第272話 これ以上邪魔はさせない
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「なんだ.......あれは?」
「飛空艇.......というよりも島に近いです」
ベルが言ったのは実にそのままであった。すなわち、巨大な一つの島に砲台がいくつもくっついており、さらに空中をゆっくりと進んでいる。
その飛空艇の正面にある口を開けた獅子からは煙が漏れている。ということは、あの口から砲台が現れて弾丸を撃ってあの水柱を作り出したのだろう。
あれほどまでの威力が連発できるとは考えにくいが、問題はそこではない。せっかく助けたこの国があの飛空艇一つの消されてしまう。
クラウンはシスティーナを担ぐとベルとともに島の反対側へと走り出した。住民が慌ただしく砲撃個所の方向から逃げ惑う。
その住民の間を縫って進んでいくとだんだんと圧迫してくるような大きさの飛空艇が視界を埋め尽くしていく。
そして、反対側にやってくるとそこにはラグナ率いる国家騎士の姿があった。しかし、その場で立ち尽くしているだけで何もしていない。
いや、何も出来ないのだ。彼らは魚人族で水中戦であれば十分に本来の力を発揮できるだろう。しかし、今度の敵は超ド級飛空艇にして空中からだ。
この異常事態に駆け付けたリヴァイアサンの群れが口に溜め込んだ海水をその飛空艇に向かって放っていくが、ほとんど意味をなしていない。
代わりにやってくるのが、飛空艇からの砲弾の雨。それは海中にドドドドドバンッ! といくつもの水柱を立てていく。
現在は多くの砲弾が海中の守り神に向けられて放たれている。恐らく、守り神が囮になってくれているのだろう。
しかし、もう数体は撃たれて死体となって海中に浮かんでいる。守り神の囮にも限界があるし、竜宮城が狙われるのも時間の問題。
「ラグナ、これはなんだ?」
「いや、俺達にもわからない。突如として現れていきなり撃ってきやがった。たまたま巡回中の兵士が見かけた情報によると空間から現れたらしい。まあ、あの大きさのものが空間から現れることはないだろうから、気が動転した発言だろうけどな」
「空間から.......チッ! どこまで邪魔すれば気が済むんだ!」
「く、クラウン!?」
「ベル、こちらの守護は頼んだ! あれは恐らく【空帝のウェルメス】。リリスから教えてもらった古代兵器の一つだ。そして、こんなものはそうそう動かせる奴はいなし、空間から現れたとなれば敵は決まりきっている」
「了解です。この島を徹底して防御に回ります」
クラウンはベルにうなづくと一気に空中へ走り出す。砲弾の射線上に竜宮城が入らないように最初は出来るだけ高く上がっていく。
かなりの高さと大きさからか雲の近くまで上がって来てしまった。しかし、これでクラウンに向かって砲弾が撃たれたとしても、二次被害が出ることはない。
クラウンは飛空艇に向かって直進していく。すると、飛空艇の外側にくっついていた無数の砲弾がクラウンに一斉に顔を向けて――――――発射。
一発二メートル以上のエネルギー弾が避ける隙間を埋め尽くすように迫りくる。しかし、空中となれば幾度となく戦ったことがあるクラウンは上下に移動しながらその弾の僅かな隙間を潜り抜けていく。
旋回して近づいていこうとすれば、通ったすぐそばから砲弾が通り抜けていく。つまり止まれば当たり、そこからは集中砲火ということだ。
足を止めれば終わり。時には一気に上に飛んだり、右から大きく回っていったり、急降下したり、左から真っ直ぐ移動したりと自身の接近とエネルギー弾の接近で一秒にも満たないような刹那の時間で移動、回避の取捨選択をしていく。
当然、生身では間に合わないので<超集中>で必要な情報だけかき集めて避けていく。すると、飛空艇の獅子の砲台の近くから一人の声が聞こえてきた。
「よし、あいつらが.......にここをぶっ―――――――ばいいんだよな? そうすれば、神殿......なくなるってことで。にしても、――――――が飛んでこんなにも砲台が反応して.......って言うんだよ」
高速でエネルギー弾を避けるために耳から聞こえる風切り音によって上手く聞き取れなかった。しかし、「神殿がなくなる」と言った。
それがどういう意味を指しているかわからない。しかし、そんなことを考えるは二の次だ。今はあの醜い黒い法衣を着た男を殺すだけだ。
クラウンは未だ気づかれていないことを好機と考えると<隠形>で姿を隠しながら、強襲する機会をうかがう。
狙うならば一気に接近して一撃に仕留める限る。あまりここに時間をかけるつもりもないし、飛空艇自体には認識されているので、一気に行かない限り身バレを起こす可能性があるから。
クラウンは自身が一気に動ける間合いまで気づかれないようにジリジリと近づいていく。出来るだけ、殺気を隠して、鋭く一閃の刃と成れ!
