第258話 素材集め#2
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少し遅れました
「はあ、クソ......ずぶ濡れだ」
クラウン達は少し移動した所で服を乾かしていた。いや、現状でクラウンが焚いたたき火に当たりながら服を乾かしているのはクラウンとベルだけで、着替えもないので応急処置程度だ。
ラグナとシスティーナは作られる服が全て水中でも動けるように設定して作られているらしいのですぐに乾くし、そもそも服が濡れたとしても抵抗がないらしいので関係ないらしい。
突然何の話をしたかと言うと、それはクラウン達が対峙したウォータースライムに対しての話である。
クラウンとラグナが一体目のスライムを倒した後、スライムの死に際の仲間呼びで次々にスライムが集まってきた。
そのスライムを倒しにかかるとさらに仲間呼びをされて、逃げようにも邪魔なため斬って道を切り開こうとすると時折核に当たって再び仲間呼び。
ただでさえ一体が呼ぶ数が十体ぐらいに対して、当たればさらに十体追加される。それも一体一体が全長三メートル級の巨体だ。
クラウン達はなんとか道を切り開こうとするも叶わず、スライムは仲間とともにクラウン達を囲むと一気に合体。巨大な水の檻に閉じ込めたのだ。
当然、クラウンとベルは突然の無酸素状態に呼吸が出来ない。だが、ラグナとシスティーナが二人を引っ張ってスライムの体外へと出たことで事なきを得た。そして、現在である。
「あー、あの野郎があそこまで厄介だとは思わなかったな。魔法が有効と言っても倒せば仲間を呼ばれるしで、結局逃げの一手しかなかったし」
「システィーナに助けられたことは悔しいですが、ありがとうです」
「ふふん! もっと感謝してくれていいのよ!」
勝ち誇ったような笑みを浮かべるシスティーナとそれを見て忌々しく歯噛みするベル。二人の関係は窮地を脱した後でも変わらないようだ。むしろ、拍車が掛かっているような気さえする。
クラウンもラグナに感謝の意を伝えるとある程度服が乾いたところで、一本道を進んでいく。
すると、先ほどの一本道とは違い、周囲にいくつもの道が現れた。本来ならしらみ潰しに行ってみるか、クラウンの強化した<気配察知>で道を探るのが妥当だが、今はシスティーナが精霊の声を聞いているので関係ない。
耳を澄ませたシスティーナは全部で七つある道のうち、正面の道から一つ右隣の道を指さすとその道に向かって進んでいく。
すると、その道はいろんな場所に道があってグネグネと入り組んでいる印象を受けた。例えばこれから進む道は明らかにねじれているのに真っ直ぐ歩くだけで辿り着く。
自分が無意識で歪みを修正した歩き方をしている感じはせず、まるで道自体がその歪みを修正していくかのようにねじれとは逆向きにねじれていく。
他にも丁度右左で二手に分かれていて、その先は崖がある場所では空間のいろんな場所に下向きだったり、横向きだったりと軽く補正された道が通ている。それも空中に通っている場合が多い。
そして、精霊の導き通りに歩いて行くと気が付けば空中を通る道に逆さ状態で歩いていて、上を向けば初めに来た二手の分かれ道が見える。
少し歩けば、横側に最初の場所が見え、グルグルと回転して見えることもある。もちろん、ただ真っ直ぐ歩いているだけにもかかわらずだ。
逆さになって歩いている時でも髪や物が下向きに引っ張られることがないので、恐らく普通の道を歩いているのだろうと思われる。その確信がクラウンとベルにはない。
「これが精霊様が作り出したランダムな道さ。全通りを地図に記す案も出たんだけどね、こういうことがあるから全く描けないんだよ」
「何というか異次元の歪みを見てるみたいで方向感覚がおかしくなってくるな。軽く頭が痛てぇ」
「それは恐らくこの空間の視覚的情報に対して脳が酔ってしまっているかもな。正確にものを捉えようとする者ほどこの空間は実に相性が悪いんだ」
「でも、これってただ普通の道を歩いているだけです?」
「そうね! 普通に道を歩いているだけよ! 私達は海流で流されても方向感覚を失わない訓練をしているから酔うことはないけど、普通の人は酔って仕方ないと思う!」
「なら、今はどう進んでるんだ?」
「そうだなー。最初の二手道のところがあっただろう? それで歩いてきて逆さに見えた時があっただろうけど、それは左に曲がっただけなんだよ。そして、横側に見えた時は右側に曲がった道を歩いているだけだ。ただ、今歩いている道を踏み外すと普通に感覚が戻って下に落ちるからな」
「そして、当然! 魔物も現れる!」
丁度クラウン達が逆さの状態で階段を上っている時、目の前に二人組の魚の頭ををした人型の魔物が現れた。
魚人と呼ばれれば真っ先に思いつきそうな顔だ。その手にはそれぞれ槍を持っている。
「シーマンだ。この場所を守護する者.......って俺達もシーマンっちゃあシーマンだが違うぞ!? 俺達は人なんか食わん!」
「わかってる。そんな勘違いなどしない。それで、あいつは素材なのか?」
「ああ、そうだ。あいつらの手や足にある水かきが必要なんだ。人型だからか人を殺しているような感覚になるのが嫌だけどな」
「なら、お前はそこにいろ。俺が殺る」
