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神逆のクラウン~運命を狂わせた神をぶっ殺す!~  作者: 夜月紅輝
第13章 道化師は奪還し、刃を立てる

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第277話 躍動する時

読んでくださりありがとうございます。(≧▽≦)


物語はストーリー的にも投稿数的にも速くなっていきます

――――――コンコンコン


 響のいる部屋にノックがかかる。


 現在の時刻は夜九時。各々がまったりとした時間を過ごしている頃だろう。そんな時間帯に現れる人物を響は知っている。しかし、あえて問う。


「誰だ?」


「無事に解いたんだね」


「二人か。入って」


 響は扉を開けるとそこには昼間に見た雪姫と朱里の姿があった。二人とも戦闘服ではなかったが、寝巻というわけでもなく、ある程度動くことを想定したラフな格好であった。


 それから、二人を招き入れるとそのまま適当に座ってもらい、響は机に置いてある暗号を手にして二人の前に立つ。


「一応だけど、解法を聞いてもいい? ちゃんと一人で解いたかどうか確認したいから」


「それで確認できるもんなのか?」


「朱里達はこう見えてもいろんな目にあってきたんだよ。そして、その中でたくさんの人を見てきた。話を聞けばその人がある程度嘘をついているかどうかわかるしね」


「それに自分で解いたならスムーズに説明できるはずでしょ?」


「まあ、確かに」


 響は半分納得したような顔をするとその呈で話を進めていくことにした。そして、ベッドに座っている雪姫達の前に椅子を持って来るとそれに座って説明し始めた。


「まずわかったのが女の子が二人肩を組んでる絵。これは二人のことだとすぐわかった。しかし、まさかそれだけの意味であったとは思わなかったんだけど。このピースサインは何の意味もないんだね」


「あー、それは朱里が気分的に書いたもので......まあ、しっかりと伝わってくれたなら良かったよ」


「次に雲がかかった月の絵なんだけど、これって月を表してると思ったら『夜』なんだね。まあ、もしかしたら他人に見られた時のフェイクじゃないかと思ったけど」


「それは私が夜には月がよく見えるよねって思っただけで.......ノリで書きました」


 「気分的判断が多いな」と思わず雪姫と朱里に苦言を呈したくなったが、一先ず飲み込む。


「そして、時計の絵はそのまま『時』を表し、小屋に入った剣なんだけど、これは小屋が僕の部屋を表していて、輝く剣は聖剣でそれを持っているのは勇者――――――つまり僕のことを表していたとわかった。結構難しかったよ。他のは基本言葉返還だったのにこれだけイメージ返還だから」


「ごめんね。解けると信じてたから他の人にバレないことを優先して作ったの。でも、それよりも難しいのがあったの?」


「まあね。それを説明する前に先にカタカナのムを咥えた牛について説明するとそれは牛を英語のCOW(カウ)に変換してそのまま繋げて読むと『ムカウ』。つまり『向かう』となる。これでなんとなく『僕の部屋に二人が向かう』ってわかったけどね。でも、これはすでに知っているわけで、最後のフクロウさ」


「まあ、これは難しいよね。朱里ちゃんの独特のセンスだからね」


「うぅ、最初に思いついたのがこれだったんだよ」


「伝わったなら結果オーライさ。まあ、あの元気モリモリなフクロウのフクロウに着目するんじゃなくて、その状態に着目するのに気付くにはかなり時間がかかったけどね。なにせ意味を間違えてるからね。元気モリモリ―――――つまり疲れていない、すなわち『不労』って考えたんだろうけど......」


「え、何か違うの?」


「朱里ちゃん。気づかなかった私も悪いけど、『不労』って言葉は働かないことの意味だよ」


「まさか、欠陥の状態で暗号を渡してたってこと!?」


「うん。こればっかりは本当に響君の思考力に助けられたんだ」


「それじゃあ、あれはもし光坂君が解けなかったら失敗してたってこと?」


「いやまあ、失敗ってことはないんじゃないかな。二人が意味深な動きをしていたのは気づいていたし」


 自分がやらかしていたことに気付き落ち込む朱里とそれを慰める雪姫。そんな光景を見ながら響は少しだけ笑えたような気がした。といっても、苦笑いだが。


「それで、二人はこんなことをしたって事は何か大事な要件があったから来たということでいいんだよね?」


「うん、そうだよ。それから、これからのことは他言無用でお願い。誰にもだよ。須藤君にも言っちゃダメだからね?」


「あと、朱里達の言葉を信じて欲しいの。これがこの状況を打破する唯一の方法といっても過言ではないから」


「.......わかった」


 響は思わず息を飲んだ。これから言われることに少なからず恐怖感があった。しかし、この状況が打破できるという言葉を聞いて希望の光も見えた。


 だから、ここは聞かなければいけない。たとえどんな突拍子もないことだとしても。


「実はね――――――私達は教皇様の正体を知っているの」


「それは本当か!?」


 響は思わず席を立ちあがり声を荒げた。しかし、すぐにハッとした表情になると扉の外の廊下の方へと聴力を集中させる。


 そんな様子を見ながら雪姫は告げた。


「大丈夫だよ。落ち着いて。私が入った時点でこの空間は結界によって音が外部に漏れないようになっているから」


「そうなのか.......それでその話を詳しく聞かせてくれ」


 響は椅子に座り直すと少し前のめりになりながら雪姫に尋ねる。そして、雪姫は魔王城であったことを詳しく話し始めた。また、処刑の時の真相を、余すと来なく全て。


 それを聞き終わった響の表情はなんとも複雑であった。しかし、雪姫達からもわかるほど明確な怒りを感じていることだけはすぐに気づいた。


「私達は教皇様――――――レグリアがどんな存在か知っている。そして、非常危険な存在であることも。だから、この城にいるメイドさんや執事さんを信用していない。密告されかねないからね」


