第28話 話をしようか
この話を脳内でアニメーション化してOPを作るとしたらどんな曲が良いとか考えたりしてます。その時、いきものがかりの「HANABI」っていいんじゃないかと思うんですけど、わかってくれている人達いますかね?
評価、ブックマークありがとうございます。励みになります(*^-^*)
「さあ、座りなさい」
そう言って兵長はクラウン達を席に座らせる。現在、クラウン達は兵長の家にいて、この場にいるのは兵長とクラウン達のみ。クラウンは依然警戒心を出しながらも兵長の指示に従った。
「それで話したいことは?」
「ちょいと待たれよ、その前に......」
「!」
「......え!?」
すると突如兵長が頭を手で押さえると兵長の耳が取れた。これにリリスは思わず素っ頓狂な声を上げ、さすがのクラウンも驚いた。
実は兵長は獣人ではなくクラウンと同じ人族だったのだ。だがだとすると、なぜ人族を憎む獣人の中に、それも総本山であるこの場所に普通に暮らしていけているのだろうか。
たとえケモ耳カチューシャを付けていたとしてそれが獣人族にバレないはずがない。見た目が騙せても匂いは騙せない。どうして暮らしていけるのだろうか。
それはそれとして聞きたいが......今はまず兵長が話したがっていることを聞くか。
「とりあえず、ジジイの話が先だ」
「そうじゃの、それはルミエ.....その子のことじゃ」
そう言って兵長が目線を向けた先はベルの方向であった。ルミエ......それがベルのもとの名という事か。
だが、ベルに最初に話した時ベルは「名前はない」と言っていた。ならなぜそんな嘘をついたのか。わざわざつく必要性も感じないのだが.......
「今は確かベル.......じゃったかの。いい名前を付けてもらったの」
「はい、主様からつけてもらった特別な名です」
「意味は全然良くないのだけどね」とリリスは呟きながらクラウンにジト目を向ける。そんな視線を無視しながらクラウンはそのことを兵長に聞いた。
「元の名があるのにベルに『名がない』と言わせたのはもしかしてお前か?」
「察しが早くて助かるの。その通りじゃ、その名はこの国で生きるには不便すぎる。じゃから逃がす前にベルにそう言うようにさせたのじゃ」
「逃がす?それは生贄巫女の使命からってことかしら?」
リリスの質問に兵長は肯定的な頷きを示した。そして、どうして逃がすに至ったか話した。
兵長はもともと行き倒れであったらしい。そして、その兵長を拾ったのが今の先代の獣王。その獣王は人族との溝を気にしていたらしく、この兵長を拾うことを期に人族が悪い種族ではないと伝えたかったらしい。
そして、兵長はいろいろな獣人達に疎まれながらも信頼を得ていき、やがて家族を得るようになった。その相手が生贄巫女の一人だった女性。
しかし、その女性は特異体質だったのかもとの魔力が一般人と変わらなかった。なので、その女性が死ぬことはなかった。問題はその孫。その孫は先祖の血が色濃く出たのか異常な魔力を有していた。そうベルのことである。
多くの魔力を有している生贄巫女は一人一人別の隔離された部屋で育てられる。ほとんど話すこともなく、一緒に遊ぶ友達なんていなければ、教養すら身につけさせられることはない。
どうせ食われて死ぬからだ。死ぬと決まっている巫女に情なんて湧いてしまったら辛いのは世話をしている者達だ。
だから、その世話をする者達は世話する巫女と口を開かず、まるで空気と対応しているかのように関心がない。
そして、そんな環境に自分の孫が置かれている。その風習に慣れてしまっている獣人達ならまだしも人族である兵長にはそれがどうしても許せなかった。自分の孫は食われるためにいるのではないと。
もちろん、他にもベルと同じような年齢の子達はがいてとても心が痛かったが、体が弱かった兵長の妻が亡くなってからは、自分の孫が一番であった兵長はベルを逃がすために動いた。
それに協力してくれたのが、兵長の妻の姉に当たるベルの伯父と叔母だ。バレないように幾重にも計画を練って実行して、それは成功したように見えた.......が。
