第282話 策謀と一撃
読んでくださりありがとうございます。(≧▽≦)
二話目も好きです。少し会話文が多いですが
勝負はある意味一瞬の出来事であった。遠方から飛んできた魔法で出来た弾丸はクラウンに直撃し、その硬直に響が聖剣で思いっきりクラウンを貫く。
クラウンは響にもたれかかるようにして、脱力していく。そして、響が聖剣を引き抜くと戦士としての矜持か右手に刀を持ったまま地面に倒れ込んだ。
クラウンから血が流れだしていく。それが地面に広がり、瞬く間に地面を赤く染めあげていく。血の臭いが辺りに充満していく。
響は辛そうな顔で地面に倒れて動かないクラウンを見た。聖剣はクラウンの鮮血によって濡れ、地面へとポタポタと滴っていく。
動かないことを確認すると響は聖剣の血を振り払い、鞘へと納める。そして、正門の方からやってくる気配へと体の向きを変える。
「なんというか随分とあっさり決着がついたものですね~。しかし、死んでいるのはどうやら本当らしい。生命力が感じられない」
「それが目的だったからな」
響は無機質な瞳を背後にいる教皇へと向けた。レグリアの姿はいつも見ていた白い法衣を着た好々爺のような人物だ。
しかし、それが偽物の姿だとわかっている。いや、このような談義はもはや今更。レグリアは本当の敵なのだ。
「というと?」
「仁が奥の手を持っていることぐらい予想がつく。そして、囚われの魔族を救うためにできる限り、いや教皇様を殺すためにできる限り取っておきたいと思うのはもはや必然的に考えられることだ。仁は教皇様を憎んでいたからな。だから、奥の手が使われる前に殺すことが先決だった」
「だから、正々堂々を装って死角から襲撃したと?」
「仁は何だかんだで場に流されやすいからね。いわば様式美ってやつだ。僕がこうして一人で立っていれば、周りの仲間は手出しをしないと勝手に思ってくれる。もっとも、今までの仁だと無理だったから、ある意味仁の近くにいた人達には感謝しないとね」
「くくく、なんというかあまりにも呆気ない勇者と魔王の幕引きなのですが、いやはやこうさせてしまったのはもはや私の責任かもしれませんね~。響君をコントロールするためにやった行動は存外にもあなたの精神に大きく影響を与えてしまった。私が思っているよりもとっくに――――――壊れていたのですね」
「僕は全て仲間を助けるためにやったことだ。一人と約三十人のクラスメイトを天秤にかけてどちらを取るかなんて、最初っから答えが決まっていたようなものだ。けど、僕はしょうもないプライドのために悩む必要のないことを悩んでいた。むだに精神をすり減らしていた。バカだったよ、本当に」
「しかしまあ、これも本来の絶望と狂乱の中で出来上がった人間の在り方なのかもしれませんね。大抵の人は見たくもない現実を突きつけられて、惑い悩み苦しみ歪み破滅していく。とはいえ、人間は唯一環境に順応しようとする生き物です。確かに、このような環境に順応する例がいてもおかしくありませんね」
「もはや狂う狂わないとか、壊れる壊れないとかはどうでもいいんだ。僕は勇者という重責からただ逃れたかった。人を殺さない世界で一生を過ごしたかった。だけど、もうそれが無理だとわかった以上、あがいて無駄に苦しむことなんてないな、と思っただけだ。他意はない」
「くくく、とてもよく仕上がっていますね。辛い状況に置かれることでそれを打破するかしないかで、人の成長は大きく関わっていくと聞きますが.......よもや逃げた先で落ちるに堕ちて、一周回って強くなったう感じですか。その先にはたとえ破滅しか見えなかろうとその全てがどうでもいい」
「ああ、どうでもいい。もう疲れたんだ。楽になりたいんだ。どう思ったっていいだろ。僕だって人間なんだ。どうしていつまでも他人の思いを背中でしょい続けなければいけない。どうして自分の思いは誰にも背負ってくれない。手を差し伸べてくれる存在がいないなら、こちらから手を差し伸べる道理もないだろ。勝手に助かればいい。僕も自分の力で勝手に助かる」
「かつては一緒に背負ってくれる仲間もいたのに、自分で切り捨ててしまいましたからね。しかも、生きていたにもかかわず、もう二度までもその手にかけるとは......いやはや人間とは実に業が深い生き物ですね。ですが、これで世界が救われるなら本望でしょう」
「白々しいことばっかいいやがって。一体誰のせいでこんなことになっていると思っているんだ。僕は一度たりとも自分の意思で殺そうと思っていない。今だってそうだ。俺はお前に脅されて言われた通りに殺しただけ。そこには僕の意思はなにもない」
「安っぽい言葉を並べますね。その剣を振り下ろしたのは何を言おうあなた自身ではないですか。確かに、あなたを脅し、命令した。しかし、強制力はあっても実行力はない。最終的に最愛の友を手にかけたのははなた自身の判断によるもの。罪からも逃げようだなんて、さすがにそれは欲深いですよ」
