第280話 はるか地での激闘
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二話目
リリスがレグリアによって聖王国地下へと運ばれていく同刻。とある森の間にある道には一人の妖艶な女性が立っていた。
「大体布石は打ち終わった頃かしら。今頃どうなっているのかしらね。上手くやっているといいのだけど。はあ、こういう時って妙に心配になっちゃうのよね。親心ってやつかしら」
その女性―――――リゼリアは頬にそっと手を当てながら小首を傾げる。胸に抱く気持ちは常にこの場にはいない未来を託した子供達のこと。
無茶ぶりにも程がある登場で言いたいことだけ言って消えてしまったのだけど、それで本当に良かったのか心配になる。
少なからず、あの場に復讐の少年ことクラウン君がいてくれたので上手くやってくれていると思うのだけど、心配は心配だ。
まあ、どちらにせよ、この運命は自分の手では変えられない。もう残り時間はかなり少ないし、恐らくこれがラストチャンスになるはずだ。
そうとわかれば自分がやるべきことは未来を決める子供達の手助けをすることだけ。その目的は大方予定通りに済ませたが、まだ細かいところを数えればたくさんある。
それに心配といえば、我が娘リリスの思考が若干クラウン君に似てきていることだろうか。恋愛のことは深くはわからないが、あの子は好きな人に染まるタイプのようである。
「それで未だしていないというのが不思議よね~」
「――――――何がしていないだって?」
リゼリアが独り言のように呟いた言葉にどこからともなく返答の声が聞こえた。しかし、リゼリアは特に驚くこともなく、考え事をして瞑っていた目をそっと開ける。
「よう、お初にお目にかかるが、ひゅう~イイ女じゃねぇか」
「そういうあなたは随分といい男ね」
リゼリアの目の間に立つ男は黄色い髪をしたソフトモヒカンの頭をし、首や指にじゃらじゃらとネックレスや指輪をつけ、袖が雑に破かれたような黒い法衣を着ている恰好をしていた。
見た目は関わったらヤバい奴とも思えなくない風貌だ。実際、関わったらヤバイ男であることは変わりないのだが。
「あなたは―――――強欲を司る神の使徒......よね?」
「良く知ってるなぁ。ああ、そうだ。俺様はカムザってんだ。俺様はよぉ、金や宝石、権力といろんなものが好きなんだがぁ、一番好きなのは女なんだ。つまりてめぇみたいなイイ女は是非とも俺のものにしたい。なんせ容姿は完ぺきだった色欲の体に入ってんだからよぉ」
「色欲の体が目当てだったなら私が乗っ取る前にどうにかできたんじゃない?」
「あいつは見た目の割りに内面がブスなんだよ。だから、正直助かっている。てめぇももとは神、それも慈愛を司る神だ。そいつに色欲の体はまさに『神』ってやつだよなぁ」
「ふふっ、お上手ね。でも、残念。私はあなたのような俺様は苦手なのよ。もっと鋭い目つきでありながら、少しトゲトゲしてても強くて優しさもあって、めんどくさがりながらも構ってくれる......あれ? 案外娘の趣味って私に似ているのかも? ふふふっ、あらまぁ親子なのね~♪」
「おいおいおい、俺様の前でよその男の話とはいい度胸じゃねぇか」
「もう自分のものにした気で嫉妬かしら? 私はどちらかというと追いかけるタイプなのよ。それに残念ながら、私はあなたのものになる気もないし、捕まる気もない。違うかしら?」
「ご明察。だがよぉ、忘れちゃいねぇか? 俺が何を司っているかってことをよぉ!」
カムザは両手の爪を立てると一気にリゼリアに向かって走り出した。すると、リゼリアは投げっキッスするように唇を触れるとハート形の膜のようなものを作り出した。