「こうしてここに戻ってきてしまっている以上、運命からは逃れられないのかの......」
兵長は思わず暗い表情を見せる。せっかく逃がした孫が今自分の目の前にいる。
ということは、伯父も叔母も死んでしまったということ。それはあまりに残酷だった。それにあの人が言っていた言葉は本当だった。
「逃れられない?それは運命に負けたという事になるが?」
兵長の言葉を聞いた瞬間、クラウンの目つきが鋭くなり、声が低くなった。どこか怒気のような雰囲気も伝わってくる。
「お前の過去がどんなであろうと関係ないが、その言葉だけは聞き捨てられない。お前が望むのはベルが生きていることだろ?なら、俺が死ぬはずだったベルの運命をぶっ壊してやる」
「......本当か!?」
「俺は嘘はつかない、面倒だからな。それにベルはもう俺のものだ。こいつの運命は俺が決める」
クラウンのその言葉にベルは目を丸くした。そして、胸が、顔が熱くなってくるのを感じる。今視界にはクラウンしか見えておらず、それ以外がぼやけて見える。
そして、その言葉を聞いた兵長は思わず頬が緩む。その頼もしさ、心が変わってしまっても変わらないのだな。
「そうか。なら、ベルをよろしく頼む」
「もとからそのつもりだ」
「主様......」
ベルは胸が高まるままに隣に座るクラウンの手を取る。そして、熱い眼差しでクラウンを見つめる。言葉にならない思いを伝えるように。
するとその時、突如としてドアがノックされた。兵長は「時間が来てしまったか」と呟くとそのドアをノックした者に話しかける。
「何事かの?」
「兵長、あなたに国家反逆罪の容疑がかけられています。至急、王の御前まで来るように」
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「なるほど、お前らが大事な巫女を連れて来てくれたのか」
目の前に座る獣王は頬杖をつきながらも威厳たっぷりに言葉を口にする。態度は見る限り高圧的な態度だ。その鋭い目は相手を委縮させるほど。
だが、今この場において委縮しているのは周りで見守っている兵士達しかいない。獣王と対峙しているクラウン達は誰一人として身じろぎもせず、涼しい顔をしている。そのことに獣王は静かに驚いていた。
「で、コウサカ。お前、何をしたかわからないはずはないよな?お前は先代の、お前を助けてくれた俺様の親父の顔に泥を塗ったんだ。その報いは受けて当然だと思わないか?」
どうやってかはわからないが、兵長がやってきたことは獣王にバレてしまったらしい。バレたのは、確実にベルを逃したことだろう。
多くの民が生きるために犠牲となる生贄の巫女。だが、その巫女がいなくなってしまったら、これまで犠牲になってきた巫女の意味がなくなってしまう。
それに、これまで守ってきた多くの民が食われてしまう。それだけは、防ぎたい。必ず、絶対に。それをわかっているからこその獣王の言葉だろう。
なのに兵長はそれら全てを踏み倒して、信頼もなにも無くしてただ自分のためだけに動いた。それは国に対する反逆に等しい。裁かれて然るべき。
だが、兵長は清々しく言った。
「儂は自分の孫を救いたかっただけ。それの何がいけないのか?」
「お前......本気で言っているとしたら、ぜってぇ許さねぇぞ」
この場が張りつめた空気に包まれる。空気が冷えていくような感じがする。周りの兵士達がその空気に冷たい汗を流し、口内が渇き、中には失神しかける者もいた。
するとそんな空気の中に切り込む者がいた。
「お前らの事情なんて知ったこっちゃない。早く、俺の話に移させろ」
「......なんの用だ?」
獣王は無視することはしなかった。単純にそうすると面倒な結果になることを悟ったからだ。こっちに向いてもらおうと殺気を向けている時点で頭はイカれているだろう。
「俺はこの国にある神殿に用がある」
「入るってことか?はっ、許可できるはずねぇだろ。そんなことをすれば、怒りを買って余計な被害を出しかねない。お前はこの国を亡ぼすつもりか?」
「この国がそれで亡びたなら、それまでだったってことだろう。俺にはどうなろうと関係ない。俺の目的のために死ね」
