第253話 最高の相棒
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この章はこんな形で終わります
白い光はどこまでもどこまで周囲にあることごとくを飲み込んでいった。
ラズリの自爆は内に溜めた高エネルギーを一気に爆発させて周囲に衝撃波と爆風を解き放っていく。その勢いだけで木は吹き飛ばされ、大地は抉られる。
そして、それらを飲み込むようにラズリから起こった爆発は膨張し、体積をどこまでもどこまでも増やしていく。
島の開けた大地で起きた爆発はまず手始めにその大地を飲み込むと徐々にジャングルにまで広がり始めた。
どこまでも大きくなる爆発は留まることを知らず、一切合切を塵以下の何か変えながら熱波と共に増大していく。
やがて、島の五分の四を飲み込んだところで爆発は一気に収束し始め、煙が舞う。しかし、熱波は届かなかった範囲を一気に焦がしていった。
残ったジャングルは一斉に燃え始め、消火出来ないほど森林火災となり、爆発範囲内であった火山はその姿をこの世界から消していた。
舞い上がる煙は黒々しくさらに天を伸ばすように上へ上へと伸びていく。そして、島は浮力を失ったようで徐々に降下を始めていった。
焦げ臭いにおいを周囲にまき散らしながら、燃え続ける木をそのままに次第に加速しながら落ちていく。
それからやがて、大地を響かせる轟音と振動とともに島は竜王国がある場所から少し離れた山奥に墜落した。
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「ここは......」
クラウンが目覚めるとそこは知らない空間だった。上も下も端から端もどこまでも白一色で染められている。
ただの白い壁に覆われているというわけではなく、寝ている床の感触は柔らかいし、視界に入る天井は雲の上に乗っている気分にさせるようなモコモコとした何かであった。
クラウンは上体を起き上がらせる。体は不思議と疲労していないし、痛みを感じることもない。体が生まれ変わったかのように軽かった。
周囲から感じる臭いは特になく、記憶を思い出そうとしても爆発直後の時までしか思い出せない。
「あいつらは?」
クラウンはふと周囲を見渡す。それは一緒に爆発に巻き込まれたリリス、ベル、エキドナ、ロキ、シルヴィーの姿を探すためだ。
しかし、仲間達の姿は誰一人として見えない。気配も感じない。ということは、この近くにはいないということか。
体が動くということは自分は生きているのだろう。だとすると、自分は別の場所に飛ばされたという可能性はないのか?
いや、それは考えにくいだろう。なぜなら自分は転移石を持っていないから。それを持っているのはリリスだし、リリスが使ったとしても離れた自分を飛ばすことは出来ない。
それはあくまで魔力的パスが繋がっていれば巻き込めるという話で、リリスにはそれを使う魔法はない。使うとすればベルに糸でメンバーを繋げてもらうしかないが、リリスとベルは離れていたのでそれも出来ない。
そう考えると自分は一体どこにいるのだろうか。そもそも生きていると思っているだけで、本当は死んでいたりしないだろうか。
クラウンはそっと自身の心臓に手を当てた。手から僅かに感じる鼓動で自分の生死を確かめ始めたのだ。
「心臓が.......動いてない?」
触れた左胸からは心臓の鼓動が感じられなかった。上手く感じられなかっただけかと思い、自分で左手首に右手の人差し指と中指を揃えて置いた。しかし、脈動が感じられない。
「俺は.......死んだのか!?」
クラウンはその事実が受け止めきれず思わず膝から崩れ落ちる。その顔は呆然とした表情で、無気力な感じにも見えた。
結局、自分はあれだけ「神を殺す」と豪語していたのに神の使徒を一人殺すだけでこのザマであったようだ。
何とも不甲斐なく、何とも情けない。自分は力を持っただけで強くなったような気がして、奢って、油断して道連れにされた。
少しの油断が命取りになる戦闘であったのに自分はいつまでも甘いままだった。自分の力にうぬぼれていた。
「それはまだ仮死状態だから死んだわけじゃないよ」
「!」
不意に幼い少女のような声が空間内に響き渡る。悪魔が地獄から連れに来たというわけでもなさそうだ。仮死状態とは一体どういうことか? そもそもその声は誰なのか?