「どう言ってもやはり認める気はないんだな。お前のことだ、どうせ言ったとしても『ならば強襲した時点で剣を突き立てなければよかったじゃないですか』とでも言いそうだ。そんな選択肢すらこちらにないというのに、あくまで実行させた罪意識だけをこちらに被せる。まさにクソ野郎だな」
「くくく、あなたからそのような言葉を聞くのは初めてですね。どうにもそこに倒れている反逆者の口調と似ているような気がするんですが気のせいでしょうか?」
「気のせい......じゃないかもな。変わった仁の血の気の多さに当てられたのかもしれない。けど、この口調は存外悪くない気分になるもんだな。ハッタリ上等の強気の口調とわかっていても、なんだか自分が強いような気分になってくる」
「そういうのは一種の自己暗示ですからね。言っていればそれだけ刷り込みが強くなり、体もその言葉が本当だと認識して現象として現れることなんでざらにあります。しかし、それはあくまで長期の話。たったそこらで戦ったあなたがそのような口調で強気になって私に戦おうと思ったら痛い目に遭いますよ?」
「......やめておく。それは僕の役目じゃない。僕はもう疲れたんだ。これでクラスメイトの呪いは解けたことになっているはずだ。嘘だったら承知しないぞ?」
「くくく、怖いですね。そう言えば、参考程度に聞いておきたいのですが、そもそもこれはどのような作戦だったのでしょうか?」
「そうだな。もうこの場にいる時点でお前には通じないし、たとえ仁が復活したとしても意味がないからバラしてもいいか」
「ぜひぜひお聞かせください。あなたの犯行を」
「......僕が立てた作戦は単純だ。うちには優秀な狙撃手と賢者がいるからな。まず初めに今ある陣形で一対一で戦うと錯覚させる。そして、僕も本当にそうだと思わせるために死に物狂いで戦う。本当に死にそうだったけどね」
「それでは狙撃手が放った銃弾が明らかに左側から来ていたにも関わらず、反逆者が右側を向いた理由は? そして、狙撃手が撃ったのはなんですか?」
「仁が右側を向いたのはそう仕向けたからさ。人間に利き目があってそっちの方が振り向きやすいように、賢者の雪姫が<反面鏡>という魔法で左側から来ている銃弾を右側から来ている錯覚させる。そして、死角から銃弾に直撃した。狙撃手の朱里は狙った場所には百発百中でね。そして、錬金術師の仲間にもとの世界で有名な拳銃っていうのを作ってもらったんだ。弾までは無理だったから魔法銃だけどね」
「なるほどなるほど。それはとても興味深いですね。あなたは自分に注意を引きつけ、大きく隙を作る。そして、友の癖を利用して決定的な一撃を叩き込む瞬間を作る。くくく、ははははは! これでは全くもって報われない死に方ですね! いや~、実に素晴らしく面白い!」
「.......」
「―――――と、もっと高らかに笑いたいところなんでしょうが、一つお聞きしてもよろしいですか? どうして敵大将が討ち取られたというのに、敵は一向に減らないのでしょうか?」
レグリアが見据える先には響と倒れたクラウンがいて、その周りにクラスメイト、そして、茜色の空に染まる竜の軍勢。
それはまるでレグリア対響達プラス竜の軍勢と思えなくもない構図であった。こちらの手のひらで動いてりるはずなのに、動いていない感じ。レグリアは僅かに冷汗を感じる。
なんというか異様に感じるのだ、その光景が。妙に体中に纏わりつような不安が拭えない。全部全部上手くいっているはずなのに。
勇者たちが反逆者と対面して会話からの戦いの流れ、そして決着まで全て見ていた。その上で予定通り進んでいるから勇者の前に現れた。
それにもかかわらず、どこかで相手の行動を読み間違えたとか、どこかのシナリオでけつまずいたとかそんな不安が脳裏に過る。
おかしい。おかしいのだ。上手くいっている。ただ目の前に広がる光景がそう思わせているだけ。こうなることも全て計算していた。
――――――なら、なぜ勇者の目は死んでいない?
勇者は辛い二択を迫られ精神が崩壊しかけ、禁忌の力を手に入れるまでに至らしめたはず。確かに、人間は順応する生き物だと言ったが、精神が不安定でどう順応するというのか。
順応する前に破滅するに決まっている。順応できてもまずまともな思考回路には戻らないだろう。それなのに、しっかりと作戦を考え、相手の癖を利用してまでなんて.......そんなことが本当にあり得るのだろうか?
嫌な感覚が止まらない。なぜだか無性に冷やせをかいてくる。気のせいだと思いたいが、これは恐らく気のせいじゃない。
「さあ、気のせいじゃないかな?」
レグリアの質問に勇者はあっけらかんとした感じで答えた。そして、聖剣が収まった鞘を真上に思いっきり投げる。
その不審な行動にレグリアは思わず視線が釣られてしまった。
――――――一刀流奥義 燕の型 緋閃牙突
咄嗟に視線を元に戻すと瞬く間に黒い影が横を通り抜けた。そして、レグリアの視界はグルグルと振り回されたかのように浮いていく。
そして、そのまま――――――地面に落ちた。その状態で視界に映ったのは黒い死神であった。




