第269話 海底の箱舟 ウォルテジア#3
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ボス戦です
クラウンはラグナとベルに協力を仰ぐとすぐに思考し始めた。それは真下に見える五つの渦潮をどう繋げてもう一つの渦潮を作り出すか。
不自然に中途半端に浮いてるブロックはその軌道を曲げるためのものだと思われる。そして、その配置にもヒントは隠されているはずだ。
配置されているブロックの位置は穴の左側に二つ横並び、上に一つ、左側に一つ、下に感覚を開けて二つ。それから、その四つの位置に属さない中心に近いところに一つ。高さ(水深位置)はそれぞれ微妙に違う。
これらから五つの渦潮から正解であろう六つの渦潮を作り出す。とはいえ、考え始めてなんだが、本当に六つの渦潮を作り出すことは可能なのか。
単純な話だ。少ない状態から増やすのはその逆より圧倒的に難しい。もちろん、ものによるが今回の場合だと難しいと言わざるを得ないだろう。
例えば、いろんなものが複雑に混じっているゴミ袋から「燃えるゴミ」と「燃えないゴミ」を分別しようとするのは苦労するが、もともとあったそれら二つを一つにまとめるのは容易いだろう。
今回はそういう場合だ。渦潮なんてあまり見る機会もないだろうものを斬って二つに分けるということは可能かどうかわからない。
だとすれば五つを一つにまとめた方が圧倒的に簡単に見える。そのためのブロックであるかのように感じる。
確かに、ブロックは微妙に位置が違っているそれを渦潮の中心に縦に積み上げれば出来ないこともない。
だが、それが新たな渦潮として二つに分離するかどうかはまた別の話だ。そして、予想からすれば低い。
となれば、増やすとばかり考えていたが、本当は「減らす」のが正解なのではなかろうか。いわば、このギミックを利用して五つを一つに変えていき、その一つが本体へと辿り着く道となる。
渦潮も個々によって微妙に回転の速さや大きさは違うが、それでも分離よりも合流の方が成功する確率が高い気がする。
「全員、七つのグループを作ってくれ。そして、穴の左側から時計回りにブロックをA、B、C、D、E、Fと呼称し、中心はGとするから、それぞれのブロックの配置についてくれ。俺が位置を指示するからそれ通りに動いて欲しい」
「それが黒幕に繋がる道ってことか?」
「可能性上の話だがな。もっとも、それをゼロか否かを判断するための行動だ。俺達は渦潮に飲まれてここにやってきた。末尾から戻ろうとしても渦潮の潮の流れに逆らい続けて戻るのは容易じゃない。それに労力を使うのだったらそれを発生させている黒幕に労力をかけた方がいいと話だ」
「ベル達は急いでいるですし、当然です」
「まあ、妹にあんまり心配かけるのはよろしくないよな。それにどうせ戻れないんだったら、前に進むしかない」
「そういうことだ。すぐに始めるぞ」
そして、クラウンの指示の下で七つのグループがそれぞれのポジションにあるブロックを横に動かしていく。
すると、クラウンの見込み通りに渦潮の途中にブロックが重なるとその渦潮はそのブロックにぶつかり、直角に曲がっていく。
またあるところでは、ブロックに渦潮がせき止められ、ブロックの位置までしか渦潮が伸びなくなっていた。
その可能性があることにクラウンは思わず苦悩した。それは単純にどれを使うかという総組み合わせ数が増えるからだ。
全部使う前提での組み合わせだったら探り探りでもまだ行けたかもしれないが、使わないブロックがあるとなると全部を試している間にラグナ達の疲労度はピークに達するだろう。
故に、考え方を変えた。もしこういうギミックでこの場を支配しているのなら、敵側の立場になって考えてみれば自分達をどうしたいかという考え方に。
その思考は至極単純かもしれない。渦潮でハズレを用意しているのなら自分をもとの場所に近づけたくないということだ。
そして、逃げ場もないここで自滅するのを待つ。なんとも姑息だが、それでいて強力な作戦だ。それは自分は自滅しないという絶対的な自信があるからこそのこと。
ならば、その考えを覆すのみ。
クラウンはおもむろに不敵な笑みを浮かべると<超集中>を使い始めた。それは本来、視覚能力を強化することで意図的にスロー状態に移行する魔法だが、それを脳の思考処理に使った。
それで脳内で様々な実際に動かしたシミュレーションをしていく。それで候補をいくつも潰していく。
それはとても脳内に負担をかけ、強い疲労を感じさせるものであったが、ひとえに「勝者の立場のものの上に立つ」―――――――下剋上者の心構えで苦ですらない。
それから、クラウンはラグナ達に指示を出し続ける。それは時にルービックキューブを完成させるように同じ個所を何回も動かすこともあったが、それでもラグナ達はクラウン達の言葉を信じ動かし続けた。
そして、試行錯誤から三十分でついに一つの渦巻きを作り上げることが出来た。
大きな口を開けて近くにあるものを飲み込もうとする渦巻きは途中でいくつかの渦巻きを繋げながらも、底が見えない真下に向かって伸びている。
