第267話 海底の箱舟 ウォルテジア#1
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神殿編ですね
クラウン達は守り神ことリヴァイアサンを味方につけることに成功してから数日後、準備を終えて神殿に向かおうとしていた。
「皆さん、もう行かれてしまうのですね......」
城を出たクラウン達に向かって居残りとなったシスティーナはいつもより覇気がないような口調であった。
恐らく「自分も本当は行きたい」という気持ちを押し殺しているのかもしれない。けど、戦闘力がない自分が行っても足を引っ張るだけということを知っているからこそのか弱さが滲み出た声なのだろう。
確かに、システィーナの「水の語り部」としての能力は強力だ。上手くすればクラーケンの集団を無力化できるかもしれない。
しかし、それはサキュバスの魅了と違って自制できるものではない。やたらめったらに周囲の水生生物の理性を壊してしまうのだ。
そうなれば、クラーケンが真っ先に狙うのはシスティーナだろう。囮としてはとても優秀な働きをしているが、さすがに戦闘力ゼロの人物を囮にするわけにもいかないし、万が一王子が無くなった時の保険的存在でもある。
それ故に、システィーナを連れて行くことはできないのだ。どんなにだだをこねようとラグナがそれを許さなかっただろう。
加えて、本人にも自覚があるので、吐き出した言葉がせめてもの内心から漏れ出た言葉なのだろう。
守り神を味方につけてからは時の流れが早いように感じたのはクラウン達も一緒であった。説得したのがつい昨日のように感じる。
しかし、現実は待ってくれない。ここで行かなければせっかく味方してくれる守り神達の信用を損ねることにもなるし、そうなればこのチャンスは二度と来ないかもしれない。
「システィ、僕達の帰りを待っていてくれ。大丈夫だ。こっちには頼もしい御仁がいるからな」
「あんまり期待ばっか寄せられても困りものだが......まあ、お前が戻ってくると信じていれば戻ってくるだろうさ」
「あなたにはあなたのやるべきことがあるです。私のやるべきがこれであったからこっちにいるだけです。しっかりするです」
不安げなシスティーナに三人がそれぞれ声をかけていく。その言葉に胸の前で祈るように手を込んでいたシスティーナは声を張り上げた。
「わかりました! 私は兄さん達が無事に帰って来れるよう一心に願っております! ご武運を!」
そして、「それから――――――」と言葉を続けていくとベルに向かって告げた。
「あなたも必ず帰ってきなさいよ! 言い合う相手がいないとつまらないから!」
「勝ち逃げなんて卑怯な真似はしないです。必ず戻ってきていつも通り負かしてやるです」
「私は負けてないわよ!.......でも、祈ってるわ」
「.......急にしおらしくなるのは卑怯です」
クラウンとラグナは二人のやり取りを見た後の思わず顔を見合わせると笑った。そして、クラウン達の黒幕討伐兼神殿攻略が始まった。
クラウン達は海の中に入っていくと少し進んだところにいる守り神一派と合流していく。
やはりと言うべきか、遠くから見える守り神の姿はド〇ゴンボールの神龍じゃないかと思ってしまう。そして、一番デカい長のガバルディの周りに全長十五メートル級が十二体ほどいる。
ガバルディのもとへと辿り着くとガバルディは目線をそのままに大きく頭を振った。その方向はクラーケンがいる場所だ。
システィーナの頼りがないので話をすることが出来ない。それ故のジェスチャーなのだろう。なんとも横暴な態度にも見えなくないが、やる気があるだけ十分だ。
クラウン達はラグナを戦闘に、そしてその両端に巨体をうねうねさせながらガバルディ達が挟み込む形で泳いでいる。
そして、先日戦ったポイントである大穴の場所まで辿り着くとクラウンはすぐさま<気配察知>で確認する――――――いや、もはや確認するまでもなかった。
「ギシャアアアアアア!」「ギョショアアアアアア!」「ギッショアアアアアアア!」
三匹のクラーケンの鳴いた声が鼓膜にガンガンと響いていく。また同時に、大量の小さいイカが一直線にクラウン達目掛けて突撃してきた。
初手からの先制攻撃。相手はどうやら仲間が一匹やられたことによほど臆しているらしい。本来なら最初のクラーケンのように触手を伸ばすはずなのに、いきなり切り札の高火力遠距離攻撃をしてくる辺りは特にそうだ。
それに対し、動いたのはガバルディであった。ガバルディはその場の水を思いっきり吸い上げていく。その勢いは渦潮の如く体が無理矢理もっていかれる。
そして、頬を張るほど口の中に水をため込むとそれを一気に吐き出した。思いっきり押し出された水の一閃が迫りくるイカを薙ぎ払っていく。
それはさながら水のブレス。しかし、ブレスといっても水圧カッターに近いもので、それらはあっという間にイカを切断していき、爆発させる。
その爆発は向かっていた第二波も誘爆させていき、穴の下へ潜っていくように連鎖爆発を起こしていく。そして、奥からクラーケンの叫び声が聞こえてくる。
