第27話 既視感
既視感、作者は割と多いんですよねー(´_ゝ`)
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「......なんというか嫌な予感しかしないのだけど、一応聞いてあげるわ。一体何をしたの?」
「俺がもうすでになにかをやらかしたと思われているのが酷く心外だが......まあいい、見てろ。ベル、やれ」
「はい」
クラウンが指示するとベルは近くの木に近づいた。そして、その小さな手を握って拳を作ると木に向かって殴った。するとバキッという音とともに木に亀裂が入って、やがて倒れた。
「......」
リリスはもうクラウンがやらかすことには驚き慣れたという様子でため息を吐く。すると、クラウンにジト目を送った。クラウンの妙にドヤった顔が癇に障る。
しかし、一体こんな短期間になにをすれば10歳児ぐらいの体躯であるベルが素手で木を折れるようになるというのか。こっちがあちらこちらで情報を集めているうちにホントこいつは人の気も知れないで......
「バカ」
嫌味ったらしくそういうがクラウンに全く届いていない。むしろ私なんか眼中になく見事成果を見せたベルを褒めている。
だが、なぜ少し距離を取った位置から誉め言葉を言っているのか。そして、ベルの方はなぜ臨戦態勢に入っているのか。
なんかこの二人でまたややこしいことになっているような気がしてならない。これは私がいた方が良かったのか。
だが、それでは情報が途絶える。情報は私たちのライフラインに等しい。これは仕方がなかったのだ。できる限りそう思いたくはないのだけど。
するとベルがなにやらキラキラした目をしながらリリスの方へ寄ってっくる。
「リリス様、主様からリリス様もなにやら特殊性癖を持っているとのことを聞いたです」
「......」
リリスはバっとクラウンの方を見るとサッと顔を逸らされた。あのバカ、私に面倒ごとを押し付けたがった。それに特殊性癖とはなんと言い草か。きっと私が興奮した時に入る女王様モードのことを言っているのだろう。
だが、それはそうとしてなぜベルは特殊性癖にこれほどまでに目を輝かせているのだろうか。
リリスは嫌な予感がしながらもベルに聞いてみる。
「ベル、特殊性癖ってどういうこと?」
「?......リリス様も筋肉が好きじゃないです?」
「おっふ......」
リリスは思わず言葉が漏れる。まさかベルが筋肉が好きだとは......こういうのは筋肉フェチと言っただろうか。
この子も自分とは違うベクトルで変態だとは思わなかった。いや、私の場合は種族がらみだから違うけどね。
しかし、これは心が開かれているという事でいいのだろうか。こういうのってやっぱ信用されていないと言えないものだし。
「違うです?」
「え、あー、そうね......私も嫌いじゃないわよ、うん。やっぱり、引き締まった体っていわよね。逆に美しさが出ているというかなんというか」
「リリス様、さすがわかってるです!」
「......やはり変態だったか......」
「そこ、聞こえてるわよ!私は変態じゃないっての!」
なんとかイイ感じに返答が出来たリリスの言葉を聞いてたのかボソッと呟く。だが、ある種の地獄耳とかしていたリリスイヤーはその言葉を聞き逃さず、見事に噛みついた。
しかし、それがいけなかったのか目の前にいるベルが悲しそうな顔をする。
「リリス様は変態じゃないですか......」
「いや、その.......ね?筋肉フェチを変態性の一種だと思うからいけないのよ。これは個性......そう立派な個性なのよ。だから、存分に胸を張りなさい!」
「なるほど......リリスのあのスイッチも個性だったのか。しかも自慢できるほどの」
「あーもう!ちょっと、あんた黙ってなさいよ!せっかく軌道修正できたのに、それを壊すようなことばっかするんじゃないわよ!......もしかしてあんたがベルをこんな風にしたんでないでしょうね?」
「......さすがにあれは俺のせいじゃない」
「ねぇ待って、あんたほんとにしたの?」
リリスはさすがに冗談に近い感じで言ったのだが、クラウンの様子が明らかにおかしい。え?まさかほんとにほんとなのか?一体なにをしたらベルが筋肉に目覚めるというのか。
もしかして、なんかの拍子に触れたとか?だが、クラウンはロキちゃん以外他の人を近づけさせることはない。しかし、それぐらいしか触れる機会もない。
そして、思い切って聞いてみることにした。
「はあ......」
リリスは聞き終わるとまず初めにため息を吐いた。だがまあ、これはさすがに不可抗力と言っていいだろう。
それに特訓内容に触れるのはこの際置いておくとして、クラウンとベルが少しでも仲良くなったならそれはそれで嬉しい。
だが、ただ触れただけで何がどうしてここまで目覚めてしまうものなのか。これはさすがにベルがもともと目覚め得るポテンシャルを持っていたと考えるのが普通か。
いや、自分で考えておいて何を言っているのだろうか。筋肉フェチに目覚めるポテンシャルなんて。言葉の限りだとただの変態ではないか。
リリスはもう一度ため息を吐くと深く考えることは止めた。これほど愚かな思考はないだろう。もう次の話題にいこうか。だが、その前に.......