そして、その膜を指で弾いて割るといくつもの矢じりがハート形になった矢が出現する。それを腕を横に振って一斉射出。
鋭く矢が飛んでくる。しかし、カムザはその矢を手で弾いていくと瞬く間にリゼリアへと接近する。
「少し痛い目にあってもらうぜぇ」
「ぐふっ!」
リゼリアは咄嗟に後方へと跳躍する。すると、カムザはリゼリアを捕まえるように左腕を伸ばすと代わりに空を掴んだ。
そして、その左腕を引き戻した瞬間、リゼリアの体は強制的にカムザへと引き寄せられ――――――腹部に重い一撃が叩き込まれた。
引き寄せる勢いと打ち付けられる勢いで相乗となった威力の拳が腹から背中へと突き抜ける。しかし、リゼリアはその右腕をすぐに掴むと鞭のようにしならせた右足でカムザの顎を打ち抜いた。
その反動でカムザは後方へ滑っていく。一方、リゼリアはそのままバク転しながら距離を取っていく。
「はは、いてぇな。だが、そういう反抗的な女を黙らせんのがいいんだよなぁ!」
「あなたは神の使徒以前に人間性というものが終わっているようね――――操鎖神精!」
リゼリアは一度両手を合わせるとすぐに大きく開いていく。すると、開かれた部分の空間が歪み、そこから虹色に輝くいくつもの鎖が飛び出来た。
カムザはそれに対して不敵な笑みを浮かべながら進撃する。そして、向かってきた鎖の数メートル手前で掌底した。
その瞬間、鎖は何かに当たったように勝手に弾かれていく。しかし、数は一つだけではない。次々と鎖がっていく。
それを躱したり、弾いたりしながら一歩ずつ着実にリゼリアへ進んでいく。そして、再び左手で空を掴んで引き寄せる。
「こっちこいよぉ!」
「嫌に決まってんでしょ!」
リゼリアは再び目の前に体が引っ張られていくように勝手に動き始めた。しかし、二度目も同じ攻撃を食らうわけにはいかない。
その勢いを利用して遠心力も活用しながらのサマーソルトキック。だが、それはカムザの左腕一本で止められた。
そのことにリゼリアは思わず目を開く。その数コンマの停止時間をカムザに突かれ、右足が顔面へと蹴り込まれる。
リゼリアの地面側にあった頭は一気に回転し、横に向きながら吹き飛ばされる。しかし、すぐに体勢を立て直しながら着地した。
「はあはあ、女の顔を蹴るなんて.......やっぱり野蛮じゃない」
「言ってわからないようなら、体に教え込むだけだ」
「にしても、今の一撃は思いっきり蹴ったのだけど、先ほどよりもケロッとしているのが不自然ね。加えて、あなたから受けた蹴りが想像以上に重かった......いえ、これはあなただけの力じゃないわね?」
「正解だ。ははは、やっぱりあいつにやるのは惜しいぜ! だが、主の勅命と同義だから仕方ないな。そうさ、お前が言った通り俺様が司るのは強欲。<握奪>でお前の筋力をほしいままに奪ったのさ。そして、お前を引き寄せたのは<空引弾>だ」
「強欲はわがままと同義。相手を引き寄せるのも、突き放すのも自分の気分次第ってところかしら? 全くはた迷惑な話よね」
「あー、ここまで話が合うと本気であいつにあげたくなくなるな。よぉし、決めた。やはり、俺様は強欲だ。俺様が欲しいと思ったものは全て俺様のもだ!」
「俺様系は苦手だったのだけど、今嫌いになったわ。私は押し倒す方が性に合うみたいね」
「減らず口はそこまでだな。なんぜ俺様が奪えるのは筋力だけじゃねぇんだぞ?」
カムザがそう言うと右手で握りこぶしを作り、その右手の周りにハート形の矢じりのついた矢をいくつも出現させる。
そして、マシンガンのように回転しながら一斉に射出していく。一発放たれるごとに新たな矢が出現して打ち止めがなく放たれる。
