第281話 死合と凶弾
読んでくださりありがとうございます。(≧▽≦)
今日の話は結構好きですよ
―――――時が満ちた。
「襲撃だー! 大量の竜が襲撃にやって来たぞー!」
一人の兵士が慌てて城へと駆け込み、叫ぶ。そのあまりの慌てように外へ出て確認していった兵士は思わず顔を青くさせた。
夕暮れによって茜色に染まる空から点々とする黒い影。その黒い影はざっと数えて三十体はあり、その一つ一つが大きく翼を羽ばたかせている。
悠然と飛んでくる空の覇者。普通の兵士が五十人規模でしっかり罠にはめたり、陣形を整えたりすることでようやく勝てるかどうかの最強最悪の存在。それが今一斉に向かって来る。
「.......来たか」
しかし、慌ただしく城内に騒ぎ声が響き渡る中で全く動じない者もいた。その者のはこの国で勇者をしている人物―――――響であった。
響はこの時を待っていたかのように静かに目を開けるとベッドから立ち上がり、壁に立てかけてあった聖剣を手にして城の外へと向かっていく。
響が廊下を歩いていくと途中で雪姫と朱里が待っていた。そして、響が二人を通り過ぎていくと二人は響の後をついて歩いていく。
次に弥人が立っていた。弥人はそっと拳を突き出すと響はその拳に自身の拳を小突き合わせる。すると、弥人は軽く笑うと雪姫や朱里のようにあとを歩き始めた。
それから、同じようにクラスメイトがどんどんと列をつくるように後ろ後ろへと並んで歩いていく。城を出た頃には全クラスメイトが響を先頭について来ていた。
響はそのことを気にする様子もなく、竜の集団が迫りくる正門の方へと歩いていく。響と竜の集団の距離がジリジリと狭まっていく。
誰もいない正門までの大通りを堂々と歩いていく姿は逃げ惑う人々に勇気を与えた。それは思わず逃げ出そうとする人々の足を止めてしまうほどに。
すると、それに気付いた響はすぐにこの場から逃げるよう指示をしていく。ここはもう間もなく最悪の戦場となり変わるから。
やがて、響達は正門に辿り着いた。正門の外に出て向かって来る竜ぼ軍団を待ち構える。
正門の正面に響が立ち、その響を中心とするように他のクラスメイトが囲っていく。そして、見る方向は一つだけ。
「来たか」
響がそう呟くと先頭にいた竜が止まった。茜色の沈む夕日を背景に見るものを震撼させるような竜の背中に三人の人物が見える。
西日によって影が出来て姿は見えずらいが、今更確かめる必要も無いほどそのシルエットは脳裏に焼き付いている。
「待たせたか? 響」
「いいや。丁度いいタイミングだと思うよ。こっちは最高に仕上がってる」
二人の言葉が静かに響く。もう互いに誰が誰であるか理解しているようだ。当たり前だ、互いに一度殺し合った仲なのだから。
クラウンは真下に見える響を見つめながら隣に立つラグナに話しかける。
「悪いな。面倒なことに巻き込んで」
「別にいいさ。国を救ってもらった大恩があるからな。それを果たすためにここに来てるだけだ。それに僕達は陸上戦に弱いなんて一言も言ってないしな」
「それで他に駆り出される兵士もたまったものじゃないよな」
クラウンはふと後ろに並ぶ竜を見る。その竜の背中には最低二人は魚人兵が乗っている。いわば、ラグナ直属の兵士達だ。
「それで、僕達のやることは敵を倒すことなんだよな?」
「ああ、倒す、だ。それだけでいい。そして、突撃の合図は俺が正門を抜けた時だ」
「わかった」
「ベル、エキドナ。必ず連れて帰る」