「!.......ガレオン砲が自立起動した!?」
「チッ!」
クラウンが砲弾の雨から見つけ出したその男までの一本道に沿って駆け出した。しかし、相手に悟られる前に「ガレオン砲」と呼ばれる獅子の顔から巨大な砲台が出現して、エネルギーを秒速チャージでクラウンに打ち放った。
それは閃光のようにクラウンに迫るが、それをクラウンは紙一重で回避する。そして、そのエネルギー弾は海に着水すると小規模な水柱を立てる。
恐らく飛空艇の所有者である男を守ろうと牽制の一撃を放ったのだろう。もう少し、エネルギー弾の威力が高かったら避け切れなかった可能性がある。
しかし、肝心な強襲は失敗に終わった。
「その黒髪、左目の切り傷、黒いコートに黒い刀.......ま、まさか、お前がクラウンか!? おいおいおい!? もうこんな所にいるなんて聞いてねぇぞ!?」
その男はクラウンを見た瞬間、慌てふためくような声でクラウンを指さした。そのあまりの挙動にクラウンは思わず目を細める。
「お前は大罪シリーズの神の使徒か?」
「俺は神の使徒アグネスだ。どうしてお前がここにいる!? お前はラズリ様にやられたはず!」
「.......なるほど。お前がやろうとしてるのはこれまでの俺達の行動を見てきたレグリアによる指示で、俺がラズリに襲われ生きていた時の保険的処置ってところか」
「―――――――!」
「だが、残念だったな。死んでもなければ五体満足でピンピンしてるぜぇ!」
「あああああああ!」
「くそ、待ちやがれ!」
アグネスはクラウンの不敵な笑みと言葉に顔を青ざめさせると飛空艇の背中にある森林へと飛んでいった。
神トウマの直属護衛隊の一人を倒したことがよほど精神的にダメージが来たのだろう。しかし、所詮獣王国以来の神の使徒モドキであろうと神の一派であることには変わりない。
神の力はたとえその力がカスほどであっても、持っている人と持っていない人で大きな差が生まれるのだ。
つまり神を倒したとはいえ、神の力をそのまま所持し続けている者がいたとすればその力に魅入られて再び神になり変わろうとする存在が現れるかもしれない。
そうなれば、その存在次第によっては今回の二の舞になる可能性がある。その先はもはや考えたくもない地獄だ。
クラウンはすぐさまアグネスの後を追っていく。やはりラズリとの戦いを潜り抜けたおかげか全体的なパワーバランスは圧倒的に有利らしい。なぜなら、少しずつされど確実に近づいている。
しかし、アグネスを追って森林に入ると巨大な木々に囲まれてアグネスの姿を見失った。<気配察知>で探ろうとしても霧がかかったように上手く見えない。
すると、前方からアグネスが堂々と現れた。そして、告げる。
「ははは、バカだね。自らこの空間に入ってしまうなんて。この空間はもはや俺のためにあるようなものだ。お前は一方的な攻撃を受けて死ぬ。そうすれば、我らが主もその実力をお認めになるだろう」
「場所が限定されたところでしか戦えない時点でもうお前の底は知れたがな」
クラウンは左手の爪を立てて前方のアグネスに向かって引っ掻いた。すると、<流爪>による三本の斬撃がアグネスに飛んでいくが、アグネスは避けることもせずそのまま貫通した。
しかし、その体は蜃気楼のように消えていく。クラウンも大方予想通りであったが、ラズリのような爆発を避けるための念のための行動だ。
背後から何かが急接近していく。鋭い殺意を持って近づいてくる。
クラウンは背後に振り返ると迫ってきた光の三本の矢を弾き飛ばす。するとまた、背後から先ほどの倍の数の光の矢が向かってきたので、弾いた。
クラウンは矢が向かってきた方に走り出す。すると、今度は両サイドから挟み込むように五本ずつ矢が迫ってきた。
よく見ると木々を勝手に避けながら進んでいる。ということは、どんな場所からでも放てるということで、放たれた方向にアグネスがいることは少ないということになる。
それに―――――――
「ほらほらほら? どうした? 殺す気で追いかけてきたんだろ? どれが俺かわかるかな?」
アグネスは先ほどの蜃気楼のような靄を使って自身の分身体を作っている。影分身と似た類だろう。そして、その分身体も光の矢を放てる。
クラウンが周囲を探るようにその場に止まり始めてから一斉に囲うように現れ始めた。地上にも、木の上にも。
「これで終わりだな」
「はあ、うかつだった」
「くくく、だろうね。お前がラズリ様を殺ったと聞いた時は驚いたけど、所詮それはハッタリで――――――」
「俺がお前ごときにこれほどまでに警戒することがバカの極みだった。自分で自分をコケにするような真似とは.......うかつにもほどがある」
「な.......んだと!」
アグネスはその言葉にイラ立ったように一斉に光の矢を放つ。クラウンの全方向からはまばらな距離ではあるが、光の矢が取り囲んでいる。
クラウンは一度目を閉じてからゆっくりと開けていく。そして、全ての位置を把握しているかのように正面から来た光の矢を光で反射して一部が白く見える黒刀を斬り上げる。
そこから、ガガガガガッと自身の体を回転しながら、自身の体のみで全ての矢を撃ち落とした。
「ひっ! 化け物め!」
「化け物.......か」
クラウンは回転した体をグッと足に体重をかけることで制止させる。そして、地面を思いっきり踏み込んで直進し始めた。
光の矢がさらに数を増して迫ってくる。しかし、自分の進行方向に邪魔な矢だけ斬り払うと正面にある大木の枝にいるアグネスに向かって跳んでいく。
「どうしてバレたかわかるか?」
クラウンは左手を伸ばしていくと勢いのままアグネスの顔面を鷲掴む。
「言動一つ一つに殺気が漏れ出過ぎなんだよ。あの演技もどうせここに誘い込むための行動だったんだろうな」
アグネスはクラウンの左腕を掴んで顔から離そうとする。しかし、離れない。そして、クラウンは刀をアグネスの首筋に当てる。
「そ、そんな――――――」
「強さの基準がちげぇんだよ」
クラウンは右手を振り上げる。アグネスの頭と左手が空中に舞う。その頭に向かって左拳の<極震>を叩きつけて木っ端微塵にした。