「朱里達があんな暗号をわざわざ作ったのはそういうこと。それにあいつが『私達は仲間が人質であるために道具のように使える』と思ってくれていた方が都合がいいんだよ。とにもかくにも、皆は無事。だから、安心して」


「そっか......そっか、皆はもう無事なんだな.......」


 二人がふと気づいた時には響は涙を流していた。先ほどの怒りは抱えつつも、それを凌駕するほどの安堵感が溢れ出た結果かもしれない。


 先ほどは怒っていて、今度はすぐに嬉しさで泣いて。情緒が不安定なのは火を見るよりも明らかだ。しかし、これはもはや仕方ないことなのかもしれない。


 響はこれまで精神的に追い詰められ過ぎた。そもそも勇者という重荷を背負う立場でありながら、なんども大切な友人や仲間、恩師を失いかけ、その上で殺し合いまでさせられたのだから。


 もう半分ぐらい壊れているかもしれないが、いつ完全に壊れてもおかしくなかった。だが、きっとそれを唯一繋ぎとめていたのは「まだ皆は無事である」とすがっていた信用なのかもしれない。


 その信用はもしかしたらクラウン()にも似て凹凸があり、歪でまともな原型をしていないかもしれない。


 それでも溢れ出る気持ちはどこまでも本物であった。それをすぐに理解した雪姫と朱里はそっと響のそれぞれの手を両手で掴む。


「仁も、クラスメイトも、ガルドさんも生きてるんだな.......」


「うん。生きてるよ。だから、安心して。もう大丈夫だから。これからはもう一人じゃないよ」


「一人じゃない。一人じゃない.......」


「うん。一人じゃない。光坂君の重荷ぐらい朱里達も背負ってみせるよ!......といっても、朱里達もその重荷を背負ってもらったりしているんだけどね」


「重荷を背負ってもらう、か.......」


 響は雪姫達から両手を放してもらうと涙を拭う。


「カッコ悪いところ見せたな。でも、もう大丈夫。それでこれから僕はどうすればいい?」


「基本的には従っているふりをして欲しい。そして、下手に元気な姿を見せない。必死に何かを抗ってる姿を見せる方が好ましい気がする」


「難しいな。この話を知ってしまった以上は下手に行動できない気がする」


「まあまあ、なんとかなるよ。そして、問題なのはここからなんだけど。きっと海堂君がこの国にやってくるはずなんだ」


「仁が? まさか教皇......レグリアってやつを倒しに?」


「うん、恐らく。そうなると、必ず私達は仁と敵対する位置に立たされる。その時に、響君には一つお願いがあるんだけどいいかな。もっともそれは仁からのお願いなんだけど」


「仁からの?」


「うん。仁からは――――――ただもう一度殺し合いをして欲しいって」


************************************************


 とある街道にて一つの鉄格子を乗せた馬車が走っていた。その馬車の前後にはいくつもの護衛馬車があって大御所でも運んでいるような光景だった。


 しかし、その鉄格子に入っているのは大御所でもなく、一言で少女だ。


 赤髪でサイドテール、キリッとしたやや釣り目の少女は両手を鎖で頭上に固定されていて、両足にも大きな錘がくっついている。


 少女の恰好はそれなりのいい服を着ているのだろが、所々が焦げついた跡が見え、さらに体にかすり傷が多くついている。


 真夜中の月が優しく光を照らしていく中、その光で透き通ったルビーのような宝石色をした瞳はまだ強い闘志の炎を滾らせていた。


「案外、折れないもんなんだね~。そういうのって、野心っていうの? それとも、信用している仲間が助けに来てくれるから?」


 馬の手綱を握るところでは馬に対して後ろ向きに座っている少年のような姿があった。月の光の逆光でわずかにしか顔を見せないが、愉悦気味の顔だ。


「それがあんたの本当の姿ってわけ? 随分と小さいのね。大きさに似て小物臭がするわ」


「ははは、こんな状況でありながら随分と言えるもんだね~。その豪胆さはとても気に入ってるよ~。ただまあ、少しはわきまえなよ―――――下賤が」


 少年は月光で僅かに光る目をキリッと鋭くさせる。するとその瞬間、周囲に威圧の波動が伝わっていく。それは物理的な圧があるように少女を鉄格子に押し付ける。


「脅しはこんなもんでいいかな」


「ええ、こんなもんでいいわよ。少なくとも、この部隊は遅れるから」


「?」


 その少年が少女の言葉に怪訝そうな顔を浮かべると背後にいた二体の馬が突然崩れ落ちた。すぐに少年が確認すると馬が泡を吹いて倒れている。


「もう少し敵意を当てる相手は絞った方がいいんじゃないかしら?」


「はあ、これは面倒なことをしてくれたね。せっかくの駒をここで無意味に寝かせることになるなんて」


「姿を演じ分けてるから不用意に力が使えない。傲慢なあんたにはピッタリな演技力が求められてるわよ―――――レグリア」

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