「特訓はこれで終わりかしら?そうだったら、移動しながら話しましょ」
「そうだな。もうここに長居は無用か」
そう言うとリリスが近くの都市で買ってきた馬車に乗るとロキがその馬車を引き始めた。クラウンはその馬車に感心した。
なかなかいいのを買ってきたのか、揺れることはほとんどない。まあ、きっとどこぞの男をひっかけてきたのだろうけど。
「それで話ってのは?」
「安心していい情報よ。理由はわからないけど、聖王国で指名手配はされても討伐隊は組まれてないそうよ。それから帝国でも」
「帝国の理由はわからんが、聖王国の方はおそらく魔王討伐の方を優先させたのだろう。俺みたいな触れなければ害のない奴を優先するよりも確実に攻めに来るとわかっている魔王を優先した方が理に適ってるしな」
「ただ間違ってるとすれば『触れなければ害のない』ってところね」
リリスは案外先ほどのことを恨みに思っているのか噛みついてきた。クラウンが思わず見てもリリスは頬を膨らませてそっぽ向くばかり。
それから、クラウンは横から自身の腕に向かって伸びてくる手をペチンと払う。......近づくなフェチ狐が。
「しかし、それならこちらとしても動きやすくて助かる。まあ、邪魔されても関係ないがな」
「なら、今更関係ないわね」
リリスは相変わらずマイペースな発言に頼もしさも感じるとともにやはり疲れたため息も吐く。ああ、最近肌の調子悪いかも......
それから1週間と少しでクラウン達は外壁に囲まれた大きな城が見えてきた。ベルの情報からあれが獣王国で間違いないらしい。
そして、そんな獣王国に対してクラウン達が取った行動は正面突破。といっても武力行使で侵入するわけではない。上手くすればベルを使ってなかに入れる可能性が小さいが確かにあるのだ。
ベル曰く生贄巫女という存在は国民や一般兵士にはほとんど知られていないそうだ。なので、知っている人に会ったらアウトの可能性が高いが、それ以外ならまだ可能性がある。
ならば、獣王国にまで指名手配されたくないリリスの行動は一つしかなくなり、クラウンを説得して正面突破という行動に決めたのだ。
「そこの馬車よ、止まれ」
豹の門番が門に近づいてきた馬車を止めた。もちろん、止められた馬車はクラウン達が入っている馬車だ。そして、そこから出てきたのはリリスで、豹の門番は思わず警戒する。
「人族の女が何用だ?」
「人族......そうね、ここまで来てわからないはずないでしょう?」
リリスは門番に人族と言われたことにカチンときたのか思わず高圧的な態度で逆に聞き返した。しかし、門番は怯むことはない。
「ここに入りたいという事か?」
「そうよ。それにちゃんと理由もある。おいで、ベル」
「!」
リリスがベルの名前を呼ぶとベルが馬車から降りてきた。門番はそのことに思わず驚く。もちろん、悪い方でだ。憎き人族が小さな獣人の子をを連れている。それだけで問題だ。
「この子をどうするつもりだ!」
「そんな声を張り上げなくてもいいじゃない。ただこの子をここに連れてきたかっただけよ、それに私達この国に用があったし」
「......わかった。その子だけ寄こしてお前らは去れ」
「ねぇ、話聞いてた?用があるって言ったはずだけど?」
門番は聞く耳持たんとばかりにリリスの入国を拒絶する。それだけ人族を憎んでいるのか。「人族は一体何をしたのか」と思わず敵ながら呆れたため息が出る。
しかし、ここでベルだけを入国させるのは不味い。ベルに入国の裏工作をしてもらう手もあるけど、巫女の存在が知っている人に見つかればアウト。
なら、見つからないようにすればいいという話になるが、獣人の感覚探知はそうそう潜り抜けられるものではない。
それがたとえ同じ獣人同士であっても。だからどうにかして、ベルと一緒に入国できる手段を探さなければ。
だが、しばらく無言に近い膠着状態が続いた。するとボソリと声が呟かれる。