さらに左手では爪を立てて上から下へ軽く引っ掻いていくとその引っ掻かれた空間の部分が揺らぎいくつもの虹色の鎖が飛び出した。
どちらもリゼリアが使っていた魔法だ。リゼリアは咄嗟に同じ魔法を使おうとしたが、上手く発動しなくなっていた。
――――――ドドドドドドドッ
――――――ジャラジャラジャラッ
矢と鎖が同時に襲ってくる。リゼリアはなんとか今ある力で避け続けていく。しかし、地面に直撃した矢と鎖が地面を抉る勢いで爆発を起こし、砂埃を巻き上げるせいで視界が段々と悪くなっていく。
見えずらい中から現れる突然の高速の矢と鎖、それは身体能力を奪われ避け切れなくなったリゼリアにかすり傷を増やしていった。
「不注意だぜぇ!」
「がっは!」
リゼリアが砂埃から逃れようと後方に下がった瞬間、横に舞っていた砂埃からカムザが現れ、強烈な右ストレートをリゼリアのレバーに叩き込んだ。
そのまま吹き飛ばされたリゼリアは地面に倒れながら、殴られた脇腹を抑える。息を吸おうとしても上手く息が吸えない。焦れば焦るほど吸えなくなる。
「知ってるかぁ? 俺様達とて人体の構造をしてるんだ。だからよぉ、聞くだろ? レバーアタックは。そこにまともに入ると呼吸が出来なくなるからな。なーに、少しすれば元通りになる。もっとも、その時にはこの戦いは終わっているだろうけどな。くくく.......かはははははっ!」
「はっ、はっ、うぐっ、はっ、はっ」
「なんだその反抗的な目は? それでまだ俺様とやり足りねぇってか? 強情だなぁ。嫌いじゃねぇぜ」
「うぐっ」
カムザはリゼリアに近づくと体を起こそうとしたリゼリアの胸に蹴りを入れて、踏みつけたまま地面に倒した。
「だがよ。強情すぎるのはめんどくせぇんだ。ここらで終わりにしようぜ」
「あな......たが.......ね!」
リゼリアは少し戻った呼吸で言葉を吐くと右手でカムザの足を掴む。
「なんの真似だ?」
「あな.......たは、忘れ.......てるの、かしら。私.......が、のっと......った、色欲の......力を――――――精神破縛」
「がはっ!」
カムザは突然うめき声を上げるとその場から動かなくなった。それを確認するとリゼリアはゆっくりと踏みつけている足から体をずらし、脇腹を抑えながら立ち上がっていく。
「色欲、の魔法、は、精神操作。その戦いの上で、一番避けることは、まとも、に、接触しない、こと。精神は、どこからも侵入、可能、だからね。あなたは奢った、のよ。自分の力に」
「ああ、そういうことだったか。忘れてたぜ」
「じゃあね」
リゼリアは抑えている手とは反対の手でカムザの胸に触れると魔力を流す。すると、カムザは動くこともなくそのまま口から血をそっとこぼし、脱力して後ろ向きに倒れた。
「内部から鎖で心臓を縛り上げ、握りつぶす。精神操作とは上手く言ったものですが、お見事だね~」
「ここで来るとか悪魔ね.......」
リゼリアはゆっくりと後ろを向く。すると、背後から歩いてくるのは少年の姿をした本来の姿のレグリアであった。
満身創痍なリゼリアはレグリアの姿を見て「いいえ、神ですよ?」と言いながら、乾いた笑みを浮かべる。
「さて、恐らく最後になるけど、言いたいこととかある?」
「そうね、強いて言うなら――――――」
レグリアはリゼリアの目の前に立つとそっと体を大きくし、そのまま顔に手を近づけていく。
「連戦はむりぃだから、未来の子供達に託すわ。そして、あの子達を舐めないことね」
「ご忠告どうも」
リゼリアの視界は迫りくる手とともに闇に飲まれた。