クラウンはガバルディと目が合った。すると、ガバルディはまるでドヤ顔してニヤッと笑う。その顔に若干イラッとしながらも、穴へと潜っていくガバルディの後へとついていく。
クラーケンの触手がクラウン達に向かって伸びてきた。だが、それらは若き守り神達が噛みついて防いでいく。
そして、ガバルディは一気に真下へと加速していくと一体のクラーケンに噛みつき、そのままもう一体を押し潰していく。
目線で合図を送ってくる。その隙に通っていけということだろう。ならば、その行動に甘えてすぐ横を通り抜けていく。
他のクラーケンは海底にあるであろう神殿に近づけさせまいとクラウン達に迫っていくが、その悉くを残りの守り神達に抑え込まれていく。
そうして海底に泳いでいくとだんだんと周囲は暗さを増してきて、まるで夜のようになり始めた。巨大な縦穴であり、光も届かなくなり始めたからであろう。
すると、ラグナは腰巾着から大量のウロコを取り出し始めた。そして、それらを兵士達に散布させる。
その瞬間、夜のように暗かった洞窟は周囲が少し遠くまで見渡せるまでに明るくなり始めた。これは海底にある神殿に至るまでに集めてきた僅かな光でも反射させるウロコだ。あらかじめ暗くなることはわかっていたのでそのための対策である。
そして、クラウン達は海底の砂の上へと着地した。それから、目の前に鎮座する巨大な建造物を目にする。
それは全て木材で出来た巨大な船であった。まさに箱舟。色はなく、木の本来の色が滲み出ている。船首には女神をかたどった金属がくっついているが、やや劣化している。
船に数か所に大きな穴が開いており、その穴から船体の内部が見える。さまざまな海藻が船にくっついて自生しており、小魚の行き来が見えるところから隠れ家的な場所なのだろう。
だからこそ、思う。
「ラグナ、本当にここは神殿なのか?」
「ただの沈没船にしか見えないです」
「ああ、俺も久々に見たが、そう感じるな。だが、親父の証言や過去の文献を見た限りだと特徴が酷似しているし、場所も間違っていないはずだ」
そう言いつつも不安げな様子が隠せないでいるラグナ。クラウンとてここまで準備しておいて間違っていたとかは勘弁である。
ならば、確かめるのみ。
クラウンは目を瞑って<気配察知>を船の方に意識や範囲を尖らせる。これによって広範囲の検知は出来なくなったが、狭い部分でのより正確な検知は出来るようになる。
船に空いた一か所の穴から中に入っていくように意識を尖らせ、その船は豪華客船のように大きいのかさらに奥へ奥へと気配が滑り込んでいく。
そして、四階を過ぎたあたりだろうか。またもや穴を見つけた。どうやらこの船は穴の上に鎮座しているらしい。
さらに気配を穴の中へと潜らせる―――――――瞬間、目が合った感覚がした。
「全員、すぐにこの場から離れろ!」
クラウンはすぐに周囲に告げる。その動作とほぼ同時に船に空いた穴という穴から水中版竜巻である渦潮がいくつも現れた。まるで船の周りにあるあらゆるものを船の中へ引き寄せようとするかのように。
生き物のようにうねうね動く渦潮は兵士一人、また一人と吸い込んでいく。クラウン達もいくら砂の上で踏ん張りを利かせても、やはり地中と海中では違うのか勢いに飲まれ始めていた。
しかし、こうして引き寄せるということは黒幕はあくまでその場を動かないということの証明である。となれば、倒すために結局自らその中へと飛び込んでいくしかない。
「ラグナ、ベル。ここで踏ん張っていても意味がない。ならば、突入するぞ。邪魔者は狩るのみだ」
「まあ、確かに。どうせ吸い込まれそうだし、戦う前に疲れるのは得策じゃないな」
「主様が行くというならばどこまでもいくです」
「よし、いくぞ」
クラウン、ラグナ、ベルは同時に踏ん張りを解くと荒れる渦潮の勢いにそのまま飲まれていった。
「渦」潮であるためかグルグルグルグル目が回りそうなほど回転していく。生身のまま洗濯機にぶち込まれたような感覚だ。
幸い、水中専用装備であるために平衡感覚は保立てるようになっているため、回転していてもどこまで船体の中に入っているのかわかる。わかるのが、だからこそ少し酔いやすくもなっているというジレンマもある。
そして、クラウン達が渦潮に飲まれてからしばらくすると突然吹き飛ばされるように渦潮から抜け出した。どうやらクラウンの気配を潜らせた位置まで辿り着いたらしい。
「......マジか」
クラウンは穴を見ると思わず唸った。それは穴の中の至る所に均等な太さの渦潮があちこちに発生しているのだ。
そして、その下には黒幕であろう巨大な気配がある。しかし、その気配に辿り着くまでにはどうやっても渦潮に飲まれなければいけないのようだ。隙間を縫って行こうとしても、必ず通り抜け出来ないようにどこかの渦潮が塞いでいる。
さらに渦潮の近くには不自然な正方形のブロックがいくつか見える。中には水中のある場所で制止したものすらある。それが何を意味するか分からないが、ともかく、初見で思う感想としては――――――
「あみだくじかよ」
この言葉に尽きた。




