第251話 リベンジマッチ#3
読んでくださりありがとうございます(≧∇≦)
今回はもう2つのサイドの方です
「すばしっこいわね」
「私の重力範囲も獣の感覚で避けているみたいで厄介ね」
エキドナの背中に乗るリリスは後ろから追いかけて来る巨大なカラスに対して手を伸ばしながら、重力で地面に叩き落そうとする。
しかし、カラスは体を捻りながら飛行したり、旋回しながら飛行したりするために中々捉えることが出来ない。
そんなカラスに対して、リリスは思わず歯噛みする。だが、それはエキドナも同じであって現在最高スピードを出せる竜化(空)になっているにもかかわらず、ピッタリと後ろをつけられている。
「カァ!」
「エキドナ避けて!」
カラスは一つ大きく吠えると急ブレーキするように体を前方に羽ばたかせた。それは強い風圧を作り出し、まるで質量弾の如く打ち放つ。
エキドナは大きく体を傾けてその風の軌道上から避けるが、その余波によってバランスを崩していく。
そこに大きく上に上昇したカラスが鷹の如く急降下すると鋭い爪がついた足でエキドナの胴体と尻尾を掴む。そして、その勢いのまま地面へと落ちていく。
リリスは咄嗟にカラスの顔面に右手で重力を操り、左手で様々な属性の魔法弾をとにかく放った。このままカラスがエキドナを放さなかったら、急降下に加えてカラスの自重で大ダメージを受ける。
空中を飛ぶ敵に対して、空中で戦えないのは非常に不利である。それだけは絶対に避けなければいけない。
しかし、今のリリスは古代サキュバスになるための魔力が残っておらず、少しずつ魔力ポーションで魔力を回復させているが微々たるものだ。
リリスは思考する。カラスに対して有効的な攻撃は何か。先ほどから放っている程度では通用しないし、現在も通用していない。いたずらに魔力を減らしているだけ。
もっともっと今の状態でも放てる重たい一撃はないのか。多少時間がかかろうともこの瞬間さえ乗り切れれば―――――――
「あった......」
リリスの思考は考えるから思い出すに変化していた。それは過去にあった魔法で何か自分でも使えるものはないかと無意識に考えたものだったが、その判断は正しかった。
リリスは両腕を大きく広げるとその前に球体状の重力の囲いを作った。その囲いは中心に向かって重力が均等にかかっており、さらに段々と強くなっている。
「急げ。急げ」
リリスは思わず心の言葉を漏らしながら重力による圧を強くしていく。すると、その囲いは少しずつ小さくなっていく。
リリスがやっているのはロキがやってみせた雷核の膨張爆破である。ロキは口の中で雷核を圧縮したが、リリスはそれを重力で補っている。
しかし、ロキのような雷核というもともと高エネルギー核を作り出す魔力は存在していない。だから、もっとも身近な存在を利用したのである。
「もっとおー! 圧縮ううううぅぅぅぅ!」
リリスは泣けなしの魔力を使いながらだんだんと小さくしていき、そのサイズはやがてソフトボールほどの大きさとなった。
そして、そのボールを維持したままカラスに向かって投げる。カラスはそれが危険だと判断し、エキドナから足を放した。
「エキドナ! 全速力でそこから避けて!」
「わかったわ!」
リリスの指示に従ってエキドナが動き出し始めた瞬間、その球体は一気に膨張し弾けた。その球体に入っていたのは周囲にある空気だ。
その空気の密度を高めて、一気に解き放つ。すると、どうなるのか。当然、圧縮した分だけのエネルギーを一瞬にして周囲に衝撃波を放つ。
そして、いくら速いと言ってもさすがに衝撃波の速さからは逃れることは出来ない。特に放たれた時にほぼ滞空していた状態のカラスは。
空間に波紋を浮かべたような不自然な揺れはカラスに追いつくと体の中に染み渡るように通っていき、やがて通り抜ける。その後からは殴られたような風圧が襲いかかる。
カラスは衝撃波によって全身に文字通りの衝撃が抜けていくと風圧に死に体の体が吹き飛ばされていく。その体をエキドナは追撃するように迫っていく。
「エキドナ! さっきの痛みの分以上に思いっきり殴ってやりなさい!」
「ええ、そのつもりよ。爪が刺さって痛かったんだから―――――ね!」
エキドナは高速で近づいていくと飛ばされているカラスを追い抜いていく。すると、竜化を(空)から(闘)に変化させると大きく右拳を振りかぶった。
そして、カラスの胴体に向かってその拳を叩き込む。その拳は胴体にメリメリと食い込んでいき、勢いよく地面へと叩きつけられていく。
「ふぅー、だいぶスッキリしたわ」
「ねぇねぇ、あれって......」
エキドナはスカッとした思いのまま息を吐くとリリスに声をかけられた。そして、リリスが見ている方向を見ると思わずエキドナは目を見開いた。
***************************************************
エキドナとリリスが戦闘中の一方でシルヴィー、ベル、ロキも巨大なオオカミと戦闘中であった。
オオカミの移動速度はそれほど早くない。しかし、四方八方に巨大な斬撃やら砲撃を行ってきて、近づこうに近づけない。
それに攻撃できないのはもう一つ理由があり、それはオオカミを囲うようにある四つの空中を飛ぶ機械である。
