第259話 素材集め#3
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「クソ、かてぇな!」
「まあ、皮は筋肉に張り付ている感じだからな。筋肉質なこのサメを仕留めた際の剥ぎ取りはいつも苦労している」
クラウン達は現在、滝にある途中の足場で仕留めたサメで最後の素材であるサメの皮を手に入れている最中であった。
その皮は非常に硬質でザラザラとした鮫肌特有の感触があり、触っていると痛く感じる時もある。そして、皮以外にも口にある牙もまた必ず必要な素材ではないが、あれば便利と言われたので回収していく。
回収中も何回か襲われる被害があったが、その度に仕留めていたので前に仕留めたウォータースライムの水膜、シーマンの水かきの素材を集めるとかなりの量になった。
リリスのような特別な指輪は持っていないし、さらにこれほどまでの量を取るとは思わなかったようで小さめの袋しかなく、それにパンパンに詰め込んでも収まりきらないので途中クラウンが糸で袋モドキを作ってカバーしている。
すると、おもむろにシスティーナが下の足場へと降り始めた。その姿を見てラグナは何かに気付くとそのまま後を追っていく。
その二人の様子を怪訝に思ったクラウンはすぐに聞いた。
「どうした? もう素材は集めたから終わりじゃないのか?」
「そうだけど! 今は絶好のチャンスなんです!」
「チャンスです?」
「ああ、システィーナが目的を達成したにもかかわらずこうするってことは近くに精霊様がいるからだ。もしかすると、会いに行けば顕現してくれるかもしれない。どうだ来るか?」
「.......わかった」
クラウンは少しの間の後了承の意を伝えた。その間は精霊が敵であった場合どうするかということだ。
精霊が神の眷属ならば襲ってくる可能性が低くないし、そうじゃなくてもおかしなことをしてくる可能性は大いにある。
もちろん、憶測の範疇だ。だが、神の使いに対してロクな印象がないので必然的にそう思ってしまう。しかし、もし違うとすれば会いに行ってみるのも悪くない。
何らかの助言や恩寵のようなものをくれる可能性もあるし、ないならないで別に構わない。現状の目的は既に達せられているのだから。
「あ、そうそう。精霊様から祝福を受けるかもな。ほら、服作りの時の。もっとも効果はそれだけじゃないらしいが」
「すぐに行く」
クラウンは先ほどの考えを撤回した。やはり何か貰える気でいくに決まっている。それがどんなものであれ。
そして、システィーナの後をついていく。360度大瀑布が見える場所を歩いて行くことはもう一生ないだろう。
どこまでも底が見えない巨大な洞穴の中を突き進んでいく。足場は滝に近いところにあるせいで空中に飛び散った水しぶきでもう服はずぶ濡れに近い。
螺旋階段上になっている足場からふと上を見上げればまるで滝に包まれているような気分になった。もっとも「まるで」じゃなくそのまま包まれているのだが。
それに高さも五十メートルは過ぎたようだ。一体何メートルの滝なのか。いや、そもそもこの空間自体が精霊によってランダムで組まれたのだとすればもはや何メートルでも関係ない気がする。
するとある所でシスティーナが滝の前で止まった。その滝をマジマジと見ながら耳を澄ませている。そして、クラウン達に指を指して告げた。
「ここの滝の奥に洞窟があってそこにいる」
「じゃあ、この滝をどうにかしないといけないわけだが......」
「この滝をどうにかするだと?」
クラウンは思わず言葉を漏らす。周囲にある滝は一つ一つ独立した滝が四方八方にあるわけじゃなく、一つの滝なのだ。
どこからともなく流れてきた水が中央に向かって落ちている。海に巨大な穴が開いて、そこに一斉に水が流れ込んでいくような感じだ。
そんな状態で一体どうやって裏に行けばいいというのか。滝の勢いは凄まじくすぐに流されてしまうだろう。
「滝を斬ってその隙に」というやり方も考えたが、それはあくまで一つの滝に対してというところだろう。
確かに目の前に存在している滝も一つの滝なのだが、さすがに周囲の滝も一度に斬ることは出来ない。現状では行く方法がない。
しかし、それだと精霊はどうしてわざわざ居場所を知らせるようなことをしたのか疑問になる。魚人族に対して精霊は神よりもっとも身近な信仰対象である。
もし近くにいて会いにいけるわかれば行きたいと思うはず。そんな魚人族を唆し、こうして行けずに立ち往生する姿を見て面白がっているのか?