「貴様、王を前にしてなんという言葉を!」
「死ぬのはお前だ!」
クラウンの言葉に獣王の隣にいる獣人の兵士が過剰に反応した。おそらく獣王を尊敬、いや崇拝に近い念を浮かべているのだろう。故にクラウンの暴言を聞き逃すことが出来なかった。
一方、クラウンはそんな兵士達に目もくれていなかった。なら、どこに目を向けていたのか。それは獣王.......の隣にいる大臣らしき獣人だ。
その人物は先ほどより殺気と怒気が入り混じったこの空気でなぜかにこやかな笑みを浮かべている。デフォルトでそうなのであっても明らかに場違いな笑みだ。
「「この......!」」
「おい、お前ら止め―――――――――」
「「奴はこの場で殺す!」」
二人の兵士はそう言った瞬間、その場から消えた。影も形もなく。だが、クラウンは身じろぎ一つしない。怖気づいた訳じゃない。避ける必要がないだけだ。
「「!!!」」
「主様を攻撃するなです」
「私達のリーダーがそう簡単に殺される状況を作ったら私達の立つ瀬がないじゃない?」
クラウンの目の前に突如として現れた兵士二人は一斉に切りかかったが、その攻撃をリリスとベルに止められてしまう。それもいとも簡単に。
そのことに兵士二人は驚きが隠せず、兵長は感心したような声を上げた。それからクラウンがゆっくりと右手を上げ、何かをしようとしたところで.......
「お前ら、下がれ!誰が攻撃しろと言った!」
「「は、はっ!」」
その場に獣王の怒号が鳴り響いた。怒りの矛先は暴言を吐いたクラウンではなく、攻撃を仕掛けた二人の兵士に対して。そして、二人の兵士がもとの位置に戻ってくると安堵の息を吐いた。
「お前らなぁ、俺様が侮辱されたのはわかるが相手の力量差もわからなくなっちまったのか?あの二人が止めなければ、今頃お前らは俺様に忠義を果たし尽くすこともなく死んでたぞ?俺様でも勝てねぇ相手に」
「「......!」」
兵士二人は獣王のその言葉に驚きが隠せなかった。なぜなら獣王といえばこの国で最強の人物である。
その獣王から発せられたのが「俺でも勝てない」という言葉、これが驚かずにいられようか。だが、これはある種仕方がないことだとは獣王も思っていた。
なんせ力量差が離れすぎているのだ。故に相手の力が測りきれずに、逆になにも感じなくなってしまう。
本来、本能が「危険だ」と警告するはずなのだが、訓練でその恐怖心を無くしてしまっていることが仇になったようだ。
「それでお前らはなぜ神殿に用がある?」
「俺が求めているのはその神殿の最下層にある宝珠だ。それ以外、他にはない」
「だが、そこには俺達を何百年も苦しめ続けた化け物がいるんだぞ?」
「......それが、どうした?」
「!!!」
獣王はクラウンが不敵な笑みを浮かべて言った言葉に、全身に鳥肌が立つような圧倒的な恐怖に襲われた。獣王の背筋は思わず伸び、手が自然と震えだす。
まるで、禍々しい闇をこの目で直接見ているかのようだ。その瞬間、獣王の中で序列が変わった。戦わずして負けを感じ取った。だが、ここで狼狽えるわけにはいかない。
「なら、信用を見せてもらおうか。お前さんなら、その仮面を取ってもらうとかな?」
「それは出来ん。だが、次いでだ、俺がその化け物とやらを殺してやる。お前らを苦しめた化け物にどちらが最強か教えてやろう」
「そうか、それはありがたい。だが、これは信用あって初めて成り立つものだ。そこは譲れない。だから......」
すると獣王は兵長に向かって指を指す。
「こいつと戦ってもらう。こいつは俺様が知る人間で最強だ。こいつを殺さず倒せば信用してやる」
「......わかった、いいだろう」
そして、話は終結。クラウン達はその場から去り兵士達が使う修練場に向かっていく。その際、クラウンは目の端でずっと大臣の様子を見ていた。
相変わらず空気に場違いな笑みを浮かべて、こちらを見送っている。そのことが目に焼き付いて離れなかった。
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