「わかってるです」
「ええ、待ってるわ」
隣にいるベルとクラウンを乗せているエキドナはその言葉に明るく返答するとクラウンは優しく笑った。そして、思考を切り替えるように眼を鋭くさせると地上に降りていく。
着陸すると大きく砂煙が舞う。その砂煙が風に流され、中からクラウンが現れた。響との距離は十メートルもない。二人ならば一歩で詰めれる距離だ。
「これで戦うのは三度目だな」
「違う、四度目だよ。一回目の聖王国襲撃、二回目のバリエルート近くの森、三回目の魔王城近くの荒野、そして四度目の今。これまでの僕はあれこれ考え過ぎていた。どうやって人を殺す罪を背負うか、どうやって君を無力化できるか、どうやってこの世界からもとの世界へ戻れるか。でも、なんというか考えた結果、すごくどうでもよくなったんだ。別に全てを救う意味なんかないんじゃないかってね」
「勇者としてはあるまじき発言だな」
「別にいいじゃないか。多くのものを救おうとして身近な存在が消えてしまうなら、身近な存在だけ生き残ってもらえればそれでいい。そのためには――――――」
「そのためには俺が殺される必要があるってか?」
「ああ、仁は魔王だろ? 魔王は勇者に倒され、いや殺される。それがどの物語でも常であり、もはやオメルタのようなものだ。そして、クラスメイトは救われるなら.......僕はいつまでも人斬りであり続けよう」
「変わったな」
「互いにね」
「なら、最後に質問だ。リリスは生きているか?」
「捕まえた魔族のことを言っているならどうかな。『せいぜい生き続けてみろ』とか言った気がするけど、確かめたければ自分ですれば? まあ、どの道違う場所で再会するだろうけどね」
「どっちが魔王だか」
クラウンは左の親指で鍔を押し上げると右手で引き抜いていく。そして、左手で標的を定め、右手の刀先を響に向けるように掲げる。
「どっちが勇者だか」
響は左手で鞘を抑え、右手で聖剣を引き抜くとすぐに柄に左手を添える。そして、剣先をクラウンに向けながら、大きく上段に構える。
「「決着をつけよう!」」
クラウンと響は同時に地面を蹴って動き出した。そして、互いに力強く振りかぶると柄を両手で握って、鋭く激しく刃を交わらせる。
ギギギギッと金属音が擦れる音が鳴り響き、接触時にオレンジ色の火花が舞う。互いの見つめる視線の先は殺意を滾らせた互いの顔。
「ぐっ!」
最初に動き出したのはクラウンだった。クラウンは自身の刀ごと響の聖剣をかちあげると空いた胴体に鋭く蹴りを入れる。
響の脇腹に重たくギシギシと軋むような衝撃が走る。しかし、足を踏ん張らせて僅かに地面を滑るだけで耐えるとその蹴り足を掴む。そして、反対の手に持った聖剣を振り下ろす。
クラウンは咄嗟に刀を横にして防御の体勢に入った。それで聖剣を受け止めることに成功するもの、それによって僅かに出た隙を響に突かれる。
「がっ!」
響はクラウンが片足の状態で防御に入った体勢を見て、素早く距離を縮める。そして、その勢いのまま思いっきり正面から胴体に蹴り込んだ。
そのヤクザキックはクラウンの胴体にメリメリと食い込んでいく。その一撃をまともに受け、クラウンは吹き飛ばされ地面を転がっていく。
響はすぐに追撃のために近づいていく。そして、地面に寝ているクラウンにほぼゼロ距離から光の斬撃を与えていく。それによって、クラウンの視界は白一色に塗り替えられていく。
――――――ドガアアアアアアァァァァァァンッ!