「クラウン、この先が.......」
「ああ、そうだ。この中に入ればもう勝つか負けるかの正解だ。生きて帰りたければ取る行動は一つしかない。もうわかっているな?」
「私は常に主様のそばとともにです。いつでもいけるです」
「ああ、やってやろうぜ。この海を守るんだ!」
「「「「「おおおおおおお!」」」」」
ラグナの突き上げた拳に合わせるように雄叫びを上げながら兵士が拳を突き上げる。士気は上々というところだ。
そのことにニヤリと口角を上げると「いくぞ!」という声でクラウンを筆頭に渦の中に突入していく。そして、待ち構えていた巨大な渦潮に飲まれていく。
その渦潮は始めの方の渦潮とは違い、中心部分は比較的穏やかな海流であった。さながら台風の目にいるような感覚だ。
まさしくRPGにありそうなボス戦に挑むための意味ありげな長い廊下みたいである。それから、泳ぎ続けていくとやがて末尾に近づいてきたのか段々と狭くなってきて海流も激しくなり始めた。
そして、末尾から勢いよくポンポンポンとクラウン、ラグナ、ベルは射出されていき、後続の兵士達も排出された。
すると、その真下にいたのは―――――――
「ガアアアアア!」
巨大なウミガメであった。ただし全体的な容姿だけがそうであって、トゲトゲとした顔面や手足に、鋭い剣山を生やしたような甲羅とまさに凶悪なフォルムであった。
ウミガメは有無も言わさずヒレを大きく動かしてクラウン達に突っ込んでくる。その速さは、大きさが三十メートルぐらいあることもあってすぐさま急接近。ヒレを使って薙ぎ払おうとする。
クラウンは刀を使って防御態勢に入った。しかし、刀が直撃した瞬間、突っぱねていた腕が強制的に曲げられる。
水中にもかかわらずドンッという衝撃音が走り、クラウン、ラグナ、ベル、その他の兵士ともども一斉に薙ぎ払われた。
水中でありながら真下に落とされていく。勢いが強くて体の不自由が効かない。ならば、とクラウンは体を回転させて衝撃を分散した。
そして、止まって上を見上げればウミガメは口を大きく上げて、一気に水流を吐き出した。同じ水でありながら、一部だけ重たい水が迫ってきているような揺らぎが見える。
クラウンはまだその場から動けない状態にいる仲間を見つけるとすぐさまその方向に<極震>を放った。
今度の<極震>は単純に衝撃波を放つものではなく、水を上手く掴むようにして揺らしたものだ。つまりは、水の壁を作り出してその勢いで仲間達を弾き飛ばそうというもの。
その目論見は成功し、仲間達が斬道上から外れた瞬間に水流は壁に直撃、爆散した。瓦礫が下に向かってゆっくり落ちていく一方で、砂埃は上を目指して水中で漂って拡散していく。
「ガアアアア!」
イラ立ったように声を上げる。その声にクラウンも歯噛みする。
水中戦は初めてではない。霊山の時も戦った。しかし、あの時と決定的に違う何かが存在するとすれば、それは機動力である。
あの時はエキドナの背中に乗って機動力を確保しつつ戦った。しかし、今回はウミガメに詰め寄る方法がない。
あるとしてもいつも通りに水中を蹴って移動するだけだ。しかし、それは泳いで移動するより圧倒的に遅いだろう。
ならば、引き寄せるのが手か。いや、そもそも水中である以上、装備で効果が成すのはあくまで物理攻撃だけだ。
魔法攻撃は装備の干渉外となってしまうため、糸を飛ばしたとしても途中で勢いが死んでただのゴミとなる。精々できるのは何かに固定することぐらい。
クラウンが攻略法を模索しているとウミガメは突然、リクガメのように手足をしまって甲羅だけとなった。
そして、その甲羅を勢いよく回転させていく。すると、その甲羅に引き寄せられるように水流が発生していく。
体が持ってかれそうになる。加えて、高速回転中のウミガメの甲羅に当たればミンチにされる可能性が高い。現に耐えられなくて巻き込まれた数名は甲羅から発する赤い水の一部となっている。
しかし、その行動はあくまでも前段階に過ぎなかった。それはウミガメがその状態のままクラウン達がいる方向に突っ込んできたのだ。
水流もそのままであり、近づいてくるたびに引きずられる勢いは強くなっていく。咄嗟に斬撃を飛ばしてみても、弾かれ後方に飛んでいった。
やはりと思っていたが固いらしい。最近、妙に固い奴らが多い気がする。そんな愚痴を吐き出す余裕もなく、その場からなんとか脱出する。
ウミガメはまた数名の兵士をミンチにしながら、壁に突っ込む。だが、ぶつかっても勢いが止まることはなく、まるで掘削機のように壁を削っている。
それによって舞い上がった瓦礫と砂埃を発生した水流が巻き上げていく。それらは本体の甲羅に当たると再び上に舞い上がり水流に引きずり込まれということを繰り返していく。
いわばトゲ甲羅という外角にさらに状態砂嵐という効果が付属されたようなものだ。つまりダメージ効果範囲が広くなったということ。
水流に巻き込まれそうという範囲では先ほどではなんでもなかったが、今度は瓦礫が水流の勢いのままに押し寄せてくる。近ければ近いほど威力は増大だ。
「これが本当の水中戦か」
クラウンは思わず歯噛みする。