「なげぇ......」
「!」
「......そういえば、この子を除いて『私達』と言っていたな。誰だ?」
リリスは思わず聞こえた声にビクッとした。その声はクラウンのものであったからだ。クラウンがここで出て来るのは不味い事態にしかならない。
だが、リリスで聞き取れた声が獣人に聞こえないはずもなく問い質される。そして、リリスの防ぎようもなく馬車からクラウンが降りてきた。
「......!」
門番がクラウンを人目見た瞬間、ただならぬ嫌悪感と全身に鳴り響く警音が一気に沸いてきた。獣人の獣の部分が告げているのだ。この男は危険すぎると。そして、こいつは自分の手に負える相手じゃないと。
「俺達は用がある。入れろ」
「こ、断る!おい、お前!兵長を呼んで来い!」
「あ、ああ......」
門番はクラウンの申し出を断るとすぐにもう一人の門番に命令を出した。命令を出された門番は同じくクラウンに引け腰になりながらも逃げるように走り出した。
「なぜだ?」
「お前らは人族だ。人族は我ら獣人族を弄んだ挙句に殺す始末。これでお前らが入れない理由がわかっただろ!さっさと去れ!」
クラウンはその言葉を聞くとまずリリスの方を見た。......なるほど、角とか生えてるわけじゃないから人族と勘違いされたのか。それで、言われたリリスはリリスの方で人族を憎んでいるため、あんな目つきが鋭いのか。
そして、こいつらが俺達を憎む理由は大方奴隷にされた獣人の扱いに関してだろう。まあ、そもそも愛玩用として獣人を捕まえて無理やり奴隷に堕とす時点で憎まれても仕方ないがな。
......だが、その一切が俺には関係ない。
「俺をそんな弱者と同列にするな。ベルだって奴隷ではない。確かめたければ隷紋を探せ。ただし、話し合いもついていないのにこいつを勝手に入国させればその首が切られると思え」
「この......!」
門番はクラウンの言葉にイラ立ちながらも本能が抵抗すべきではないと告げているので、なにも言い返さずにベルの胸元を見た。
よくある魔法陣は見られない。どうやら言っていることは本当のようで奴隷だと思っていたのはこの見すぼらしい服装のせいらしい。
なら、こいつらは本当にこの子を連れてきただけなのか?......いや、騙されるな。ならばこの男からこんなに嫌悪感を覚えるはずがない。獣人の感覚は絶対だ。間違えるはずがない。
そして、兵長が来れば全てが解決する。
「連れて来たぞ!」
「やっと来たか!......兵長、この者達です」
「フォフォフォ。さてどんな人かな.....!」
「......!」
もう一人の門番が連れてきたのはまさに好々爺といった犬の兵長。だが、クラウンにはなぜかその顔が見覚えのあるような感じがした。
全く見たことがない、なのに知っている。意味不明な感覚だ。だが、気のせいではない。
一方、兵長の方もクラウンとベルを見ると驚いたような顔をした。そして、「なるほど。これはこういう事だったのか」と独り言ちるとクラウン達に告げる。
「入国は儂が認めよう」
「「兵長!?」」
この言葉に門番が思わず言葉を張り上げる。兵長とて目の前にいる男がどれほど危険であるかわからないはずがない。なのに入国を許可した。
それは、この全ての責任を自分が取ると言っているようなものだ。
だが、その言葉を否定することは出来ない。この獣王国は強さで優劣が決まる。つまり兵長である時点で門番より強いのだ。
そして、この場では兵長より強い者はいない。なたば、この意思に決定されるほかない。
思わず顔を暗くする門番に兵長は優しく声をかける。
「安心せい。儂が好きにはさせん」
そして、クラウン達にも告げる。
「さあ、こちらへ。少し話をせんか?」
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