過った魔王城での出来事。不意の一発をリゼリアから受けたがまさかあの時に.......!
「あの女あああああああ!」
叫ぶレグリアに響は聖剣を振り下ろす。
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響がレグリアの足止めをしている一方で、聖王国内に侵入を成功させたクラウンは城へと続く城下町の大通りを走っていた。
一先ず作戦は成功した。こちらとしても、雪姫達に伝えた作戦に響が乗ってくれるかどうか怪しかったが、最後にあいつは自分のことを信じてくれたようだ。
クラウンはそのことに思わずほくそ笑む。しかし、すぐに思考を切り替えるとリリス奪還のために行動を開始する。
とはいえ、後ろから追いかけてきたり、空中から攻撃してくる神獣があまりにも厄介だ。その上、明らかに生きているかどうか怪しい顔をしている兵士が前方を塞ぐように存在している。
敵は大したことない。すぐに片付く敵だ。だが、数が面倒だ。避けることを意識しても、必ずどこかで捕まえられる。それこそ、それよりも強い敵に遭遇したら――――――
「死ねええええ!」
「!」
前方から高速で迫りくる影。その影は殴りかかるような動作が見えたので、クラウンは咄嗟に刀を抜き、ガードの体勢に入った。
すると、刀にキンッという金属音とオレンジ色の火花が舞い、クラウンは思わず動きを止められた。そして、攻撃してきた人物を見ると黒い法衣を着た魔族の女だった。
一瞬リリスかと疑ったが、角が生えているし、顔も違う。それに戦った感じが神の使徒の大罪シリーズではない。
ということは、神の使徒モドキ。いや、神の使徒であることには変わりないんだが、言わば劣化版だ。しかし、急いでいる状況で厄介なことこの上ない。
「ここではアタイが相手だよ。そして、大人しく死ね―――――――うがっ!」
「大丈夫ですか、マスター?」
クラウンと使徒モドキが鍔迫り合いをしていると突然、使徒モドキの顔面に強烈な膝蹴りが入った。その攻撃によって、横にあった家の壁に風穴を作るように吹き飛ばされていく。
そして、代わりにクラウンの目の前に立ったのは頭にヘッドギアをつけた全身機械の殺戮古代兵器と謳われ「破壊の――――――
「マスターだけのドM少女リルリアーゼちゃんです」
「ああ、リルか。無事に潜入出来ていたみたいだな」
「無視ですか。そうですか。嫌、悲しくないですよ、頑張って考えたのにその反応はむしろ粗雑に扱われてる感じがするようで喜びがあります」
「全くもって本物みたいだな」
クラウンは久々に見た変態少女の顔に思わずため息を吐きながらも、少しだけ朗らかな笑みを浮かべる。
「そうだ、カムイとルナは?」
「カムイさんはルナさんと別々で市民の避難誘導をしています。恐らく、気になるであろう『ルナさんを一人にして大丈夫か?』という質問に対しては、ルナさんもルナさんでやるお方なのでご心配ないかと」
「そうか」
相変わらず変なところで優秀な機械少女だ。確かに、聞こうと思ったがまさかそこまで先読みされているとは......ともあれ、これで前に進める。
「いくぞ、リル」
「いいえ、マスター。まだ相手方の生存反応があります。神直属の親衛隊ではないとはいえ、倒すにはやはり多少の面倒さがあります。なので、マスターは先にお進みください。そして、ミスリリスの所まで」
「.......わかった」
クラウンはリルリアーゼに背を向けると走り出す。そして、変わらず神獣と兵士をバッタバッタとなぎ倒していくと城に到着。そのまま正面の扉を蹴破って侵入。
すると、また一人の男が立っていた。今度は竜人族の使徒モドキだ。大きさ二メートルぐらいにして、それよりも大きい薙刀を持っている。どうやらレグリアはこの戦場において本気で自分を殺したいようだ。
「拙者、誇り高き竜人族でありながら、孤高にして絶対の存在を知るものである。そして、その恩方の神兵である拙者に某の討伐命令がきているのである。さて、いざ尋常に」
「固い言葉ばっかり話しやがって。めんどくせぇな」
「―――――――なら、その言葉。代わりに俺が引き受けてやろうか?」
「!」
クラウンが背後を振り返るとそこには右手に炎を纏わせた刀、左手に冷気を纏わせた刀を持つ角を生やした鬼人の姿があった。
夕日の逆光で姿がわかりづらく映るが、それでも誰がだなんて声とシルエットですぐにわかる。
「カムイ.......こんな所に来て良かったのか?」
「ここに来なきゃ、お前さんは面倒な足止めを食らうだろうが。それにルナのことを聞いているのなら、それこそ心配ご無用ってやつだ。あいつは英雄である俺を唯一止められる奴だぜ? それに守りに関してはピカイチだ」
「何を言っているのかさっぱしだが、ともかくここを任せた」
クラウンはその場にしゃがみ込むと手の平から<気配察知>拡大して放っていく。いわば、船が超音波のエコーを使って魚とかを探知するようなものだ。
それによって、この城内にはどこにもいないことは把握。そして、城の地下に不自然な大空間があることを把握。
「拙者を無視するとは腹立たしい!」
「そうかっかすんなよ、な?」
神モドキはクラウンに向かって薙刀を振り下ろそうとするとカムイが二本の刀を使って防いだ。そして、地形を把握したクラウンは通り過ぎざまに「任せた」とカムイに告げながら走っていく。
クラウンは脳内にあるマップと<気配察知>で自分の位置を照らし合わせながら、城の奥にある渡り廊下を渡った先にある牢屋へとやって来た。
そこの牢屋の一部の壁を蹴破ると階段を発見。その先へと降りていく。そして、見たのは―――――――
「デカいな」
ドーム球場ぐらいあると思えなくもない白一色のタイル張りされた空間が広がっていた。