クラウンは思わず俯かせていた顔を上げると目の前に見覚えのある巨大で白いフワフワな毛並みをしたオオカミがいた。
見間違えるはずもないロキだ。ロキがすぐそこにいた。クラウンは思わず嬉しくなり、急に生きているような実感が湧き、ロキへと近づいていく。
ふらふらな足取りでよく触れていたあのフワフワな毛並みに触れようと手を伸ばす。
―――――ガンッ
「え?」
伸ばした手は謎の壁によって阻まれた。周囲をよく触れて見ると肉眼ではわからないほどの透明な壁が目の前に立ちはだかっていた。
その壁越しにロキがいる。しかし、その壁を壊そうと何度殴ってもその壁は壊れることはなく、ましてやヒビすら入らない。
どうして、どうして自分はロキに触れれないのだろうか。すぐそこにいるのに手を駆け寄ることも、手を伸ばすことも出来ないなんて。
すると、ロキは告げる―――――――少女のような声をして。
「その壁は壊れないよ。その壁は『境の壁』でここは簡単に言えば生死が彷徨う場所。でも、その壁がある以上、君はまだ生きているということになる」
「俺は生きている.......?」
「うん、アタイが助けたんだもん。生きてもらわなきゃ」
「お前って実際にしゃべるとそんな一人称だったんだな.......って待て! それじゃあ、お前は―――――」
「もちろん、死んでるよ。さすがに爆発の中心からは逃れようないって」
ロキは軽く笑ってそう言っているがクラウンにはかなりショックな事実であった。ずっとそばで寄り添っていた相棒が死んでいるという事実に。
クラウンは壁に触れながらそのショックを噛みしめるようにゆっくりと膝を崩していく。また守れなかった。またラズリから大切な存在を奪われてしまった。
しかし、その元凶であるラズリはもう死んでいる。ぶつけようのない悔しさが胸の中で渦巻いて増幅してくる。
あの時自分が油断しなければ。もっと確実にやっていれば。そんな仮の世界の話を考えても今の現実が覆ることはない。
悔しい。惨めだ。情けない。弱い、弱い弱い弱い弱い。自分は結局どこまでいっても弱かったのだ。こうして守れるだけの力を持っていると過信して挑み、大切な存在に守られながら生きる。
一番最初の時もそう。二回目の戦闘の時もそう。三回目の戦闘の時もそう。弱い自分が引き起こした結果だ。
リリス達に助け出された時、「もう失わない」と心に誓ったはずなのに。こんなにも大切な存在を、すぐ近くにいた存在を助けることすら敵わなかった。
「俺は.......弱い.......」
「そんなことないよ。君は今も昔も前に前に進もうと頑張ってきた人だよ」
ロキは泣き崩れて雲の地面に塞ぎ込むクラウンにそっと声をかける。その声はどこまでも優しくて、愛おしそうな声であった。
「アタイはね、君と出会えてよかったと思ってる。アタイは生まれた時からはみ出しものだった。こんな白い毛並みだからね。群れで暮らすには不向きだったんだよ。だから、群れには入れてもらえず、兄弟からも親からも見捨てられた」
ロキは自分語りをし始めた。優しげな声でクラウンに投げかける。
「アタイは生きたかった。たとえ仲間がいなくても、生きていればいいことがあると思ったし、それに生存本能が死ぬことを許さなかった。だから、一人でいろいろこなしてきたからかそれなりに知能も増えてきた。その時だよ、君にあったのは」
「うぅ.......ぐぅう.......」
「最初に君あった時の印象はそれはもうトゲトゲしかったね。どこまで憎悪にまみれてて、そして――――――一人だった。なんとなくわかったんだ。君は一人で何かをこなそうとしていることぐらい。ただそれは生きることじゃなかったというだけで」
「.......」
クラウンは涙を拭うとロキに顔を合わせる。すると、ロキはふと笑うように目を細める。
「アタイはシンパシーを感じたからか君のことが気になった。最初は君の言葉がわからなかったけど、君がなんとなく仲間にしてくれるのがわかったんだ。そして、それが『利用』するためであることも。だけど、別に構わなかった。なんせ初めてアタイが仲間になりたいと思った相手なんだもの。それに、君の姿はどこか悲しく見えたし」
「そんなにか?」
「そんなにだよ。だからほら、アタイを枕にして寝るというアニマルセラピーをやっていたでしょ? それからすっかりはまったようだけどね」
ロキはそのことを思い出して笑っているように見えた。あくまでクラウンの主観だが。
「それからは毎日が新鮮だったよ。君と二人のサバイバル。リリスと出会ってからの旅、ベルや兵長、エキドナ、カムイ、朱里、雪姫、リルリアーゼ、ルナとその他にも様々な人と仲間にもなれたし、友達にもなれた。こんな経験きっとあの時君に近づかなかったら出来なかった経験だと思う。それは君がアタイにくれた経験であるとも言えるね」
「それは大げさだ」
「大げさなんかじゃないよ。アタイはずっとずっと前から君に感謝していた。だって、君という存在に出会わなければこんな思いにはならなかったんだから」
「.......」
「だからね。私は今こうしてもう死んでしまっているけれど、悔いとかは全然ないんだ.......いや、嘘だ。本当はもっともっと生きたかった。もっとずっと君のそばにいたかった」
「.......俺もだ」
「別に今こうなっていることを恨んでいるわけじゃない。君を助けられたことはたとえ死んだとしても名誉あることだと思っている。でも.......それでも.......僕は見たかった。君が君の目的を果たす瞬間を。君と僕が過ごせる時間いっぱいいっぱいまで過ごした後見取ってもらえる瞬間を」
「.......ごめん」
「謝らないで。確かに今となってはただの幻想だし、もうもとの世界にはいられない。アタイは死んじゃっているわけだしね。それにもう時間みたいだからこれだけは伝えとくね」
ロキの体は足元から徐々に光の粒子となって消え始めた。そのことを気にすることもなく、ロキは壁にそっと前足をつける。
「君は君を責めるかもしれない。だけど、責めないで。君は君のやるべきことをしっかりと果たしているんだから。だから、前を向いて。アタイの想いっていうと重いかもしれなけど、ずっと見守っているから。だから――――――――」
ロキは最高の笑顔を見せるように目を細める。
「ずっと大好きだったよ、クラウン」
「ああ、俺もだ」
クラウンはスーッと麻痺したように流す涙をそのままに壁に触れているロキの手に自身の手を重ねるように触れさせる。
そしてやがて、ロキの姿は全てが光の粒子となって消えた。