いや、さすがに違うと思う。だとすれば、神の使いとはまた違った意味でゲス野郎だ。ならば、行ける方法があると考えるのが妥当か。
クラウンは考える。その姿に気付いたのかラグナは声を出さずジッと見守り、感極まって声を上げそうなシスティーナの口はベルによって抑えられている。
「確かこの空間は普通の空間じゃなくねじれている。だとすると、もしかして永久循環していたりするのか?」
クラウンは何かを呟くと抱えていた袋からハイドロシャークの牙を取り出して頑丈な糸で括り付けた。そして、それを正面の滝に投げる。
すると、当然その牙は滝によって流されていく。しかし、クラウンはただ流されていく牙に括り付けた糸を垂れ流しながら、その場に立ち尽くす。
しばらく待ち続けたがクラウンが流している糸がいつまで経っても止まることはなかった。するとその時、上の方から下ってくる魚影を確認した。
その魚影はクラウン達の方へ襲うように飛び掛かる。そのサメを見た瞬間、クラウンは不敵に笑った。それはサメに対してではなく、サメが咥えていた牙の方だ。
その牙は糸が括り付けられている。やはりクラウンの考えは正しかったようだ。
迫りくるサメから牙を回収し、適当に蹴り飛ばすと袋に収める。そして、ラグナとシスティーナに告げた。
「精霊までの行き方はわかった。それにはお前達の力が必要だ。頼む」
ラグナとシスティーナは互いに一度顔を合わせると返答する。
「それは構わないが.......」
「どうやっていくんですか!?」
「考えてみろ。そもそもここは精霊が作ったねじれた空間だ。途中にあったおかしな足場も地下には絶対にないこの大瀑布も精霊が適当に作ったのだとしたら納得がいく。要するに常識で考えちゃいけないってことだ」
「なら、どう考えるんです?」
「この滝に終わりはない。つまりはこの滝は循環しているんだ」
「滝が循環?」
クラウンが言いたいことは流れて行く滝の水は下に向かっていると思いきや、途中で上向きに流れが変わっているということ。
いわば滝の全体像は輪っか上になっていてそれをいつまでもグルグルと回っているということだ。エッシャーの「滝」というだまし絵が一番分かりやすいだろう。
常識が固定概念化しているせいで説明には苦労したが、なんとかラグナには伝わったようだ。二人には単純に自分達を引っ張って欲しいということだけなのだから。
クラウンはラグナの肩を借りるとシスティーナも嫌々ながらベルと肩を組んだ。そして、ラグナ達から先行して滝に入っていき、その後をシスティーナ達はついていく。
目の開けることが難しいような水流の中でもさすが魚人族であるラグナとシスティーナは平然と泳いでいた。
クラウンと素材が入った荷物という水の抵抗を直に受けそうなものでも水圧に押されるままに流れて行く。
感覚としてはずっと落ちているように感じる。息も出来ないし、周りを見る余裕もないでここがどこかさえわからない。
すると、ラグナのもとにベルを担いだシスティーナが近づいて来て何かを話している。水流で何を話しているかわからないが、すぐにクラウンから見て右側を方を指さした。
ラグナは徐々にクラウンを右側に押していくと瞬間、突然水の領域から抜けた。ラグナとクラウンはそのまま滝から投げ出されたように地面に落ちていき、さらにその上にシスティーナとベルが落ちてくる。
長らく息ができなかったせいで多少むせることもあったが、ふと周囲に目を向けて見るとそこは洞窟であった。
そして、入り口の方には水しぶきとともに凄い勢いで水が流れて行っている。どうやら滝の裏側に来れたらしい。
「はあ、何とか来れた」
「助かった。ラグナ、システィーナ」
「どういたしまして! そして、私のことは親し気な感じでシスティとお呼びください!」
「この女はもう少し疲れていてもいいです」
相変わらずなテンションなのは魚人族だから水中ではあまり疲れないからか、もしくは素だからか。素だと「ポジティブサイコパスとしか思えない」とベルは少し睨んだようにシスティーナを見る。
一先ず呼吸を整えるとクラウン達は奥が続いている洞窟へと歩き始める。その道は一本道で気配とかは感じられない。
しかし、少しすると光が放たれているように明るく感じてきた。そして、心なしか服が濡れて冷えた体が温かく感じてくる。
歩くたびに輝きと温かさが増してくる感じは精霊のところへと近づいているということなのだろうか。
先行していたシスティーナが止まる。どうやら着いたようだ。そして、その場所を除いて見るとそこは泉のような空間であった。
花の咲いた蓮を浮かべる泉の周囲にはたくさんの植物で溢れている。そして、その泉の中央の部分にはこの場に自生するとは思えない立派な大木が一本生えていて、根っこは地面ではなくそのまま泉の中にあるようで丸見えであった。
この空間にはオーブのようなたくさんの光の球体がフワフワと移動しながら浮いていて、中央にある大きな花の咲いた蓮の上には一際輝く光の球体があった。
そこはまるで極楽の園のような幻想的な雰囲気で今まで通て来た道が嘘みたいに、空間が切り取られたみたいにここだけ異質であった。
しかし、先ほどから感じていた光や温かさというのはどうやらあの球体かららしいのは確かだ。ということは、あの球体が精霊ということなのか。
システィーナは先ほどから辺りをキョロキョロと見回しながら「可愛い精霊様がたくさん」「大精霊様キレイ」と感嘆な声を上げている。
恐らくこれが「語り部」としての能力でクラウン達からは球体にしか見えないものが、人型とかに見えているのだろう。
ともあれ、ここまで来たなら聞くことは一つ。
「お前はあのクソ野郎の眷属か?」