クラウンは一気に階段を駆け上がると突き出された槍を首を少し動かしすること避け、そのまま一体に刀を突き刺す。
すると、もう一体が槍を突いてきたので当たる前に片手で受け止めるとすぐに刀に刺さったシーマンを蹴飛ばして引き離す。
そして、生きているシーマンが反対の手で殴り掛かって来たので、その前に袈裟切りに斬って殺した。する、その時階段を上った先にある洞窟から複数の槍が飛んできた。
クラウンは咄嗟に後ろに跳ぶ。そして、階段の最低段まで降りてくるとラグナに聞いた。
「あの魔物は何体狩ればいいんだ?」
「あるだけ狩ってくれ。水膜がかなり手に入った以上、恐らく二人の分を除いてももう一、二着なら作れると思う。時間経過で勝手に劣化することはないから予備として取って置くのに問題はない」
「わかった。ベル、やるぞ」
クラウンとベルは先攻して突撃すると洞窟の奥に隠れていたシーマンの軍勢を立った二人で全滅させた。そして、水かきの革を回収した後に再び歩き始める。
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しばらく歩いているとゴオオオォォォォと大気が震えるような音が聞こえてきた。それは歩くたびに大きくなっているようなので、どうやらその場所に向かっているらしい。
そして、辿り着いたところは巨大な滝であった。地下に滝とは驚きだが、先ほどのねじれた道を見た後では特に感動もない。
その滝は円の中心に向かって全方位から大量の水が流れていて、さらに天井から中心に向かってこれまた大量な水が落ちている。
円の周囲から流れる滝のそばには等感覚に細長い足場があり、それが階段のように一段一段感覚を開けながら下に向かっている。その滝の底は暗くて見えない。
まるでナイアガラの滝とも思えなくもない轟音を響かせる滝の行方は一体どこへと思うところだ。大量の水しぶきと水独特のニオイがするだけで、それだけの水が溜まる気配も見えないのだから。
システィーナは滝のそばにある足場を指さす。どうやらその足場を下りていくようだ。しかし、わざわざそれで降りる必要はクラウンとベルにはない。
「スライムの時に救ってもらったお礼だ。掴まれ」
「何をする気だ?」
「降りる。足場を使わずにな」
クラウンはラグナの腕を引っ張り方を組ませる。ベルも同じようにシスティーナを捕らえたようだ......口論はしているが。
「いくぞ」
「「え? えええぇぇぇぇああああああぁぁぁぁ!」」
クラウンの呼びかけと共に周囲の滝と中心の滝の丁度中心を落ちていく。その後にベルも続く。すると、ラグナとシスティーナは焦ったように絶叫し始めた。
しかし、すぐに空中で止まると二人は急にポカーンとした顔をする。どうやら刺激が強すぎたらしい。
「今の人族と獣人族は空中を飛べるんだな」
「いや、ちが.......」
「ははは、すごーいすごーい」
システィーナに覇気がない。やはり飛び降りは刺激が強すぎたようだ。するとその時、中央の滝からもはや質量弾のような水の流れをものともせずせり上がってくる二匹の魚影を確認した。
そして、その魚影は滝から一斉に飛び出すとそれぞれクラウン達とベル達に襲いかかる。クラウンとベルはそれぞれ抱えている存在がいるので、その場は避けると魚影の正体であるサメは周囲の滝に飛び移った。
「あれはハイドロシャーク。唯一のこの滝に住み着くサメだ。奴らは滝を自由に移動できる筋力を持つためにその肉体は非常に硬い。さらに、鮫肌は水の抵抗を減らすので強い推進力のアシストをしてくれる」
「つまりあれが最後の素材か?」
「ああ。あのサメの皮膚が最後の素材で間違いない。そして、あのサメの皮膚は特別製で魚人族の中では特に人気があるんだ。出来ればたくさん取って欲しい。勝手に襲ってくるからその場にいれば問題ない」
「わかった」
クラウンはラグナを近くの足場に戻すと糸でラグナの胴体と足場をつないだ。システィーナも同様なことを施していく。要は命綱代わりである。
そして、空中に再び出ると真正面からサメが大きくギザギザな歯を見せつけながら飛び出してくる。
空中に出ればこっちのものであるクラウンは軌道から避けるとサメを切り上げる。しかし、少し斬っただけでサメは空中へと刀から跳ね上がり、そのまま真下に落下していった。
どうやら生半可な力では切断できないらしい。もっと切断する時に力を込めなければこちらが押されてしまう。
するとその時、空中から気配を感じた。空中から迫ってきたのは大量の水であった。クラウンは咄嗟に中央の滝側によって避ける。
大量の水と共に落ちてきたのはサメだった。攻撃できるのは近接戦だけではないようだ。そう考えていると左手が僅かに滝に触れる。
その瞬間、左手に急激な重みが乗って真下へと引っ張られる。ほんの少し振れただけなのに急速落下している。
咄嗟に左手を離して、きりもみしながらも空中で体勢を立て直す。最初に「滝で流れて行かないのか?」と考えていたが、この勢いでは行かないではなく、行けないということらしい。通りで足場を使うはずだ。
「どうやら俺はだいぶ水中ステージを舐めていたらしい」
クラウンはそう呟きつつ、不敵な笑みを浮かべてサメ狩りを始めた。