地面が揺れるような衝撃が戦いを見ていたクラスメイトを襲っていく。しかし、二人の戦いに水を差すように動き出す者はいない。雪姫も朱里も。
響の振り下ろした剣の先から縦に伸びるように砂煙が出来ている。すると、その砂煙から僅かに夕暮れで赤く輝く黒い刃が飛び出してきた。
響は咄嗟に身を引いて避ける。すると、その砂煙で尾を引くように現れたクラウンが幾重にも見える突きを放つ。
響はその全てを何とか弾いていくが、勢いに押されちょっとずつバランスを崩しながら、後ずさりしていく。その重心がやや後方へ下がった瞬間をクラウンは見逃さない。
流れるようにしゃがみ込むとそのまま足を地面すれすれで薙ぎ払って、響の両足を地面から強制的に離す。
「がっ!」
そして、その払った勢いのまま回転しながら立ち上がるとその勢いを使った回し蹴りを響の顔面に蹴り当てた。
衝撃で響の首はねじれていき、体はその動きに合わせて回転し始める。しかし、響は咄嗟に聖剣を地面に刺すとその力の勢いを斜め上方向へと変えた。
それによって、響はそのまま地面に叩きつけられることなく、空中で体勢を整えながら着地することが出来た。
だが、それはクラウンの追撃を防げたことではない。クラウンは響が遠ざかるとすぐに突きの構えで距離を詰めていく。
そして、響が着地した瞬間を狙って、心臓に向かって鋭く刀先を放つ。
「んぐっ!」
響は無理に体をねじって、刀の軌道を避けていく。着ていた鎧によって間一髪、肩を少し斬られるだけで躱すと近づいてきたクラウンの顔面に向かって思いっきり頭突きした。
進行方向から進んできた勢いによって威力が増加した頭突きはクラウンの状態を大きくのけぞらせる。
「おらああああ!」
「がはっ!」
そのコンマ僅かにできた隙を響は逃さない。素早く聖剣を両手で持つとクラウンの胴体に斬り込んでいく。
クラウンの胴体から鮮血が舞っていく。振り切った聖剣の軌道に合わせて血が伸び広がっていく。それによって、クラウンは吹き飛ばされ――――――なかった。
「なめんなああああ!」
「ぐはっ!」
クラウンは後ろ足を地面に突っ張らせてその場にとどまると自身を回転させながら、しゃがんでいく。そして、回転した勢いのまま振り切った響の胴体に横一文字の線を作り出す。
横に響の鮮血が伸び広がり、地面でさらに広がるように血の跡がつく。だが、その一撃であってもクラウンと同じように響は吹き飛ばされなかった。
響は聖剣を振り上げる。クラウンは刀で受け流す。クラウンは刀で突く。響はそれを躱して薙ぎ払う。
クラウンはそれを受け止め、滑らせながら斬りつける。響は聖剣を横にして受け止めると弾き、鋭く突く。
クラウンは胴体を少し掠めながらも避け、再び斬り込んでいく。響は避けきれず脇腹を抉られるも、構わず斬りつける。
もはや防御などしなくなっていった。どちらがどれだけ多くの手数で、相手を死に至らしめる一撃を放てるかというものに変わっていた。
互いにその場から一歩も動くことはなく。血だけが地面にビシャッといくつもの弧を描きながら広がっていく。
誰もが息を呑む壮絶な剣戟。斬られた血と打ち付けあった時の火花が二人の死合を彩るように舞っている。
しかし、運命は訪れた。
<超回復>によってダメージを回復できるクラウンが徐々に響を押し始め、ついに響の刀を大きく弾いた。
響の胴体はがら空き。ここにクラウンの一撃を叩き込めば恐らく決着がつくだろうこの瞬間――――――一発の銃声が鳴り響いた。
クラウンの迫りくる紫電をまとめ圧縮したような球体の弾丸。それは今にも切り込もうとしていたクラウンに高速で右側から接近していく。
響との戦いに集中していたクラウンは僅かにその弾丸の視認が遅れる。そして、そのコンマはまさに「命取り」だった。
「あああああ!」
クラウンにその弾丸が左側に着弾した瞬間、全身にしびれるような電撃が走った。それによって、クラウンの体は痺れで硬直する。
そこに体勢を立て直した響が雄叫びを上げながら聖剣の先をクラウンに向け、思いっきり突き刺した。
「らあああああ!」
「がはっ......」
クラウンの背中から光輝く聖剣が生えた。