大きさにして二メートルほどで、それらが特殊なフィールドを張ってベルやロキの放つ斬撃や砲撃を全てカットしているのだ。
それでいてオオカミからの攻撃は通すという理不尽っぷりなものだ。それがオオカミから距離感覚をピッタリにしながら纏わりついている。
攻撃するにもその機械をまず破壊しないと攻撃は通らない。なので、その機械を狙っているが、オオカミは壊されまいと斬撃を放って警戒しているので、睨み合いのような感じが続いている。
「シルヴィー、このままではラチが明かないです。なので、一つ提案があるです」
ベルはその作戦を話していく。その提案に対してシルヴィーは一回反対したが、ベルの強い意志によって実行することとなった。
まずシルヴィーとロキが一つの機械を破壊しようと斬撃やブレスを放つ。すると、オオカミはその機械を壊されないようにと同じく斬撃を放って相殺させる。
だが、それはシルヴィー達に意識が向いているということ。その隙に空中へ飛び出したベルは反対側の機械へと向かって行く。
ベルの体は敵から見れば非常に小さいし、同時に<隠形>があるために気配を隠すことが出来る。匂いに関しては周囲を旋回するように飛んでいたので、匂いがばら撒かれていて探知は不可。
そして、近くに来た機械を破壊する。これによってもともとあった四つの機械のうち一つは使えなくなった。
残すはあと三つ。全て破壊すればきっとオオカミは楽に倒せる。なぜなら機械のフィールドを使ってまで防御を別で任せているから。恐らく本体の防御力はほとんどないのだと思われる。
だが、ここで一つ問題が発生した。それはベルが戻ってこれないのである。<隠形>はいくら気配が隠せても一度ハッキリと認識されてしまえばたとえもう一度同じ魔法を使ったとしても逃れることは出来ない。そして、ベルはハッキリとオオカミと目が合った。
オオカミの周囲にあった機械は使えなくなった一つの機械の穴を塞ぐように頭に一つ、尻尾の方に二つの三角形の形になると再びフィールドを張り始めた。
その一方で、オオカミはベルに向かって口を大きく開け、ロキと似たような高エネルギー核を口に溜めていく。
そして、一気に放つ――――――
「いくぜなの!」
「ウォン」
オオカミが高エネルギー砲を放つ前にシルヴィーがロキをベルに向かって投げた。ロキは投げられた勢いと自身の肉体で風を裂きながら、ベルが砲撃を受ける前に口で咥えて回収した。
ロキのすぐ後方では砲撃が雲に風穴を開けて彼方へと飛んでいく。しかし、そんな光景に目を移す余裕はなく、すぐに回収に来たシルヴィーの背中に乗る。
その瞬間、ベルには一つの疑問が生じた。自分で提案しておいてなんだが、それはなぜこの作戦は成功したのかということ。
ベルがロキに回収されて生き延びる以前の話で、そもそもこの島には竜と対になるような結界が張られていたはずで、竜の背中から一定以上離れると強制的に結界外に追い出されるという話であった。確かめたこともある。
しかし、オオカミを倒すことに専念していてそのことが頭からすっぽり抜けていたベルはその作戦を立案し、実行し、事なきを得た。
ということは、神殿を攻略したことでこの島に張られた結界は解けたということなのか。それを立証するものは何もないが、それでもそうであるならば話は早い。
すると、ベルはもう一度シルヴィーとロキに新たなる作戦を伝えた。それに対して、やはり最初は首を横に振るシルヴィーであったが、最終的にベルを信じることにして了承した。
そして、ベルはロキの背中に乗るとロキはシルヴィーの右手に乗った。シルヴィーは相手との駆け引きのタイミングを計りながらその時を待つ。
オオカミはちょこまかと空を飛んでいることにイラ立ってきたのか口に高エネルギー核を溜め始めた。そこにシルヴィーは勝機を見出した。
「いくぜなの!――――――それ!」
シルヴィーは右手を大きく上げるとそのまま振りかぶって投げた。ロキはその高速移動に耐えながら、さらに自身でも流されそうな風の流れに脚を動かして速度を維持する。
そして、勢いよくオオカミの正面にあった機械に頭突きして破壊する。それから、破壊された二つ目の機械を補うような行動をする残りの機械の若干の時間の差の間にベルはロキの背中から前に跳び、ロキは縦回転しながら強化した尻尾でベルの足を打ち付ける。
ベルは加速してオオカミの額に向かって行く。しかし、オオカミは口に溜まったエネルギーを一気に放出する。
それでもベルは怯まなかった。空気抵抗を利用してスレスレで砲撃を避けていくと手に持った二つの短剣をオオカミの額に刺していく。
しかしこれでは短剣であるために全くもって届かないし、骨に阻まれる。だから―――――――
「極震!」
自らその短剣を押し込むような衝撃を自身の拳で作り出す。それによって、二つの短剣は勢いよく脳を抉っていき、やがて貫通するように後頭部から射出された。。
そして、振動による二重攻撃でオオカミの脳は勢いよく出血し、地面へと落下していく。
「終わったです」
「疲れたなの」
シルヴィーはベルに近づいていくと二人して疲れた表情でそのようなことを言い始めた。すると、隣でロキが吠えた。
「『あっちを見ろ』って言ってるです」
「あれは.......?」
ロキの言葉を翻訳したベルが指差す方向をシルヴィーが見ると先ほどまでとはまるで違う二人の人物が戦っていた。




